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外伝 その王子と恋に落ちたら大変です 第四章 黄金竜の雛は愛しい番のためならば、全てを捧げる
第十八話 忙殺
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レイヴン城にクランの拠点を移してから、ユーリスは目が回るほどの忙しさの中にあった。
このレイヴン城に来てしばらくしてから、日々のクランの経理作業の実務の大部分については、経理担当兼冒険者のイルムに任せるよう、副クラン長フィアから命じられた。その代わりに何をユーリスが担うことになったのかというと。
「ユーリス、本当にシルヴェスターが君を連れてきてくれて良かった。君はわがクランの希望の星、いや、それどころではない、この国の礎となる人だ!!」
そう言って、フィアはユーリスの肩を両手で掴む。決して逃がすまいというように、ギリギリと肩を握られて正直、痛い。
引きつった顔をするユーリスに言った。
「人材が足りないんだよ!!」
そう、この旧カリン王国の王以下の上位貴族達の大部分が、サトー王国の攻撃で命を落としている。国のトップがまるまるすげ代わるどころではなく、上位の者達がごっそりといなくなっているのだ。
旧カリン王国の国民達は、“竜の牙”のクラン長ダンカンが、この国をサトー王国から解放してくれたことを喜び、すんなりと王位に就くことを認めている。ダンカンとシルヴェスターは、今もなおサトー王国を旧カリン王国領から追い出そうと戦いに出ている一方で、レイヴン城に残された副クラン長フィアは、国の内政を担当しなければならなかった。元からクランの運営実務を担っていたフィアであったが、今度はその規模が国になっている。
カリン王国の中間・下位の役人達の多くが生き残っており、進んで協力してくれるが、それでも国の復興にかかる実務は山のようにあった。サトー王国が壊してしまった生活インフラの復旧までしなければならない。おまけに同時に、他の冒険者が褒賞として得ていた土地の買収も進めている。フィアだけでは回らないのは明らかであった。
そしてユーリスは有能だった。元から王立学園でもトップの成績で、父親のジャクセンの指示の元、家庭教師から数字のイロハを叩き込まれ、将来のバンクール商会を担うべく教育されてきた若者である。上に立つ者としての心構えもある。若輩の若者であったが、フィアは旧カリン王国の官僚たちにユーリスを紹介した。ユーリスはすぐさま彼らと共に働き始めた。
夜、仕事を終え、疲れて城の部屋に戻ると、窓辺のガラス戸をそっと手で押して、黄金竜の雛ウェイズリーが現れる。ウェイズリーはユーリスのそばに近寄ると、ユーリスの疲れを労わりながら、言うのだ。
「キュルキュルキューキュー(今日はどんな仕事をしたのだ)」
それで、ユーリスはお茶を淹れ、小さな黄金竜の雛を膝の上に乗せながら、今任せられている仕事のことを話す。ユーリスが任せられている仕事の幅は広い。ウェイズリーの開いた口に甘いクッキーを入れてやると、ウェイズリーは喜んでそれを食べながら、熱心にユーリスの話を聞いた。
こんな話を聞いても、竜の雛は面白くないだろうと思いながらも、促されるままにユーリスは話した。
「東の橋の復旧と、秋の納税台帳の精査だな。サトー軍が撤退の際、追撃をかわすために橋を落としていった。道も破壊されているから、それを復旧させないといけない」
「キュルルルル?(お前がやるのか?)」
「差配は私がすることになる。あと、イスフェラ皇国の方から使者が来る予定だ。その応対もフィアとやらないといけない」
クラン長ダンカンが、イスフェラ皇国から褒賞として受け取った旧カリン皇国の領土。同盟三か国がその建国を認めているが、隣国イスフェラ皇国が、今後も影響を及ぼしたいと考えているのは当然だろう。何かと内政にも口を出してくるかも知れないと、フィアは警戒していた。ダンカンとしては完全なる独立を目指していたが、イスフェラ皇国は援助という名で官僚を送り込んでくるかも知れない。
「キュルルゥ(そうか)」
