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外伝 その王子と恋に落ちたら大変です 第一章 五番目の王子との学園時代
第二十一話 王子は悩む
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春休みの間、ユーリスは一度として実家に帰ることなく学園の寮で過ごした。
父や母にどんな顔をして会えばいいのか分からなかったし、良い解決策も見つからなかった。
シルヴェスターは、自分がユーリスと結ばれるためには、今自分に出来ることを努力してやっていくしかないと考えていた。
幸いにも、冒険者のダンカンに目を掛けられている。そしてダンカンも、シルヴェスターが非常に優秀であることを認めていた。このまま成長すれば、ひとかどの冒険者になることが出来るだろうとお墨付きをもらっている。
上位の冒険者になり、功績を挙げれば、爵位を得ることもできる。そうなれば、ユーリスと大手を振って結ばれることもできる。時間はかかるが、それが一番確実な方法であった。
ただ、ダンカンは気になることを言っていた。
「この王国で、お前が名を挙げるのはキツイかも知れない」
「それはどういうことなんだ」
シルヴェスターが尋ねると、ダンカンの隣に座り、副クラン長を務めるフィアがあっさりと言った。
「簡単だよ。シルヴェスターが王子だからだ」
シルヴェスターはダンカンのクランに出入りしている内に、クランの冒険者達と気安く話す仲になっていた。ここでは五番目の王子として扱われることはない。ただのシルヴェスターである。最初のうちは、不敬ではないかと、戸惑ったような対応をする者も多かったが、クラン長であるダンカンが、シルヴェスターを率先して呼び捨てにしており、シルヴェスターはそれを許している。あっという間に、皆、この綺麗な顔立ちをした腕の良い少年を可愛がるようになっていた。
「お前が、王妃に目を付けられていることは知っている。そんなお前がどんなに功績を挙げようと、王妃はそれを認めないだろうね」
フィアは細かな三つ編みをした自分の黒髪を指でくるくると巻き付けていた。
「……………」
どこまでもまるで呪いのように自分の王子という身分が、そして王妃が彼を潰そうとしている。
「一番簡単なのは、前にもダンカンが言っただろう? 王子である身分を捨て、外国へ行くことだね。お前は、ユーリスとかいう、バンクール商会のお坊ちゃんのことが好きなんだろう?」
そんなことまで話したのかと、シルヴェスターがダンカンを睨みつけると、ダンカンは両手を挙げた。
「フィアにしか話してはいない」
「私がせがんだんだよ。シルヴェスターがどうして、外国へ行こうとしないのか分からなかったからね。まさかバンクール商会のお坊ちゃんと恋に落ちているとは思いもしなかった。彼がいるから、この国に留まっているのだろう? 彼がいなければとっくにこの国から出ていた」
「…………………そうだ」
シルヴェスターは頬を赤く染め、それを肯定した。
ユーリスがいるから、学園に通っていられる。あの学園の寮に戻れば、彼がいる。彼がいるから、自分はこの国にいる。彼がいなければ、とっくにこの国を出ていた。ダンカンと共に、外国で冒険者になって、王子の身分なんて放り投げていた。何のメリットもない身分だった。
「なら、どうしてそのお坊ちゃんも連れていかないのさ。それが一番いいと私は思うよ。手に手を取って外国へ逃飛行さ」
「……………………フィア、そんなに簡単に行くわけがない。バンクール商会だぞ」
ダンカンはため息混じりでそう言うと、「ああ、追手をかけてくるか。ただの恋人じゃあないというわけか」とフィアは今更ながらそのことに気が付いた。
王国でも有数の商会であるバンクール商会。その商会長の溺愛する息子である。
決して、駆け落ちなど許さないだろう。
追手がかかることは間違いない。
「頑張れば逃げ切れるんじゃないか? ずっと最果てまで逃げるんだよ。今なら、西の方は戦争もあって大混乱しているさ。そんな中なら逃げ切れる」
西方地域で長い間戦争が続いていることは知っていた。この大陸の統一を目指す国が、周辺国をたちまち併合していっているのだ。
そんな中に、箱入りのユーリスを連れていけるわけがない。
シルヴェスターが黙り込み、そしてどこか苦し気な表情でいることにダンカンは気が付いて、彼の頭に手をやった。
