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外伝 その王子と恋に落ちたら大変です 第六章 その王子と竜に愛されたら大変です(下)
第十三話 紫竜からのお祝い(下)
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それから、リヨンネの部屋で心ばかりのお祝いの会が開かれた。
リヨンネが用意した簡単な軽食やお菓子やお酒などを口にしながら、一同は楽しく時間を過ごした。
シルヴェスター王子は、ユーリスのそばを離れず、二人は傍から見ても仲睦まじい。それはそうだろう。散々苦労した挙句にようやく結婚した二人であるのだから、その喜びもひとしおのはずだろう。
シルヴェスター王子は、竜の生態学者であるリヨンネの求めで、小さな黄金竜の雛ウェイズリーに今度は姿を変えると、テーブルの上に、紫竜ルーシェと並んで立たされる。リヨンネはもとより、ユーリスもアルバート王子も非常に嬉しそうな顔で二頭の子竜を見つめていた。紫色の小さな竜と、小さな黄金竜ウェイズリーは、再会する時にはいつもするように、鼻先をすり合わせて挨拶をする。ユーリスが「踊ってみて」と言うと、調子に乗った紫竜と黄金竜達は「ピルピルピル」「キュイキュイキュイ」と鳴きながら、体を揺らして踊っている。それには一同は大笑いをしていた。やがてテーブルの上で二頭の竜達はぐるぐると追いかけっこをするように走り回り、最後はおのおのの伴侶の膝の上に、当然のように飛び込んで座った。
それから紫竜ルーシェは、事前に用意していたお祝いの品を、リヨンネとキース、バンナムとレネの手を借りて、部屋の中へ運んでもらった(ただ、狭い部屋には全てのお祝いの品を運び込むことは出来ず、廊下にも並べて置かれていた)。
ユーリスの前に、梱包されたままの木の箱が置かれる。その中身は、カルフィー魔道具店の最新の生活用魔道具一式だった。そのままゴルティニア王国へ運んでもらうため、木箱の開封はこの場ではしない。贈り物の目録がユーリスに手渡される。
「こんなに高価なものをたくさん、いいのですか」
喜びながらも、ユーリスは恐縮している。
保冷用大型冷蔵庫から、調理器具まで揃っている。生活用魔道具は非常に高価なものである。
色は薄いグリーン色にした。ウェイズリーは黄金竜なので、生活用魔道具も金ピカにしてやろうかとルーシェは思ったが、あいにくとそうした色は用意していないと、カルフィー魔道具店の三橋友親から言われた。それに友親から「結婚のお祝いだとしても、金色とか悪趣味だろう」とたしなめられたのだった。
リヨンネとキースは、たくさんのお菓子の入った陶器の容器と、バンナムとレネからは花束をもらう。そうしたたくさんのお祝いの品々を受け取り、ユーリスは嬉しそうに笑って言った。
「ありがとうございます」
黄金竜ウェイズリーも「キュルルルルル(ありがとう)」と言って、尻尾をビタンビタンとテーブルの上に打ち付けている。それから、甘えるようにユーリスの胸元に飛び込んで、頭をすり付けるのだった。
そんな小さな黄金竜の雛の様子を見て、内心、ルーシェは思うのだ。
(こいつは、結果的にシルヴェスター王子と“同化”して良かったのじゃないかな)
何故なら、見るからに黄金竜ウェイズリーは番のユーリスに夢中だった。
小さな黄金竜の雛の目は常に傍らのユーリスの姿を追っていた。それは、卵から孵った時からそうだった。紫竜ルーシェの前で、小さな黄金竜の雛は「やっと、待ち望んでいた番に会えたのだから、もう絶対に離れたくない」と以前口にしたことがあった。ユーリスはそれほど好いた相手だったのだ。でも、ユーリスには少年の時分から好き合っていた恋人シルヴェスター王子がいた。
