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外伝 その王子と恋に落ちたら大変です 第八章 永遠の王の統べる王国
第二十九話 いざなう声
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ルドガーは、父親のウェイズリーが墓所から姿を消した後も、ずっと祖父ジャクセンの墓石の前に一人佇んでいた。そして手で、墓石に刻まれたジャクセンの名をそっとなぞる。
それから、柩の入っている石蓋をずらし、現れた柩の蓋を持ち上げた。
幼い子供の姿をしていながらも、ルドガーは黄金竜であったから、重い柩の蓋さえも簡単に持ち上げることが出来た。そして柩の中には、黒の礼装姿のジャクセンが、胸の上に両手を組み合わせて横になっていた。
目を伏せ、眠っているような表情をしているが、彼が死者であることは明らかだった。血の気を失った真っ白い死者の肌。唇の色も紫色になっている。触れると肌は冷たく、すでに硬直がはじまっていた。
もし、大きな怪我をしたり、病気に罹っていたとしても、生きてさえいれば、ルドガーは魔法の力ですぐにでもジャクセンを癒してあげることが出来た。
でも、死んでしまったのなら、生き返らせることは難しい。
かつて、シルヴェスター王子が命を落としそうな大怪我を負った時、黄金竜ウェイズリーが同化してその命を救った。それも、シルヴェスター王子が虫の息でも生きていたから、彼と同化して、その身を救うことが出来たのだ。しかし、死んでしまえば、魂はぷつりとその肉体から切り離され、黄泉へと運ばれる。その黄泉へと運ばれてしまった魂を取り戻すためには、非常に大きな困難がつきまとう。
ウェイズリーが述べた、大きな対価が必要というのは、まさにそのことであったのだ。
ルドガーは、柩の中に横たわる祖父ジャクセンの頬に手をやった後、すすり泣き始めた。
「どうして、どうして死んでしまったの」
ジャクセンが大好きだった。
一目見た時から、ルドガーはジャクセンに惹かれた。
綺麗で格好良くて、厳しいけれど、本当は優しい人なのだ。
ルドガーが王子としての任務をきちんと果たしたことのお祝いでくれた、ジャクセンからの贈り物の、竜の小さな陶器の人形を、ルドガーは今でも大切に持っていて、宝物にしている。
ルドガーにそれをくれた時の、少し照れた様子のジャクセンの姿が忘れられない。
ルドガーの瞳から涙がぽたぽたと流れ落ち続ける。
「どうして、どうして」
その言葉だけが、繰り返し零れる。
死んでしまったことが信じられない。信じたくない。
どうしても、どうしても取り戻したい。
ジャクセンがまた、この世に戻って来るというのなら、ルドガーは何でもするつもりだった。
どんな対価だって支払うつもりだった。
そこに少年の声が響いた。
「ルドガー、可哀想に」
驚いて顔を上げたルドガーの前に、真っ白い銀色の髪をしたコンラート少年が静かに佇んでいた。
彼もまた、ルドガーの悲しみに同調するかのように、少し眉を寄せ、苦しそうな表情をしていた。
「ルドガー、ジャクセンは死んでしまったのだね」
「………………………」
ルドガーはごしごしと手で濡れた目を擦る。その様子に、コンラートはルドガーに言った。
「大丈夫? ルドガー」
「大丈夫なはず、ない」
どうしてコンラートが、こんな夜中に、バンクール家の墓所にいるのか分からない。
でも、ルドガーはコンラートを疑うよりも先に、いつものように、コンラートの存在を自然に受け入れていた。
「悲しいの?」
「悲しい。それに、苦しい。胸がひどく苦しいんだ」
ルドガーの弱々しく吐露する声に、コンラートは頷いた。そしてルドガーの肩にそっと手を置いて、もう一度繰り返し言った。
「可哀想なルドガー」
「…………」
「ジャクセンが大好きだったんだよね」
コクリと素直に頷くルドガーの耳元に、コンラートは、優しく囁いた。
「僕が、君の願いを叶えてあげようか」
顔を上げるルドガーに、コンラートは微笑みを浮かべて言った。
「もちろん、条件はある。君が僕のこれから口にする条件に応えてくれるのなら、僕は君の大好きなジャクセンを生き返らせてあげる。僕が、代わりに対価を払ってあげる」
「そんな簡単に出来るはずがない。黄金竜の力でも、簡単には生き返らせることは出来ないんだぞ!!!!」
「出来るよ。だって僕は、君よりもずっと長く生きている白銀竜だから。僕は君の友達で、君のためならなんでも出来るんだ」
コンラートが白銀竜であると聞いたルドガーの目が見開かれる。
「だから、ルドガー、僕のことを信頼してよ」
