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外伝 その王子と恋に落ちたら大変です 第九章 蝶の夢(上)
第十二話 前王の死(中)
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前王ダンカンの葬儀は、しめやかに国葬で執り行われた。
各国からの参列者や使者がひっきりなしに訪れる中、ユーリスが表に立って手配する。
国王シルヴェスターは、ダンカンの死後、椅子に座りぼんやりと空を見るばかりで、政務は元より、食事すらも満足にとれない様子だった。
ユーリスは、シルヴェスターの悲しみに寄り添いながらも、シルヴェスターに代わって仕事を進める。葬儀が終わった後も、シルヴェスターのどこかぼんやりとした様子は変わらなかった。
時間が彼の悲しみを癒してくれるだろうとユーリスは考えていたが、一方で、養親ダンカンのシルヴェスターの中に占めていたその大きさに驚いていた。
元から“放置された王子”“みそっかすの王子”と呼ばれていたシルヴェスターである。力のない側妃の子として生まれたシルヴェスターは、王妃に疎まれ、王宮の片隅で息を潜めて生きてきた。彼には、ユーリスとダンカン、フィアしか心を開ける者はいなかった。中でもダンカンは、シルヴェスターが少年だった時分からシルヴェスターを支え、その後、長きにわたって付き合ってきた、実の父親以上の存在だった。
深いその悲しみから、なかなか抜け出せないのも仕方がなかった。
シルヴェスターの抱える政務も、貴族会議の代行で済ませられるものは、それで進めている。
こうなってみると、貴族会議が在って良かったとユーリスは苦笑まじりで思う。
勿論、シルヴェスターが国王として判断を下さねばならないものは、シルヴェスターが行うべきであるが、シルヴェスターの抱える政務の中には、些細なものも多いのである。この機会に代行できるものはどんどんさせてしまった方が良いだろう。
ユーリスは、仕事をしながらも頻繁にシルヴェスターがいる部屋へ彼の様子を見に足を運んでいた。
ぼんやりと椅子に座って、窓から外の様子を見ているシルヴェスターのそばに行く。
身をかがめて、シルヴェスターのそばのテーブルに置かれている軽食に視線をやるが、食事をとった形跡がなかったので、ユーリスは小さくため息をついた。
(黄金竜でもあるシルヴェスターは、食事を抜いても大丈夫だとウェイズリーは言っていたけれど。でも、こんなに食べない状態で、本当に大丈夫なのだろうか)
ユーリスはシルヴェスターの前の椅子に座ると、柔らかそうなパンを少しちぎって、シルヴェスターに差し出した。
「少しでも口にして下さい、シルヴェスター。何も食べないと、身体に毒です」
冷たくなってしまったスープは、もう一度作り直してもらおうと、ユーリスがテーブルの上のトレーを手に取った時、ようやくシルヴェスターがユーリスに目を向けた。そのぼんやりと開いていた碧い双眸がユーリスを見た時、光を灯した。
「……ユーリス」
「はい。ヴィー、今、温かいスープをもう一度、作ってもらいますね」
ユーリスが、シルヴェスターにそう言って微笑みかけると、シルヴェスターはそのユーリスの手首を掴んだ。
ぎゅっと手首を強く握られ、ユーリスはシルヴェスターを見つめる。
「ヴィー?」
「ユーリス、お前は私のそばにいてくれるな。お前は私に誓ったのだからな」
「ええ。私はヴィーのそばにいます。ずっとそばにいます」
だから、安心して下さい。そう言いかけるユーリスの手首を引いて、椅子に座るシルヴェスターの胸元に倒れこませると、シルヴェスターはユーリスの艶やかな黒髪に触れた。
「ユーリス、キスしてくれ」
そうせがまれたので、ユーリスは従順にシルヴェスターの唇にそっと自分の唇を重ねる。優しく食むような口づけが、すぐに変わった。シルヴェスターはユーリスの後頭部を手で押さえこみ、覆いかぶさるように口づける。シルヴェスターの舌は、ユーリスの舌を求め、口蓋から歯列まで舐め尽くされる。息苦しさにユーリスは眉を寄せた。長々とした、強引な奪い尽くすような口づけ。シルヴェスターの手がユーリスの髪から肩へ落とされ、やがてその胸元のボタンを千切るような勢いで外していく。ユーリスの服を剥ぎ取る。脱がせた服がバサバサと床に落ちていく。シルヴェスターは膝の上に乗せたユーリスの身体に口づけを落とし、求め始める。
「ヴィー」
我を失っているような虚脱の悲しみから、今度は隠しきれない怒りをシルヴェスターは見せている。
何故、そのように怒っているのか分からない。何に対して怒っているのか分からない。
椅子の上にユーリスの身を倒し、彼は狭いその場所でユーリスを愛そうとする。
