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外伝 その王子と恋に落ちたら大変です 第二章 黄金竜の雛の番
第十三話 金色の芽
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それからユーリスは、翌日出立することを止めて、一週間ほど王都のバンクールの屋敷で過ごすことにした。
その間、母や妹達と買い物へ出かけたり、観劇に出かけたり、妹達の望むままに出かけた。彼女達を甘やかせた。
そして父と、ゆっくりと色々な話をした。
今まで父とは交わしたことがなかった話もした。
父や母から、彼らの結婚までの出会いの話も聞いた。
妹達は興味津々で、身を乗り出して聞いていた。
妹二人にはすでに両親が決めた婚約者がいて、彼女達はそのことに疑問を抱いていないようだった。
婚約者のことは、すでに好きになっているようだった。
妹達は言った。
「お兄様、私達の結婚式には絶対に出席して下さいね」
「約束して下さいね」
そうユーリスの目をじっと見つめて言われると、彼は頷くしかなかった。
「分かった。その時はまた帰って来る」
その言葉を聞いて、父も母もどこかホッとした様子を見せていた。
夜になると、自室で一人、ユーリスは自分の懐の中の、布袋の中で丸くなっていた小さな金色の竜を取り出す。日中、ずっと狭い袋の中に閉じ込めている小さな竜を気遣い、夜には自由にさせていたが、ウェイズリーは袋から取り出しても、必ずユーリスの胸にしがみついてくる。
大好きと言わんばかりに、小さな金色の頭をぐりぐりと押し付けてくるのだ。
食事は合間合間で見つからないように、ウェイズリーに食べさせていた。ウェイズリーはとにかく、ユーリスのすること為すことに、全て喜びの声を上げて受け入れていた。
「ウェイズリー、私は国に帰ってきて良かったと思う」
「キュイキュイキュルルルル」
小さな竜は身を押し付けるようにして甘く鳴く。
「父や母、妹達といろいろと話すことが出来た。良かったと思う」
わだかまりも少し消えた気がする。
完全にわだかまりが消えることは難しいと思うけれど、父との大きかった距離も少し縮まった。
「それに、ウェイズリー、君と出会えて良かったと思う」
この小さな金色の竜の可愛らしさに心が慰められることも多かった。いつも一緒にいたがる小さな竜。全面的に愛情を示すウェイズリー。
ウェイズリーはユーリスの言葉に飛び上がって喜んでいた。
そしてユーリスの胸にしがみついて這い上がったかと思うと、その小さな竜は口を突き出してユーリスの唇に口づけたのだ。チュッと音をさせて口付けたものだから、ユーリスは声を上げて笑ってしまった。
「ウェイズリー、君は赤ちゃんの癖に、そういうことを知っているのか」
ユーリスが笑うと、少しだけ気分を害したようにウェイズリーはピシピシと尻尾で寝台の上を叩いていた。そして「キュルキュルキルルルル!!」と鳴いている。
「んー、何でも知っているというの?」
寝台の上でゴロリと横になるユーリス。その横に座り、ウェイズリーは頷いていた。
「キュイキュイキルルルルルル」
「んー、早口で話されるとよく分からないな。早く君の言葉が分かるといいのだけど」
「キュルキュルルルルルルル」
ユーリスがウェイズリーが一生懸命声を上げて鳴いている横で、小さな黄金竜の頭を優しく撫でている時に、気が付いた。
「キュイ」
そう可愛らしく鳴いている黄金色の小さな竜の足元、寝台の白いシーツの上に、親指程の長さの金色の小さな芽が出ていることに。
「…………」
これは芽だろうか。よく分からないが、キラキラと金色に輝く、先端がくるりと巻いた芽だった。びっくりしてユーリスがその金色の芽に触れると、それはパッと光の粉を撒き散らしながら四散して消えた。
見れば、シーツには穴の一つも空いていない。
そして何もなかったように消えていた。
「アレはいったい何なのかな」
ウェイズリーに尋ねると、ウェイズリーは一生懸命に説明しようと「キュイキュイキルキルキルルルキルキル」と鳴いて話していたが、ウェイズリーの鳴き声がユーリスには理解できなかった。
「アレは君のせいなの?」
そう尋ねると、ウェイズリーは頷いた。
「キュイキュイ」
「そうなんだ」
あの金色の芽がウェイズリーによるものだと、小さな金色の竜は認めている。
でもあれが何なのか分からない。小さな竜が説明しても、鳴き声では分からない。
「早く、君の言葉が分かるといいんだけどな」
そう言って、ユーリスはウェイズリーの頭を優しく撫でると、ウェイズリーは「キュイキュイ」と鳴いて同意していた。
そしてその夜、ユーリスがウェイズリーを枕元に置いて眠っていると、ウェイズリーは暗闇の中ムクリと起き上がった。その金色の美しい瞳は闇の中でも輝いている。
