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外伝 その王子と恋に落ちたら大変です  第八章 永遠の王の統べる王国

第五話 異世界から来た王太子妃(下)

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 それからユーリスは、ハルヴェラ王国のリン=ヨーデルリヒ王太子妃と共に、非常に有意義な時間を過ごすことが出来た。ユーリスはゴルティニア王国の次期国王と目されているシルヴェスター王子の伴侶であり、リン王太子妃もハルヴェラ王国の次期王妃となることが既に定められている。二人は同じ立場だった。そして二人にはその他にも共通点があった。異世界では、一般市民の学生であったリン王太子妃。ユーリスもまたラウデシア王国でバンクール商会長の息子という立場ではあったが、貴族の身分にはない。二人はもって回った言い回しを嫌い、常に率直に言葉を伝えた。また二人は王宮で、日々、担っている政務の内容も似通ったものだった。だからこそ、非常に話が合った。

 同じテーブルについてから、会が終わる時まで、ユーリスとリン王太子妃の話が盛り上がっている様子には、周囲の者達も驚いていた。会の終わり際、リン王太子妃は「是非、ハルヴェラ王国にも遊びに来て欲しい」と、ユーリスをハルヴェラ王国へ招待する。そしてユーリスはその場でそれを快諾した。二人は再会を約束して別れたのだった。


 その日、カルフィー魔道具店からゴルティニア王国の王宮に戻ることなく、ユーリスは空中城に、胸元の黄金竜ウェイズリーの魔法の力で転移して、夜を休むことにしていた。一瞬で、空中城の私室に移動できることは非常に有難い。もしこの“転移”魔法が使えなければ、馬車で移動したり、竜の背に跨って移動したりと、ゴルティニア王国までの帰路の時間と労力がかかることになる。それが魔法なら、ほんの一瞬で終わるのだ。一度この“転移”魔法の有難さを知ってしまうと、使わないではいられない。

 空中城に到着したユーリスは、それまで楽しく時間を過ごせたことに上機嫌で、自分の胸元から小さな黄金竜ウェイズリーを取り出すと、すぐにその頭に口づけを落とした。それから鼻歌まじりに、上着を脱いで、椅子にかける。
 事前に空中城の小人達には、ユーリス達が今日は空中城に宿泊することが伝えられており、私室に備え付けの浴室の浴槽には湯が張られており、テーブルの上には軽食も用意されていた。またユーリスやシルヴェスターが身にまとう衣服まで畳まれて用意されている。空中城の小人達は、空中城の主である黄金竜ウェイズリー(とシルヴェスター王子)、その伴侶のユーリスを常に歓迎しており、いつ何時でも、彼らがやって来ても良いように、室内を整えていた。

 ユーリスは浴槽の湯の加減がちょうど良いと分かると、身に纏っていた衣服をするすると床に落とし、黄金竜ウェイズリーを腕に抱きながら、湯の中に身体を浸からせた。そして浴槽の中にゆったりと横になり、天井を仰いで気持ち良さそうにひと息ついた。彼の胸元には、小さな黄金竜の雛が頭だけを湯から出して、ぺったりと張り付いている。やはりこちらも金色の眼を細めて、気持ち良さそうに息をついている。
 その小さな黄金竜の雛の頭を撫でると、黄金竜ウェイズリーは「キュルルルルル」と甘く鳴いていた。

「ずっと私の胸元にいて、窮屈だったろう?」

 そう番の青年から言われたが、ウェイズリーは頭を振った。

「キュルキュルキュイキュイキュルルルルルゥ(ユーリスの胸元にいるのは気持ちがいい。大好きだ)」

「でも、ろくに身動きもとれず大変だったはずだ」

「キュルルゥキュルキュル(お前の胸元は温かくていい匂いがする)」

 そうウェイズリーは言って、ユーリスの顔を見上げて熱っぽい眼差しで見つめる。
 小さな黄金竜の雛の姿をしているのに、相変わらず、黄金竜ウェイズリーは番の青年に甘く誘うような言葉を口にする。それからウェイズリーが、ユーリスの胸元をペロリと舐めたものだから、たちまちユーリスは頬を赤く染めて、身を小さく震わせていた。

