上 下
44 / 67

44話 罅

しおりを挟む
「ぐぅぅぅ……ガルガーノ」

イナバは苦痛に顔を歪め、俺を睨み付ける。
フルプレートの小手の内側から焼かれた腕が痛むのだろう。
単純にダメージならこちらの方が酷いが、両腕に感覚がないのが救いだ。

俺はゆっくりと奴へと間合いを詰める。

動けば互いに攻撃の届く距離。
そのぎりぎりの距離で、俺は奴の出方を伺う。

奴の最大の強みはその防御性能にある。
当然それを生かした戦いカウンターを、最も得意としていた。
腕が潰れているとはいえ、そんな相手に自分から仕掛けるのは出来れば避けたい所だ……

「どうした?腕が動かなければ怖くて戦えないか?」

俺は軽く挑発してみる。
だがイナバは微動だにしない。
刺すような鋭い怒りの視線で俺を睨みつけはしているが、意外と冷静な様だ。

「こないなら此方から行くぞ」

仕掛けさせるのは難しいと判断し、自分から仕掛ける事にする。
状況は圧倒的にこちらの方が有利。
奥す必要は無い。
奴の戦闘スタイルを力づくでねじ伏せるまでだ。

「まさかもう……俺に勝ったつもりじゃないだろうな。ガルガーノ」

俺が仕掛けようとした瞬間、イナバが口を開く。
その口調は何処か楽し気だ。

「斧はもう握れまい。それさえなければ、お前は俺の敵じゃない」

お互い両手は使えなくとも、斧の力を失ったイナバと。
冥界の力を継続して使える俺とでは、此方の方が圧倒的に有利だ。
余程の事がない限り俺が勝つ。

「くっくく、はははは。斧を握れない?それは何の冗談だ。ガルガーノ」

イナバは口元を歪める。
奴も今自分の置かれている状況は理解している筈だ。
なのに何故奴は笑う?

「両手など無くとも!!」

イナバが裂ぱくの気合を込めて叫ぶ!
余りの声量に思わず気圧されそうになる。
だが――

「声で俺が――」

ダンッ!

イナバが足を地面に叩きつけた。
足元にはデビルアクスの長い柄がある。

「んなっ!?」

瞬間、斧が中に弾け飛んだ。
ぐるぐると空中で旋回するその斧を追って、イナバも飛ぶ。
そして旋回するデビルアクスの柄の部分に――器用に噛みついた。

「獣かよ!」

イナバの全身を邪悪なオーラが包む。
奴は空中で一回転し、遠心力を利用して上空から俺に斧を叩きつけてくる。
俺はその斧を、左足の蹴りで迎え撃つ。

神封石とデビルアクスがぶつかり合い、耳障りな金属音が辺りに響く。

「おおおおぉぉぉぉぉぉぉ!!」

ぶつかり合いは俺に軍配が上がる。
空中という踏ん張りの利かない態勢の分、俺が競り勝ち。
イナバは大きく吹き飛んで地面に叩きつけられる。

「ぐ……」

足に鋭い痛みが走る。
骨が折れた……とまではいかなくとも、罅ぐらいは入っているかもしれない。
自然と視線が足元に向き、ギョッとなる。
驚くべき事に、左足についている神封石に罅が入っていた。

尋常ではない硬さを誇るこれに罅が入るとはな……

上手く攻撃をぶつけ合えば枷を外す事も……という考えは一瞬で拒絶される。
神封石に入った罅が、見る間に修復してしまったからだ。
世の中そう甘くは無いよだ。

「ぐぅぅぅぅ……ガルガーノォ……」

吹き飛んだ際、奴の歯が折れ。
デビルアクスは明後日の方向に転がっている。
仮に口で拾えても、あのボロボロの歯では維持できないだろう。

今度こそ俺の勝ちだ――と言いたい所だが。

足の痛みがどんどんと増してくる。
冗談抜きで折れてしまっている様だ。

「ゔおぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!」

起き上ったイナバは瞬時に俺の左足の状態に気づいたのか、雄叫びと共に突っ込んで来る。

「本当に世の中、儘ならないな」

俺は痛む足を堪え、イナバを迎え撃つ。
しおりを挟む
感想 23

あなたにおすすめの小説

俺だけに効くエリクサー。飲んで戦って気が付けば異世界最強に⁉

まるせい
ファンタジー
異世界に召喚された熱海 湊(あたみ みなと)が得たのは(自分だけにしか効果のない)エリクサーを作り出す能力だった。『外れ異世界人』認定された湊は神殿から追放されてしまう。 貰った手切れ金を元手に装備を整え、湊はこの世界で生きることを決意する。

