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外伝 その王子と恋に落ちたら大変です  第九章 蝶の夢(上)

第十五話 提案(上)

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 それから、黄金竜ウェイズリーとシルヴェスターがどのような話し合いをしたのか分からないが、再度黄金竜ウェイズリーがユーリスの前に現れた時、小さな黄金竜は「シルヴェスターと“融合”することになった」と告げた。

 そうしなければ、自分のエゴを抑えきれないとシルヴェスターは考えたようだ。このままではユーリスから嫌われてしまうぞ、彼が離れてしまうぞと黄金竜ウェイズリーに説得され、シルヴェスターは同意したようだ。
 病的なほどユーリスから嫌われることを恐れている黄金竜ウェイズリー。愛しいユーリスから嫌われることをするなんてとんでもないと、黄金竜ウェイズリーは、ユーリスを閉じ込めていたシルヴェスターに怒り心頭だった。

 小さな黄金竜は、ユーリスの胸元に飛んできて、頭を擦りつけて甘く鳴きながら言った。

「キュルーキュイキュイキュルルルルル(ユーリス。これから部屋の扉も開けさせる。ただ、シルヴェスターと“融合”している間、一つ問題がある)」

 ユーリスが問いかけるようにウェイズリーの金色の瞳を見つめると、黄金竜は言った。

「キュイキュイキュルルルルルキュイキュイキュルル(“融合”している間、お前を“金色の芽”で守れなくなる)」

「王城の中にいれば、皆が守ってくれる。心配しなくても大丈夫だよ、ウェイズリー」

 ゴルティニア王国の騎士団は強い。たとえ黄金竜がいなくても、十分国を守る力がある。その騎士団のいる王城にいれば、自分の身は安全だとユーリスは言うのだ。

 しかし、黄金竜ウェイズリーは頭を振った。

「キュルゥキュルキュルキュイキュルルル(白銀竜の奴らの件もある。私はお前の身が心配なのだ)」

 そうこうしている間に、部屋の扉が開く。
 開いた扉から転がるように部屋の中に入って来たのは、ユーリスの副官を務めるセリムだった。
 扉が開けられる前に、ユーリスは身を清め、衣服も改め、寝台も綺麗に整えていた。
 まさか城の者達に、閉じ込められていた間、ユーリスがずっとシルヴェスター国王に身体を求められていたことなど、知られたくなかった。何事もなかったように、ユーリスは身なりも部屋の状態も整えていたが、副官のイルムはユーリスを見つめ、「おやつれになりましたね。大丈夫ですか」と心配そうに言った。

「そうですか」

「はい」

 そう言われてユーリスは鏡を見つめる。確かに、顔色もよくないし、少し痩せたようにも見える。

「キュルキュルキュイキュルルルルゥ(そうだ。お前はしっかりと食べて養生した方がいいのだぞ)」

 胸に抱いている小さな黄金竜もそう助言するので、ユーリスは大人しく頷いていた。
 そこに、ルドガー王子も部屋に入ってきた。

「ユーリス」

 息子のルドガーに会うのも久しぶりのような気がする。ユーリスは自分は大丈夫だと彼に微笑みかける。
 ルドガーはユーリスと、黄金竜ウェイズリーに言った。

「内密で話がしたい。いいでしょうか」

 そんなことを真剣な表情でルドガーから言われたので、ユーリスと黄金竜は顔を見合わせた後に頷いた。



 とはいえ、それからルドガーと三人で話が出来たのは、その日の夜になった時だった。
 部屋に閉じ込められている間、何も口にしていなかったユーリスは食事をとり、たまっていた仕事をしなければならなかったし、黄金竜ウェイズリーも、シルヴェスター国王の姿に代わって、政務にとりかからなければならなかった。
 そして三人が再び顔を合わせた時、ルドガーは自分達の居る部屋に魔法をかけて、誰にも邪魔されないようにした。

 まず、ユーリスはこれまでのことをルドガーにも話しておこうと、その時には再び小さな黄金竜の姿に変わっていたウェイズリーを抱っこしながら、話し始めた。

 シルヴェスターと、黄金竜ウェイズリーが、いろいろとあった結果、これから“融合”するつもりだという話を、息子であるルドガーにも告げたのだ。
 その話を聞いて、ルドガーは腕を組んで考え込んでいた。

 黄金竜ウェイズリーは偉そうに、命令するように息子竜に対して言った。

「キュルキュルキュルルルキュイキュイキュルルルルル(それで、私とシルヴェスターが“融合”している間、ルドガー、お前はユーリスを守るのだぞ)」

 その言葉に、ルドガーは片手を挙げた。

「内密で話しておきたいという話を、今、ぼくからもしましょう。プトレイセン王国あたりが随分ときな臭い動きをしています」

 黄金竜ウェイズリーは、黄金色の目を怒りに釣り上げる。

「キュルキュルキュルキュルルルルルルゥ!!(あの国がまた何かやり出しているのか!!)」

 ゴルティニア王国の北東にあるプトレイセン王国は、自国民が難民としてゴルティニア王国へ流入した件以来、何かと不穏な動きを見せていた。

「そうです」

 ふらふらと王城を出て単身うろついているルドガー王子は、このゴルティニア王国周辺で起きている動きを察知することが早かった。プトレイセン王国より更に北の国を巻き込んで、何やら企みをしているようだとルドガーが言うと、ユーリスの腕に抱っこされながらも、小さな黄金竜はこう気炎を上げていた。

「キュルキュルキュイキュイキュッキュッキュルー!!!!(シルヴェスターと“融合”する前に、憂いなきようあの辺りの国を全て焼け野原にするのはどうだ!!!!)」

「ウェイズリー、だめだ」

「キュルキュルキュキュキュルルルルルゥ!!(面倒な人間どもはこの機会に全部一掃しよう!!)」

「ウェイズリー!!」

 ユーリスは抱っこしていた小さな黄金竜の身体を持ち上げると、その目をじっと見つめて睨むように言った。

「そんなことをしては駄目だと、前にも言っただろう」

「キュルキュルキュウキュウキュルルゥキュウウウゥゥ(だって私がいない間に、ユーリスに危険が及ぶようなことになればマズイではないか)」

「大丈夫だよ、そんなに心配しなくても。ルドガーもいるんだ。ちゃんと君とシルヴェスターが“融合”している間も、皆が守ってくれる」

 ルドガーはユーリスの言葉に頷きつつも、こう言った。

「ぼくはプトレイセン王国を見張らないといけません。それと同時に、王城のユーリスまで守るのは厳しいでしょう」

 その言葉に、黄金竜ウェイズリーは尻尾をピンと立たせた。案の定、激しく鳴き喚く。

「キュキュイキュルキュルキュイキュルル!!(やっぱりプトレイセン王国を滅ぼした方が良いと思うぞ、ユーリス!!)」

 やたら血気盛んな小さな黄金竜を、押さえつけながら、ユーリスは顔をしかめている。
 黄金竜ウェイズリーの言葉は極端なのだ。
 目障りだとして、そんな簡単に国を滅ぼしてはならない。
 
 しばらく考え込む様子を見せた後、ルドガーは提案するようにこんなことを述べた。

「ウェイズリーは、“融合”している間も持っている力を分けて、ユーリスを守ることに使えないのですか?」
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