シルヴェスター王子と黄金竜ウェイズリーは恋敵の関係で、本当なら、血で血を洗うような事件がこの男達の間で勃発してもおかしくはなかった(実際、ルーシェは知らなかったが、黄金竜ウェイズリーはシルヴェスター王子と対面する時、「会った瞬間に、金色の芽でシルヴェスターの身体を掴み、千切ってしまおう」「首と胴体を離せば、人間は死ぬだろう」と物騒なことを考えていた)。
シルヴェスター王子と黄金竜ウェイズリーが、もし“同化”しなければ、延々とユーリスを巡って争いが勃発した可能性がある。結果的に二人の雄が一人に“同化”したからこそ、問題がなくなったのだ。
(そういう意味では良かったのだろうけど)
紫竜ルーシェはアルバート王子の膝の上に座りながら、チロリとユーリスを見つめた。
バンクール商会長ジャクセンの息子で、美男子と名高いジャクセンとうり二つの美貌の持ち主。いまや大陸一の強国となったゴルティニア王国の王子の伴侶で、稀有なる黄金竜に愛されている青年。それがユーリスだった。
(なんか色々と大変そうだなぁ)
自分もサトー王国のサトーを倒した英雄でかつ“勇者”のアルバート王子の伴侶であるのだけど、竜騎兵団の騎竜として、結構自由に楽しく過ごさせてもらっている。何より、アルバート王子は紫竜ルーシェ一筋だった(アルバート王子が他人からちょっかいを出されそうになると、すぐさま可愛い幼児姿になってアルバート王子にショタ疑惑を撒き散らす姑息な手をとるルーシェでもある)。
ユーリスは、一人の王子と一頭の黄金竜に愛されているのである。“同化”して一緒くたになったとしても、意識は別々に存在しているようだ。つまりそれぞれにユーリスは愛されていて、そのことを彼は受け入れている。その事実にもルーシェは驚いていた。
普通、人間と竜が“同化”している相手と結婚なんて出来ないだろう。二人いる相手を受け入れる事になる。でも、ユーリスはその事実を受け入れて、受け止めて、幸せそうに見えた。
恋人だったシルヴェスター王子の傍らにいる時も、小さな黄金竜の雛を胸元に抱いている時も、彼はとても幸せそうだった。
だから、本人達が幸せなのなら、それでいいのかも知れない。
そう紫竜は一人、結論付けたのだった。
リヨンネが用意した簡単な軽食やお菓子やお酒などを口にしながら、一同は楽しく時間を過ごした。
シルヴェスター王子は、ユーリスのそばを離れず、二人は傍から見ても仲睦まじい。それはそうだろう。散々苦労した挙句にようやく結婚した二人であるのだから、その喜びもひとしおのはずだろう。
シルヴェスター王子は、竜の生態学者であるリヨンネの求めで、小さな黄金竜の雛ウェイズリーに今度は姿を変えると、テーブルの上に、紫竜ルーシェと並んで立たされる。リヨンネはもとより、ユーリスもアルバート王子も非常に嬉しそうな顔で二頭の子竜を見つめていた。紫色の小さな竜と、小さな黄金竜ウェイズリーは、再会する時にはいつもするように、鼻先をすり合わせて挨拶をする。ユーリスが「踊ってみて」と言うと、調子に乗った紫竜と黄金竜達は「ピルピルピル」「キュイキュイキュイ」と鳴きながら、体を揺らして踊っている。それには一同は大笑いをしていた。やがてテーブルの上で二頭の竜達はぐるぐると追いかけっこをするように走り回り、最後はおのおのの伴侶の膝の上に、当然のように飛び込んで座った。
それから紫竜ルーシェは、事前に用意していたお祝いの品を、リヨンネとキース、バンナムとレネの手を借りて、部屋の中へ運んでもらった(ただ、狭い部屋には全てのお祝いの品を運び込むことは出来ず、廊下にも並べて置かれていた)。
ユーリスの前に、梱包されたままの木の箱が置かれる。その中身は、カルフィー魔道具店の最新の生活用魔道具一式だった。そのままゴルティニア王国へ運んでもらうため、木箱の開封はこの場ではしない。贈り物の目録がユーリスに手渡される。
「こんなに高価なものをたくさん、いいのですか」
喜びながらも、ユーリスは恐縮している。
