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外伝 その王子と恋に落ちたら大変です 第八章 永遠の王の統べる王国
第二十六話 黄金竜の守る国(下)
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財務大臣フィアの片腕として働くユーリスは、ますます忙しい日々を送っていた。
ゴルティニア王国の財政について、官僚達と働くことのみならず、近年では新しい制度の導入にも積極的に携わっていた。また国王に届けられる“目安箱”の中身も、箱を開封する王と一緒に見て、検分しているのだ。
国王ダンカンは、“目安箱”の制度を非常に面白がっていた。
寄せられる国民からの手紙は、ささいな、くだらないものも多かったが(地域での土地争いや、恋愛から巻き起こったお家騒動まで様々である)、時折、見逃せないような意見も見受けられ、その時には、ダンカンは騎士団や官僚達をその地域に向かわせて解決を図らせる。
ユーリスは、国王ダンカンに余計な手間と苦労を掛けさせていることを詫びながらも、彼が目安箱の制度を買ってくれることに感謝していた。寄せられた手紙についても、時に黄金竜ウェイズリーやルドガーを遣わせて解決することをダンカンは認めてくれた。
ダンカンやフィアは、ユーリスの意図を理解し始めた。
黄金竜ウェイズリーの伴侶であるユーリスは、王国の国民に、黄金竜の存在をしっかりと認めさせ、黄金竜の居場所を作ろうとしている。それも、竜達が国民にとって善い存在であると認識させ、竜達が尊敬され、愛されるべき存在であるよう、祭り上げようとしている。
「それで、次はどうするつもりなんだ」
ダンカンの問いかけに、ユーリスは答える。
「シルヴェスターとルドガーが、竜の血を引く“特別な存在”であることを知らせます」
「ここまで人気が出ていれば、問題なく受け入れられるでしょうね」
フィアは、目安箱に寄せられた、黄金竜への感謝の手紙の束を持ち上げた。
「はい」
今では、ユーリスが黄金竜に乗って各所に現れると、歓声を上げて、駆け寄って来る子供達もいるくらいだった。すべては目論見通り、ゴルティニア王国の国民は、黄金竜を受け入れ始めている。
「“特別な存在”であることに公表した後は、どうするのだ?」
ダンカンの言葉に、ユーリスは用意していた書類をダンカンとフィアの前に置いた。
「シルヴェスターにはすでに話してあります。現行の“貴族会議”の制度を拡充します」
“貴族会議”とは、ゴルティニア王国の前身であるカリン王国の時代から在った制度であった。国王の他に、高位貴族の代表で出来た“貴族会議”。その会議の仕組みを拡充する。
「国王側から働きかけて、貴族会議への制度を拡充するなんて聞いたことはないぞ。乗っ取られるのではないか」
「それはないでしょう。要所要所に、陛下の承認が必ず必要になっているところは外していません。ただ、貴族会議で話し合える事項を増やして、貴族会議の出席者も増やしているだけです」
「人数が多いと話がまとまらないと思いますが」
「話がまとまらない無能者ばかりであれば、今まで通り陛下がすべて決めてしまうだけです」
ユーリスの毒舌に、ダンカンやフィアは苦笑した。
「……どうして貴族に権限を与えるのだ」
ダンカンの問いかけに、ユーリスは応えた。
「貴族だけではないです。ゆくゆくは、意見を言いたい国民が、陛下のいる場で直接意見が言える場所も用意したい。でも、まだそれは早いでしょう。機は熟していない。だから、今は貴族達の意見を取り入れていくだけです。その貴族達が私利私欲で動くようなら、その手から権限は取り上げるつもりです。その力はダンカン国王陛下、今の貴方は十分持っている」
「揉めるだろう」
「揉めてもいいのではないですか。けれど、貴族達が腐っていないなら、有効に、貴族会議だって動き出すでしょう」
「理想を追うと疲れるぞ」
ダンカンの言葉に、ユーリスは肩をすくめた。
「荷は分かち合うべきです。考えられる者、動ける者は、陛下に協力すべきでしょう」
こうして十三名の高位貴族から成る貴族会議が定期的に開かれるようになり、国王は貴族会議からの諮問を定期的に受け入れるようになる。幸いなことに、箸にも棒にもかからぬような提案は、今のところ貴族会議から降りてくることはなかった。むしろ、貴族会議からの多くの貴族達の意見を目にすることで、ダンカンは王の判断を下すことに「少し楽になった」と言っていた。勿論、順調なことばかりではない。しばらくして、ダンカンと貴族会議の意見が対立することもあったが、最終的には国王ダンカンに決定権があるため、ダンカンが自分の意見を押し切ったこともある。けれど、その時にもダンカンは貴族会議の意見に配慮することを忘れなかった。
シルヴェスター王子は、こうしたユーリスの、ダンカン国王への提案に反対することはなかった。
彼もまた、黄金竜と同化している自分の存在が、時に国民から恐れられるものであることを理解していた。シルヴェスター王子がこれから王座に就く時、その力を人々に隠し通すことも一つの方法ではあったけれど、ユーリスはそうでない道を選んだ。
たぶん、自分達が“永遠に等しいほど長い時を生きる存在”であることを知ったからだろう。シルヴェスターが王の座に就いた時、想定される問題を解決するために、ユーリスは今から動いている。
すべてユーリスが、自分のために一生懸命動いている。
シルヴェスターはそのことを知っていたから、ユーリスに反対せず、いつも彼の意見をよく聞いていた。
一つだけ不満があるとしたら、ユーリスもシルヴェスターも仕事が忙しく、なかなか二人でゆっくりと過ごす時間を取れないことだった。
