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外伝 その王子と恋に落ちたら大変です 第八章 永遠の王の統べる王国
第四話 異世界から来た王太子妃(中)
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ハルヴェラ王国のリン=ヨーデルリヒ王太子妃の名を、ユーリスは知っていた。
異世界人の王妃で、水魔法の使い手。“豊穣をもたらす王太子妃”として、様々な発明品や新しい制度をハルヴェラ王国にもたらし、国民から非常に人気の高い王太子妃である。
三橋友親と二人並ぶと、二人は同じ黒髪、同じ茶色の瞳、目鼻立ちをしている。年頃も同じに見えた。
そこでハッとユーリスは気が付いた。
異世界人は、異世界から召喚されることが多い。
二人の様子から、もしかしたら、同時期に召喚されたのではないかと察したのだ。
しかし、そんなことをぶしつけに尋ねることは出来ない。ユーリスは疑問を胸の中におさめ、彼もまた礼儀正しく一礼して挨拶した。
「お会いできて光栄です。リン王太子妃殿下。御高名はかねがねうかがっております」
優雅に一礼するユーリスを見て、リン王太子妃は微笑みを浮かべていた。
「ゴルティニア王国のシルヴェスター王子殿下の王子妃である貴方には、かねてからお会いしたいと願っておりました。まさか、友親のところでお会いできるなんて驚きました。いかなるご縁があったのでしょうか?」
そう話をリン王太子妃が三橋友親に向けると、彼は「当店の販売する魔道具繋がりですね」と笑いながら答えた。
「この会場の皆さんは、当店の大切なお客様です」
実際、カルフィー魔道具店の魔道具のユーザーばかりである。
ルーシェとアルバート王子二人は、三橋友親と知り合って早々に生活用魔道具を大量に送りつけられていた。リヨンネ達もまたカルフィー魔道具店の生活用魔道具を愛用している。リン王太子妃は遠話魔道具を大量に注文していた。ユーリスも結界魔道具の製作を依頼している。皆、何かにつけ、カルフィー魔道具店の魔道具を手にしている。
「全員お揃いですので、乾杯をした後に、会を始めましょう。内々の集まりですので、お気兼ねなくどうぞゆっくりお過ごしください。会場のあちらのテーブルには、今年販売予定の、カルフィー魔道具店の新作の魔道具を並べています。良かったら是非、ご覧下さい。分からないことは近くにいる店員にお気軽にお声がけして下さい」
三橋友親はそう言う。皆の手に、給仕がグラスを渡していき、行きわたったところで乾杯がされた。
室内には豪勢な食事の載ったテーブルもあり、給仕がそれを皿によそって手渡してくれる。
ユーリスは、リン王太子妃に誘われるまま、一緒のテーブルの席についた。
「本日は、シルヴェスター王子殿下はいらしてないのですね」
「ええ」
リン王太子妃の質問に、ユーリスはそう答える。
しかし、正確にはユーリスのそばにシルヴェスター王子がいないわけではない。シルヴェスター王子は、黄金竜ウェイズリーと一体化しているため、ユーリスの胸元に潜んでいる黄金竜ウェイズリーがシルヴェスター王子でもあるのだ。だが、胸元にいる小さな黄金竜がソレを兼ねているなど、到底口にすることは出来ない。
「ゴルティニア王国建国の式典と、殿下の結婚式に、わたくし、出席できなくて本当に残念に思っております」
非常に残念そうにリン王太子妃が伝えると、ユーリスは微笑みながら応えた。
「いえ、エルリック王太子殿下とアルフォンソ王子殿下、アンジェリカ王女殿下にご出席いただきました。その節はありがとうございます」
ユーリスがスラスラと、当時の式典に出席したハルヴェラ王国の王族の名を挙げることに、リン王太子妃は内心舌を巻いていた。この目の前の青年が、非常に聡明という噂は聞いていたが、実際にそのように思えた。ズバ抜けた記憶力だ。
「帰国した者達には、とても華やかで素晴らしい式典だったと伺っています。わたくしも是非出席したかったですわ」
世継ぎの王子の婚礼の式典と、ゴルティニア王国の建国の式典を兼ねているのである。国の威信をかけ、それはそれは壮麗で豪勢な式典であった。またその式典時に不思議な現象が起きたことでも話題になった。シルヴェスター王子とユーリスが婚礼の式典後、二人がお披露目のためにベランダから姿を現わした時、突如、地面から無数の金色の芽が吹き出し、それが一瞬で花と姿を変えて、頭上からハラハラと花弁を降り注がせたのだ。それは王国全土で起きた“奇跡”であった。
式典に出席したリン王太子妃の二人の子供達、アルフォンソ王子とアンジェリカ王女は、帰国してからも興奮したようにその出来事をリン王太子妃に話していた。
ゴルティニア王国は、黄金竜の加護を受けている。
それはゴルティニア王国が、公にしている話であった。実際、サトー王国との戦時中、現ゴルティニア国王ダンカンが「我々には“黄金竜”の守りがついている。いかなる強力な敵といえども、粉砕することのできるこの力を恐れるな」と兵士達を鼓舞したことは有名な話だった。
ゴルティニア王国のシルヴェスター王子は、ラウデシア王国の五番目の元王子であった。そしてラウデシア王国は黄金竜の加護を受けている王国で、その王国の北方地方には数多くの竜達が棲んでいる。だから、ラウデシア王国の元王子が渡ったゴルティニア王国にも、シルヴェスター王子を護るべく黄金竜がいるのだろうと、人々は噂していた。