ウェイズリーは少しばかり考え込む様子でいた。
ユーリスはウェイズリーの頭を優しく撫でる。
「大丈夫だ。何も問題ない」
ウェイズリーと一緒にいる時くらい、仕事の話はしたくない。
ウェイズリーはユーリスの手にその頭を擦りつける。
「キュウキュルルル」
甘く鳴きながらも、その金色の目は愛しい番の青年を見つめ、彼に課せられているであろう仕事を、なんとか軽くしてやらねばと密かに決意していたのだった。
そして翌日。
レイヴン城で、ユーリスが官僚たちと会議をしている最中、部屋の中へ駆け込んできた者がいた。
「大変です!!!!」
血相を変えて飛び込んできたため、サトー王国軍がまた攻め込んできたのではと青ざめる者達も多かったが、そうではなかった。
「東の、あの、カリン大橋が」
ちょうどその復旧について、地元の村人達に仕事を手配し、その給料をどうするかという頭の痛い話をしているところだった。
「復旧しました!!!!」
部屋の中にいた者達は当然、唖然としていた。信じられぬような顔をしている者達が大半であった。すぐさま調査の者達が現地に派遣されることになる。
「壊れていた橋もすべて元通りに、いえ、もっと立派な橋になっています。橋だけではなく周辺の道も舗装されて」
駆け込んできた者は興奮したように話している。
「まるで、まるで魔法のようです!!」
(ウェイズリー……)
驚いて興奮している者達の間で、ユーリスは「ああ」とため息をついて額を片手で押さえた。
橋が復旧したと聞いてすぐに思い浮かんだのが、ウェイズリーが目の前で修復して見せた城の姿である。
そう、きっと昨夜ユーリスから話を聞いた黄金竜の雛ウェイズリーがやったことに間違いない。
あの竜の雛は、ユーリスのために懸命に働くのだ。
頼まれずとも、こうして、ユーリスの手助けをしようとしている。
部屋の中の者達の中には、ユーリスと同様、すぐさま、最近、修復された城のことに気が付いて、そのことを口にする者もいた。
一夜にして、美しい尖塔を備えた城が出現したことも、まるで魔法のような出来事であった。
“星弾”で大穴が開いた、破壊尽くされた城が、優美な城となって蘇ったのだ。
そして今度は落ちた橋が、復旧している。
ざわめく者達の間で、ユーリスは頭が痛そうな顔をしていた。
このレイヴン城に来てしばらくしてから、日々のクランの経理作業の実務の大部分については、経理担当兼冒険者のイルムに任せるよう、副クラン長フィアから命じられた。その代わりに何をユーリスが担うことになったのかというと。
「ユーリス、本当にシルヴェスターが君を連れてきてくれて良かった。君はわがクランの希望の星、いや、それどころではない、この国の礎となる人だ!!」
そう言って、フィアはユーリスの肩を両手で掴む。決して逃がすまいというように、ギリギリと肩を握られて正直、痛い。
引きつった顔をするユーリスに言った。
「人材が足りないんだよ!!」
そう、この旧カリン王国の王以下の上位貴族達の大部分が、サトー王国の攻撃で命を落としている。国のトップがまるまるすげ代わるどころではなく、上位の者達がごっそりといなくなっているのだ。
旧カリン王国の国民達は、“竜の牙”のクラン長ダンカンが、この国をサトー王国から解放してくれたことを喜び、すんなりと王位に就くことを認めている。ダンカンとシルヴェスターは、今もなおサトー王国を旧カリン王国領から追い出そうと戦いに出ている一方で、レイヴン城に残された副クラン長フィアは、国の内政を担当しなければならなかった。元からクランの運営実務を担っていたフィアであったが、今度はその規模が国になっている。
カリン王国の中間・下位の役人達の多くが生き残っており、進んで協力してくれるが、それでも国の復興にかかる実務は山のようにあった。サトー王国が壊してしまった生活インフラの復旧までしなければならない。おまけに同時に、他の冒険者が褒賞として得ていた土地の買収も進めている。フィアだけでは回らないのは明らかであった。
