異世界転生帰りの勇者、自分が虐められていた事を思い出す~なんか次々トラブルが起こるんだが?取り敢えず二度と手出しできない様に制圧するけどさ~

榊与一

文字の大きさ
上 下
53 / 83

第53話 練習

しおりを挟む
人気のない山奥。
その地下深くでの作業。

まず拷問からのタリスマンのコンボ。
完成した数はたったの16個。
成功率は余り宜しくないが、まあそこは良しとして次は蘇生魔法の練習に移る。

取り敢えず殺して蘇生。
殺して蘇生。
これを、変形しすぎて原型が不明になるまで繰り返す。

「ギュエ……ゲゲ……」

肉と骨の混ざった意味不明の球体。
元人間が奇声を上げる。
此処まで来ると、もう練習台にはならない。

何故か?

魔法の調整は、ただ魔法を繰り返せばいいという訳ではない。
魔法自体に微調整を加え、その結果を元に更に調整して行かなければならないからだ。
だからグチャグチャの肉球になってしまうと、変化の有無が判断付かないので、練習台とはなりえない訳である。

「やっぱ難しいな。けど……感触はある」

最初の一人は、10回程蘇生させた辺りで使い物にならなくなってしまった。
だが繰り返し調整して行くうちに変形がまろやかになっていき、20回、30回と、その回数は増えてきていた。
まさに進歩だ。

「アトリがこれ見てたら、絶対激怒物だろうな」

かつての思い人の事を思い出し、苦笑する。
彼女は優しく気真面目な人物だったので、絶対こんな非人道的な真似は許さなかっただろう。

……ま、誰かを救うための拷問なんかは許容してたから、必ずしも融通の利かない頭でっかちって訳ではなかったが。

「おっと……もう朝が近いか」

頭上に浮かべている魔法の鐘が、朝5時を俺に知らせて来る。
そろそろ帰らないと母が起きてきてしまう。

「まあ魔力もかなり使ったし、続きは明日だな」

死体を処理し、穴を埋めて俺は家路に就いた。
そしてベッドに潜り込んで、7時に起床。
母の用意してくれた朝食を終え、学校に登校する。

「山田は今日も休みか……」

まあ昨日母親が帰って来たばかりなのだから当然か。

「帰りに山田んちに寄ってくか」

授業が終わり、俺は山田の家に向かう。
タリスマンを渡すためだ。

「安田」

「よう、お袋さんの様子はどうだ?」

「母さんなら元気さ。今買い物に出かけてるよ」

「そうか」

昨日の今日で買い物に出かけるとか、なかなかタフなおばさんだ。
母は強しなんてよく言った物である。

「まあ上がってくれ」

「ああ」

俺は山田の部屋に通され、ベッドに腰掛ける。

「妹さんの方は?」

「母さんが戻ってきて喜んではいるけど、やっぱまだ引き摺ってる」

「まあ事情が事情だからな」

「うん。母さんも暫くは学校休んでいいって言ってくれてるから、暫くは妹についておくよ」

「そうか、頑張れよ。きっと乗り越えられるさ」

「ああ」

その事に関しては、俺が出来る事は何もないからな。
只励ますだけしかできない。

「でさ、今日はこれを渡すために来たんだよ」

俺はポケットからタリスマンを取り出す。

「これは?アクセサリーか?」

「タリスマンって言う、魔法の護符さ。これを身に着けてたら、刃物に刺されようが銃で撃たれようが無傷ですむぞ」

「え!?マジで!?」

山田が俺の説明に目を丸める。

普通は防刃なり防弾の装備を身に着けなければ防げないし、それだって身に着けていない部分に攻撃されたらアウトだ。
その点、タリスマンはアクセサリーとして身に着けているだけで完璧に防いでくれる訳だからな。
そりゃ驚きもするだろう。

「しかも攻撃されたら、俺がそれに気づける様になってる」

「魔法ってスゲーんだな」

「まあな。これさえ着けとけばもう安心だ。お袋さんと妹さんの分もあるから渡しといてくれ。絶対肌身離さず持っておけよ。身に着けてないと効果がないから」

「ありがとう……安田。俺や家族の事、こんなに考えてくれて……うぅ……ぐす……あり……がどう……」

山田が腕で目元を押さえ、泣き出してしまう。

「友達なんだから当たり前だろ」

「ぐぅ……ふうぅ……」

「まったく、よく泣く奴だな」

俺は山田が落ち着くのを待ってから家に帰った。

「昨日病院の事があったばかりなのに、本当に怖いわねぇ」

夕方のニュースでは、亀井会の集団失踪が流れていた。
対抗組織であった鬼三会が関わっているのではないかと、キャスターは見解を語っているが、当然大外れだ。
そんな奴らは一ミリも関わってはいない。

