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外伝 その王子と恋に落ちたら大変です 第五章 その王子と竜に愛されたら大変です(上)
第三話 毎夜の帰宅
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クラン長ダンカンに命じられ、シルヴェスターは再び旧カリン王国の戦場へ向けて出発することになった。非戦闘員であるユーリスは、いつものように城に留まってシルヴェスターの帰還を待つことになる。
愛しいユーリスのそばを離れなければならないことは、身を引き千切られるように辛いと黄金竜ウェイズリーは思っていた。だが、同化しているシルヴェスターの責任感は強く、早く戦場に行って仲間達を助けなければならないと思っている。今までユーリスのそばから離れることのなかったウェイズリーは、出立する寸前まで小さな竜の姿になって「キュルルルキュウキュウキュウゥゥ」と甘えて鳴いて、ユーリスの胸にすがりついていた。
「君はシルヴェスターと同化しているから、シルヴェスターと一緒に戦場へ行ってしまうのだね。ウェイズリー、小さいのだから、無理をしては駄目だよ。危ないと思ったらすぐに逃げるんだ。絶対に怪我をしてはいけないからね」
愛しい番の青年から心配そうに言われ、ウェイズリーは「キュウキュウ(すぐ逃げるよ)」と鳴いて同意している。
無邪気で可愛い竜のふりをしているウェイズリーは、その姿で、ユーリスに可愛がられ、大事にされることが嬉しいのだ。
だが、同化しているシルヴェスターは、ウェイズリーの過去を覗き見て知っていた。
この小さな黄金竜の雛は、城にいたユーリスが襲われたと知るや否や、すぐさまその犯人の元へ、復讐に走った。刺客を送り込んだ皇国の三人の皇女の目の前で刺客を殺し、未だに皇女達の首には目には見えない小さな金色の芽が、いつでもその首を絞められるように配置されている。そして魔族にいたっては、怒り狂った小さな竜が直接攻め込んで、大量の魔族をバラバラに殺し尽くしていたのだ。覗き見たその過去は恐ろしい光景だった。この小さな竜は簡単にそれを成し遂げていた。そしてそのことをユーリスは知らない。
ユーリスの前では、血生臭い行為を出来るだけしないように、小さくて可愛らしい竜の雛のふりを、ウェイズリーはしているのだ。番の青年を怖がらせたくないからだ。そしてその気持ちをシルヴェスターも痛いほど理解できた。
戦場にいるシルヴェスターの姿を、ユーリスは見た事がない。どれほどシルヴェスターが多くの敵を屠り、血に塗れてきたのか知らない。そんなことをユーリスは知らなくてもいいとシルヴェスターは考えている。ユーリスだけは、綺麗なままでいて欲しいからだ。そしてウェイズリーもその思いは一緒だろうと思う。自分の両手が敵の血で真っ赤に濡れている、そんな恐ろしい姿を彼には見せたくない。
ウェイズリーは、シルヴェスターの姿に戻ると、彼は仲間の兵士達と共に慌ただしく出立していった。
もちろん、ウェイズリーは自分が不在の間、ユーリスのそばに置く“金色の芽”でユーリスの身をしっかり守るつもりである。ユーリスの身は絶対の安全が保証されていた。何者に攻め込まれようと、敵は“金色の芽”で粉砕する。
だから、私の番の安全を不安に思うことはないのだぞと、ウェイズリーはシルヴェスターの意識に言った。その言葉に、シルヴェスターはウェイズリーがユーリスを番としていることに初めて感謝するような感情を覚えたのだった。
そして出立していったシルヴェスターと仲間達の姿を見送り、ユーリスはユーリスで、副クラン長フィアと一緒に仕事に励む。ダンカンは、旧カリン王国の領土を次々と買い求めていたため、フィアの抱える仕事は膨大だった。それを助けることがユーリスの仕事になっていた。
夕方になり、仕事で疲れ、どこかトボトボと部屋へ戻って来たユーリスは(今日からシルヴェスターも、ウェイズリーもいないのか)とそのことを寂しく思いながら、部屋の扉を開ける。
だが、寝台の上に小さな金色の竜が丸くなってうずくまっており、ユーリスが入室したことに気が付くと、金色の竜は頭を上げて「キュルルルルルゥ!!」と鳴いた。その声を聞いて、ユーリスは立ち尽くした。
