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外伝 その王子と恋に落ちたら大変です  第四章 黄金竜の雛は愛しい番のためならば、全てを捧げる

第十三話 黄金竜の雛の助け(中)

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 本当は、ウェイズリーはこれから先もユーリスのことを出来るだけひっそりと影から見守るつもりだった。
 こうして出てくるつもりもなかった。
 でも、あまりにもユーリスが気落ちして、悲しみ沈んでいる様子を見ては、慰めないではいられない。

 ベランダの隅から、おずおずと姿を見せた黄金竜の雛ウェイズリーを見て、ユーリスはパッと顔を輝かせた。

「ウェイズリー」

 そう言って、すぐさまウェイズリーに近寄って、抱き上げる。

「また会いに来てくれたのかい」

「キュルキュルキュルルルルル」

 ウェイズリーは甘く鳴いて、ユーリスの胸元に身をすり寄せる。
 前回会った時、ウェイズリーは人の男の姿に変わって、ユーリスを押し倒した。そしてその不実を責めた。でも今は、あえてウェイズリーはそのことに触れず、そしてまたユーリスも、そのことを口にしなかった。口にすれば、ウェイズリーもユーリスも、今のこの上っ面だけのものに近い、平穏な時が壊れてしまうことが分かっていたからだ。

「……久しぶりだ、ウェイズリー。元気にしていたかい」

「キュルキュルキュルルルキルル(勿論だよ、大好きなユーリス)」

 甘えて鳴いたウェイズリーは、ユーリスの腕の中で、ユーリスを見上げて尋ねた。

「キュルキュルルルルルルルキュルル(お前は元気がなさそうだ。どうしたんだい)」

 そう小さな黄金竜は、愛しい番の青年に尋ねたのだった。
 だから、ユーリスは話した。

「私の故郷の王都の街が、魔族の襲撃を受けて壊されたと聞いたんだ。国にいる家族のことが心配で」

「キュウゥ……」

 ウェイズリーは同情を込めて、ユーリスの顔を見上げる。

「キュルルルキュルキュル(お前は家族が心配なのか。家族に会いに行きたいのか)」

「会いに行きたい。でも、国へ戻るには遠すぎる」

 眉を寄せ、悲しそうな様子のユーリスに、ウェイズリーは朗らかに鳴いて声を上げた。

「キュルキュルキルルルルルル(なら、私がお前を連れていってやろう。一瞬で連れていけるぞ)」

 そうあっさりとウェイズリーは言ったのだった。




「………………一瞬?」

 聞き返すユーリスに、ウェイズリーはコクリと頷いた。

「キュルキュルキルルル、キュルルルルキル(一瞬だ。言っただろう、私は黄金竜だ。この世で不可能なことはない)」

 そう言うと、ウェイズリーはベランダで大きく成長した姿に変えた。人一人がその背に乗れるほどの、馬ほどの大きさである。なんとかベランダのスペースに留まっているという様子だ。

「キュルキュルルルル(私の背に乗ってくれ)」

 半信半疑ながら、ユーリスはウェイズリーの背に跨った。
 ウェイズリーはふわりと空へと舞い上がり、しばらくの間、星の瞬く空を飛んだ後、一瞬で“転移”したのだった。




 ユーリスは、肌に触れる空気の違いをすぐに感じた。
 大陸の遥か西方の国々と、北方のラウデシア王国は気候が違う。気温も違う。
 ラウデシアの気温は低く、王都の周りの森の植物の植生も違っていた。

 ユーリスはウェイズリーの竜の首をぎゅっと掴んだ。
 ウェイズリーは空を旋回するように飛ぶ。

「ありがとう、ウェイズリー」

 眼前に広がる夜の都の光景は、懐かしいラウデシア王国のものだった。
 ユーリスの指示で、ウェイズリーはバンクールの屋敷の前に到着した。幸いなことに、夜も遅く道には人気も無かったことで、誰にも見られてはいない。
 音もなく舞い降りたウェイズリーは、すぐさま今度は小さな竜に姿を変え、ユーリスの胸元に入りたがる。だからユーリスはウェイズリーの小さな身体を胸元に入れた。ウェイズリーは久しぶりに嗅ぐ番の肌の匂いと、その温かさに陶然としたような表情をしていた。

 そしてバンクールの屋敷前まで来て、今更ながらユーリスは気が付いた。
 自分が裸足で、寝間着姿であることに。





「……服を魔法で変えられるかな」

「キュルル!!(勿論!!)」

 そう短く鳴くと、ウェイズリーはユーリスの服を、いつも彼が着ているようなシンプルな服装に変えてくれる。シャツにズボン、ちゃんと上着や靴まで魔法で用意してくれたことに、ユーリスは礼を言った。

 それから、訪問するには夜遅くの時間であることを、内心はまずいと思いながらも、ユーリスはバンクールの屋敷の前にある鉄扉を開き(鍵はウェイズリーが開錠してくれた)、足を進める。門を過ぎたところにある詰め所から、警護の者がやって来るが、訪問者がユーリスであることを知ると、驚いていた。
 慌てて警護の一人が屋敷の玄関の方へ走っていく。

 やがて屋敷中の明りが点けられ、ユーリスが屋敷の扉の前に立った時には、その扉の方から開かれた。
 開いた扉の先には、ユーリスそっくりの父親ジャクセンが、母親のイレーヌと共に立っている。
 慌てていたのだろうか。二人とも寝間着にガウン姿であった。

 イレーヌはユーリスを見るやすぐさま抱きつく。ジャクセンは微笑みながら言った。

「おかえり、ユーリス」

 それで、ユーリスは家族の無事を知り、深く安堵の笑みを浮かべて言った。

「ただ今戻りました、父上、母上」
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