「キュー」
愛しい番の若者の顔をじっと見つめた後、ウェイズリーは「キュイキュイ」と鳴いた。
ユーリスの横になる寝台の上から、あの金色の芽が、四、五本、頭をもたげて生えてきた。先端がくるりと巻いた細い芽である。
それはムクムクと伸びた後、ユーリスの身に触れ、そして溶けるように消える。全ての芽がそうやって消えた後、ウェイズリーは満足そうに「キュウゥ」と鳴いて声を上げ、再びユーリスの枕許に丸くなって眠ったのだった。
その翌朝、ユーリスはウェイズリーの声で目を覚ました。
「キュウキュウ(おはよう)」
ユーリスはパチリと青い目を開く。
「キュウキュウキュルルルル(今日もユーリスが可愛い。大好きだ)」
そんな甘い言葉を吐いている金色の小さな竜の雛を、ユーリスは呆然と見つめていた。
「キュルルルルキュルキュル(まだ眠いの? ユーリス)」
「いや、もう目が覚めたよ」
「キュルルルキュルキュルルル(そうなんだ。ユーリスはびっくりしたのか?)」
「……ああ、君の言葉が突然分かるようになったから。びっくりしている」
「キュルキュルキュルルキュルキュルルル(私が大好きだから、ユーリスも言葉がわかるようになったんだ)」
その理由は腑に落ちなかったが、ユーリスはとにかく起き上がった。そしてユーリスが身を起こすと同時に、小さな竜はパタパタと飛んで、ユーリスの胸に飛びつくと、昨日と同じようにユーリスの唇にチュッと口づけた。
「………………」
小さな竜の行為に、ユーリスが少しばかり呆然としていると、ウェイズリーはこう言った。
「キュウキュウキルルル(おはようのキスだよ)」
その言葉に、ユーリスはまた寝台の上に横になった。
一体この小さな黄金竜の雛は、そんな言葉と行為をどこで知ったのだろうか。
生まれたばかりの雛であるはずなのに、「おはようのキスだよ」はないだろう。
そこに、食事の支度が出来たことを告げるノックがされたため、ユーリスは慌てて起き上がり、着替えを始めた。ユーリスが着ようとする服を、ウェイズリーは飛びながら運んできてくれる。
そして着替え終わったユーリスを見て、ウェイズリーは満足そうにこう言う。
「キュルキュルキューキューキュー(私の番は本当に可愛くて素敵だ)」
その言葉に、ユーリスは頬を赤く染め、ウェイズリーに言った。
「部屋で留守番をするかい」
「キューーーーー!!(嫌だ!!)」
ユーリスは胸元に布袋を下げ、その袋の中にウェイズリーは丸くなって収まった。
大き目の上着を着てしまえば、外からは分からない。
布袋の中で、ユーリスと密着しているウェイズリーはこの上なく嬉しそうだった。
その間、母や妹達と買い物へ出かけたり、観劇に出かけたり、妹達の望むままに出かけた。彼女達を甘やかせた。
そして父と、ゆっくりと色々な話をした。
今まで父とは交わしたことがなかった話もした。
父や母から、彼らの結婚までの出会いの話も聞いた。
妹達は興味津々で、身を乗り出して聞いていた。
妹二人にはすでに両親が決めた婚約者がいて、彼女達はそのことに疑問を抱いていないようだった。
婚約者のことは、すでに好きになっているようだった。
妹達は言った。
「お兄様、私達の結婚式には絶対に出席して下さいね」
「約束して下さいね」
そうユーリスの目をじっと見つめて言われると、彼は頷くしかなかった。
「分かった。その時はまた帰って来る」
その言葉を聞いて、父も母もどこかホッとした様子を見せていた。
夜になると、自室で一人、ユーリスは自分の懐の中の、布袋の中で丸くなっていた小さな金色の竜を取り出す。日中、ずっと狭い袋の中に閉じ込めている小さな竜を気遣い、夜には自由にさせていたが、ウェイズリーは袋から取り出しても、必ずユーリスの胸にしがみついてくる。
大好きと言わんばかりに、小さな金色の頭をぐりぐりと押し付けてくるのだ。
食事は合間合間で見つからないように、ウェイズリーに食べさせていた。ウェイズリーはとにかく、ユーリスのすること為すことに、全て喜びの声を上げて受け入れていた。
「ウェイズリー、私は国に帰ってきて良かったと思う」
「キュイキュイキュルルルル」
小さな竜は身を押し付けるようにして甘く鳴く。
「父や母、妹達といろいろと話すことが出来た。良かったと思う」
わだかまりも少し消えた気がする。
完全にわだかまりが消えることは難しいと思うけれど、父との大きかった距離も少し縮まった。
「それに、ウェイズリー、君と出会えて良かったと思う」
この小さな金色の竜の可愛らしさに心が慰められることも多かった。いつも一緒にいたがる小さな竜。全面的に愛情を示すウェイズリー。
ウェイズリーはユーリスの言葉に飛び上がって喜んでいた。
