上 下
612 / 711
外伝 その王子と恋に落ちたら大変です  第八章 永遠の王の統べる王国

第十話 親善旅行へ(4)

しおりを挟む
 今回の親善旅行で、ユーリスとルドガーの護衛に就く騎士として、ユーリスの護衛を長い間務めていた元冒険者のゲランと、クラン時代からユーリスと一緒に会計業務で頭を突き合わせていたイルムが選ばれていた。ゲランは、ユーリスがアレドリア王国で学生生活を過ごしていた頃から、黄金竜ウェイズリーがユーリスのことが大好きでよく絡んでいたことを知っていたし、イルムも出会った時から黄金竜ウェイズリーと親しくしていた(食堂でしょっちゅう餌付けしていた)。この二人の男達に、ユーリスは厚い信頼を寄せていた。二人には黄金竜ウェイズリーとシルヴェスター王子が同一化していることも、そしてルドガーが黄金竜であり、自分の息子であることも話していた。

 ゲランもイルムも、普段は王城で騎士として働いており、シルヴェスター王子と同じ部隊に所属している。シルヴェスター王子はユーリスが動きやすいように、この二人の騎士をユーリスの同行者に選んだのだ。
 昨夜、ユーリスの客室の窓が突然破られたことに、ユーリスを狙う侵入者を警戒した騎士達は、ユーリスとルドガーの乗る馬車の中にも護衛を入れるように求め、ユーリスは内心(部屋の窓は、ウェイズリーが出ていったときに破ったのだけど)と思っていたのだが、それを正直に話す事は出来ないため、黙っていた。昨夜窓が破られたのは原因は不明とされた。それで警戒を高める騎士達にはユーリスは申し訳ない気がしていた。

 馬車に乗ったところで、ユーリスは、ゲランとイルムに、昨夜の真相を話した。ゲランは「あのチビ竜には困ったものですね」と言い、イルムは笑っていた。

「公務だと言い聞かせたけれど、またやって来るかも知れない」

 ユーリスの言葉に、ユーリスの隣の席に座っていたルドガーは鼻を鳴らし「僕がまた追い返すよ」と言った。
 ルドガーもこの公務の間、ジャクセンに会えないのだ。当然、黄金竜ウェイズリーも我慢してしかるべきだ。ルドガーはそう考えている。今度また黄金竜ウェイズリーが、ユーリスの寝床に現れたのなら、どう追い返してやろうかと、ルドガーは意地悪く考えている。最初からユーリスの胸元にルドガーがべったりと張り付いておいてやろうと思う。きっとウェイズリーは、大好きなユーリスに抱っこしてもらうことが出来ず、地団太踏んで悔しがるだろう。父親のそんな姿を想像するだけで、少し溜飲が下がった。

 馬車の窓から外を見ながら、ふんと鼻を鳴らしているルドガーに、ユーリスは言った。

「ルドガー、ウェイズリーは君の父親だ。もう少し優しくしてやってくれ」

 親子であるのに、いつ見ても、黄金竜ウェイズリーとルドガーは仲が悪い。にらみ合い、罵り合い、昨夜などはつかみ合いの喧嘩までしている。

「ユーリスの言葉でも、それは従えません」

「……ルドガー」

「それに、ユーリス、貴方だって言ったはずです。この公務の間、ウェイズリーの姿が他人に見られては困ると。だから僕が追い返してもいいはずだ」

 ルドガー王子が、自分の父親である黄金竜ウェイズリーを嫌っている様子を見て、同じ馬車に同席していたゲランとイルムは、驚いた顔で、ルドガーとユーリスの会話を聞いていた。しかし、ゲランとイルムは口を挟むことなく黙っている。

「ルドガー」

 たしなめるように、息子の名を呼ぶユーリスに、ルドガーは言った。

「ウェイズリーが、昨日、ユーリスに言われたことをちゃんと守ればいいんです。そうしたら、僕だって追い返す必要はない。そうでしょう?」

 だが、案の定、黄金竜ウェイズリーはその日の夜もユーリスの寝床にこそりと出現し、それをすかさず見つける息子ルドガーに、ウェイズリーはベランダから追い出されていた。ハルヴェラ王国に到着するまでの間、繰り返し懲りずに出現するウェイズリーを、都度、首根っこを掴んでベランダから放り投げるルドガー。二人の親子関係は最悪の局面を迎えていた。

