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外伝 その王子と恋に落ちたら大変です 第八章 永遠の王の統べる王国
第十話 親善旅行へ(4)
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今回の親善旅行で、ユーリスとルドガーの護衛に就く騎士として、ユーリスの護衛を長い間務めていた元冒険者のゲランと、クラン時代からユーリスと一緒に会計業務で頭を突き合わせていたイルムが選ばれていた。ゲランは、ユーリスがアレドリア王国で学生生活を過ごしていた頃から、黄金竜ウェイズリーがユーリスのことが大好きでよく絡んでいたことを知っていたし、イルムも出会った時から黄金竜ウェイズリーと親しくしていた(食堂でしょっちゅう餌付けしていた)。この二人の男達に、ユーリスは厚い信頼を寄せていた。二人には黄金竜ウェイズリーとシルヴェスター王子が同一化していることも、そしてルドガーが黄金竜であり、自分の息子であることも話していた。
ゲランもイルムも、普段は王城で騎士として働いており、シルヴェスター王子と同じ部隊に所属している。シルヴェスター王子はユーリスが動きやすいように、この二人の騎士をユーリスの同行者に選んだのだ。
昨夜、ユーリスの客室の窓が突然破られたことに、ユーリスを狙う侵入者を警戒した騎士達は、ユーリスとルドガーの乗る馬車の中にも護衛を入れるように求め、ユーリスは内心(部屋の窓は、ウェイズリーが出ていったときに破ったのだけど)と思っていたのだが、それを正直に話す事は出来ないため、黙っていた。昨夜窓が破られたのは原因は不明とされた。それで警戒を高める騎士達にはユーリスは申し訳ない気がしていた。
馬車に乗ったところで、ユーリスは、ゲランとイルムに、昨夜の真相を話した。ゲランは「あのチビ竜には困ったものですね」と言い、イルムは笑っていた。
「公務だと言い聞かせたけれど、またやって来るかも知れない」
ユーリスの言葉に、ユーリスの隣の席に座っていたルドガーは鼻を鳴らし「僕がまた追い返すよ」と言った。
ルドガーもこの公務の間、ジャクセンに会えないのだ。当然、黄金竜ウェイズリーも我慢してしかるべきだ。ルドガーはそう考えている。今度また黄金竜ウェイズリーが、ユーリスの寝床に現れたのなら、どう追い返してやろうかと、ルドガーは意地悪く考えている。最初からユーリスの胸元にルドガーがべったりと張り付いておいてやろうと思う。きっとウェイズリーは、大好きなユーリスに抱っこしてもらうことが出来ず、地団太踏んで悔しがるだろう。父親のそんな姿を想像するだけで、少し溜飲が下がった。
馬車の窓から外を見ながら、ふんと鼻を鳴らしているルドガーに、ユーリスは言った。
「ルドガー、ウェイズリーは君の父親だ。もう少し優しくしてやってくれ」
親子であるのに、いつ見ても、黄金竜ウェイズリーとルドガーは仲が悪い。にらみ合い、罵り合い、昨夜などはつかみ合いの喧嘩までしている。
「ユーリスの言葉でも、それは従えません」
「……ルドガー」
「それに、ユーリス、貴方だって言ったはずです。この公務の間、ウェイズリーの姿が他人に見られては困ると。だから僕が追い返してもいいはずだ」
ルドガー王子が、自分の父親である黄金竜ウェイズリーを嫌っている様子を見て、同じ馬車に同席していたゲランとイルムは、驚いた顔で、ルドガーとユーリスの会話を聞いていた。しかし、ゲランとイルムは口を挟むことなく黙っている。
「ルドガー」
たしなめるように、息子の名を呼ぶユーリスに、ルドガーは言った。
「ウェイズリーが、昨日、ユーリスに言われたことをちゃんと守ればいいんです。そうしたら、僕だって追い返す必要はない。そうでしょう?」
だが、案の定、黄金竜ウェイズリーはその日の夜もユーリスの寝床にこそりと出現し、それをすかさず見つける息子ルドガーに、ウェイズリーはベランダから追い出されていた。ハルヴェラ王国に到着するまでの間、繰り返し懲りずに出現するウェイズリーを、都度、首根っこを掴んでベランダから放り投げるルドガー。二人の親子関係は最悪の局面を迎えていた。
やがてハルヴェラ王国に、馬車の車列は到着する。
王宮では、待ち構えていたようにリン王太子妃が出迎え、ユーリスとルドガー王子を歓迎する。リン王太子妃と共に、彼女の伴侶であるエルリック王太子、六人の王子王女方がズラリと勢ぞろいしている。
「待っていたわ、ユーリス殿下」
黒髪の、目鼻立ちのくっきりとしないリン王太子妃。ハルヴェラ王国の人々の間では、異世界人の彼女は華奢でとても小さく見える。だが、どこかパワフルな気迫が彼女の周囲には漂っていた。
そんなリン王太子妃はユーリスを見て、怪訝そうに眉を寄せた。
「長旅でお疲れのようね」
実際、ユーリスは疲れていた。
