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外伝 その王子と恋に落ちたら大変です 第五章 その王子と竜に愛されたら大変です(上)
第十五話 黄金竜は式典の日程について苦情を申し立てる
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帰城したシルヴェスターが、無事に結婚の許しをユーリスの父ジャクセンから得ることが出来たと報告した時、クラン長ダンカンは全身を虚脱させて安堵していた。
「良かったな、シルヴェスター」
そう言われ、シルヴェスターも笑顔で頷く。
「はい。これでユーリスと結婚出来ます」
「結婚式を来春の建国の儀と重ねますか」
副クラン長フィアが尋ねてくる。
それでダンカンも顎に手をやり考え込んでいる。
「そうだな。招待客の多くが被るだろう」
建国の儀の前に、シルヴェスターは正式にダンカンの養子に入ることになっている。そのため、シルヴェスターは初代国王の座に就くダンカンの息子となり、王位継承権を得る。そうなれば、当然結婚式も盛大なものになり、招待客も相応の人数に膨れるだろう。
「シルヴェスターもそれでいいでしょうか」
「ユーリスにも確認しますが、それで大丈夫だと思います」
来春には結婚式。
いよいよ、ユーリスを伴侶として迎えることが具体的になる。
シルヴェスターが愛しい青年をどう着飾らせて式を挙げようかと考えている時、自身の中のウェイズリーが黙り込んでいることに気が付いた。
いつものウェイズリーなら「キュルキュルキュルルル!!!!(大好きなユーリスと結婚式!!!!)」と囀るように鳴いて、ユーリスと結婚式を挙げられることに大喜びだったろう。なのに今、彼は無言で考え込んでいた。
(…………ウェイズリー、どうしたのだ)
シルヴェスターがウェイズリーの意識に話しかけると、ウェイズリーはこんなことを言った。
(春にある建国の儀とやらには、お前は出席しなければならないのか?)
(当たり前だ。当然、出席しなければならない)
(具体的にいつ頃、建国の儀をやるのか?)
いやにウェイズリーが質問を続けてくる。
(三月か四月予定だ)
(……もっと時期を早めてくれ。でないとユーリスが困ることになる)
ウェイズリーがどこか心配そうな様子で言っている。
(何故、ユーリスが困るのだ)
当然の質問をシルヴェスターがウェイズリーに投げかけると、ウェイズリーは小さな声で言った。
(春になると……………………ユーリスが初めての発情期を迎えるからだ)
発情期?
シルヴェスターは首を傾げる。
(ユーリスは、人間の男だ。発情期なんてものはない。春になっても発情しないぞ)
黄金竜といえども、ウェイズリーは生まれたばかりの小さな竜の雛。常識を知らないのだろうか。
大好きなユーリスを自分と同じ竜だと考えているのか。若い竜は春になれば発情期が訪れるのだろう。だが、ユーリスは若い人間の男だ。発情期など訪れやしない。
そのことをシルヴェスターが優しく教えるように言うと、心の中のウェイズリーは俯いたまま、尻尾をビタンビタンと下に打ち付けている。何度も何度も打ち付けている。
(ユーリスは発情する。だから春に式典とか困るのだ。絶対に困るのだ。もっと式典の時期を早めろ。二月にやれ!!!!)
(ウェイズリー)
(シルヴェスター、そこのダンカンとやらに伝えろ!!!! 黄金竜の命令だ。絶対に絶対に二月にやらないと許さないからな)
心の中の小さな黄金竜の雛ウェイズリーが、黄金色の双眸をギラギラと輝かせてそう言う。
背筋がゾクリとするほどの、怒りのような強い感情を漲らせている。
この黄金竜の雛が、ユーリスにだけは甘く、あとの人間に対してはあくまで冷淡であることをシルヴェスターは知っていた(餌をよくくれる、経理担当兼冒険者のイルムとはそこそこ仲は良いようだ)。
黄金竜の怒りに触れると大変なことになる。そのことをシルヴェスター自身、嫌になるくらいその身で経験していた。だから仕方なく、シルヴェスターは式典の開催時期について、黄金竜ウェイズリーからの言葉をクラン長ダンカンとフィアの二人に伝え、二人を大いに慌てさせたのだった。
結論から言えば、ダンカンとフィアの二人は黄金竜ウェイズリーの言葉を受け入れた。
黄金竜ウェイズリーの言葉は絶対で、矮小なる人間はそれに逆らうことを許されないからだ。
そうなればなったで、城で働く者達はなおも忙しくなる。
建国の儀の準備も当然、早く進めなければならない。
それも国を守るという黄金竜の一声で決まったこと。
クラン長フィアなどは「頑張らなければなりません!! でなければ……」と後ろの言葉を濁していたが、城の者達は“黄金竜の怒り”に触れるのではないかと震えあがり、その無茶なスケジュールに従って独楽鼠のように働き始める。
そしてとうの黄金竜ウェイズリーはというと。
ここ最近、ユーリスのそばを離れフラフラとどこかへ出かけるようになっていた。当然、一体化しているシルヴェスターも一緒にいなくなる。
気が付けば、城へ戻って来ている。そしてまた知らぬ間にどこかへ消えているといった按配だ。
副クラン長フィアの片腕となっているユーリスも、当然日々忙しいものだから、あまりウェイズリーの相手をしてやれなかった。だから、消えている間、彼が一体何をしているのか知ることもなかったのだった。
