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63話 支配者

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「小虫と戯れていた様だが……」

魔王ガイゼルが戻ってきた俺の左足へ視線を投げかける。

「しかし気に入らんな、その顔。まさかラキアのおもちゃを取り込んだぐらいで俺に勝てるとでも思っているのか?」

「思っているさ。お前に俺達の力を見せてやる」

「戯言を」

魔王は無造作に間合いを詰めて来る。
そしてその巨大な拳を振るう。
俺はその拳を片手で受け止めた。

「な!?」

受け止めた手から魔王の動揺が伝わる。
その一瞬のスキをついて奴の懐に潜り込み、がら空きのボディに一撃を加えてやった。

「ぐぅ……」

衝撃で魔王の両足が地面を滑る。
俺は奴に手を向け、魔法を放った。

「ヘルズファイア!」

地獄の業火が奴を包み込み、黒い渦となって天井を焦がす。
追撃をと思ったが、黒炎の中から奴の赤い瞳がはっきりと見えた。
今魔法を撃っても躱されてしまうだろう。

「何故だ……今のパワー。それに無詠唱でこれほど強力な魔法を、何故打てた」

「その目で俺をよく見て見ろ」

「――っ!?まさか!」

魔王が俺の力を冥界の瞳で注視して驚く。

俺の力が増大した理由、それは神炎の力だった。
一人ではとてもコントロール出来なかったこの力だが、リピと二人でなら御する事が出来る。
ダメージを喰らわない様押さえていた力を全て戦いの力に変える事が出来る様になった事で、俺の戦闘能力は跳ね上がったのだ。

しかもそれだけではない。
同時に、今の俺の魔法はリピのサポートで詠唱を極限までオミット出来るようになっていた。
流石にジ・エンドクラスは無詠唱とは行かないが、お陰でダメージを通せるレベルの魔法をほぼ無詠唱で放つ事が出来る。

今の俺に隙は無い。
全てはリピのお陰だ。

≪褒めて褒めて!≫

後でな。

「調子に乗って俺に時間を与えたのは間違いだったな。魔王)

「調子に乗るだと?……それは……貴様だ!!おおおおぉぉぉぉぉ!!!」

魔王が咆哮と共に突っ込んで来る。
それを俺は腰を落として拳を構え、迎え撃つ。

「くっ!?」

魔王の拳を片手で逸らす。
その衝撃で腕が軽く痺れた。

魔王のパワーが明らかに上がっていた。
どうやら、さっきまではまだ本気では無かった様だ。
弱冠驚かされたが、やる事は変わらない。
そのまま魔王の腹部に拳を叩き込む。

「舐めるな!」

だがその一撃は魔王の手によって受け止められてしまう。
魔王がそのまま手を掴んで俺の体を引き上げ、そこに拳を叩き込んで来る。
俺はそれを逆上がりのような動きで、縦に躱しつつ奴の顎に蹴りを入れてやった。

「ぬぅ……」

「ヘルズファイア!」

衝撃で魔王の手が外れ、体が離れた所で魔法を叩き込む。
再び魔王の体が黒い炎に包まれる。
だが――

「おおぉぉ」

魔王は自身の身を焼く炎を無視して攻撃してきた。
その一撃を受けた手が衝撃で軽く痺れ、腕を覆った地獄の炎が俺の皮膚を焼く。
自分の放った炎でダメージを受けるのは割に合わない。
次からは炎以外の魔法にした方が良さそうだ。

「おのれぇぇ!」

魔王が出鱈目に拳を振り回す。
だがその癖隙は小さい。
頭に血が上っていても、その辺がしっかりしているのは流石魔王と言った所だろう。

「はぁ!」

魔王の拳を捌き、拳を叩き込む。
当然その追撃として魔法を放つ。
此方も何発か良いのを貰ってしまう。

魔王にはパワーと耐久欲の差がある為、一撃一撃が重く響いてくる。
だが魔王と此方では有効打の手数が違う。

「おらぁ!」

「ぐぅぅ……」

俺の渾身の一撃がその腹部に突き刺さり、遂に魔王が膝を付いた。
追撃はしない。
いや、出来ないが正解だ。

魔法は強力な物をバンバン使っている。
最初に外したジ・エンドの分も合わせて魔力はほとんど残っていない。
これ以上使えば肉体への魔力ブーストが途切れてしまうだろう。

かなり追い詰めているとはいえ、肉体強化を切らせるのは不味い。
俺は魔法で追撃せず。そのまま拳を振るう。

「がぁ……」

魔王がその一撃をガードし、膝を付いたままの状態で大きく床を擦り滑る。
奴は何とか起き上るが、その動きは緩慢だ。
あと一息。

「まさか一対一の戦いで、この俺がここまで追い詰められるとは……」

魔王が憎々し気に呟いた。
だが奴は大きな勘違いをしている。
何故なら俺は――

「一人じゃない!俺とリピで二人だ!」

そう、俺は一人ではない。
彼女がいてくれる。
だからから俺は戦えるんだ!

俺は叫ぶと一気に間合いを詰めた。
奴に休ませる時間を与えずこのまま勝負を決める。

「終わりだ!ま――っが……」

拳を振り上げた瞬間、腹部に違和感が生まれる。

≪王子!体の中に何か変な物があるよ!≫

違和感は直ぐに熱に変わり、やがて激痛となって腹部から胸部に上がり、喉を焼いて俺の口から何かが飛び出した。
それは黒い何か。

「なんだ!?こりぇばぁ……」

俺の口から飛び出したそれは魔王の顔に張り付いた。
魔王が手でそれを剥がそうとするが、それよりも早く魔王の口の中に入り込んだ。

「ぐ……がはぁ……」

体の中が熱い。
内側から八つ裂きにされたような痛みと、吐き気がこみ上げる。
俺は口から大量の血を吐き出して、その場に膝を付いた。

「があぁぁ……ああああああ!!」

魔王を見ると、奴も四つん這いになって涎を垂らし、苦悶の声を上げていた。
やがて魔王の赤い瞳から光が消える。

「一体何が……」

次の瞬間、魔王の背中の翼が大きく横に開いた。
翼を広げたのではない。
付け根の部分がバックリと避けたのだ。

そしてその裂け目から肉の塊が生え、それは人の上半身の形へと変わっていく。

それは俺のよく知る。

この世で一番嫌いな。

「うふふ、この体。最高ねぇ……流石魔王の肉体だわ。これこそ全てを支配する私相応しい体だと思わない?ねぇ、ガルガーノ」

そう笑うとラキアは妖艶に微笑んだ。
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