そうして、トロリとした甘い蜜のような、どこまでも優しい言葉を、黄金竜ルドガーの耳に、彼は注ぎ込んだのだった。
あまりにもか細い、小さくてささやかな、でも決して見過ごすことのできない
希望の甘言を。
それから、柩の入っている石蓋をずらし、現れた柩の蓋を持ち上げた。
幼い子供の姿をしていながらも、ルドガーは黄金竜であったから、重い柩の蓋さえも簡単に持ち上げることが出来た。そして柩の中には、黒の礼装姿のジャクセンが、胸の上に両手を組み合わせて横になっていた。
目を伏せ、眠っているような表情をしているが、彼が死者であることは明らかだった。血の気を失った真っ白い死者の肌。唇の色も紫色になっている。触れると肌は冷たく、すでに硬直がはじまっていた。
もし、大きな怪我をしたり、病気に罹っていたとしても、生きてさえいれば、ルドガーは魔法の力ですぐにでもジャクセンを癒してあげることが出来た。
でも、死んでしまったのなら、生き返らせることは難しい。
かつて、シルヴェスター王子が命を落としそうな大怪我を負った時、黄金竜ウェイズリーが同化してその命を救った。それも、シルヴェスター王子が虫の息でも生きていたから、彼と同化して、その身を救うことが出来たのだ。しかし、死んでしまえば、魂はぷつりとその肉体から切り離され、黄泉へと運ばれる。その黄泉へと運ばれてしまった魂を取り戻すためには、非常に大きな困難がつきまとう。
ウェイズリーが述べた、大きな対価が必要というのは、まさにそのことであったのだ。
ルドガーは、柩の中に横たわる祖父ジャクセンの頬に手をやった後、すすり泣き始めた。
「どうして、どうして死んでしまったの」
ジャクセンが大好きだった。
一目見た時から、ルドガーはジャクセンに惹かれた。
綺麗で格好良くて、厳しいけれど、本当は優しい人なのだ。
ルドガーが王子としての任務をきちんと果たしたことのお祝いでくれた、ジャクセンからの贈り物の、竜の小さな陶器の人形を、ルドガーは今でも大切に持っていて、宝物にしている。
ルドガーにそれをくれた時の、少し照れた様子のジャクセンの姿が忘れられない。
ルドガーの瞳から涙がぽたぽたと流れ落ち続ける。
「どうして、どうして」
その言葉だけが、繰り返し零れる。
死んでしまったことが信じられない。信じたくない。
どうしても、どうしても取り戻したい。
ジャクセンがまた、この世に戻って来るというのなら、ルドガーは何でもするつもりだった。
どんな対価だって支払うつもりだった。
そこに少年の声が響いた。
「ルドガー、可哀想に」
驚いて顔を上げたルドガーの前に、真っ白い銀色の髪をしたコンラート少年が静かに佇んでいた。
彼もまた、ルドガーの悲しみに同調するかのように、少し眉を寄せ、苦しそうな表情をしていた。
「ルドガー、ジャクセンは死んでしまったのだね」
「………………………」
ルドガーはごしごしと手で濡れた目を擦る。その様子に、コンラートはルドガーに言った。
「大丈夫? ルドガー」
「大丈夫なはず、ない」
どうしてコンラートが、こんな夜中に、バンクール家の墓所にいるのか分からない。
でも、ルドガーはコンラートを疑うよりも先に、いつものように、コンラートの存在を自然に受け入れていた。
「悲しいの?」
「悲しい。それに、苦しい。胸がひどく苦しいんだ」
ルドガーの弱々しく吐露する声に、コンラートは頷いた。そしてルドガーの肩にそっと手を置いて、もう一度繰り返し言った。
「可哀想なルドガー」
「…………」
「ジャクセンが大好きだったんだよね」
コクリと素直に頷くルドガーの耳元に、コンラートは、優しく囁いた。
「僕が、君の願いを叶えてあげようか」
顔を上げるルドガーに、コンラートは微笑みを浮かべて言った。
「もちろん、条件はある。君が僕のこれから口にする条件に応えてくれるのなら、僕は君の大好きなジャクセンを生き返らせてあげる。僕が、代わりに対価を払ってあげる」
「そんな簡単に出来るはずがない。黄金竜の力でも、簡単には生き返らせることは出来ないんだぞ!!!!」
「出来るよ。だって僕は、君よりもずっと長く生きている白銀竜だから。僕は君の友達で、君のためならなんでも出来るんだ」
コンラートが白銀竜であると聞いたルドガーの目が見開かれる。
「だから、ルドガー、僕のことを信頼してよ」
そうして、トロリとした甘い蜜のような、どこまでも優しい言葉を、黄金竜ルドガーの耳に、彼は注ぎ込んだのだった。
あまりにもか細い、小さくてささやかな、でも決して見過ごすことのできない
希望の甘言を。
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