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外伝 その王子と恋に落ちたら大変です  第六章 その王子と竜に愛されたら大変です(下)

第八話 春の到来(上)

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 空に浮かぶ純白の城で、愛しのユーリスと、とうとう婚姻を結んだ黄金竜(雛)ウェイズリーは幸福の絶頂にあった。シルヴェスター王子に代わって、二人だけの居室の中、黄金竜ウェイズリーが現れると、ユーリスは柔らかな笑顔を見せて、すぐさまその胸にウェイズリーを抱きしめてくれる。
 そしていつも、ウェイズリーの大好きなお菓子やら果物やらを皿に入れて、一つずつその白い手で口に入れてくれる。お膝の上にのせて、頭も撫で撫でとしてくれる。お風呂の中でもいつも一緒で、ユーリスの胸の上にウェイズリーが大の字になって、ぺたりと張り付くことを許してくれる(ペロリとその胸を一舐めすると、真っ赤になったユーリスが「君は雛なのに、そんなことをしては駄目だ!!」と激怒するので我慢している)。ユーリスの手で石鹸を泡立てて、ウェイズリーの体も綺麗に洗ってくれる。その時にはいつも「君は綺麗な竜だ」とうっとりとした表情でウェイズリーの輝く黄金の鱗を見つめるのだ。番にそんな風に言われては照れてしまう。
 夜は夜で、ユーリスはウェイズリーを傍らに置いて一緒に眠ってくれる。二人して一緒に夢の中だった。


 そんな黄金竜(雛)と、自身の伴侶でもあるユーリスの“仲良し生活”を、黄金竜ウェイズリーの中から日々眺めているシルヴェスター王子は、ウェイズリーのことを(こいつは、コレはコレで楽しそうで、幸せなのかも知れないな)と思っている。シルヴェスター王子のように、ユーリスと性交したいと勿論ウェイズリーは考えているのだが、あまりにも仲睦まじいユーリスと黄金竜ウェイズリーの日常生活ぶりを見ていると、シルヴェスター王子は、(彼らは、もうこれでいいんじゃないのか)とも思ってしまう。

 しかし、黄金竜(雛)ウェイズリーがこれで満足しているはずはなかった。

 彼は、虎視眈々とその時が来ることを待ち続けていたのだった。



 春になった。
 ゴルティニア王国は、ラウデシア王国よりも遥か西方に位置しており、気候的にラウデシア王国よりも暖かな地域だった。新緑の季節の春、三月に入ると、人々は裾の短い、ヒラヒラとした白い薄手の服をまとい始める。ラウデシア王国よりも日差しが強い国のため、帽子を被ったり、日傘を差す女性達も多い。
 そこかしこで色鮮やかな花も開き、甘い匂いを漂わせていた。人々は、長い冬が終わった後のどこか浮わついた気分になっていた。
 実際、四月にはゴルティニア王国では春の祭典が各地の村々で開かれるらしい。シルヴェスター王子から、ユーリスは一緒に祭りを観に行こうと誘われていた。その時には王子とその伴侶としてではなく、民たちの間に紛れ込める服装をして、ただの恋人同士として出かけようと言われている。
 ゴルティニア王国の王子とその伴侶が、一人の護衛も連れずに、そんな不用意に出かけることには、本来、注意されてしかるべき行為なのだが、シルヴェスター王子は黄金竜そのもので、ユーリスの身は“金色の芽”で常に護られている。たとえ強盗に襲われても、二人は簡単に撃退できるだろう(強盗など“金色の芽”で瞬殺されるだろうと、ダンカンもフィアも考えていて、むしろ彼らを襲う強盗の不運さを哀れに思うほどだった)。二人が勝手気ままに出かけることを止めることはなかった。

 その春祭りに出かけるためなのか、シルヴェスター王子とユーリスは、黄金竜ウェイズリーから「春になると非常に忙しくなるから、お前達は大変な仕事は前倒しでやっておくように」と“命令”されていた。それで、ウェイズリーも祭りに行きたいのかとユーリスとシルヴェスターの二人は単純に考えた。

「そうだね。ウェイズリーも祭りに行きたいのかも知れない。シルヴェスターの姿と交替で行こうか。ウェイズリーは小さな雛の姿で私の胸元に入れて連れていけば、他人には気付かれずに彼も祭りを楽しめるだろう」

 ユーリスはそう言って、ウェイズリーも祭りに連れていくことに前向きだった。
 きっとウェイズリーは、祭りに出される珍しい食べ物を喜んで食べて、祭りの出し物を面白がるはずだ。春祭りには舞台劇が演じられたり、たくさんの屋台が出たり、舞が踊られたりと、その地域によって様々な行事があるようだった。

「いっそ泊まりで行くか」

 シルヴェスター王子の提案に、ユーリスは頷いた。

「休暇が取れないか、フィアに聞いてみる」

 二人は、小さな黄金竜の雛が充分、人間達の祭典である春祭りを楽しめるように、事前にいろいろと調べたり、手配をしていた。
 しかし、黄金竜(雛)の頭は、祭りのことでいっぱいなのではなかった。
 番のユーリスに、そろそろ“発情期”が到来するのではないかと、毎日、朝になると寝台から起き上がるユーリスの顔を確認するようにじっと見つめる。到来していないことが分かると、小さな竜はそしらぬ顔で、朝の「おはよう」の挨拶をしている。内心は、そんなやきもきとした気分の日々だったのだ。
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