だが、ある日、ウェイズリーは小さな胸を張ってユーリスの前に、金色の両眼を煌めかせて現れ、言った。
「キュイキュイキュッキュッキュー!!!!(ユーリス、お前を連れていきたい場所があるのだぞ!!!!)」
やたら嬉しそうに、誇らしげな様子だった。
「良かったな、シルヴェスター」
そう言われ、シルヴェスターも笑顔で頷く。
「はい。これでユーリスと結婚出来ます」
「結婚式を来春の建国の儀と重ねますか」
副クラン長フィアが尋ねてくる。
それでダンカンも顎に手をやり考え込んでいる。
「そうだな。招待客の多くが被るだろう」
建国の儀の前に、シルヴェスターは正式にダンカンの養子に入ることになっている。そのため、シルヴェスターは初代国王の座に就くダンカンの息子となり、王位継承権を得る。そうなれば、当然結婚式も盛大なものになり、招待客も相応の人数に膨れるだろう。
「シルヴェスターもそれでいいでしょうか」
「ユーリスにも確認しますが、それで大丈夫だと思います」
来春には結婚式。
いよいよ、ユーリスを伴侶として迎えることが具体的になる。
シルヴェスターが愛しい青年をどう着飾らせて式を挙げようかと考えている時、自身の中のウェイズリーが黙り込んでいることに気が付いた。
いつものウェイズリーなら「キュルキュルキュルルル!!!!(大好きなユーリスと結婚式!!!!)」と囀るように鳴いて、ユーリスと結婚式を挙げられることに大喜びだったろう。なのに今、彼は無言で考え込んでいた。
(…………ウェイズリー、どうしたのだ)
シルヴェスターがウェイズリーの意識に話しかけると、ウェイズリーはこんなことを言った。
(春にある建国の儀とやらには、お前は出席しなければならないのか?)
(当たり前だ。当然、出席しなければならない)
(具体的にいつ頃、建国の儀をやるのか?)
いやにウェイズリーが質問を続けてくる。
(三月か四月予定だ)
(……もっと時期を早めてくれ。でないとユーリスが困ることになる)
ウェイズリーがどこか心配そうな様子で言っている。
(何故、ユーリスが困るのだ)
当然の質問をシルヴェスターがウェイズリーに投げかけると、ウェイズリーは小さな声で言った。
(春になると……………………ユーリスが初めての発情期を迎えるからだ)
発情期?
シルヴェスターは首を傾げる。
(ユーリスは、人間の男だ。発情期なんてものはない。春になっても発情しないぞ)
黄金竜といえども、ウェイズリーは生まれたばかりの小さな竜の雛。常識を知らないのだろうか。
大好きなユーリスを自分と同じ竜だと考えているのか。若い竜は春になれば発情期が訪れるのだろう。だが、ユーリスは若い人間の男だ。発情期など訪れやしない。
そのことをシルヴェスターが優しく教えるように言うと、心の中のウェイズリーは俯いたまま、尻尾をビタンビタンと下に打ち付けている。何度も何度も打ち付けている。
(ユーリスは発情する。だから春に式典とか困るのだ。絶対に困るのだ。もっと式典の時期を早めろ。二月にやれ!!!!)
(ウェイズリー)
(シルヴェスター、そこのダンカンとやらに伝えろ!!!! 黄金竜の命令だ。絶対に絶対に二月にやらないと許さないからな)
心の中の小さな黄金竜の雛ウェイズリーが、黄金色の双眸をギラギラと輝かせてそう言う。
背筋がゾクリとするほどの、怒りのような強い感情を漲らせている。
この黄金竜の雛が、ユーリスにだけは甘く、あとの人間に対してはあくまで冷淡であることをシルヴェスターは知っていた(餌をよくくれる、経理担当兼冒険者のイルムとはそこそこ仲は良いようだ)。
黄金竜の怒りに触れると大変なことになる。そのことをシルヴェスター自身、嫌になるくらいその身で経験していた。だから仕方なく、シルヴェスターは式典の開催時期について、黄金竜ウェイズリーからの言葉をクラン長ダンカンとフィアの二人に伝え、二人を大いに慌てさせたのだった。
結論から言えば、ダンカンとフィアの二人は黄金竜ウェイズリーの言葉を受け入れた。
黄金竜ウェイズリーの言葉は絶対で、矮小なる人間はそれに逆らうことを許されないからだ。
そうなればなったで、城で働く者達はなおも忙しくなる。
建国の儀の準備も当然、早く進めなければならない。
それも国を守るという黄金竜の一声で決まったこと。
クラン長フィアなどは「頑張らなければなりません!! でなければ……」と後ろの言葉を濁していたが、城の者達は“黄金竜の怒り”に触れるのではないかと震えあがり、その無茶なスケジュールに従って独楽鼠のように働き始める。
そしてとうの黄金竜ウェイズリーはというと。
ここ最近、ユーリスのそばを離れフラフラとどこかへ出かけるようになっていた。当然、一体化しているシルヴェスターも一緒にいなくなる。
気が付けば、城へ戻って来ている。そしてまた知らぬ間にどこかへ消えているといった按配だ。
副クラン長フィアの片腕となっているユーリスも、当然日々忙しいものだから、あまりウェイズリーの相手をしてやれなかった。だから、消えている間、彼が一体何をしているのか知ることもなかったのだった。
だが、ある日、ウェイズリーは小さな胸を張ってユーリスの前に、金色の両眼を煌めかせて現れ、言った。
「キュイキュイキュッキュッキュー!!!!(ユーリス、お前を連れていきたい場所があるのだぞ!!!!)」
やたら嬉しそうに、誇らしげな様子だった。
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