でもそれだって永遠に続くことではない。
そのこともシルヴェスターは理解していた。
ゴルティニア王国の財政について、官僚達と働くことのみならず、近年では新しい制度の導入にも積極的に携わっていた。また国王に届けられる“目安箱”の中身も、箱を開封する王と一緒に見て、検分しているのだ。
国王ダンカンは、“目安箱”の制度を非常に面白がっていた。
寄せられる国民からの手紙は、ささいな、くだらないものも多かったが(地域での土地争いや、恋愛から巻き起こったお家騒動まで様々である)、時折、見逃せないような意見も見受けられ、その時には、ダンカンは騎士団や官僚達をその地域に向かわせて解決を図らせる。
ユーリスは、国王ダンカンに余計な手間と苦労を掛けさせていることを詫びながらも、彼が目安箱の制度を買ってくれることに感謝していた。寄せられた手紙についても、時に黄金竜ウェイズリーやルドガーを遣わせて解決することをダンカンは認めてくれた。
ダンカンやフィアは、ユーリスの意図を理解し始めた。
黄金竜ウェイズリーの伴侶であるユーリスは、王国の国民に、黄金竜の存在をしっかりと認めさせ、黄金竜の居場所を作ろうとしている。それも、竜達が国民にとって善い存在であると認識させ、竜達が尊敬され、愛されるべき存在であるよう、祭り上げようとしている。
「それで、次はどうするつもりなんだ」
ダンカンの問いかけに、ユーリスは答える。
「シルヴェスターとルドガーが、竜の血を引く“特別な存在”であることを知らせます」
「ここまで人気が出ていれば、問題なく受け入れられるでしょうね」
フィアは、目安箱に寄せられた、黄金竜への感謝の手紙の束を持ち上げた。
「はい」
今では、ユーリスが黄金竜に乗って各所に現れると、歓声を上げて、駆け寄って来る子供達もいるくらいだった。すべては目論見通り、ゴルティニア王国の国民は、黄金竜を受け入れ始めている。
「“特別な存在”であることに公表した後は、どうするのだ?」
ダンカンの言葉に、ユーリスは用意していた書類をダンカンとフィアの前に置いた。
「シルヴェスターにはすでに話してあります。現行の“貴族会議”の制度を拡充します」
“貴族会議”とは、ゴルティニア王国の前身であるカリン王国の時代から在った制度であった。国王の他に、高位貴族の代表で出来た“貴族会議”。その会議の仕組みを拡充する。
「国王側から働きかけて、貴族会議への制度を拡充するなんて聞いたことはないぞ。乗っ取られるのではないか」
「それはないでしょう。要所要所に、陛下の承認が必ず必要になっているところは外していません。ただ、貴族会議で話し合える事項を増やして、貴族会議の出席者も増やしているだけです」
「人数が多いと話がまとまらないと思いますが」
「話がまとまらない無能者ばかりであれば、今まで通り陛下がすべて決めてしまうだけです」
ユーリスの毒舌に、ダンカンやフィアは苦笑した。
「……どうして貴族に権限を与えるのだ」
ダンカンの問いかけに、ユーリスは応えた。
「貴族だけではないです。ゆくゆくは、意見を言いたい国民が、陛下のいる場で直接意見が言える場所も用意したい。でも、まだそれは早いでしょう。機は熟していない。だから、今は貴族達の意見を取り入れていくだけです。その貴族達が私利私欲で動くようなら、その手から権限は取り上げるつもりです。その力はダンカン国王陛下、今の貴方は十分持っている」
「揉めるだろう」
「揉めてもいいのではないですか。けれど、貴族達が腐っていないなら、有効に、貴族会議だって動き出すでしょう」
「理想を追うと疲れるぞ」
ダンカンの言葉に、ユーリスは肩をすくめた。
「荷は分かち合うべきです。考えられる者、動ける者は、陛下に協力すべきでしょう」
こうして十三名の高位貴族から成る貴族会議が定期的に開かれるようになり、国王は貴族会議からの諮問を定期的に受け入れるようになる。幸いなことに、箸にも棒にもかからぬような提案は、今のところ貴族会議から降りてくることはなかった。むしろ、貴族会議からの多くの貴族達の意見を目にすることで、ダンカンは王の判断を下すことに「少し楽になった」と言っていた。勿論、順調なことばかりではない。しばらくして、ダンカンと貴族会議の意見が対立することもあったが、最終的には国王ダンカンに決定権があるため、ダンカンが自分の意見を押し切ったこともある。けれど、その時にもダンカンは貴族会議の意見に配慮することを忘れなかった。
シルヴェスター王子は、こうしたユーリスの、ダンカン国王への提案に反対することはなかった。
彼もまた、黄金竜と同化している自分の存在が、時に国民から恐れられるものであることを理解していた。シルヴェスター王子がこれから王座に就く時、その力を人々に隠し通すことも一つの方法ではあったけれど、ユーリスはそうでない道を選んだ。
たぶん、自分達が“永遠に等しいほど長い時を生きる存在”であることを知ったからだろう。シルヴェスターが王の座に就いた時、想定される問題を解決するために、ユーリスは今から動いている。
すべてユーリスが、自分のために一生懸命動いている。
シルヴェスターはそのことを知っていたから、ユーリスに反対せず、いつも彼の意見をよく聞いていた。
一つだけ不満があるとしたら、ユーリスもシルヴェスターも仕事が忙しく、なかなか二人でゆっくりと過ごす時間を取れないことだった。
でもそれだって永遠に続くことではない。
そのこともシルヴェスターは理解していた。
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