黄金竜ウェイズリーにその身を変えられ、普通の人間よりも疲れを覚えることのない肉体になっていたはずだが、この時にはユーリスは、主に精神的な疲労で少しばかり顔色が悪くなっていた。
毎夜毎夜、息子と夫である黄金竜ウェイズリーが、言い争い、最後には必ず夫が追い出される。その様子を見せられるのだ。
しかし、そんなことをリン王太子妃に伝えることは出来ない。
儀礼的な笑みを浮かべ、ユーリスは「大丈夫です」と答える。
憂いのある美青年の微笑みに、ハルヴェラ王国の王宮の人々は胸をときめかせるのだった。
ゲランもイルムも、普段は王城で騎士として働いており、シルヴェスター王子と同じ部隊に所属している。シルヴェスター王子はユーリスが動きやすいように、この二人の騎士をユーリスの同行者に選んだのだ。
昨夜、ユーリスの客室の窓が突然破られたことに、ユーリスを狙う侵入者を警戒した騎士達は、ユーリスとルドガーの乗る馬車の中にも護衛を入れるように求め、ユーリスは内心(部屋の窓は、ウェイズリーが出ていったときに破ったのだけど)と思っていたのだが、それを正直に話す事は出来ないため、黙っていた。昨夜窓が破られたのは原因は不明とされた。それで警戒を高める騎士達にはユーリスは申し訳ない気がしていた。
馬車に乗ったところで、ユーリスは、ゲランとイルムに、昨夜の真相を話した。ゲランは「あのチビ竜には困ったものですね」と言い、イルムは笑っていた。
「公務だと言い聞かせたけれど、またやって来るかも知れない」
ユーリスの言葉に、ユーリスの隣の席に座っていたルドガーは鼻を鳴らし「僕がまた追い返すよ」と言った。
ルドガーもこの公務の間、ジャクセンに会えないのだ。当然、黄金竜ウェイズリーも我慢してしかるべきだ。ルドガーはそう考えている。今度また黄金竜ウェイズリーが、ユーリスの寝床に現れたのなら、どう追い返してやろうかと、ルドガーは意地悪く考えている。最初からユーリスの胸元にルドガーがべったりと張り付いておいてやろうと思う。きっとウェイズリーは、大好きなユーリスに抱っこしてもらうことが出来ず、地団太踏んで悔しがるだろう。父親のそんな姿を想像するだけで、少し溜飲が下がった。
馬車の窓から外を見ながら、ふんと鼻を鳴らしているルドガーに、ユーリスは言った。
「ルドガー、ウェイズリーは君の父親だ。もう少し優しくしてやってくれ」
親子であるのに、いつ見ても、黄金竜ウェイズリーとルドガーは仲が悪い。にらみ合い、罵り合い、昨夜などはつかみ合いの喧嘩までしている。
「ユーリスの言葉でも、それは従えません」
「……ルドガー」
「それに、ユーリス、貴方だって言ったはずです。この公務の間、ウェイズリーの姿が他人に見られては困ると。だから僕が追い返してもいいはずだ」
ルドガー王子が、自分の父親である黄金竜ウェイズリーを嫌っている様子を見て、同じ馬車に同席していたゲランとイルムは、驚いた顔で、ルドガーとユーリスの会話を聞いていた。しかし、ゲランとイルムは口を挟むことなく黙っている。
「ルドガー」
たしなめるように、息子の名を呼ぶユーリスに、ルドガーは言った。
「ウェイズリーが、昨日、ユーリスに言われたことをちゃんと守ればいいんです。そうしたら、僕だって追い返す必要はない。そうでしょう?」
だが、案の定、黄金竜ウェイズリーはその日の夜もユーリスの寝床にこそりと出現し、それをすかさず見つける息子ルドガーに、ウェイズリーはベランダから追い出されていた。ハルヴェラ王国に到着するまでの間、繰り返し懲りずに出現するウェイズリーを、都度、首根っこを掴んでベランダから放り投げるルドガー。二人の親子関係は最悪の局面を迎えていた。
やがてハルヴェラ王国に、馬車の車列は到着する。
王宮では、待ち構えていたようにリン王太子妃が出迎え、ユーリスとルドガー王子を歓迎する。リン王太子妃と共に、彼女の伴侶であるエルリック王太子、六人の王子王女方がズラリと勢ぞろいしている。
「待っていたわ、ユーリス殿下」
黒髪の、目鼻立ちのくっきりとしないリン王太子妃。ハルヴェラ王国の人々の間では、異世界人の彼女は華奢でとても小さく見える。だが、どこかパワフルな気迫が彼女の周囲には漂っていた。
そんなリン王太子妃はユーリスを見て、怪訝そうに眉を寄せた。
「長旅でお疲れのようね」
実際、ユーリスは疲れていた。
黄金竜ウェイズリーにその身を変えられ、普通の人間よりも疲れを覚えることのない肉体になっていたはずだが、この時にはユーリスは、主に精神的な疲労で少しばかり顔色が悪くなっていた。
毎夜毎夜、息子と夫である黄金竜ウェイズリーが、言い争い、最後には必ず夫が追い出される。その様子を見せられるのだ。
しかし、そんなことをリン王太子妃に伝えることは出来ない。
儀礼的な笑みを浮かべ、ユーリスは「大丈夫です」と答える。
憂いのある美青年の微笑みに、ハルヴェラ王国の王宮の人々は胸をときめかせるのだった。
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