保冷用大型冷蔵庫から、調理器具まで揃っている。生活用魔道具は非常に高価なものである。
色は薄いグリーン色にした。ウェイズリーは黄金竜なので、生活用魔道具も金ピカにしてやろうかとルーシェは思ったが、あいにくとそうした色は用意していないと、カルフィー魔道具店の三橋友親から言われた。それに友親から「結婚のお祝いだとしても、金色とか悪趣味だろう」とたしなめられたのだった。
リヨンネとキースは、たくさんのお菓子の入った陶器の容器と、バンナムとレネからは花束をもらう。そうしたたくさんのお祝いの品々を受け取り、ユーリスは嬉しそうに笑って言った。
「ありがとうございます」
黄金竜ウェイズリーも「キュルルルルル(ありがとう)」と言って、尻尾をビタンビタンとテーブルの上に打ち付けている。それから、甘えるようにユーリスの胸元に飛び込んで、頭をすり付けるのだった。
そんな小さな黄金竜の雛の様子を見て、内心、ルーシェは思うのだ。
(こいつは、結果的にシルヴェスター王子と“同化”して良かったのじゃないかな)
何故なら、見るからに黄金竜ウェイズリーは番のユーリスに夢中だった。
小さな黄金竜の雛の目は常に傍らのユーリスの姿を追っていた。それは、卵から孵った時からそうだった。紫竜ルーシェの前で、小さな黄金竜の雛は「やっと、待ち望んでいた番に会えたのだから、もう絶対に離れたくない」と以前口にしたことがあった。ユーリスはそれほど好いた相手だったのだ。でも、ユーリスには少年の時分から好き合っていた恋人シルヴェスター王子がいた。
シルヴェスター王子と黄金竜ウェイズリーは恋敵の関係で、本当なら、血で血を洗うような事件がこの男達の間で勃発してもおかしくはなかった(実際、ルーシェは知らなかったが、黄金竜ウェイズリーはシルヴェスター王子と対面する時、「会った瞬間に、金色の芽でシルヴェスターの身体を掴み、千切ってしまおう」「首と胴体を離せば、人間は死ぬだろう」と物騒なことを考えていた)。
シルヴェスター王子と黄金竜ウェイズリーが、もし“同化”しなければ、延々とユーリスを巡って争いが勃発した可能性がある。結果的に二人の雄が一人に“同化”したからこそ、問題がなくなったのだ。
(そういう意味では良かったのだろうけど)
紫竜ルーシェはアルバート王子の膝の上に座りながら、チロリとユーリスを見つめた。
バンクール商会長ジャクセンの息子で、美男子と名高いジャクセンとうり二つの美貌の持ち主。いまや大陸一の強国となったゴルティニア王国の王子の伴侶で、稀有なる黄金竜に愛されている青年。それがユーリスだった。
(なんか色々と大変そうだなぁ)
自分もサトー王国のサトーを倒した英雄でかつ“勇者”のアルバート王子の伴侶であるのだけど、竜騎兵団の騎竜として、結構自由に楽しく過ごさせてもらっている。何より、アルバート王子は紫竜ルーシェ一筋だった(アルバート王子が他人からちょっかいを出されそうになると、すぐさま可愛い幼児姿になってアルバート王子にショタ疑惑を撒き散らす姑息な手をとるルーシェでもある)。
ユーリスは、一人の王子と一頭の黄金竜に愛されているのである。“同化”して一緒くたになったとしても、意識は別々に存在しているようだ。つまりそれぞれにユーリスは愛されていて、そのことを彼は受け入れている。その事実にもルーシェは驚いていた。
普通、人間と竜が“同化”している相手と結婚なんて出来ないだろう。二人いる相手を受け入れる事になる。でも、ユーリスはその事実を受け入れて、受け止めて、幸せそうに見えた。
恋人だったシルヴェスター王子の傍らにいる時も、小さな黄金竜の雛を胸元に抱いている時も、彼はとても幸せそうだった。
だから、本人達が幸せなのなら、それでいいのかも知れない。
そう紫竜は一人、結論付けたのだった。
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