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13話 冥界の力

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魔王との契約を終えた俺は、闇から飛び出し元の森へと帰って来た。
自らの左手の甲に描かれた紋様を見る。
これが魔王との契約の証だ。

俺が契約で手に入れた力は3つ。
冥界の瞳アナザービジョン冥界の力アナザーパワー冥界の扉アナザーゲートの3つだ。
まずは試しに冥界の眼アナザービジョンを使ってみる。

これは周囲の情報を読み取る能力だ。
半径100メートルほどの地形と、そこに存在するある一定レベル以上の生物――微視物などの小さすぎる生物は読み取れない。
それに魔力――魔具や設置型の魔法陣等――を感知する事が出来る。

「ぐ……ぅ……」

能力を発動させた途端、大量の情報が頭に一気に流れ込んでくる。
その余りの膨大な情報量に、ショックで一瞬気を失いそうになってしまった。

「はぁ……はぁ……これはきついな」

慣れるまでは相当訓練が必要となりそうだ。

ちらりと闇――この世界と冥界との境界――に視線をやる。
全く変化が見られない。
どうやら冥界の眼アナザービジョンはそれ程冥力を使わない様だ。
これならある程度訓練しても大丈夫だろう。

「次は冥界の力アナザーパワーだ」

闇の靄の様なオーラが俺の全身に絡みつく。
不気味なオーラだ。

「まあいい」

俺は取り敢えず体を動かしてみる。
まずは境界の周りをぐるっと一周――

「うわっ!?」

勢いよく足を踏み出した瞬間、前方の木にぶつかり薙ぎ倒してしまう。
信じられない脚力だ。

「痛みも無いな」

木に無防備に突っ込んで体当たりでへし折ってしまったが、体に痛みなどはない。
体に纏わり付くオーラが俺を守ってくれているのだろう。
俺は気を取り直し、再び走り出す。

「うわっ!?」

「どわっ!?」

「ぐわっ!?」

ぶつかり、転び、そしてぶつかる。
パワーが強力すぎてまるでコントロールできない。

「パワーを落とすか」

発動させた冥界の力アナザーパワーに強弱はない。
あるのは発動のオンオフだけだ。
だから俺は魔力による肉体のパンプアップを切ってパワーを落としてみる。

「よし、これなら何とか制御できる」

今度は闇の周りを木にぶつかったり、転んだりする事無く走る事が出来た。
魔力を切れば辛うじて制御は出来そうだ。
とは言え、完璧には程遠い。
此方も相当訓練しなければなら無さそうだ。

再度境界を見る。
極僅かだが、少し大きくなった気がした。

「こっちは余り乱用しない方が良いみたいだな」

復讐する為に手段を選ぶつもりはないが、だが境界の拡大は出来るだけ抑えたい。
能力の乱用を避ける為にも、やはりまだまだ訓練を続ける必要がありそうだ。

そして最後の能力冥界の扉アナザーゲートなのだが……正直試すか迷う。
これは一言で言うなら召喚だ。
冥界の扉から魔王の配下の悪魔を呼び出し、その力を行使する。

自らの寿命を代価に。

その為、使えば使う程寿命が減ってしまう。
別に長生きをするつもりはないが、無駄に寿命を削られるのは面白くなかった。
だがやはり境界への影響や、対価である寿命がどの程度であるかは確認しておかなければならない。
覚悟を決めて、おれは冥界の扉アナザーゲートを発動させる。

手を前方に手を翳す。
そこに闇が生まれ、大きく口を開けた。
そこから出てきたのは――

「お呼びでしょうか?大賢者様」

目と口が付いた、30㎝程の黒いまりもの様な生き物だった。

「私はポトフと申します。以後お見知りおきを」

闇を見る。
特に変化はない。
これも消費が少ないようだ。

いや、そう決めつけるのはまだ早いか。
使役する事で冥力を大きく消費する可能性もありうる。

「お前には何が出来る?」

「私の能力は透明化です。お望みならば、大賢者様を透明にして差し上げますよ」

「それだけか?」

「はい。それだけです」

魔王の配下にしては随分としょぼい能力だ。
まあ逃亡の身としては有難い能力ではあるのだが、寿命を消費する割には大した事の無い能力の様だ。

「私は最下級の使い魔ですゆえ、大した力は御座いません。大賢者様が境界を広げる事で、さらに強力な者を呼び出せるようになるでしょう」

ポトフは俺の心を読んだかの様に、口を開く。

腐っても悪魔。
人の心を読むのはお手の物という訳か。
油断ならんな。
しかし、強力な力を行使するには境界を広げる必要があるとは……

勿論無駄に広げるつもりはない。
この力は透明化のみと割り切って使った方が良さそうだ。

「お前の透明化を行使させた場合、どの程度の寿命が必要になる?」

「1月でございます」

1月か。
それほど多くは無いが、だからと言って無駄に連発する事は避けた方が良さそうだ。
調子に乗って使うと、なんだかんだで持って行かれてしまう量だ。

「それで、透明化はどの程度維持できるんだ?」

「3時間で御座います」

「3時間か……」

まあそのぐらいあれば十分だろう。
3時間以上、姿を消して負いたい状況など早々ないだろうからな。

「魔法による感知もする抜けられるのか?」

「生体反応や魔力は隠せませんので、残念ながら。それと強い衝撃を受けるとその時点で溶けてしまうので、お気を付けください」

「最後に質問だ。能力を使わせずお前を返す事は出来るか?」

「それは無理でございます」

「そうか」

まあそうだろうな。
悪魔が呼び出されて手ぶらで帰るとは思えない。
この世界に居残って悪さをするのは目に見えていた。

「なら透明化を頼む」

「畏まりました」

体から、何かが抜き取られた感覚がする。
これが寿命を取られるという感覚か……
悪魔は大きく口を開け、透明な泡を吐き出して俺を包み込む。
途端俺の体が消えてなくなる。

「完全に消えているな。では」

俺は木に近寄り、手をぶつけて見る。
耐久度チェックだ。
最初は軽く。
少しづつ力を強めて木を叩いた。

「成程、この程度で解けるのか」

「おやおや、勿体ない事を」

「もう一度掛けた場合は」

「当然もう一度寿命を頂きます」

まあそうだろうな。

「もう帰っていいぞ」

「またいつでもお呼びください」

そう言うと、ポトフは泡の様に弾けて消えてしまう。
どうやら帰りはアナザーゲートを必要しない様だ。
そう言えば魔王をこの世界から追い出した時も、ゲートの様な物を出していなかった気がする。

「去るは易し、来るは難しか」

最後にもう一度境界をチェックしておく。
サイズは殆ど変わっていない。
どうやらこれも冥力の消費は少ない様だ。
まあ最下級の悪魔だったからという可能性も高いが。

「さて、行くか」

確認は済んだ。
いつまでもこんな森で遊んでいる訳にもいかない。
何せ追われる身なのだから。

俺はオキアネス諸島を目指し、西に向かう。
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