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外伝 その王子と恋に落ちたら大変です  第七章 新たなる黄金竜の誕生

第二十三話 人の姿をとる

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 黄金竜ルドガーは、親のユーリスから幾つかの禁止事項を言い渡されていた。
 まず、最大の禁止事項は、祖父ジャクセンを口説いてはならないということである。祖父であるジャクセンを番にしようだなんて決して考えてはいけないと、ユーリスの膝の上に座らせられたルドガーは、厳しい表情のユーリスに言い渡されていた。
 その他に禁じられたのは、ジャクセンの身体を変えてはいけないということだった。
 その事をユーリスが言う時には、何故か黄金竜ウェイズリーは何度も激しく音がブンブンと鳴るほどの勢いで、頷いていた(実際、黄金竜ウェイズリーは、番のユーリスの承諾を得ることなく、ユーリスの身体を、勝手に金色の芽で変えていた。そのことで、ウェイズリーはシルヴェスター王子からこっぴどく叱られ、ウェイズリーは小さくなって反省していたのだ)。

 内心、黄金竜ルドガーは不満たらたらであった。
 大好きな祖父ジャクセンに会う度に、本当ならルドガーは「おじいさま大好き」「おじいさまは今日も素敵です」「おじいさまは本当に格好いいです」と褒め称えたかったが、ジャクセンの身体を変えることが許されていなかったため、ジャクセンにルドガーの竜の言葉が通じることなく、その誉め言葉がジャクセンに届くことはなかった(それどころか、ルドガーが熱っぽい目で見つめることを、ジャクセンは「美味しい果物を催促している」と勘違いして、その都度、ルドガーにたっぷりの果物をお土産に持たせるのだ)。

 黄金竜ウェイズリーは「ルドガーが遊びに行く度に、美味しい果実を土産に持って帰るのはいいな!!」と能天気にものたまっている。時折そんな親竜の言葉に、ルドガーは密かに殺意にも似た感情を抱いていた(以前、ルドガーがウェイズリーをテーブルの上から蹴り落としたのも、そうしたウェイズリーの無邪気さ、無神経さが原因であった)。
 黄金竜ウェイズリーは、大好きなユーリスを自分の番として迎えているから、いい気なものなのだ。余裕さからくる彼の無神経さがひどく忌々しい。ユーリスは、こんな適当で我儘で無神経なウェイズリーの番になんて、どうしてなろうと思ったのだろう。勿論、ルドガーは、ユーリスとウェイズリーが結ばれなければこの世に生まれることはなかったし、祖父のジャクセンに巡り合うことだって出来なかった。だから、ウェイズリーとユーリスの二人の仲をどうにかしようだなんて思ってはいけないことなのだろう。

 でも、ルドガーは親であるウェイズリーが嫌いだった。

 一方の親のユーリスは大好きだ。艶やかな黒髪に、綺麗な青い瞳を持つ美しいユーリス。優しいユーリスは、いつもルドガーを胸元に入れて可愛がってくれた(その様子を、黄金竜ウェイズリーはギリギリギリと歯を軋らせながら凄い目で睨みつけてくる)。ユーリスが自分の親じゃなければ、ルドガーはユーリスを番にしたいと望んだだろう。でも、さすがに実親を番に望むのはマズイことだとルドガーにも分かっていた。
 そのユーリスに、そっくりなジャクセン。
 いや、ジャクセンがユーリスの親なのだから、ユーリスがジャクセンに似ているのだ。
 ジャクセンは、艶やかな黒髪に、青い瞳を持つ優雅な美男子であった。
 ルドガーは、ジャクセンのことを思うと胸がいっぱいになる。一目彼を見た時から、ルドガーはジャクセンに魂を奪われた。自分の番にしたいと考えていた。それは今、口にしてはいけないことだと知っていたけれど。



 
 先日、黄金竜ルドガーは人の姿をとれるようになった。
 人の姿をとることが出来るようになったところで、人の姿のルドガーは、ユーリスとシルヴェスター王子の息子として、正式に養子に迎えられた。これでルドガーもゴルティニア王国の王子と呼ばれる身分になったのだ。
 五歳くらいの子供の姿で現れたルドガーは、輝くような金の髪に、青い瞳を持っていた(魔法を使う時はその瞳の色が金色になる)。顔立ちは、シルヴェスター王子によく似ていた。ユーリスも、シルヴェスターの養い親であるダンカンも、そのことに大変喜んでいた。

 これまで、黄金竜の雛ルドガーが、祖父ジャクセンの元へ“転移”して遊びに行っても、とりたて大きな問題を起こすことなく、ジャクセンやその家族達にも可愛がられていることを知ったユーリスは、ルドガーにジャクセンの前でも、人の姿をとっても良いと許しを与えた。

 だからルドガーはひどく緊張しながら、ジャクセンの屋敷を、幼い王子の姿で訪れた。
 人の姿の自分を、ジャクセンは受け入れてくれるだろうかと心配していたのだ。
 でもその心配は全くの杞憂で、ジャクセンはルドガーを喜んで迎え入れ、ルドガーをバンクール商会の店舗に連れていき、山のようにルドガーのための衣装をこしらえた。ルドガーが竜の姿では、正直、ペット感覚で孫としての実感は全くなかったのだが、息子のユーリスと同じ青い瞳を持つ人の姿のルドガーを見て、ようやくジャクセンにも実感が湧いて、ルドガーを自分の孫と認めたのだ。
 ジャクセンの妻ルイーズも、二人の娘コレットとベアトリスも、屋敷にいる召使達も、人の姿のルドガーを大喜びで歓迎した。
 そしてこの時初めて、ジャクセンは孫息子ルドガーを彼の膝の上に座らせた。ルドガーは、ジャクセンの膝に乗せられ、祖父の整った顔立ちを真近で見上げながら、頬を染めて「おじいさま、大好きです」と人の言葉で告げた。それにジャクセンは笑い、ルドガーの黄金の髪を撫でる。
 ルドガーは幸せだった。
 
 たとえ、ジャクセンのそれが、孫を可愛がる祖父の愛情であろうと、彼から向けられる愛情を嬉しく思わないはずはない。
 ルドガーが告げた「大好き」の意味を、彼が、軽く考えていようと。
 それでも今は構わないのだ。
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