 やがてハルヴェラ王国に、馬車の車列は到着する。
 王宮では、待ち構えていたようにリン王太子妃が出迎え、ユーリスとルドガー王子を歓迎する。リン王太子妃と共に、彼女の伴侶であるエルリック王太子、六人の王子王女方がズラリと勢ぞろいしている。

「待っていたわ、ユーリス殿下」

 黒髪の、目鼻立ちのくっきりとしないリン王太子妃。ハルヴェラ王国の人々の間では、異世界人の彼女は華奢でとても小さく見える。だが、どこかパワフルな気迫が彼女の周囲には漂っていた。
 そんなリン王太子妃はユーリスを見て、怪訝そうに眉を寄せた。

「長旅でお疲れのようね」

 実際、ユーリスは疲れていた。
 黄金竜ウェイズリーにその身を変えられ、普通の人間よりも疲れを覚えることのない肉体になっていたはずだが、この時にはユーリスは、主に精神的な疲労で少しばかり顔色が悪くなっていた。
 毎夜毎夜、息子と夫である黄金竜ウェイズリーが、言い争い、最後には必ず夫が追い出される。その様子を見せられるのだ。
 しかし、そんなことをリン王太子妃に伝えることは出来ない。

 儀礼的な笑みを浮かべ、ユーリスは「大丈夫です」と答える。
 憂いのある美青年の微笑みに、ハルヴェラ王国の王宮の人々は胸をときめかせるのだった。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

一宿一飯の恩義で竜伯爵様に抱かれたら、なぜか監禁されちゃいました!

当麻月菜
恋愛
宮坂 朱音(みやさか あかね)は、電車に跳ねられる寸前に異世界転移した。そして異世界人を保護する役目を担う竜伯爵の元でお世話になることになった。 しかしある日の晩、竜伯爵当主であり、朱音の保護者であり、ひそかに恋心を抱いているデュアロスが瀕死の状態で屋敷に戻ってきた。 彼は強い媚薬を盛られて苦しんでいたのだ。 このまま一晩ナニをしなければ、死んでしまうと知って、朱音は一宿一飯の恩義と、淡い恋心からデュアロスにその身を捧げた。 しかしそこから、なぜだかわからないけれど監禁生活が始まってしまい……。 好きだからこそ身を捧げた異世界女性と、強い覚悟を持って異世界女性を抱いた男が異世界婚をするまでの、しょーもないアレコレですれ違う二人の恋のおはなし。 ※いつもコメントありがとうございます!現在、返信が遅れて申し訳ありません(o*。_。)oペコッ 甘口も辛口もどれもありがたく読ませていただいてます(*´ω`*) ※他のサイトにも重複投稿しています。

願いの守護獣 チートなもふもふに転生したからには全力でペットになりたい

戌葉
ファンタジー
気付くと、もふもふに生まれ変わって、誰もいない森の雪の上に寝ていた。 人恋しさに森を出て、途中で魔物に間違われたりもしたけど、馬に助けられ騎士に保護してもらえた。正体はオレ自身でも分からないし、チートな魔法もまだ上手く使いこなせないけど、全力で可愛く頑張るのでペットとして飼ってください! チートな魔法のせいで狙われたり、自分でも分かっていなかった正体のおかげでとんでもないことに巻き込まれちゃったりするけど、オレが目指すのはぐーたらペット生活だ!! ※「1-7」で正体が判明します。「精霊の愛し子編」や番外編、「美食の守護獣」ではすでに正体が分かっていますので、お気を付けください。 番外編「美食の守護獣 ~チートなもふもふに転生したからには全力で食い倒れたい」 「冒険者編」と「精霊の愛し子編」の間の食い倒れツアーのお話です。 https://www.alphapolis.co.jp/novel/2227451/394680824

【完】ゲームの世界で美人すぎる兄が狙われているが

BL
 俺には大好きな兄がいる。3つ年上の高校生の兄。美人で優しいけどおっちょこちょいな可愛い兄だ。  ある日、そんな兄に話題のゲームを進めるとありえない事が起こった。 「あれ?ここってまさか……ゲームの中!?」  モンスターが闊歩する森の中で出会った警備隊に保護されたが、そいつは兄を狙っていたようで………?  重度のブラコン弟が兄を守ろうとしたり、壊れたブラコンの兄が一線越えちゃったりします。高確率でえろです。 ※近親相姦です。バッチリ血の繋がった兄弟です。 ※第三者×兄(弟)描写があります。 ※ヤンデレの闇属性でビッチです。 ※兄の方が優位です。 ※男性向けの表現を含みます。 ※左右非固定なのでコロコロ変わります。固定厨の方は推奨しません。 お気に入り登録、感想などはお気軽にしていただけると嬉しいです!