「ウェイズリー……」

「キュイキュイキュルルルルル(今宵は私の番だろう)」

 この空中城にいる時は、ユーリスは黄金竜ウェイズリーの番なのである。夜の相手はシルヴェスター王子ではなく、黄金竜ウェイズリーが務める。

「そうだが」

「キュイルルルルゥキュイキュイ(お前は竜の姿よりも人の姿の方が良いか)」

 ユーリスは口元に手を当て、目を彷徨わせて答えない。今まで、黄金竜ウェイズリーは「小さな竜の姿でも愛し合える」とユーリスに伝えていたが、ユーリスはさすがに小さな黄金竜の姿のウェイズリーと身体を重ねることには抵抗があるようだった。
 ウェイズリーは内心笑い声を上げていた。今は抵抗を見せているが、そのうちユーリスも竜の姿のウェイズリーのことも愛してくれる日がくるだろう。なにせ、ウェイズリーもユーリスも、シルヴェスター王子もこれから先、時間はたくさんあるのだから。ゆっくりとユーリスの心を溶かしていくことは出来る。

 だが今は、ユーリスの嫌がることを無理強いするつもりはない。

 次の瞬間、ユーリスのそばにいたのは小さな黄金竜の雛ではなく、豊かな黄金の髪を持つ大柄の美丈夫だった。黄金竜ウェイズリーが人化したのだ。煌めく黄金色の瞳で、その若い男はユーリスを見つめ、そして浴槽の中でユーリスを抱きしめた。人型のウェイズリーの出現の瞬間、浴槽の中で湯が大きく揺れて溢れた。

「ユーリス」

 熱っぽい声で名を呼ばれたユーリスは、人化したウェイズリーの頬を手で包み込むようにすると、目を伏せて、彼の唇に口づける。薄く開いた唇に互いの舌を差し入れ、二人は熱心に口づけを交わした。
 二人が動く度に、浴槽の中の湯が揺れる。
 ウェイズリーが浴槽の中で自分を愛そうとしていることに気が付くと、ユーリスはウェイズリーの胸を抵抗するように押した。

「湯の中は、まずい」

 ややもすれば、湯の中に顔が浸かって溺れてしまう。

「お前が溺れぬようにしっかりと支える」

 寝台まで歩く時間も惜しむように、ウェイズリーはユーリスの顔に口づけを落とし、その手はユーリスの腰から下に触れていく。そっと脚の間の敏感な場所を触れ始めた手に、ユーリスは小さく喘ぎ始める。婚姻してから、ひっきりなしにシルヴェスター王子とウェイズリーに愛され続けている彼の身体は、どこもかしこも敏感だった。すでにユーリスの前も反応し始めている。双丘の谷間に指をやり、ウェイズリーが優しくほぐし始めると、ユーリスはその指の侵入を阻むように手で押し止めた。

「どうした」

 問いかけに、ユーリスは答える。

「だめだ。湯が、入る」

 白い頬を赤く染め、唇を震わせながら、弱々しく抗うユーリスが可愛くて、ウェイズリーはユーリスの言葉を塞ぐようにその形の良い唇を、自身の唇で塞ぐ。
 そして指でなおもそこをまさぐり続け、一本、二本と咥え込ませると、ユーリスは眉を寄せながら身を震わせ続けた。温かな湯が、指とともに彼の体内に入って行く。敏感になっている部分が、なおも湯の流入で刺激される。

 ウェイズリーは唇を離すと同時に、その細い腰を掴んで、後ろからゆっくりと挿し入れていくと、ユーリスは浴槽のへりを掴み、身を大きくしならせる。

「ああぁ、ウェイズリー」

 ウェイズリーの欲望に感じてしまうのか、身をひくつかせていた。挿入されただけでたちまちユーリスは達っていた。湯が体内に入ってしまったせいでいつもよりも達くのも早い。ウェイズリーが抜き差しをする度に、浴槽の湯がタプタプと揺れ、その揺れに合わせるようにユーリスの身体も揺れて、刺激され続けてすぐさまユーリスも精を放っていた。だが、まだウェイズリーは達っていない。愛しい番の青年の身体のより奥深くに身を進めると、ユーリスはすすり泣き始め、また極めてしまっていた。

「今日はひどく感じやすいな、ユーリス」

「湯は、いやだ」

「こんなになっているのに」

 固く凝っている胸の淡い尖りを優しく摘みあげるようにすると、その刺激に弱いユーリスは喉を見せてのけぞる。

「ウェイズリー」

 のけぞった彼の唇に覆いかぶさるように口づけすると、なおもユーリスを愛するために、ウェイズリーは彼の身体を抱きかかえたのだった。




 結局、さんざん湯の中で愛され続けたユーリスは、途中からすっかり湯にあたってしまった。それでぐったりとしたユーリスに、ウェイズリーは大慌てで、彼を寝台に運び、必死になって看病(?)をしたのだ。

「すまない!! ユーリス、もう湯の中ではしない」

 そんなことを寝台の横に座り、沈痛な表情で金色の目を潤ませながら言うウェイズリーに、ユーリスは「…………そうしてくれ」と力ない声で言ったのだった。
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