【完結】帝国から追放された最強のチーム、リミッター外して無双する

エース皇命
ファンタジー
【HOTランキング2位獲得作品】  スペイゴール大陸最強の帝国、ユハ帝国。  帝国に仕え、最強の戦力を誇っていたチーム、『デイブレイク』は、突然議会から追放を言い渡される。  しかし帝国は気づいていなかった。彼らの力が帝国を拡大し、恐るべき戦力を誇示していたことに。  自由になった『デイブレイク』のメンバー、エルフのクリス、バランス型のアキラ、強大な魔力を宿すジャック、杖さばきの達人ランラン、絶世の美女シエナは、今まで抑えていた実力を完全開放し、ゼロからユハ帝国を超える国を建国していく。   ※この世界では、杖と魔法を使って戦闘を行います。しかし、あの稲妻型の傷を持つメガネの少年のように戦うわけではありません。どうやって戦うのかは、本文を読んでのお楽しみです。杖で戦う戦士のことを、本文では杖士(ブレイカー)と描写しています。 ※舞台の雰囲気は中世ヨーロッパ〜近世ヨーロッパに近いです。 〜『デイブレイク』のメンバー紹介〜 ・クリス(男・エルフ・570歳)   チームのリーダー。もともとはエルフの貴族の家系だったため、上品で高潔。白く透明感のある肌に、整った顔立ちである。エルフ特有のとがった耳も特徴的。メンバーからも信頼されているが…… ・アキラ(男・人間・29歳)  杖術、身体能力、頭脳、魔力など、あらゆる面のバランスが取れたチームの主力。独特なユーモアのセンスがあり、ムードメーカーでもある。唯一の弱点が…… ・ジャック(男・人間・34歳)  怪物級の魔力を持つ杖士。その魔力が強大すぎるがゆえに、普段はその魔力を抑え込んでいるため、感情をあまり出さない。チームで唯一の黒人で、ドレッドヘアが特徴的。戦闘で右腕を失って以来義手を装着しているが…… ・ランラン(女・人間・25歳)  優れた杖の腕前を持ち、チームを支える杖士。陽気でチャレンジャーな一面もあり、可愛さも武器である。性格の共通点から、アキラと親しく、親友である。しかし実は…… ・シエナ(女・人間・28歳)  絶世の美女。とはいっても杖士としての実力も高く、アキラと同じくバランス型である。誰もが羨む美貌をもっているが、本人はあまり自信がないらしく、相手の反応を確認しながら静かに話す。あるメンバーのことが……

神様に与えられたのは≪ゴミ≫スキル。家の恥だと勘当されたけど、ゴミなら何でも再生出来て自由に使えて……ゴミ扱いされてた古代兵器に懐かれました

向原 行人
ファンタジー
 僕、カーティスは由緒正しき賢者の家系に生まれたんだけど、十六歳のスキル授与の儀で授かったスキルは、まさかのゴミスキルだった。  実の父から家の恥だと言われて勘当され、行く当ても無く、着いた先はゴミだらけの古代遺跡。  そこで打ち捨てられていたゴミが話し掛けてきて、自分は古代兵器で、助けて欲しいと言ってきた。  なるほど。僕が得たのはゴミと意思疎通が出来るスキルなんだ……って、嬉しくないっ!  そんな事を思いながらも、話し込んでしまったし、連れて行ってあげる事に。  だけど、僕はただゴミに協力しているだけなのに、どこかの国の騎士に襲われたり、変な魔法使いに絡まれたり、僕を家から追い出した父や弟が現れたり。  どうして皆、ゴミが欲しいの!? ……って、あれ? いつの間にかゴミスキルが成長して、ゴミの修理が出来る様になっていた。  一先ず、いつも一緒に居るゴミを修理してあげたら、見知らぬ銀髪美少女が居て……って、どういう事!? え、こっちが本当の姿なの!? ……とりあえず服を着てっ!  僕を命の恩人だって言うのはさておき、ご奉仕するっていうのはどういう事……え!? ちょっと待って! それくらい自分で出来るからっ!  それから、銀髪美少女の元仲間だという古代兵器と呼ばれる美少女たちに狙われ、返り討ちにして、可哀想だから修理してあげたら……僕についてくるって!?  待って! 僕に奉仕する順番でケンカするとか、訳が分かんないよっ! ※第○話:主人公視点  挿話○:タイトルに書かれたキャラの視点  となります。

