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外伝 その王子と恋に落ちたら大変です  第五章 その王子と竜に愛されたら大変です(上)

第二十六話 同盟国会議とその後

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 イスフェラ皇国から、遠話魔道具を使用した同盟国会議の提案があった。
 ゴルティニア王国代表として、クラン長ダンカンと副クラン長フィア、そしてシルヴェスターが出席することになった。

 会議開始前、ゴルティニア王国に対して、イスフェラ皇国の筆頭魔術師イーサン=クレイラから、アレドリア王国へサトー王国のサトーをおびき寄せ、なんとかそこで彼を討ち取りたいとの話がされた。それに際して、ゴルティニア王国は、魔の領域から渡って来る魔族への対応を依頼された。

 アレドリア王国が滅亡した理由は、サトー国王の“星弾”を防ぐ魔術師達を先に叩かれたせいである。数に任せて魔の領域から魔族達が押し寄せ、そしてそれに魔術師達は押し切られた。その結果、“星弾”を防ぐ手段を失った。あれほど優秀な魔術師達、学者達を揃えていたアレドリア王国も、あっという間に落ちてしまった。

 アレドリア王国を足場に、サトー国王は次にハルヴェラ王国を狙うだろうとイーサン=クレイラは見ている。
 シルヴェスター王子が、獅子面の騎士ローエングリンを通じて、魔の領域からアレドリア王国の人々を解放する動きも、イーサン=クレイラは当然のように承知していた。連れ去られた何万という人々は、アレドリア王国へそのまま戻ることも出来ず、同盟国イスフェラ皇国やハルヴェラ王国、ゴルティニア王国へ渡ることになるから当然のことである。

 そしてその動きが、結果的に、魔の領域の者達の強い不満を招いていた。
 せっかくサトー王国に協力して、多くの人間達を“報酬”として魔の領域へ連れ去ったのに、黄金竜の脅しで再び人間達を解放しなければならない。その不満は、サトー国王へ再度の侵攻を促す動きになる。そこまでイーサン=クレイラは見越していたようで、それ故、彼はユーリスやシルヴェスター王子達が、魔の領域の魔族達を脅して、アレドリア王国の人々を解放させることに、何一つ口を挟むことはなかった。

 会議の場で、イーサン=クレイラが、ゴルティニア王国に対して、サトー国王を倒すよう要請しなかったことに、ユーリスは内心安堵していた。イスフェラ皇国筆頭魔術師イーサン=クレイラは、ユーリスの元にいる何らかの存在が、強力な力を持っていることを知っている。それを使えば、サトー王国のサトー国王ですら倒す事の出来る巨大すぎる力だった。でもその力を、ユーリスは黄金竜ウェイズリーには振るわせたくない。例え、万人からそのことを望まれても、ユーリスはそれを拒否するつもりだった。

 むしろ、サトー国王を自分達ではない、別の誰かが倒してくれるというのなら、それを応援したかった。すべての期待が、黄金竜ウェイズリーの上に集まることをユーリスは望んでいなかった。
 そしてそのことが、自分の我儘であることをユーリスはよく知っていた。
 
 シルヴェスターはユーリスにとって何よりも大切な存在で、彼の魂を傷つけたくなかった。多くの死をもたらす存在でありながらも、その多くの死によって彼の魂が傷つくというのなら、彼に出来る限り人を殺させたくなかった。それは、恋人として当然の想いだろう。

 シルヴェスターもウェイズリーも、ユーリスの過保護すぎる思いに不満を感じているようだけど、そんな不満を自分に向けられることなど痛くも痒くも無かった。愛しい男と小さな竜のことが、ユーリスは大切だったからだ。

 会議の結果、同盟の国々は、アレドリア王国を足場に、サトー王国のサトー国王が、ハルヴェラ王国へ攻め込むアクションを待つことになった。攻撃があればすぐさまゴルティニア王国へ“遠話魔道具”で連絡が届く。その時が来るまで、サトー王国の件は棚上げとなり、ユーリスとシルヴェスター、そしてゴルティニア王国の人々は、アレドリア王国から、魔の領域へ連れ攫われた人々の救出とその後の手当に走ることになった。




 そして。
 どれほど懸命に救出作業を進めても、魔の領域へ連れ攫われた膨大な人々の中に、ユーリスは自身が世話になったナウマン教授や友人達、下宿の女主人メイラとその家族の姿を見つけ出すことは出来なかった。彼はその事実に打ちのめされ、密かに悲しみに暮れていた。

 それから、サトー王国のサトー国王が、イーサン=クレイラの目論見通り、荒廃したアレドリア王国内に現れた。彼の攻撃を受け、一斉に同盟国は予定していた通りに、動き始めた。
 直接サトー国王を倒すために動く者もあれば、その隙に乗じてサトー国王の国へ攻め込む者もあった。魔の領域から魔族達が来ることを阻止するために動く者もあるというように、おのおのに割り振られた仕事を果たした。

 ゴルティニア王国は、実際にサトー国王と対峙することなく、ただ魔の領域から魔族達が参戦することを防ぐだけの役割であった。だが、それは黄金竜ウェイズリーにしか出来ない仕事であった。連絡が来るとすぐさま小さな黄金竜の雛は魔の領域へ飛び立ち、獅子面の騎士ローエングリンとその一族らと共に、魔族がサトー国王の命令の下、人の国へ馳せ参じることを禁じた。逆らう者は、“金色の芽”で粉々に粉砕すると述べたのなら、魔族達の誰もその言葉に逆らうことは出来なかった。

 その後、サトー王国のサトー国王が討ち取られたとの一報が入る。

 十八年もの間、大陸の多くの国々に攻め込み、攻め滅ぼし、数えきれないほど多くの人々の怨嗟の対象となっていたその国の国王は、呆気なくも討ち取られたのだった。
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