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外伝 その王子と恋に落ちたら大変です 第九章 蝶の夢(上)
第九話 大言壮語を吐く小さな黄金竜(上)
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ゴルティニア王国の北東には、プトレイセンという王国があった。
三年前、このプトレイセン王国を飢饉が襲い、多くの国民が命を落とした。そして国境沿いに住んでいたプトレイセン王国の国民達はゴルティニア王国内へと食料を求めて逃げ込む者達も見られた。
ゴルティニア王国へ渡ってみれば、ゴルティニア王国が豊かで、また国民達も虐げられることなく楽しそうに暮らしている様子が見える。何か問題があれば、目安箱という制度で国王へ直々に意見が届けられ、また勉強したいと望む者には国民にも門戸が開かれている学校へ通うことが出来る。何かしらの天変地異が起きれば、すぐさま国を守っている黄金竜が、国王の伴侶と一緒に解決しようとしてくれる。
自分達の国とは大違いではないか。
そう思うのは当然で、飢饉で生活が苦しくなったこともあり、プトレイセン王国の国民達はゆっくりとゴルティニア王国内に流入していく。元から人口数に比して国土の方が広大であったゴルティニア王国であったから、プトレイセン王国からの国民は“勝手に”ゴルティニア王国内に居つくことも可能であり、またそれを咎める声も多くはなかった。
しかし、困るのはプトレイセン王国である。国民がゴルティニア王国へ流出しているのだ。当然、ゴルティニア王国への抗議がされた。
王城に届けられたその抗議文を見て、ユーリスはため息をついていた。
そんなユーリスを心配そうに、副官を務めるセリムが見ていた。
「どうなさいますか」
「どうもこうもない。国境沿いは柵ももうけていないのだ。勝手に入ってくるプトレイセン民を止めることなど不可能だろう。仮に、押し返したとしてもプトレイセン民がこちらにまた入って来るだけだ。解決策は、プトレイセン王国が、飢饉など起こさないように努めることくらいだろう」
「………………」
つまり、こちらへの流入を止めることは難しいとユーリスは言っているのだ。
そしてユーリスが言っていることは間違えていない。たとえ国境を越えて入って来たプトレイセン民を強制的にプトレイセン王国に戻したとしても、また何かあれば国境を越えて入って来る。そのイタチごっこになる。
「陛下には報告しておくが、放置ということになるだろう。それとは別に」
ユーリスはセリムに言った。
「再度飢饉などが起きた場合で、我が国に余剰の穀物があった場合には、市価よりも安価に我が国から穀物を融通する措置を、周辺国との間で条約として締結した方がいいだろう。そうすれば、国民の流出は抑えられ、あちらの顔も立てられる」
「そうですね」
「即効性はないが、それしかないだろう」
そうユーリスはため息まじりでそう答えた。
そしてその日の夜、小さな黄金竜のウェイズリーは、昼間、ユーリスが国王シルヴェスターに報告したその話を聞いて、キュイキュイと鳴きながらこう述べた。
「キュルキュルキルルルルルルキュイキュイキュルー(そんな文句を言う国があったのなら、ゴルティニアに併合してしまえばいい)」
空中城の寝台の上で、ユーリスの膝の上にご機嫌に座っていた黄金竜ウェイズリーの顔をじっと見つめてユーリスは言った。
「併合とか簡単に言ってはならない。大体、君の支配できる領域には限界があるだろう」
黄金竜ウェイズリーの力にも限界があり、その魔法の力が届く距離は無限ではない。金色の芽で国を守ることが出来る範囲も存在するのだ。
「キュイキュルルルキュイキュイキュルーキュッキュッキュルルルルルゥ!!!!(それはそうだ。だが、ユーリス、忘れていないか。お前は私の子を産むことが出来る。考えてみよ。大陸の各地に私とお前の子が散らばれば、この大陸全土の支配が可能だぞ!!!!)」
ユーリスの膝の上で、小さな黄金竜はピンと尻尾を立たせ、黄金色の目をキラキラと輝かせながら、そんな大層なことを口にする。自分の膝の上で仁王立ちになって「大陸制覇」を口にする小さな黄金竜に、ユーリスは苦く笑った。
