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外伝 その王子と恋に落ちたら大変です 第三章 再びの出会い
第十八話 夢(下)
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「一人で創った?」
思わずユーリスは、オウム返しに尋ねていた。
それに、“始祖の王”カルヴァン=ベルリガードは頷いた。
「黄金竜は創造の力を振るうことが出来る。だからこそ、“神の高み”に至った竜と呼ばれるのだ。マルヴェリーナは私との間に子を作ることを強く望んでいた」
そう、彼女は狂ったかのようにそれを望んでいた。
何度も孵ることのない空っぽの卵まで産み落としていた。
そしてその度に、少しずつ彼女は壊れていった。
「もうやめよ」と止める“始祖の王”に彼女は黄金色の瞳でじっと見つめてこう言った。
「貴方はわたくしよりも先に逝くのに、貴方はわたくしに何一つ残していかないのですもの」
他の妃達は、“始祖の王”の子を孕んだのに、竜の女王は何一つ得ることが出来なかった。
カルヴァンは、竜の女王や竜達が、己の子孫に手出しをしないように“黄金竜の加護”を彼女にかけさせた。愛おしさと憎しみで、女王の胸は煮え滾っていた。そのドロドロとした想いは、彼女を長い間苦しめた。
「それで創ったのですね」
「ああ。だが、それは私との間に生まれた卵ではない。彼女が、彼女自身の血肉で創り上げた卵だった」
「…………」
あの可愛らしい黄金色の竜に、そんな生誕までの背景があるとは思ってもみなかった。母親だけで、卵を産むことが出来るなんて……。いや、“始祖の王”は卵を産んだのではなく、創ったと言っていた。ウェイズリーは産まれたのではなく創られたのだ。
あの地下の王宮の中で、竜の女王は自らの手で、卵に入ったウェイズリーを創った。
「カルヴァンは、ひどい男なのですよ。この男はわたくしのウェイズリーを滅しようとしているの」
口を噤んでいた竜の女王マルヴェリータはそう言って口を開いた。
カルヴァンはまたあの玉座のような立派な椅子に座り、肘をついてじっとマルヴェリータの言葉を聞いていた。
「わたくしのウェイズリーに呪いをかけて、番が迎えに来るまで王宮から出ることを許さないとしたの」
「…………」
だからウェイズリーは、ユーリスと出会った時に「ずっとユーリスが来るのを、待っていた」「地下の扉を番がくぐらないと、ついていくことも出来なかった」と話していたのだ。“始祖の王”は何らかの呪いでウェイズリーを地下遺跡に縛りつけていたのだ。
「何故、ウェイズリーを外に出さないようにしたのですか?」
「アレはおかしいだろう。卵から孵った時からおかしいとは思わなかったか。強固な意識を持っており、無邪気で残酷で、そして番に狂っている。竜というのは皆、番に狂うものだが」
そのカルヴァンの言葉に、ギリリとまた竜の女王マルヴェリータが歯を軋らせ、黄金色の瞳を怒らせていた。
「アレは人間に害をもたらす。もうすでに随分とおかしくさせているがな」
「ウェイズリーは、悪さはしていません」
ユーリスはそう答える。
先日、護衛のゲランを殺そうとしたが、あれもユーリスが制止し、強く叱ることで止められた。
きちんと自分の口から言い聞かせれば、ウェイズリーはちゃんと止めてくれる。学習する。
「番であるそなたがストッパーになっているからであろう。竜は番のためならば何でもするぞ。何でも番の望みを叶えようとする」
『言ってくれ、ユーリス。お前が望むなら、何でも私はお前の為に手に入れてみせる。どんなものでもいい』
確かにウェイズリーはそんなことを口にしていた。
何も望みはないと告げると、彼はしょんぼりとしていたが。
「私は王座を望み、この国を作った。マルヴェリータが私に尽くし、私の望みを叶えてくれた。素晴らしい竜の女王だ」
そう言ってカルヴァンが竜の女王マルヴェリータに笑いかけ、片手を差し出すと、すぐさまマルヴェリータはその手を取った。そしてその手に頬ずりをする。
その様子は、黄金竜の雛ウェイズリーがよくする仕草に、よく似ていた。
「ウェイズリーの番よ。そなたが望むものをウェイズリーは全て叶えようとするだろう。だが、ウェイズリーはそなたに望むはずだ」
ユーリスが、「何を?」と問いかける視線を向けると、カルヴァンの手に頬ずりしていたマルヴェリータが嗤った。