そしてユーリスの胸にしがみついて這い上がったかと思うと、その小さな竜は口を突き出してユーリスの唇に口づけたのだ。チュッと音をさせて口付けたものだから、ユーリスは声を上げて笑ってしまった。
「ウェイズリー、君は赤ちゃんの癖に、そういうことを知っているのか」
ユーリスが笑うと、少しだけ気分を害したようにウェイズリーはピシピシと尻尾で寝台の上を叩いていた。そして「キュルキュルキルルルル!!」と鳴いている。
「んー、何でも知っているというの?」
寝台の上でゴロリと横になるユーリス。その横に座り、ウェイズリーは頷いていた。
「キュイキュイキルルルルルル」
「んー、早口で話されるとよく分からないな。早く君の言葉が分かるといいのだけど」
「キュルキュルルルルルルル」
ユーリスがウェイズリーが一生懸命声を上げて鳴いている横で、小さな黄金竜の頭を優しく撫でている時に、気が付いた。
「キュイ」
そう可愛らしく鳴いている黄金色の小さな竜の足元、寝台の白いシーツの上に、親指程の長さの金色の小さな芽が出ていることに。
「…………」
これは芽だろうか。よく分からないが、キラキラと金色に輝く、先端がくるりと巻いた芽だった。びっくりしてユーリスがその金色の芽に触れると、それはパッと光の粉を撒き散らしながら四散して消えた。
見れば、シーツには穴の一つも空いていない。
そして何もなかったように消えていた。
「アレはいったい何なのかな」
ウェイズリーに尋ねると、ウェイズリーは一生懸命に説明しようと「キュイキュイキルキルキルルルキルキル」と鳴いて話していたが、ウェイズリーの鳴き声がユーリスには理解できなかった。
「アレは君のせいなの?」
そう尋ねると、ウェイズリーは頷いた。
「キュイキュイ」
「そうなんだ」
あの金色の芽がウェイズリーによるものだと、小さな金色の竜は認めている。
でもあれが何なのか分からない。小さな竜が説明しても、鳴き声では分からない。
「早く、君の言葉が分かるといいんだけどな」
そう言って、ユーリスはウェイズリーの頭を優しく撫でると、ウェイズリーは「キュイキュイ」と鳴いて同意していた。
そしてその夜、ユーリスがウェイズリーを枕元に置いて眠っていると、ウェイズリーは暗闇の中ムクリと起き上がった。その金色の美しい瞳は闇の中でも輝いている。
「キュー」
愛しい番の若者の顔をじっと見つめた後、ウェイズリーは「キュイキュイ」と鳴いた。
ユーリスの横になる寝台の上から、あの金色の芽が、四、五本、頭をもたげて生えてきた。先端がくるりと巻いた細い芽である。
それはムクムクと伸びた後、ユーリスの身に触れ、そして溶けるように消える。全ての芽がそうやって消えた後、ウェイズリーは満足そうに「キュウゥ」と鳴いて声を上げ、再びユーリスの枕許に丸くなって眠ったのだった。
その翌朝、ユーリスはウェイズリーの声で目を覚ました。
「キュウキュウ(おはよう)」
ユーリスはパチリと青い目を開く。
「キュウキュウキュルルルル(今日もユーリスが可愛い。大好きだ)」
そんな甘い言葉を吐いている金色の小さな竜の雛を、ユーリスは呆然と見つめていた。
「キュルルルルキュルキュル(まだ眠いの? ユーリス)」
「いや、もう目が覚めたよ」
「キュルルルキュルキュルルル(そうなんだ。ユーリスはびっくりしたのか?)」
「……ああ、君の言葉が突然分かるようになったから。びっくりしている」
「キュルキュルキュルルキュルキュルルル(私が大好きだから、ユーリスも言葉がわかるようになったんだ)」
その理由は腑に落ちなかったが、ユーリスはとにかく起き上がった。そしてユーリスが身を起こすと同時に、小さな竜はパタパタと飛んで、ユーリスの胸に飛びつくと、昨日と同じようにユーリスの唇にチュッと口づけた。
「………………」
小さな竜の行為に、ユーリスが少しばかり呆然としていると、ウェイズリーはこう言った。
「キュウキュウキルルル(おはようのキスだよ)」
その言葉に、ユーリスはまた寝台の上に横になった。
一体この小さな黄金竜の雛は、そんな言葉と行為をどこで知ったのだろうか。
生まれたばかりの雛であるはずなのに、「おはようのキスだよ」はないだろう。
そこに、食事の支度が出来たことを告げるノックがされたため、ユーリスは慌てて起き上がり、着替えを始めた。ユーリスが着ようとする服を、ウェイズリーは飛びながら運んできてくれる。
そして着替え終わったユーリスを見て、ウェイズリーは満足そうにこう言う。
「キュルキュルキューキューキュー(私の番は本当に可愛くて素敵だ)」
その言葉に、ユーリスは頬を赤く染め、ウェイズリーに言った。
「部屋で留守番をするかい」
「キューーーーー!!(嫌だ!!)」
ユーリスは胸元に布袋を下げ、その袋の中にウェイズリーは丸くなって収まった。
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