上 下
662 / 711
外伝 その王子と恋に落ちたら大変です  第十章 蝶の夢(下)

第五話 空中城での話し合い

しおりを挟む
 獅子の面を持つ魔族ローエングリンは、魔族の中でも強い力を持つ高位魔族だった。
 ルドガーはそのことを知っていた。だが、高位魔族のローエングリンが挑んだとしても白銀竜二頭に勝つことは難しいと考えている。
 なにせ、白銀竜二頭は未だに、黄金竜ウェイズリーことシルヴェスター国王の精神に力を及ぼしている。
 白銀竜がシルヴェスターをけしかけた日には、白銀竜二頭+シルヴェスター(黄金竜)対ローエングリン+魔族軍団の戦いになり、そして竜達の圧倒的な力に負けるだろう。
 また次に考えうる最悪のケースとしては、王城に赴いた瞬間、ローエングリンの配下の魔族達が、白銀竜の精神支配魔法に支配されてしまうケースだった。それに白銀竜がローエングリンに対して、本気を出してその精神を支配しようと術をかけることだって考えられる。

 ルドガーは、白銀竜に無策で挑んでも負けるだけだとローエングリンを懸命に説得していた。結局、ローエングリンを引き留めることが出来た言葉は次のものだった。

「ユーリスが、ずっと眠りについたままなのです。一度、ローエングリン殿にも見てもらえないでしょうか。何かしらのお知恵を拝借できないかと思います」

 それで、獅子面の騎士ローエングリンは、ゴルティニア王国の王城に巣食う白銀竜達の成敗を、取り合えず今は止めておこうとほこを収めた。
 シルヴェスター国王の伴侶ユーリスのことが、ローエングリンも気にかかったのだ。

 シルヴェスターの伴侶ユーリスには、これまでローエングリンは何度も会ったことがある。
 シルヴェスターが、黒髪の美貌のその青年をこよなく愛していることは、傍目からも明らかで、二人は常に一緒にいた。そして穏やかな性格のユーリスは非常に優秀で、彼はシルヴェスターによく尽くしていたから、シルヴェスターの忠実な部下でもあるローエングリンは、ユーリスに対して極めて好印象を持っていた。

 ローエングリンはシルヴェスターが黄金竜ウェイズリーと“同化”していることも、シルヴェスターから直接説明を受けて知っていたし、シルヴェスターの伴侶ユーリスが、人間であったのに別の存在に変えられていることも知っていた。何故なら、シルヴェスターのそばに居るユーリスに、何度会ったとしても、彼は年を重ねることなく若々しい姿のままであったからだ。そしてユーリスは、男の身でありながらも卵まで産んで、その卵から黄金竜ルドガー王子が孵ったこともローエングリンは知っていた。

 そのユーリスが、今、どうしているのかローエングリンは気になっていた。
 だからルドガーは、ローエングリンが気を変えない内に、空中城で眠りについているユーリスに会わせようと、ローエングリンを連れて、再び空中城に転移したのだった。
 

 空中城に転移したルドガーは驚いた。
 そこに、長い眠りから目を覚ましたユーリスがいたからだった。


 小人達に案内された部屋にいたのは、小人達の精緻な刺繍の施された薄いグリーンの衣装をまとったユーリスで、彼は椅子に座り、現れたルドガー王子を見つめた後、ローエングリンに向かって挨拶の声をかけた。

「ご無沙汰しています、ローエングリン殿」

 獅子面の騎士の男は、ユーリスの顔を見てから、ルドガー王子に対して不機嫌そうに言った。

「グルグルグルゥグル(寝ていないではないか)」

 ルドガーは目を大きく見開き、呆然とした声で言う。

「ユーリス、目覚めたのか」

 その驚きっぷりに、ローエングリンもルドガーが、ユーリスの目覚めを知らなかったと知る。
 ユーリスの傍らにいる青年が、説明するように口を挟んだ。

「少し前にお目覚めになったのです。ルドガー殿下にご連絡しようと思ったのですが、空中城から殿下に連絡する手段がなかったため、申し訳ありません」

 半年間目覚めることがなかったユーリス。
 このままずっと目覚めないことも考えられると、ルドガーは少しだけ暗い思いも抱いていた。そしてプトレイセン王国の件もあったため、ユーリスのことを気に掛ける気持ちもあったが、それが後回しになっていたことは事実だった。
 空中城に、ユーリスに会いに行くたびに、彼はずっと変わらず、眠り続けていた。
 それは自分のせいだとルドガーは知っていたし、そのことに対する罪悪感がまったくないわけではなかった。

