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外伝 その王子と恋に落ちたら大変です  第四章 黄金竜の雛は愛しい番のためならば、全てを捧げる

第二十一話 攻勢

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 シルヴェスターの属する“竜の牙”。
 クラン長ダンカン=アデナウアーをトップとするそのクランは、イスフェラ皇国内でも三本の指に入る上位ギルドであり、有能な冒険者達を数多く抱えていた。
 この時代、戦時においては、国内の冒険者達を兵士として徴発する国もあったが、イスフェラ皇国の場合、戦場で大きな活躍を見せた個人やパーティ、クランの者達に報酬をケチることなく存分に与えていた。よって報酬に目が眩み、一攫千金を望む者達がこの大陸全土から集まってきていた。彼らはイスフェラ皇国軍の傭兵部隊として参加し、功績を挙げたものは、金銭的な報酬は元より、奪取した旧カリン王国の土地を与えられることになる。

 “竜の牙”のクラン長ダンカンは、クランによるその功績の多さから、旧カリン王国の領土の多くを獲得することになり、さらに加えて、個人の冒険者達が報酬で得ていた領土の購入を続けていた。旧カリン王国のレイヴン城周辺の村や街は元より、かなり広範囲の土地を取得していた。ゆくゆくは旧カリン王国の領土まるまるを統治したいという野望を抱いていた。
 そしてダンカンは、領土を広げようと旧カリン王国内にいるサトー軍を押し上げるように攻撃を続けていく。

 旧カリン王国の住民達にしてみれば、“竜の牙”を始めとする冒険者達や、イスフェラ皇国軍などは、サトー王国の支配からの解放軍であり、サトー軍が劣勢と見るや、イスフェラ皇国軍や“竜の牙”などの冒険者ギルドに武器を手にして参加しようとする住民達も多かった。

 サトー王国軍は、圧制を敷くわけではない。
 支配においた民衆を特に虐げるということはなかったのだが、問題は、サトー王国軍に加勢している魔の者達にあった。彼らは、気の向くまま住民達を自身の国へと連れて去ってしまうことがよく見られた。そして連れ去られた住民達は戻って来ることが無い。それに抵抗する住民達とサトー王国軍が揉めるような状況が頻発していた。サトー王国軍内では、魔の者達に、住民を攫わないように話を付けていたのだが、実際には影で何百、何千人もの人間達が連れ攫われているような状況であった。

 だからこそ、旧カリン王国内ではダンカン達クラン“竜の牙”が、歓迎されるような状況にあったのだ。
 そして攻撃の要であり、クランのエースといっても良いシルヴェスターの存在は、クラン内の冒険者達にとっては他の誰よりも頼もしい味方であり、解放された旧カリン王国の者達にとっても救世主のような憧れの存在だった。

 金髪碧眼の素晴らしい見た目のシルヴェスター王子に、憧れる者達は多かった。

 クラン長ダンカンは「見た目のいい方が得だな」と言っていたりする。ダンカンは歴戦の勇者という感の傷だらけの顔をした大層な強面であった。
 実際、解放した村や街で、シルヴェスターは娘達にすぐに囲まれるし、泊まる部屋に夜、夜這いに訪れる者達までいるほどだった。だが、シルヴェスターは少年の時分からユーリス一筋であったから、どんなにか美しい娘や少年達に迫られたとしても、彼は首を振るばかりであった。

 そんな彼は、戦いにおいては本当に素晴らしい働きを見せる。
 “黄金竜の加護”

 シルヴェスター王子に対する敵の攻撃魔法は通用しない。
 そしてクラン“竜の牙”は、大勢の兵士と共に動き、かつ、自軍魔術師の魔法は難なく使えるものだから、極めてシルヴェスターのいる部隊は、サトー王国軍にとって厄介な存在であった。
 サトー王国軍の魔術師達はシルヴェスターがいると聞いた時点で撤退してしまう。魔法が通用しないことが分かっているからである。そうなると、“竜の牙”の圧倒的に有利な状況になる。
 当然のように連勝続きで、旧カリン王国の領土を奪取し続けることになる。
 サトー王国軍にとって、クラン“竜の牙”とシルヴェスター王子の存在は目の上のたんこぶのように不快な存在であった。実際、シルヴェスター王子がだめなら、過去、彼の恋人であるユーリスを狙おうという動きもあったくらいであった。


 だが、サトー王国軍としてもやられるばかりではない。
 今までサトー国王の命令のもと、バーズワース王国、ザナルカンド王国、ラウデシア王国と、大陸の東に向かって侵攻していたサトー王国は、ラウデシア王国への“星弾”による攻撃のあと、遥か北方の国々にまで攻撃をすることを突如として取りやめ、サトー国王は旧カリン王国以南の国へ、魔の者達による攻撃を許した。旧カリン王国内での戦闘に本腰を入れることに方針を転換したのであった。

 そしてそのことを、実際の戦闘によってクラン“竜の牙”も知ることになる。

 魔術師の唱える魔法を直接ぶつける攻撃ではなく、獣化できる魔族達が、獣化しながら大勢で襲い掛かったり、移動するクランの馬車に向かって崖の上から石を落とすなどといった攻撃が繰り返される。人ではない敵の姿を数多く見るようになったダンカンも、サトー王国軍がどうも今までとは様子が違うことを察した。
 上位の魔族に指揮され、多くの魔物達が戦いに参加している。
 そしてそれはダンカンのいる“竜の牙”に限ったことではなく、旧カリン王国で戦っている人間達すべてが直面していた。

 気がかりなのは、拠点を置くことになったレイヴン城である。
 そこにも魔族達が攻撃を仕掛けているのではないかと思ったが、だからといってすぐにとって返すわけには行かず、レイヴン城の防衛は副クラン長フィアに任せるしかなかった。
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