「シルヴェスター、きっと何とかなるさ」
それが気休めの言葉であることは、部屋の中にいた者は皆、分かっていた。
父や母にどんな顔をして会えばいいのか分からなかったし、良い解決策も見つからなかった。
シルヴェスターは、自分がユーリスと結ばれるためには、今自分に出来ることを努力してやっていくしかないと考えていた。
幸いにも、冒険者のダンカンに目を掛けられている。そしてダンカンも、シルヴェスターが非常に優秀であることを認めていた。このまま成長すれば、ひとかどの冒険者になることが出来るだろうとお墨付きをもらっている。
上位の冒険者になり、功績を挙げれば、爵位を得ることもできる。そうなれば、ユーリスと大手を振って結ばれることもできる。時間はかかるが、それが一番確実な方法であった。
ただ、ダンカンは気になることを言っていた。
「この王国で、お前が名を挙げるのはキツイかも知れない」
「それはどういうことなんだ」
シルヴェスターが尋ねると、ダンカンの隣に座り、副クラン長を務めるフィアがあっさりと言った。
「簡単だよ。シルヴェスターが王子だからだ」
シルヴェスターはダンカンのクランに出入りしている内に、クランの冒険者達と気安く話す仲になっていた。ここでは五番目の王子として扱われることはない。ただのシルヴェスターである。最初のうちは、不敬ではないかと、戸惑ったような対応をする者も多かったが、クラン長であるダンカンが、シルヴェスターを率先して呼び捨てにしており、シルヴェスターはそれを許している。あっという間に、皆、この綺麗な顔立ちをした腕の良い少年を可愛がるようになっていた。
「お前が、王妃に目を付けられていることは知っている。そんなお前がどんなに功績を挙げようと、王妃はそれを認めないだろうね」
フィアは細かな三つ編みをした自分の黒髪を指でくるくると巻き付けていた。
「……………」
どこまでもまるで呪いのように自分の王子という身分が、そして王妃が彼を潰そうとしている。
「一番簡単なのは、前にもダンカンが言っただろう? 王子である身分を捨て、外国へ行くことだね。お前は、ユーリスとかいう、バンクール商会のお坊ちゃんのことが好きなんだろう?」
そんなことまで話したのかと、シルヴェスターがダンカンを睨みつけると、ダンカンは両手を挙げた。
「フィアにしか話してはいない」
「私がせがんだんだよ。シルヴェスターがどうして、外国へ行こうとしないのか分からなかったからね。まさかバンクール商会のお坊ちゃんと恋に落ちているとは思いもしなかった。彼がいるから、この国に留まっているのだろう? 彼がいなければとっくにこの国から出ていた」
「…………………そうだ」
シルヴェスターは頬を赤く染め、それを肯定した。
ユーリスがいるから、学園に通っていられる。あの学園の寮に戻れば、彼がいる。彼がいるから、自分はこの国にいる。彼がいなければ、とっくにこの国を出ていた。ダンカンと共に、外国で冒険者になって、王子の身分なんて放り投げていた。何のメリットもない身分だった。
「なら、どうしてそのお坊ちゃんも連れていかないのさ。それが一番いいと私は思うよ。手に手を取って外国へ逃飛行さ」
「……………………フィア、そんなに簡単に行くわけがない。バンクール商会だぞ」
ダンカンはため息混じりでそう言うと、「ああ、追手をかけてくるか。ただの恋人じゃあないというわけか」とフィアは今更ながらそのことに気が付いた。
王国でも有数の商会であるバンクール商会。その商会長の溺愛する息子である。
決して、駆け落ちなど許さないだろう。
追手がかかることは間違いない。
「頑張れば逃げ切れるんじゃないか? ずっと最果てまで逃げるんだよ。今なら、西の方は戦争もあって大混乱しているさ。そんな中なら逃げ切れる」
西方地域で長い間戦争が続いていることは知っていた。この大陸の統一を目指す国が、周辺国をたちまち併合していっているのだ。
そんな中に、箱入りのユーリスを連れていけるわけがない。
シルヴェスターが黙り込み、そしてどこか苦し気な表情でいることにダンカンは気が付いて、彼の頭に手をやった。
「シルヴェスター、きっと何とかなるさ」
それが気休めの言葉であることは、部屋の中にいた者は皆、分かっていた。
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