 でも、今は素直にユーリスが目覚めたことが嬉しかった。

「…………よかった、ユーリスが……目を覚まして」

 ぽつりぽつりと呟くように言うルドガーに、ユーリスは複雑な視線を向ける。
 ユーリスは、自分が長い眠りに就く前、ルドガーによって魔法をかけられたことを覚えていた。
 それをルドガーに会ったのなら、問い質さなければならないとユーリスは当然考えていたのだった。

 しかし、今、この場には獅子面の騎士ローエングリンもいる。
 問い質すことは後回しにせざるを得ない。

 ローエングリンは、ユーリスの無事を素直に喜びながらも、彼はこう尋ねた。

「グルグルグルゥグルグルルルル(それで、ユーリス殿はシルヴェスター陛下の状況をご存知なのですか?)」

 ローエングリンとルドガーは椅子に座り、ユーリスと向かい合って話を始める。
 ユーリスもまた、ローエングリンの口から発せられる魔族の言葉を解することが出来ていた。
 ローエングリンの質問に、ユーリスは頷いた。

「ええ。こちらの私の部下が、現状について報告をしてくれました」

「グルゥグルグルグルルルルルグル!!(もしユーリス殿が、シルヴェスター陛下を奪還したいとお考えなら、私も加勢致しますぞ!!)」

 そのローエングリンの言葉に、(こいつなんてことをユーリスに言っているんだ!!)とルドガーはローエングリンを睨みつける。
 ユーリスは、たとえ黄金竜によって、人の身から“竜人”という身体に変えられたとしていても、不老で長命で、身体が頑丈で馬鹿力になったくらいで、竜と戦うなんてことは到底出来ない。返り討ちに遭うのが関の山である。

 当然、ルドガーは反対を口にする。

「無茶だ。ユーリスが王城に向かっても、白銀竜達にやられるだけになる」

「グルゥグルグルグルルルルゥ!!(なら、シルヴェスター陛下をそのままにしておくつもりなのか!!)」

 ローエングリンもまた、ルドガーを睨みつけ、二人して険悪な雰囲気になりかけた時、ユーリスが口を開いた。

「私は卵を孕んでいるから、今は動けないです」

 

 その言葉に、ローエングリンもルドガーも、瞬間、ユーリスの方を振り向いて、二人して目を見開き呆然としていたのだった。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

願いの守護獣 チートなもふもふに転生したからには全力でペットになりたい

戌葉
ファンタジー
気付くと、もふもふに生まれ変わって、誰もいない森の雪の上に寝ていた。 人恋しさに森を出て、途中で魔物に間違われたりもしたけど、馬に助けられ騎士に保護してもらえた。正体はオレ自身でも分からないし、チートな魔法もまだ上手く使いこなせないけど、全力で可愛く頑張るのでペットとして飼ってください! チートな魔法のせいで狙われたり、自分でも分かっていなかった正体のおかげでとんでもないことに巻き込まれちゃったりするけど、オレが目指すのはぐーたらペット生活だ!! ※「1-7」で正体が判明します。「精霊の愛し子編」や番外編、「美食の守護獣」ではすでに正体が分かっていますので、お気を付けください。 番外編「美食の守護獣 ~チートなもふもふに転生したからには全力で食い倒れたい」 「冒険者編」と「精霊の愛し子編」の間の食い倒れツアーのお話です。 https://www.alphapolis.co.jp/novel/2227451/394680824

一宿一飯の恩義で竜伯爵様に抱かれたら、なぜか監禁されちゃいました!

当麻月菜
恋愛
宮坂 朱音(みやさか あかね)は、電車に跳ねられる寸前に異世界転移した。そして異世界人を保護する役目を担う竜伯爵の元でお世話になることになった。 しかしある日の晩、竜伯爵当主であり、朱音の保護者であり、ひそかに恋心を抱いているデュアロスが瀕死の状態で屋敷に戻ってきた。 彼は強い媚薬を盛られて苦しんでいたのだ。 このまま一晩ナニをしなければ、死んでしまうと知って、朱音は一宿一飯の恩義と、淡い恋心からデュアロスにその身を捧げた。 しかしそこから、なぜだかわからないけれど監禁生活が始まってしまい……。 好きだからこそ身を捧げた異世界女性と、強い覚悟を持って異世界女性を抱いた男が異世界婚をするまでの、しょーもないアレコレですれ違う二人の恋のおはなし。 ※いつもコメントありがとうございます!現在、返信が遅れて申し訳ありません(o*。_。)oペコッ 甘口も辛口もどれもありがたく読ませていただいてます(*´ω`*) ※他のサイトにも重複投稿しています。

【完結】お花畑ヒロインの義母でした〜連座はご勘弁!可愛い息子を連れて逃亡します〜

himahima
恋愛
夫が少女を連れ帰ってきた日、ここは前世で読んだweb小説の世界で、私はざまぁされるお花畑ヒロインの義母に転生したと気付く。 えっ?!遅くない!!せめてくそ旦那と結婚する10年前に思い出したかった…。 ざまぁされて取り潰される男爵家の泥舟に一緒に乗る気はありませんわ! ★恋愛ランキング入りしました! 読んでくれた皆様ありがとうございます。 連載希望のコメントをいただきましたので、 連載に向け準備中です。 *他サイトでも公開中 日間総合ランキング2位に入りました!