「わたくしと同じもの。番との愛の結晶。そう、卵を」
卵を望むでしょう。
そして唐突に、夢が醒めたのだった。
思わずユーリスは、オウム返しに尋ねていた。
それに、“始祖の王”カルヴァン=ベルリガードは頷いた。
「黄金竜は創造の力を振るうことが出来る。だからこそ、“神の高み”に至った竜と呼ばれるのだ。マルヴェリーナは私との間に子を作ることを強く望んでいた」
そう、彼女は狂ったかのようにそれを望んでいた。
何度も孵ることのない空っぽの卵まで産み落としていた。
そしてその度に、少しずつ彼女は壊れていった。
「もうやめよ」と止める“始祖の王”に彼女は黄金色の瞳でじっと見つめてこう言った。
「貴方はわたくしよりも先に逝くのに、貴方はわたくしに何一つ残していかないのですもの」
他の妃達は、“始祖の王”の子を孕んだのに、竜の女王は何一つ得ることが出来なかった。
カルヴァンは、竜の女王や竜達が、己の子孫に手出しをしないように“黄金竜の加護”を彼女にかけさせた。愛おしさと憎しみで、女王の胸は煮え滾っていた。そのドロドロとした想いは、彼女を長い間苦しめた。
「それで創ったのですね」
「ああ。だが、それは私との間に生まれた卵ではない。彼女が、彼女自身の血肉で創り上げた卵だった」
「…………」
あの可愛らしい黄金色の竜に、そんな生誕までの背景があるとは思ってもみなかった。母親だけで、卵を産むことが出来るなんて……。いや、“始祖の王”は卵を産んだのではなく、創ったと言っていた。ウェイズリーは産まれたのではなく創られたのだ。
あの地下の王宮の中で、竜の女王は自らの手で、卵に入ったウェイズリーを創った。
「カルヴァンは、ひどい男なのですよ。この男はわたくしのウェイズリーを滅しようとしているの」
口を噤んでいた竜の女王マルヴェリータはそう言って口を開いた。
カルヴァンはまたあの玉座のような立派な椅子に座り、肘をついてじっとマルヴェリータの言葉を聞いていた。
「わたくしのウェイズリーに呪いをかけて、番が迎えに来るまで王宮から出ることを許さないとしたの」
「…………」
だからウェイズリーは、ユーリスと出会った時に「ずっとユーリスが来るのを、待っていた」「地下の扉を番がくぐらないと、ついていくことも出来なかった」と話していたのだ。“始祖の王”は何らかの呪いでウェイズリーを地下遺跡に縛りつけていたのだ。
「何故、ウェイズリーを外に出さないようにしたのですか?」
「アレはおかしいだろう。卵から孵った時からおかしいとは思わなかったか。強固な意識を持っており、無邪気で残酷で、そして番に狂っている。竜というのは皆、番に狂うものだが」
そのカルヴァンの言葉に、ギリリとまた竜の女王マルヴェリータが歯を軋らせ、黄金色の瞳を怒らせていた。
「アレは人間に害をもたらす。もうすでに随分とおかしくさせているがな」
「ウェイズリーは、悪さはしていません」
ユーリスはそう答える。
先日、護衛のゲランを殺そうとしたが、あれもユーリスが制止し、強く叱ることで止められた。
きちんと自分の口から言い聞かせれば、ウェイズリーはちゃんと止めてくれる。学習する。
「番であるそなたがストッパーになっているからであろう。竜は番のためならば何でもするぞ。何でも番の望みを叶えようとする」
『言ってくれ、ユーリス。お前が望むなら、何でも私はお前の為に手に入れてみせる。どんなものでもいい』
確かにウェイズリーはそんなことを口にしていた。
何も望みはないと告げると、彼はしょんぼりとしていたが。
「私は王座を望み、この国を作った。マルヴェリータが私に尽くし、私の望みを叶えてくれた。素晴らしい竜の女王だ」
そう言ってカルヴァンが竜の女王マルヴェリータに笑いかけ、片手を差し出すと、すぐさまマルヴェリータはその手を取った。そしてその手に頬ずりをする。
その様子は、黄金竜の雛ウェイズリーがよくする仕草に、よく似ていた。
「ウェイズリーの番よ。そなたが望むものをウェイズリーは全て叶えようとするだろう。だが、ウェイズリーはそなたに望むはずだ」
ユーリスが、「何を?」と問いかける視線を向けると、カルヴァンの手に頬ずりしていたマルヴェリータが嗤った。
「わたくしと同じもの。番との愛の結晶。そう、卵を」
卵を望むでしょう。
そして唐突に、夢が醒めたのだった。
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