異世界転生帰りの勇者、自分が虐められていた事を思い出す~なんか次々トラブルが起こるんだが?取り敢えず二度と手出しできない様に制圧するけどさ~

榊与一

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第23話 スマホ

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「なー安田。ウィング・エッジに入ろうぜー」

昼休み。
ショーコとエミが今日も今日とて俺を勧誘して来る。
毎日断っているにもかかわらず、まったくしつこい奴らだ。

「遠慮しとく」

「うちらのチームならこの学校だけじゃなくて、他校よそでもデカい顔が出来るんだぜ?絶対入った方が得だって」

ショーコとエミがこれだけ熱心なのには理由がある。
彼女達は貢献――ポイント稼ぎしたいのだ。

ウィング・エッジと言うチームに。
ひいては、そのトップである風早壮太という男に対するポイント稼ぎを。

――何故なら、風早壮太という男は超がつく程のイケメンだからだ。

ウィング・エッジに所属している女性は、ほぼすべてが風早壮太狙いで恋活中と考えていい。
当然競争倍率の高い恋のさや当ては激しく、ショーコとエミは俺を勧誘する事で風早にアピールし、更に他の女性達にマウントも取る腹積もりの様だった。

いやもっと女性として他の事でアピールしろよな。
そう思う俺は間違ってないはず。

「デカい顔してどうするんだよ?」

俺が求めるのは平穏な日常である。
別に高校デビューしたい訳ではないので、注目を集める意義は感じない。

「そりゃお前、うちのチームのナンバー2なんだから絶対モテるぜ」

「モテてもまったく嬉しくないんだが?」

しかもそれで寄って来るのは不良関連だけな訳だし、どんな罰ゲームだよ。

「おいおい、安田。お前女子に興味ないのか」

「まさかそっち系?」

「特殊な趣味はない。変な妄想するな」

俺は至ってノーマルだ。
異世界では女性と恋だってしている。

「じゃあひょっとして、誰か好きな奴がいるとか?」

「へぇ、だれだれ」

。余計な詮索するな」

――賢者アトリ。

優しく強かった、俺が異世界で愛した人の名だ。
彼女は魔王との最後の戦いで命を落としてしまっている。

もしアトリが生きていたなら、俺は帰還せず異世界で彼女と一緒に……

いや、母を捨ておくなんて選択肢はないか。
だから、どちらにせよ俺は地球に戻って来たはずだ。

もっとも、もしそうだったなら、きっと今頃死に物狂いで異世界と地球の行き来の方法を探していただろうとは思うが。

「ちぇっ。ノリが悪いなぁ、安田は」

「ケチケチせず教えてくれてもいいじゃん」

「しつこい子は嫌われるわよ」

人の言葉を無視して詮索して来る二人に、背後から野太い声がかけられる。
声の主はギャオスだ。
その背後には郷田大ゴリラと、相田小ゴリラが立っていた。

「ギャオス。まさかアンタ、安田を勧誘しに来たんじゃないでしょうね?こいつはウィング・エッジが先に唾を付けたんだから、横入はすんなよ」

唾を付けられた覚え等は無いのだが?
なに基準だよ。

「そんな真似しないわよ。今日来たのは……まあ詫びね」

「詫びぃ?」

「そ、はいこれ」

ギャオスが手に持っていたスマホを、何故か俺の席の上に置く。
その行動の意図が良く分からない。

「このスマホがどうしたんだ?」

「詫びって言ったでしょ。相田が以前あんたのスマホを壊したって言うから、それの弁償よ。あなたスマホ持ってないって言ってたし、これでチャラにしてあげて」

「ああ……」

以前誰かにスマホを壊されたな、と。
そう薄っすら覚えていたが、犯人は相田だった様だ。

「高校卒業までの間は相田が料金払うから、遠慮なく使ってちょうだい」

「そりゃまた、随分と大盤振る舞いだな」

ほぼ3年分の携帯料金となると、結構な額になる。
俺がチラリと相田の方に目を向けると、奴は気まずそうに目を伏せた。

「ま、あんたにサンドバックにされるよりマシって考えたんでしょ。相田に思いっきり泣きつかれちゃったわ」

成程。
報復を恐れての行動な訳か。
俺本人は全く覚えていなかった訳だが、相田はそんな事知り様もないからな。

「そうか。じゃあ遠慮なく頂いとくよ」

「良かったわね。相田」

「その節はすいませんでした。安田さん」

相田が頭を下げる。
同級生の名前にさん付けとか、ドンだけビビってんだよ。
コイツ、案外小心者なのかもしれないな。

「いいもん貰ったじゃん。あたしらと連絡先交換しとこうぜ」

「いらん」

エミやショーコの連絡先なんぞに興味はない。
下手に教えても鬱陶しいだけなのは目に見えているので。ショーコが勝手にスマホを手に取ろうとするのを先に手に取って阻止する。

「おいおい、遠慮するなって」

「そうそう。折角美女二人と繋がるチャンスなんだぜ。素直に応じろって」

美女二人とか、厚かましい程の過大評価である。
不細工とまではいわないが、毎日ちゃんと鏡で自分の顔を眺める事を勧めたい気分だ。

「いらん」

俺は二人の相手はせず、さっさとスマホをポケットとにしまった。
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