そしてユーリスは有能だった。元から王立学園でもトップの成績で、父親のジャクセンの指示の元、家庭教師から数字のイロハを叩き込まれ、将来のバンクール商会を担うべく教育されてきた若者である。上に立つ者としての心構えもある。若輩の若者であったが、フィアは旧カリン王国の官僚たちにユーリスを紹介した。ユーリスはすぐさま彼らと共に働き始めた。
夜、仕事を終え、疲れて城の部屋に戻ると、窓辺のガラス戸をそっと手で押して、黄金竜の雛ウェイズリーが現れる。ウェイズリーはユーリスのそばに近寄ると、ユーリスの疲れを労わりながら、言うのだ。
「キュルキュルキューキュー(今日はどんな仕事をしたのだ)」
それで、ユーリスはお茶を淹れ、小さな黄金竜の雛を膝の上に乗せながら、今任せられている仕事のことを話す。ユーリスが任せられている仕事の幅は広い。ウェイズリーの開いた口に甘いクッキーを入れてやると、ウェイズリーは喜んでそれを食べながら、熱心にユーリスの話を聞いた。
こんな話を聞いても、竜の雛は面白くないだろうと思いながらも、促されるままにユーリスは話した。
「東の橋の復旧と、秋の納税台帳の精査だな。サトー軍が撤退の際、追撃をかわすために橋を落としていった。道も破壊されているから、それを復旧させないといけない」
「キュルルルル?(お前がやるのか?)」
「差配は私がすることになる。あと、イスフェラ皇国の方から使者が来る予定だ。その応対もフィアとやらないといけない」
クラン長ダンカンが、イスフェラ皇国から褒賞として受け取った旧カリン皇国の領土。同盟三か国がその建国を認めているが、隣国イスフェラ皇国が、今後も影響を及ぼしたいと考えているのは当然だろう。何かと内政にも口を出してくるかも知れないと、フィアは警戒していた。ダンカンとしては完全なる独立を目指していたが、イスフェラ皇国は援助という名で官僚を送り込んでくるかも知れない。
「キュルルゥ(そうか)」
ウェイズリーは少しばかり考え込む様子でいた。
ユーリスはウェイズリーの頭を優しく撫でる。
「大丈夫だ。何も問題ない」
ウェイズリーと一緒にいる時くらい、仕事の話はしたくない。
ウェイズリーはユーリスの手にその頭を擦りつける。
「キュウキュルルル」
甘く鳴きながらも、その金色の目は愛しい番の青年を見つめ、彼に課せられているであろう仕事を、なんとか軽くしてやらねばと密かに決意していたのだった。
そして翌日。
レイヴン城で、ユーリスが官僚たちと会議をしている最中、部屋の中へ駆け込んできた者がいた。
「大変です!!!!」
血相を変えて飛び込んできたため、サトー王国軍がまた攻め込んできたのではと青ざめる者達も多かったが、そうではなかった。
「東の、あの、カリン大橋が」
ちょうどその復旧について、地元の村人達に仕事を手配し、その給料をどうするかという頭の痛い話をしているところだった。
「復旧しました!!!!」
部屋の中にいた者達は当然、唖然としていた。信じられぬような顔をしている者達が大半であった。すぐさま調査の者達が現地に派遣されることになる。
「壊れていた橋もすべて元通りに、いえ、もっと立派な橋になっています。橋だけではなく周辺の道も舗装されて」
駆け込んできた者は興奮したように話している。
「まるで、まるで魔法のようです!!」
(ウェイズリー……)
驚いて興奮している者達の間で、ユーリスは「ああ」とため息をついて額を片手で押さえた。
橋が復旧したと聞いてすぐに思い浮かんだのが、ウェイズリーが目の前で修復して見せた城の姿である。
そう、きっと昨夜ユーリスから話を聞いた黄金竜の雛ウェイズリーがやったことに間違いない。
あの竜の雛は、ユーリスのために懸命に働くのだ。
頼まれずとも、こうして、ユーリスの手助けをしようとしている。
部屋の中の者達の中には、ユーリスと同様、すぐさま、最近、修復された城のことに気が付いて、そのことを口にする者もいた。
一夜にして、美しい尖塔を備えた城が出現したことも、まるで魔法のような出来事であった。
“星弾”で大穴が開いた、破壊尽くされた城が、優美な城となって蘇ったのだ。
そして今度は落ちた橋が、復旧している。
ざわめく者達の間で、ユーリスは頭が痛そうな顔をしていた。
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