「だめだよ、ウェイズリー。それはだめだ」
「キュルウゥ(なぜなのだ)」
「たとえ君が大陸の全てを征服したとしても、そこに住む人々すべてに対して責任は持てないだろう」
「キュルーキュッキュキューキュー!!!!(そんなことはない。私は責任感のある竜だぞ!!!!)」
胸を張って強く主張する小さな黄金竜の頭を、ユーリスは撫でながら言った。
「無理だ」
「キュキュキュルルルルキュイ。キュキュルルキュウキュウ!!!!(そんなことはない。私を見くびるな。しかし、そうだな、そもそもまずは子作りをせねば始まらないな!!!!)」
そう言って小さな黄金竜はペタリと番の青年の胸に張り付き、それから人型の大男の姿に変わり、ユーリスを寝台の上に押し倒した。ユーリスの顔に口づけを雨のように落とす黄金竜ウェイズリー。
ウェイズリーの背に手を回しながら、ユーリスは独り言めいていた。
「そんな簡単な話じゃないんだよ、ウェイズリー」
今のゴルティニア王国で、ユーリスは、国王シルヴェスターと共に、国民のために日夜懸命に働いている。ようやく、多くの貴族や官僚達も、ユーリスの意思を汲んで国の為に動いてくれるようになった。大勢の人々の利害を調整し、先々のため、一番良い選択肢をとるように、ユーリスは常に考えている。上に立つ者であるが故に、ユーリスとシルヴェスターの前には膨大な選択肢があった。考え抜いて、最も良い選択をしなければならない。煌びやかな仕事に見えながらも、重い責任を伴う仕事である。今でも大変な状況にあるというのに、この小さな黄金竜は、ゴルティニア王国の統治のみならず、大陸制覇をすると述べるのだ。まったく頭が痛い。
何も考えず、ただ番のユーリスの膝の上で甘えて鳴いて、子作りをしたいとせがむこの黄金竜が、何も考えずに大陸制覇などした日には、恐ろしく悲惨なことになるのではないかとユーリスは考えている。
それに、黄金竜が思いつきで何もかもしてしまう国というのは、果たしてそこに住む国民にとって本当に幸せな事なのだろうか。
自分は考えすぎかも知れない。
でも、おそらく自分の考えは間違えていないだろうとユーリスは思っていた。
三年前、このプトレイセン王国を飢饉が襲い、多くの国民が命を落とした。そして国境沿いに住んでいたプトレイセン王国の国民達はゴルティニア王国内へと食料を求めて逃げ込む者達も見られた。
ゴルティニア王国へ渡ってみれば、ゴルティニア王国が豊かで、また国民達も虐げられることなく楽しそうに暮らしている様子が見える。何か問題があれば、目安箱という制度で国王へ直々に意見が届けられ、また勉強したいと望む者には国民にも門戸が開かれている学校へ通うことが出来る。何かしらの天変地異が起きれば、すぐさま国を守っている黄金竜が、国王の伴侶と一緒に解決しようとしてくれる。
自分達の国とは大違いではないか。
そう思うのは当然で、飢饉で生活が苦しくなったこともあり、プトレイセン王国の国民達はゆっくりとゴルティニア王国内に流入していく。元から人口数に比して国土の方が広大であったゴルティニア王国であったから、プトレイセン王国からの国民は“勝手に”ゴルティニア王国内に居つくことも可能であり、またそれを咎める声も多くはなかった。
しかし、困るのはプトレイセン王国である。国民がゴルティニア王国へ流出しているのだ。当然、ゴルティニア王国への抗議がされた。
王城に届けられたその抗議文を見て、ユーリスはため息をついていた。
そんなユーリスを心配そうに、副官を務めるセリムが見ていた。
「どうなさいますか」
「どうもこうもない。国境沿いは柵ももうけていないのだ。勝手に入ってくるプトレイセン民を止めることなど不可能だろう。仮に、押し返したとしてもプトレイセン民がこちらにまた入って来るだけだ。解決策は、プトレイセン王国が、飢饉など起こさないように努めることくらいだろう」
「………………」
つまり、こちらへの流入を止めることは難しいとユーリスは言っているのだ。