もふもふと始めるゴミ拾いの旅〜何故か最強もふもふ達がお世話されに来ちゃいます〜

双葉 鳴|◉〻◉)
ファンタジー
「ゴミしか拾えん役立たずなど我が家にはふさわしくない! 勘当だ!」 授かったスキルがゴミ拾いだったがために、実家から勘当されてしまったルーク。 途方に暮れた時、声をかけてくれたのはひと足先に冒険者になって実家に仕送りしていた長兄アスターだった。 ルークはアスターのパーティで世話になりながら自分のスキルに何ができるか少しづつ理解していく。 駆け出し冒険者として少しづつ認められていくルーク。 しかしクエストの帰り、討伐対象のハンターラビットとボアが縄張り争いをしてる場面に遭遇。 毛色の違うハンターラビットに自分を重ねるルークだったが、兄アスターから引き止められてギルドに報告しに行くのだった。 翌朝死体が運び込まれ、素材が剥ぎ取られるハンターラビット。 使われなくなった肉片をかき集めてお墓を作ると、ルークはハンターラビットの魂を拾ってしまい……変身できるようになってしまった! 一方で死んだハンターラビットの帰りを待つもう一匹のハンターラビットの助けを求める声を聞いてしまったルークは、その子を助け出す為兄の言いつけを破って街から抜け出した。 その先で助け出したはいいものの、すっかり懐かれてしまう。 この日よりルークは人間とモンスターの二足の草鞋を履く生活を送ることになった。 次から次に集まるモンスターは最強種ばかり。 悪の研究所から逃げ出してきたツインヘッドベヒーモスや、捕らえられてきたところを逃げ出してきたシルバーフォックス(のちの九尾の狐)、フェニックスやら可愛い猫ちゃんまで。 ルークは新しい仲間を募り、一緒にお世話するブリーダーズのリーダーとしてお世話道を極める旅に出るのだった! <第一部:疫病編> 一章【完結】ゴミ拾いと冒険者生活:5/20〜5/24 二章【完結】ゴミ拾いともふもふ生活:5/25〜5/29 三章【完結】ゴミ拾いともふもふ融合:5/29〜5/31 四章【完結】ゴミ拾いと流行り病:6/1〜6/4 五章【完結】ゴミ拾いともふもふファミリー:6/4〜6/8 六章【完結】もふもふファミリーと闘技大会(道中):6/8〜6/11 七章【完結】もふもふファミリーと闘技大会(本編):6/12〜6/18

【完】ゲームの世界で美人すぎる兄が狙われているが

BL
 俺には大好きな兄がいる。3つ年上の高校生の兄。美人で優しいけどおっちょこちょいな可愛い兄だ。  ある日、そんな兄に話題のゲームを進めるとありえない事が起こった。 「あれ?ここってまさか……ゲームの中!?」  モンスターが闊歩する森の中で出会った警備隊に保護されたが、そいつは兄を狙っていたようで………?  重度のブラコン弟が兄を守ろうとしたり、壊れたブラコンの兄が一線越えちゃったりします。高確率でえろです。 ※近親相姦です。バッチリ血の繋がった兄弟です。 ※第三者×兄(弟)描写があります。 ※ヤンデレの闇属性でビッチです。 ※兄の方が優位です。 ※男性向けの表現を含みます。 ※左右非固定なのでコロコロ変わります。固定厨の方は推奨しません。 お気に入り登録、感想などはお気軽にしていただけると嬉しいです!

竜の御子は平穏を望む

蒼衣翼
ファンタジー
竜に育てられた少年が人の世界に戻って人間として当たり前の生き方を模索していく話です。あまり波乱は無く世界の情景と人々の暮らしを描く児童文学のようなお話です。 ※小説家になろう、カクヨム、自サイトで連載したものに手を入れています。

性悪なお嬢様に命令されて泣く泣く恋敵を殺りにいったらヤられました

まりも13
BL
フワフワとした酩酊状態が薄れ、僕は気がつくとパンパンパン、ズチュッと卑猥な音をたてて激しく誰かと交わっていた。 性悪なお嬢様の命令で恋敵を泣く泣く殺りに行ったら逆にヤラれちゃった、ちょっとアホな子の話です。 (ムーンライトノベルにも掲載しています)

イケメン王子四兄弟に捕まって、女にされました。

天災
BL
 イケメン王子四兄弟に捕まりました。  僕は、女にされました。

処理中です...