「……………………ウェイズリー?」
今日の午前に、別れを告げたばかりのウェイズリーの姿がそこにあったのだ。
驚かないはずがない。
ウェイズリーは寝台の上から、すぐさまユーリスの胸に飛び込んで来た。
「キュルルルキュルキュルキューキュー!!(やっぱりユーリスのそばで眠りたいから戻って来た!!)」
「…………」
「キュルルキュルキュルルルキュルルルルルルキュー(以前にも話しただろう? 私は一度でも行ったことのある場所には一瞬で移動できるのだ)」
「…………そう、でしたね」
以前、ユーリスはウェイズリーのその力で、母国ラウデシアに一瞬で連れていってもらったことがあった。黄金竜は“神の頂きに至る竜”と呼ばれている。瞬間移動もお手の物というわけだ。
しかし、朝の別れの会話は一体何だったのだという思いもある。
「キュルルルキュルキュルキュキュキュッ?(私がいなくなって寂しかっただろう?)」
キラキラと輝く黄金色の大きな瞳で、返事を期待するように見上げてくるウェイズリーに、ユーリスは苦笑しながら言った。
「そうだな。君がいなかったからとても寂しかった」
その頭を撫でてやると、気持ち良さそうに目を細めるウェイズリー。
「殿下は今、どうしている?」
「キュルルルキュルキュルルルキュルルルル(昼間の移動に疲れて寝ている。だから夜は私が交代したのだ)」
「そうか」
「キュルルルキュキュキュー(シルヴェスターに会いたいのなら、起こしてもいいが)」
「疲れているのなら、可哀想だから眠らせておきましょう」
そう言ってユーリスは身を清めた後、寝間着に着替え、小さな黄金竜の雛を抱きかかえながら寝台の中へ入った。
「おやすみ、ウェイズリー」
「キュウゥゥゥ(おやすみ、大好きなユーリス)」
大好きな番に抱きかかえられ、ウェイズリーはうっとりとした表情で眠りについた。
それからウェイズリーは毎晩、ユーリスの寝床に瞬間移動して戻って来て、愛しい番と眠りについていたのだった。それらは全てシルヴェスターが寝ている間にしていたことであり、後にそのことを知ったシルヴェスターから「何故、私を起こさなかったのだ!!」とウェイズリーは相当、怒られることになったのだった。
愛しいユーリスのそばを離れなければならないことは、身を引き千切られるように辛いと黄金竜ウェイズリーは思っていた。だが、同化しているシルヴェスターの責任感は強く、早く戦場に行って仲間達を助けなければならないと思っている。今までユーリスのそばから離れることのなかったウェイズリーは、出立する寸前まで小さな竜の姿になって「キュルルルキュウキュウキュウゥゥ」と甘えて鳴いて、ユーリスの胸にすがりついていた。
「君はシルヴェスターと同化しているから、シルヴェスターと一緒に戦場へ行ってしまうのだね。ウェイズリー、小さいのだから、無理をしては駄目だよ。危ないと思ったらすぐに逃げるんだ。絶対に怪我をしてはいけないからね」
愛しい番の青年から心配そうに言われ、ウェイズリーは「キュウキュウ(すぐ逃げるよ)」と鳴いて同意している。
無邪気で可愛い竜のふりをしているウェイズリーは、その姿で、ユーリスに可愛がられ、大事にされることが嬉しいのだ。
だが、同化しているシルヴェスターは、ウェイズリーの過去を覗き見て知っていた。
この小さな黄金竜の雛は、城にいたユーリスが襲われたと知るや否や、すぐさまその犯人の元へ、復讐に走った。刺客を送り込んだ皇国の三人の皇女の目の前で刺客を殺し、未だに皇女達の首には目には見えない小さな金色の芽が、いつでもその首を絞められるように配置されている。そして魔族にいたっては、怒り狂った小さな竜が直接攻め込んで、大量の魔族をバラバラに殺し尽くしていたのだ。覗き見たその過去は恐ろしい光景だった。この小さな竜は簡単にそれを成し遂げていた。そしてそのことをユーリスは知らない。
ユーリスの前では、血生臭い行為を出来るだけしないように、小さくて可愛らしい竜の雛のふりを、ウェイズリーはしているのだ。番の青年を怖がらせたくないからだ。そしてその気持ちをシルヴェスターも痛いほど理解できた。