そしてユーリスが言っていることは間違えていない。たとえ国境を越えて入って来たプトレイセン民を強制的にプトレイセン王国に戻したとしても、また何かあれば国境を越えて入って来る。そのイタチごっこになる。
「陛下には報告しておくが、放置ということになるだろう。それとは別に」
ユーリスはセリムに言った。
「再度飢饉などが起きた場合で、我が国に余剰の穀物があった場合には、市価よりも安価に我が国から穀物を融通する措置を、周辺国との間で条約として締結した方がいいだろう。そうすれば、国民の流出は抑えられ、あちらの顔も立てられる」
「そうですね」
「即効性はないが、それしかないだろう」
そうユーリスはため息まじりでそう答えた。
そしてその日の夜、小さな黄金竜のウェイズリーは、昼間、ユーリスが国王シルヴェスターに報告したその話を聞いて、キュイキュイと鳴きながらこう述べた。
「キュルキュルキルルルルルルキュイキュイキュルー(そんな文句を言う国があったのなら、ゴルティニアに併合してしまえばいい)」
空中城の寝台の上で、ユーリスの膝の上にご機嫌に座っていた黄金竜ウェイズリーの顔をじっと見つめてユーリスは言った。
「併合とか簡単に言ってはならない。大体、君の支配できる領域には限界があるだろう」
黄金竜ウェイズリーの力にも限界があり、その魔法の力が届く距離は無限ではない。金色の芽で国を守ることが出来る範囲も存在するのだ。
「キュイキュルルルキュイキュイキュルーキュッキュッキュルルルルルゥ!!!!(それはそうだ。だが、ユーリス、忘れていないか。お前は私の子を産むことが出来る。考えてみよ。大陸の各地に私とお前の子が散らばれば、この大陸全土の支配が可能だぞ!!!!)」
ユーリスの膝の上で、小さな黄金竜はピンと尻尾を立たせ、黄金色の目をキラキラと輝かせながら、そんな大層なことを口にする。自分の膝の上で仁王立ちになって「大陸制覇」を口にする小さな黄金竜に、ユーリスは苦く笑った。
「だめだよ、ウェイズリー。それはだめだ」
「キュルウゥ(なぜなのだ)」
「たとえ君が大陸の全てを征服したとしても、そこに住む人々すべてに対して責任は持てないだろう」
「キュルーキュッキュキューキュー!!!!(そんなことはない。私は責任感のある竜だぞ!!!!)」
胸を張って強く主張する小さな黄金竜の頭を、ユーリスは撫でながら言った。
「無理だ」
「キュキュキュルルルルキュイ。キュキュルルキュウキュウ!!!!(そんなことはない。私を見くびるな。しかし、そうだな、そもそもまずは子作りをせねば始まらないな!!!!)」
そう言って小さな黄金竜はペタリと番の青年の胸に張り付き、それから人型の大男の姿に変わり、ユーリスを寝台の上に押し倒した。ユーリスの顔に口づけを雨のように落とす黄金竜ウェイズリー。
ウェイズリーの背に手を回しながら、ユーリスは独り言めいていた。
「そんな簡単な話じゃないんだよ、ウェイズリー」
今のゴルティニア王国で、ユーリスは、国王シルヴェスターと共に、国民のために日夜懸命に働いている。ようやく、多くの貴族や官僚達も、ユーリスの意思を汲んで国の為に動いてくれるようになった。大勢の人々の利害を調整し、先々のため、一番良い選択肢をとるように、ユーリスは常に考えている。上に立つ者であるが故に、ユーリスとシルヴェスターの前には膨大な選択肢があった。考え抜いて、最も良い選択をしなければならない。煌びやかな仕事に見えながらも、重い責任を伴う仕事である。今でも大変な状況にあるというのに、この小さな黄金竜は、ゴルティニア王国の統治のみならず、大陸制覇をすると述べるのだ。まったく頭が痛い。
何も考えず、ただ番のユーリスの膝の上で甘えて鳴いて、子作りをしたいとせがむこの黄金竜が、何も考えずに大陸制覇などした日には、恐ろしく悲惨なことになるのではないかとユーリスは考えている。
それに、黄金竜が思いつきで何もかもしてしまう国というのは、果たしてそこに住む国民にとって本当に幸せな事なのだろうか。
自分は考えすぎかも知れない。
でも、おそらく自分の考えは間違えていないだろうとユーリスは思っていた。
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