【完結】お花畑ヒロインの義母でした〜連座はご勘弁!可愛い息子を連れて逃亡します〜

himahima
恋愛
夫が少女を連れ帰ってきた日、ここは前世で読んだweb小説の世界で、私はざまぁされるお花畑ヒロインの義母に転生したと気付く。 えっ?!遅くない!!せめてくそ旦那と結婚する10年前に思い出したかった…。 ざまぁされて取り潰される男爵家の泥舟に一緒に乗る気はありませんわ! ★恋愛ランキング入りしました! 読んでくれた皆様ありがとうございます。 連載希望のコメントをいただきましたので、 連載に向け準備中です。 *他サイトでも公開中 日間総合ランキング2位に入りました!

イケメン王子四兄弟に捕まって、女にされました。

天災
BL
 イケメン王子四兄弟に捕まりました。  僕は、女にされました。

もふもふと始めるゴミ拾いの旅〜何故か最強もふもふ達がお世話されに来ちゃいます〜

双葉 鳴|◉〻◉)
ファンタジー
「ゴミしか拾えん役立たずなど我が家にはふさわしくない! 勘当だ!」 授かったスキルがゴミ拾いだったがために、実家から勘当されてしまったルーク。 途方に暮れた時、声をかけてくれたのはひと足先に冒険者になって実家に仕送りしていた長兄アスターだった。 ルークはアスターのパーティで世話になりながら自分のスキルに何ができるか少しづつ理解していく。 駆け出し冒険者として少しづつ認められていくルーク。 しかしクエストの帰り、討伐対象のハンターラビットとボアが縄張り争いをしてる場面に遭遇。 毛色の違うハンターラビットに自分を重ねるルークだったが、兄アスターから引き止められてギルドに報告しに行くのだった。 翌朝死体が運び込まれ、素材が剥ぎ取られるハンターラビット。 使われなくなった肉片をかき集めてお墓を作ると、ルークはハンターラビットの魂を拾ってしまい……変身できるようになってしまった! 一方で死んだハンターラビットの帰りを待つもう一匹のハンターラビットの助けを求める声を聞いてしまったルークは、その子を助け出す為兄の言いつけを破って街から抜け出した。 その先で助け出したはいいものの、すっかり懐かれてしまう。 この日よりルークは人間とモンスターの二足の草鞋を履く生活を送ることになった。 次から次に集まるモンスターは最強種ばかり。 悪の研究所から逃げ出してきたツインヘッドベヒーモスや、捕らえられてきたところを逃げ出してきたシルバーフォックス(のちの九尾の狐)、フェニックスやら可愛い猫ちゃんまで。 ルークは新しい仲間を募り、一緒にお世話するブリーダーズのリーダーとしてお世話道を極める旅に出るのだった! <第一部:疫病編> 一章【完結】ゴミ拾いと冒険者生活:5/20〜5/24 二章【完結】ゴミ拾いともふもふ生活:5/25〜5/29 三章【完結】ゴミ拾いともふもふ融合:5/29〜5/31 四章【完結】ゴミ拾いと流行り病:6/1〜6/4 五章【完結】ゴミ拾いともふもふファミリー:6/4〜6/8 六章【完結】もふもふファミリーと闘技大会(道中):6/8〜6/11 七章【完結】もふもふファミリーと闘技大会(本編):6/12〜6/18

性悪なお嬢様に命令されて泣く泣く恋敵を殺りにいったらヤられました

まりも13
BL
フワフワとした酩酊状態が薄れ、僕は気がつくとパンパンパン、ズチュッと卑猥な音をたてて激しく誰かと交わっていた。 性悪なお嬢様の命令で恋敵を泣く泣く殺りに行ったら逆にヤラれちゃった、ちょっとアホな子の話です。 (ムーンライトノベルにも掲載しています)

美少年に転生したらヤンデレ婚約者が出来ました

SEKISUI
BL
 ブラック企業に勤めていたOLが寝てそのまま永眠したら美少年に転生していた  見た目は勝ち組  中身は社畜  斜めな思考の持ち主  なのでもう働くのは嫌なので怠惰に生きようと思う  そんな主人公はやばい公爵令息に目を付けられて翻弄される    

処理中です...