シルヴェスターの見せる怒りの理由が、ユーリスには分からなかったが、今はその怒りも受け止めるしかない。
ユーリスはシルヴェスターの背に手を回し、彼を抱きしめた。
各国からの参列者や使者がひっきりなしに訪れる中、ユーリスが表に立って手配する。
国王シルヴェスターは、ダンカンの死後、椅子に座りぼんやりと空を見るばかりで、政務は元より、食事すらも満足にとれない様子だった。
ユーリスは、シルヴェスターの悲しみに寄り添いながらも、シルヴェスターに代わって仕事を進める。葬儀が終わった後も、シルヴェスターのどこかぼんやりとした様子は変わらなかった。
時間が彼の悲しみを癒してくれるだろうとユーリスは考えていたが、一方で、養親ダンカンのシルヴェスターの中に占めていたその大きさに驚いていた。
元から“放置された王子”“みそっかすの王子”と呼ばれていたシルヴェスターである。力のない側妃の子として生まれたシルヴェスターは、王妃に疎まれ、王宮の片隅で息を潜めて生きてきた。彼には、ユーリスとダンカン、フィアしか心を開ける者はいなかった。中でもダンカンは、シルヴェスターが少年だった時分からシルヴェスターを支え、その後、長きにわたって付き合ってきた、実の父親以上の存在だった。
深いその悲しみから、なかなか抜け出せないのも仕方がなかった。
シルヴェスターの抱える政務も、貴族会議の代行で済ませられるものは、それで進めている。
こうなってみると、貴族会議が在って良かったとユーリスは苦笑まじりで思う。
勿論、シルヴェスターが国王として判断を下さねばならないものは、シルヴェスターが行うべきであるが、シルヴェスターの抱える政務の中には、些細なものも多いのである。この機会に代行できるものはどんどんさせてしまった方が良いだろう。
ユーリスは、仕事をしながらも頻繁にシルヴェスターがいる部屋へ彼の様子を見に足を運んでいた。
ぼんやりと椅子に座って、窓から外の様子を見ているシルヴェスターのそばに行く。
身をかがめて、シルヴェスターのそばのテーブルに置かれている軽食に視線をやるが、食事をとった形跡がなかったので、ユーリスは小さくため息をついた。
(黄金竜でもあるシルヴェスターは、食事を抜いても大丈夫だとウェイズリーは言っていたけれど。でも、こんなに食べない状態で、本当に大丈夫なのだろうか)
ユーリスはシルヴェスターの前の椅子に座ると、柔らかそうなパンを少しちぎって、シルヴェスターに差し出した。
「少しでも口にして下さい、シルヴェスター。何も食べないと、身体に毒です」
冷たくなってしまったスープは、もう一度作り直してもらおうと、ユーリスがテーブルの上のトレーを手に取った時、ようやくシルヴェスターがユーリスに目を向けた。そのぼんやりと開いていた碧い双眸がユーリスを見た時、光を灯した。
「……ユーリス」
「はい。ヴィー、今、温かいスープをもう一度、作ってもらいますね」
ユーリスが、シルヴェスターにそう言って微笑みかけると、シルヴェスターはそのユーリスの手首を掴んだ。
ぎゅっと手首を強く握られ、ユーリスはシルヴェスターを見つめる。
「ヴィー?」
「ユーリス、お前は私のそばにいてくれるな。お前は私に誓ったのだからな」
「ええ。私はヴィーのそばにいます。ずっとそばにいます」
だから、安心して下さい。そう言いかけるユーリスの手首を引いて、椅子に座るシルヴェスターの胸元に倒れこませると、シルヴェスターはユーリスの艶やかな黒髪に触れた。
「ユーリス、キスしてくれ」
そうせがまれたので、ユーリスは従順にシルヴェスターの唇にそっと自分の唇を重ねる。優しく食むような口づけが、すぐに変わった。シルヴェスターはユーリスの後頭部を手で押さえこみ、覆いかぶさるように口づける。シルヴェスターの舌は、ユーリスの舌を求め、口蓋から歯列まで舐め尽くされる。息苦しさにユーリスは眉を寄せた。長々とした、強引な奪い尽くすような口づけ。シルヴェスターの手がユーリスの髪から肩へ落とされ、やがてその胸元のボタンを千切るような勢いで外していく。ユーリスの服を剥ぎ取る。脱がせた服がバサバサと床に落ちていく。シルヴェスターは膝の上に乗せたユーリスの身体に口づけを落とし、求め始める。
「ヴィー」
我を失っているような虚脱の悲しみから、今度は隠しきれない怒りをシルヴェスターは見せている。
何故、そのように怒っているのか分からない。何に対して怒っているのか分からない。
椅子の上にユーリスの身を倒し、彼は狭いその場所でユーリスを愛そうとする。
シルヴェスターの見せる怒りの理由が、ユーリスには分からなかったが、今はその怒りも受け止めるしかない。
ユーリスはシルヴェスターの背に手を回し、彼を抱きしめた。
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