ま、そんな事はどうでもいいか。

「きっと天罰が下ったんだよ。悪い事してた奴らだし」

そう、奴らには特大の天罰が下っている。
しかも現在進行形で。

「そうねぇ。うん、きっと孝仁の言う通りだわ。孝仁も悪い事はしちゃだめよ。お天道様はちゃーんと見てくれてるんだからね」

「ははは、分かってるよ」

早めに寝て、母が寝たであろう深夜に起きる。

「さて、じゃあ蘇生魔法の練習の続きと行くか」

死者蘇生さえ完璧になれば、最悪守り切れずに誰かが死んだ時の保険になる。
だから頑張らないとな。
しおりを挟む
感想 8

あなたにおすすめの小説

新しい聖女が見付かったそうなので、天啓に従います!

月白ヤトヒコ
ファンタジー
空腹で眠くて怠い中、王室からの呼び出しを受ける聖女アルム。 そして告げられたのは、新しい聖女の出現。そして、暇を出すから還俗せよとの解雇通告。 新しい聖女は公爵令嬢。そんなお嬢様に、聖女が務まるのかと思った瞬間、アルムは眩い閃光に包まれ―――― 自身が使い潰された挙げ句、処刑される未来を視た。 天啓です! と、アルムは―――― 表紙と挿し絵はキャラメーカーで作成。

国外追放だ!と言われたので従ってみた

れぷ
ファンタジー
 良いの?君達死ぬよ?

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

豊穣の巫女から追放されたただの村娘。しかし彼女の正体が予想外のものだったため、村は彼女が知らないうちに崩壊する。

下菊みこと
ファンタジー
豊穣の巫女に追い出された少女のお話。 豊穣の巫女に追い出された村娘、アンナ。彼女は村人達の善意で生かされていた孤児だったため、むしろお礼を言って笑顔で村を離れた。その感謝は本物だった。なにも持たない彼女は、果たしてどこに向かうのか…。 小説家になろう様でも投稿しています。

婚約破棄?一体何のお話ですか?

リヴァルナ
ファンタジー
なんだかざまぁ(?)系が書きたかったので書いてみました。 エルバルド学園卒業記念パーティー。 それも終わりに近付いた頃、ある事件が起こる… ※エブリスタさんでも投稿しています

もしかして寝てる間にざまぁしました?

ぴぴみ
ファンタジー
令嬢アリアは気が弱く、何をされても言い返せない。 内気な性格が邪魔をして本来の能力を活かせていなかった。 しかし、ある時から状況は一変する。彼女を馬鹿にし嘲笑っていた人間が怯えたように見てくるのだ。 私、寝てる間に何かしました?

聖女召喚されて『お前なんか聖女じゃない』って断罪されているけど、そんなことよりこの国が私を召喚したせいで滅びそうなのがこわい

金田のん
恋愛
自室で普通にお茶をしていたら、聖女召喚されました。 私と一緒に聖女召喚されたのは、若くてかわいい女の子。 勝手に召喚しといて「平凡顔の年増」とかいう王族の暴言はこの際、置いておこう。 なぜなら、この国・・・・私を召喚したせいで・・・・いまにも滅びそうだから・・・・・。 ※小説家になろうさんにも投稿しています。

傍観している方が面白いのになぁ。

志位斗 茂家波
ファンタジー
「エデワール・ミッシャ令嬢!貴方にはさまざな罪があり、この場での婚約破棄と国外追放を言い渡す!」 とある夜会の中で引き起こされた婚約破棄。 その彼らの様子はまるで…… 「茶番というか、喜劇ですね兄さま」 「うん、周囲が皆呆れたような目で見ているからな」  思わず漏らしたその感想は、周囲も一致しているようであった。 これは、そんな馬鹿馬鹿しい婚約破棄現場での、傍観者的な立場で見ていた者たちの語りである。 「帰らずの森のある騒動記」という連載作品に乗っている兄妹でもあります。

処理中です...