そんなに妹が好きなら死んであげます。

克全
恋愛
「アルファポリス」「カクヨム」「小説家になろう」に同時投稿しています。 『思い詰めて毒を飲んだら周りが動き出しました』 フィアル公爵家の長女オードリーは、父や母、弟や妹に苛め抜かれていた。 それどころか婚約者であるはずのジェイムズ第一王子や国王王妃にも邪魔者扱いにされていた。 そもそもオードリーはフィアル公爵家の娘ではない。 イルフランド王国を救った大恩人、大賢者ルーパスの娘だ。 異世界に逃げた大魔王を追って勇者と共にこの世界を去った大賢者ルーパス。 何の音沙汰もない勇者達が死んだと思った王達は……

異世界召喚で適正村人の俺はゴミとしてドラゴンの餌に~だが職業はゴミだが固有スキルは最強だった。スキル永久コンボでずっと俺のターンだ~

榊与一
ファンタジー
滝谷竜也(たきたにりゅうや)16歳。 ボッチ高校生である彼はいつも通り一人で昼休みを過ごしていた。 その時突然地震に襲われ意識をい失うってしまう。 そして気付けばそこは異世界で、しかも彼以外のクラスの人間も転移していた。 「あなた方にはこの世界を救うために来て頂きました。」 女王アイリーンは言う。 だが―― 「滝谷様は村人ですのでお帰り下さい」 それを聞いて失笑するクラスメート達。 滝谷竜也は渋々承諾して転移ゲートに向かう。 だがそれは元の世界へのゲートではなく、恐るべき竜の巣へと続くものだった。 「あんたは竜の餌にでもなりなさい!」 女王は竜也を役立たずと罵り、国が契約を交わすドラゴンの巣へと続くゲートへと放り込んだ。 だが女王は知らない。 職業が弱かった反動で、彼がとてつもなく強力なスキルを手に入れている事を。 そのスキル【永久コンボ】は、ドラゴンすらも容易く屠る最強のスキルであり、その力でドラゴンを倒した竜谷竜也は生き延び復讐を誓う。 序でに、精神支配されているであろうクラスメート達の救出も。 この物語はゴミの様な村人と言う職業の男が、最強スキル永久コンボを持って異世界で無双する物語となります。

S級パーティを追放された無能扱いの魔法戦士は気ままにギルド職員としてスローライフを送る

神谷ミコト
ファンタジー
【祝!4/6HOTランキング2位獲得】 元貴族の魔法剣士カイン=ポーンは、「誰よりも強くなる。」その決意から最上階と言われる100Fを目指していた。 ついにパーティ「イグニスの槍」は全人未達の90階に迫ろうとしていたが、 理不尽なパーティ追放を機に、思いがけずギルドの職員としての生活を送ることに。 今までのS級パーティとして牽引していた経験を活かし、ギルド業務。ダンジョン攻略。新人育成。そして、学園の臨時講師までそつなくこなす。 様々な経験を糧にカインはどう成長するのか。彼にとっての最強とはなんなのか。 カインが無自覚にモテながら冒険者ギルド職員としてスローライフを送るである。 ハーレム要素多め。 ※隔日更新予定です。10話前後での完結予定で構成していましたが、多くの方に見られているため10話以降も製作中です。 よければ、良いね。評価、コメントお願いします。励みになりますorz 他メディアでも掲載中。他サイトにて開始一週間でジャンル別ランキング15位。HOTランキング4位達成。応援ありがとうございます。 たくさんの誤字脱字報告ありがとうございます。すべて適応させていただきます。 物語を楽しむ邪魔をしてしまい申し訳ないですorz 今後とも応援よろしくお願い致します。

幼い頃に魔境に捨てたくせに、今更戻れと言われて戻るはずがないでしょ!

克全
恋愛
「カクヨム」と「小説家になろう」にも投稿しています。 ニルラル公爵の令嬢カチュアは、僅か3才の時に大魔境に捨てられた。ニルラル公爵を誑かした悪女、ビエンナの仕業だった。普通なら獣に喰われて死にはずなのだが、カチュアは大陸一の強国ミルバル皇国の次期聖女で、聖獣に護られ生きていた。一方の皇国では、次期聖女を見つけることができず、当代の聖女も役目の負担で病み衰え、次期聖女発見に皇国の存亡がかかっていた。

【完結】人々に魔女と呼ばれていた私が実は聖女でした。聖女様治療して下さい?誰がんな事すっかバーカ!

隣のカキ
ファンタジー
私は魔法が使える。そのせいで故郷の村では魔女と迫害され、悲しい思いをたくさんした。でも、村を出てからは聖女となり活躍しています。私の唯一の味方であったお母さん。またすぐに会いに行きますからね。あと村人、テメぇらはブッ叩く。 ※三章からバトル多めです。

処理中です...