だが実際のところ、ラウデシア王国のユーリス=バンクールに一目惚れした黄金竜の雛ウェイズリーが、ユーリスにずっと想いを寄せ、ユーリスが国を渡ってからもずっとしつこくついて回って、その結果、ゴルティニア王国と結び付けられたという真相は、当然人々には知られていなかったのであった。
異世界人の王妃で、水魔法の使い手。“豊穣をもたらす王太子妃”として、様々な発明品や新しい制度をハルヴェラ王国にもたらし、国民から非常に人気の高い王太子妃である。
三橋友親と二人並ぶと、二人は同じ黒髪、同じ茶色の瞳、目鼻立ちをしている。年頃も同じに見えた。
そこでハッとユーリスは気が付いた。
異世界人は、異世界から召喚されることが多い。
二人の様子から、もしかしたら、同時期に召喚されたのではないかと察したのだ。
しかし、そんなことをぶしつけに尋ねることは出来ない。ユーリスは疑問を胸の中におさめ、彼もまた礼儀正しく一礼して挨拶した。
「お会いできて光栄です。リン王太子妃殿下。御高名はかねがねうかがっております」
優雅に一礼するユーリスを見て、リン王太子妃は微笑みを浮かべていた。
「ゴルティニア王国のシルヴェスター王子殿下の王子妃である貴方には、かねてからお会いしたいと願っておりました。まさか、友親のところでお会いできるなんて驚きました。いかなるご縁があったのでしょうか?」
そう話をリン王太子妃が三橋友親に向けると、彼は「当店の販売する魔道具繋がりですね」と笑いながら答えた。
「この会場の皆さんは、当店の大切なお客様です」
実際、カルフィー魔道具店の魔道具のユーザーばかりである。
ルーシェとアルバート王子二人は、三橋友親と知り合って早々に生活用魔道具を大量に送りつけられていた。リヨンネ達もまたカルフィー魔道具店の生活用魔道具を愛用している。リン王太子妃は遠話魔道具を大量に注文していた。ユーリスも結界魔道具の製作を依頼している。皆、何かにつけ、カルフィー魔道具店の魔道具を手にしている。
「全員お揃いですので、乾杯をした後に、会を始めましょう。内々の集まりですので、お気兼ねなくどうぞゆっくりお過ごしください。会場のあちらのテーブルには、今年販売予定の、カルフィー魔道具店の新作の魔道具を並べています。良かったら是非、ご覧下さい。分からないことは近くにいる店員にお気軽にお声がけして下さい」
三橋友親はそう言う。皆の手に、給仕がグラスを渡していき、行きわたったところで乾杯がされた。
室内には豪勢な食事の載ったテーブルもあり、給仕がそれを皿によそって手渡してくれる。
ユーリスは、リン王太子妃に誘われるまま、一緒のテーブルの席についた。
「本日は、シルヴェスター王子殿下はいらしてないのですね」
「ええ」
リン王太子妃の質問に、ユーリスはそう答える。
しかし、正確にはユーリスのそばにシルヴェスター王子がいないわけではない。シルヴェスター王子は、黄金竜ウェイズリーと一体化しているため、ユーリスの胸元に潜んでいる黄金竜ウェイズリーがシルヴェスター王子でもあるのだ。だが、胸元にいる小さな黄金竜がソレを兼ねているなど、到底口にすることは出来ない。
「ゴルティニア王国建国の式典と、殿下の結婚式に、わたくし、出席できなくて本当に残念に思っております」
非常に残念そうにリン王太子妃が伝えると、ユーリスは微笑みながら応えた。
「いえ、エルリック王太子殿下とアルフォンソ王子殿下、アンジェリカ王女殿下にご出席いただきました。その節はありがとうございます」
ユーリスがスラスラと、当時の式典に出席したハルヴェラ王国の王族の名を挙げることに、リン王太子妃は内心舌を巻いていた。この目の前の青年が、非常に聡明という噂は聞いていたが、実際にそのように思えた。ズバ抜けた記憶力だ。
「帰国した者達には、とても華やかで素晴らしい式典だったと伺っています。わたくしも是非出席したかったですわ」
世継ぎの王子の婚礼の式典と、ゴルティニア王国の建国の式典を兼ねているのである。国の威信をかけ、それはそれは壮麗で豪勢な式典であった。またその式典時に不思議な現象が起きたことでも話題になった。シルヴェスター王子とユーリスが婚礼の式典後、二人がお披露目のためにベランダから姿を現わした時、突如、地面から無数の金色の芽が吹き出し、それが一瞬で花と姿を変えて、頭上からハラハラと花弁を降り注がせたのだ。それは王国全土で起きた“奇跡”であった。
式典に出席したリン王太子妃の二人の子供達、アルフォンソ王子とアンジェリカ王女は、帰国してからも興奮したようにその出来事をリン王太子妃に話していた。
ゴルティニア王国は、黄金竜の加護を受けている。
それはゴルティニア王国が、公にしている話であった。実際、サトー王国との戦時中、現ゴルティニア国王ダンカンが「我々には“黄金竜”の守りがついている。いかなる強力な敵といえども、粉砕することのできるこの力を恐れるな」と兵士達を鼓舞したことは有名な話だった。
ゴルティニア王国のシルヴェスター王子は、ラウデシア王国の五番目の元王子であった。そしてラウデシア王国は黄金竜の加護を受けている王国で、その王国の北方地方には数多くの竜達が棲んでいる。だから、ラウデシア王国の元王子が渡ったゴルティニア王国にも、シルヴェスター王子を護るべく黄金竜がいるのだろうと、人々は噂していた。
だが実際のところ、ラウデシア王国のユーリス=バンクールに一目惚れした黄金竜の雛ウェイズリーが、ユーリスにずっと想いを寄せ、ユーリスが国を渡ってからもずっとしつこくついて回って、その結果、ゴルティニア王国と結び付けられたという真相は、当然人々には知られていなかったのであった。
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