戦場にいるシルヴェスターの姿を、ユーリスは見た事がない。どれほどシルヴェスターが多くの敵を屠り、血に塗れてきたのか知らない。そんなことをユーリスは知らなくてもいいとシルヴェスターは考えている。ユーリスだけは、綺麗なままでいて欲しいからだ。そしてウェイズリーもその思いは一緒だろうと思う。自分の両手が敵の血で真っ赤に濡れている、そんな恐ろしい姿を彼には見せたくない。
ウェイズリーは、シルヴェスターの姿に戻ると、彼は仲間の兵士達と共に慌ただしく出立していった。
もちろん、ウェイズリーは自分が不在の間、ユーリスのそばに置く“金色の芽”でユーリスの身をしっかり守るつもりである。ユーリスの身は絶対の安全が保証されていた。何者に攻め込まれようと、敵は“金色の芽”で粉砕する。
だから、私の番の安全を不安に思うことはないのだぞと、ウェイズリーはシルヴェスターの意識に言った。その言葉に、シルヴェスターはウェイズリーがユーリスを番としていることに初めて感謝するような感情を覚えたのだった。
そして出立していったシルヴェスターと仲間達の姿を見送り、ユーリスはユーリスで、副クラン長フィアと一緒に仕事に励む。ダンカンは、旧カリン王国の領土を次々と買い求めていたため、フィアの抱える仕事は膨大だった。それを助けることがユーリスの仕事になっていた。
夕方になり、仕事で疲れ、どこかトボトボと部屋へ戻って来たユーリスは(今日からシルヴェスターも、ウェイズリーもいないのか)とそのことを寂しく思いながら、部屋の扉を開ける。
だが、寝台の上に小さな金色の竜が丸くなってうずくまっており、ユーリスが入室したことに気が付くと、金色の竜は頭を上げて「キュルルルルルゥ!!」と鳴いた。その声を聞いて、ユーリスは立ち尽くした。
「……………………ウェイズリー?」
今日の午前に、別れを告げたばかりのウェイズリーの姿がそこにあったのだ。
驚かないはずがない。
ウェイズリーは寝台の上から、すぐさまユーリスの胸に飛び込んで来た。
「キュルルルキュルキュルキューキュー!!(やっぱりユーリスのそばで眠りたいから戻って来た!!)」
「…………」
「キュルルキュルキュルルルキュルルルルルルキュー(以前にも話しただろう? 私は一度でも行ったことのある場所には一瞬で移動できるのだ)」
「…………そう、でしたね」
以前、ユーリスはウェイズリーのその力で、母国ラウデシアに一瞬で連れていってもらったことがあった。黄金竜は“神の頂きに至る竜”と呼ばれている。瞬間移動もお手の物というわけだ。
しかし、朝の別れの会話は一体何だったのだという思いもある。
「キュルルルキュルキュルキュキュキュッ?(私がいなくなって寂しかっただろう?)」
キラキラと輝く黄金色の大きな瞳で、返事を期待するように見上げてくるウェイズリーに、ユーリスは苦笑しながら言った。
「そうだな。君がいなかったからとても寂しかった」
その頭を撫でてやると、気持ち良さそうに目を細めるウェイズリー。
「殿下は今、どうしている?」
「キュルルルキュルキュルルルキュルルルル(昼間の移動に疲れて寝ている。だから夜は私が交代したのだ)」
「そうか」
「キュルルルキュキュキュー(シルヴェスターに会いたいのなら、起こしてもいいが)」
「疲れているのなら、可哀想だから眠らせておきましょう」
そう言ってユーリスは身を清めた後、寝間着に着替え、小さな黄金竜の雛を抱きかかえながら寝台の中へ入った。
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「キュウゥゥゥ(おやすみ、大好きなユーリス)」
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それからウェイズリーは毎晩、ユーリスの寝床に瞬間移動して戻って来て、愛しい番と眠りについていたのだった。それらは全てシルヴェスターが寝ている間にしていたことであり、後にそのことを知ったシルヴェスターから「何故、私を起こさなかったのだ!!」とウェイズリーは相当、怒られることになったのだった。
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