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外伝 その王子と恋に落ちたら大変です 第一章 五番目の王子との学園時代
第十四話 王子はダンスを踊る
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ユーリスは大学の研究室に足を運び、遺跡の採掘にも参加するようになった。
十五歳のユーリスは、白百合のように美しく凛とした美貌を持っていた。大学の男達にも当然のように目を付けられていたが、それは常にそばについている従者のクラリオネが、うまくさばき、ユーリスを守っていた。
大学研究室の遺跡採掘にも参加している話は、父親であるジャクセンに報告されているはずだった。ユーリスの従者クラリオネは、父親が付けた護衛であるからだ。報告されてないはずがない。
しかしジャクセンは何も言ってこない。そのことに内心、ユーリスはホッと安堵する。
だが、同時にこうも思う。
自分は彼に与えられた籠の中で生きている。
上質なものばかり与えられてきたが、時に、息苦しさを感じる。
父親の掌の中で、一時の自由を与えられ綺麗な声を奏でながらも、その足には遠くまで逃げることを許さない足枷がはめられているような、そんな気がした。
だが、一時の自由の中であろうが、それでもユーリスの毎日は充実していた。
学園の授業も、単位を落とすことなく上位を維持している。
婚約者のアンジェラとの仲も良好で、友人のシルヴェスターといつも一緒に出掛けた。
大学の研究室の教授達にも可愛がられ、多くの論文を書き上げた。
この王国の学園では、中等部を卒業し、高等部へ入学する時に、卒業記念パーティが開催される。
高等部を卒業する時にも記念パーティは開催されるが、それは王宮で開催され、この日をもって一人前、大人と見なされる(中等部のパーティは学園の講堂で開催される)。
中等部卒業パーティは、高等部卒業時ほどではないが、それなりに盛大であった。ユーリスは、王立学園の姉妹校に在籍するアンジェラをパートナーとして卒業パーティに参加する予定だ。シルヴェスターのパートナーは、アンジェラの友人で、名をカレンという女性に依頼していた。
ユーリスとアンジェラ、シルヴェスターとカレンは頻繁に、ダンスの練習をしていた。
それは、アンジェラがダンス下手であったからだ。
卒業記念パーティの日が近づくにつれ、練習のために貸し出される講堂では、多くのペア達が放課後、足を運んで練習に勤しんでいた。アンジェラはユーリスに毎日のように特訓をせがんでいた。
ダンスの度に、ユーリスはアンジェラに足を踏まれ、ステップを間違えるアンジェラにやんわりとそれを教えている。勝気なアンジェラは、自分の手足が思うように動かないことが悔しくて、そして恥ずかしくて真っ赤になっている。
「アンジェラ、そんなに緊張しないでいいんだよ」
そう言うユーリスの前で、アンジェラは首を振る。
「ごめんなさい。私が下手で、ユーリスに恥をかかせてしまうわ」
「気にしなくていい」
ユーリスはアンジェラの額に口づけを落とす。
それから、いつものようにシルヴェスターに頼んだのだ。
「では、私が一度アンジェラのパートを踊ってみるから、それを見て覚えてくれ」
ユーリスは、男女の踊りのパートが全て完璧に頭の中に入っていた。最初の頃はシルヴェスターのパートナーカレンがシルヴェスターと一緒に踊って見せていたが、一度ユーリスが女性パートを踊った時、彼のその余りにも完璧なステップぶりに、今ではカレンが「踊って見せて下さいませ」とせがんでいる有様である。
身長はシルヴェスターの方が高く、体格も良い。ユーリスも身長はあったが、彼に比べると華奢ともいえる。腰は驚くほど細い。手足もスラリと長いユーリスは姿勢の良さもあって、スタイルが際立っていた。シルヴェスターとユーリスが手に手を取って踊り始めると、踊るのを止めて見入ってしまう者も多かった。
踊っている二人を見ていると、アンジェラは内心、悔しくはあったが、この二人の若者達がお似合いであることに気が付いていた。
長い間踊りのパートナーを務め合う夫婦でもこんなに息の合った踊りは見せられないだろう。完璧なステップを、余裕で見せてくれる。どんなに練習を積み重ねても、この二人の域には達せない。それをアンジェラは理解していた。
手を重ね、その肩に手を回し、ホールをくるくると回って見せる二人のうちの、金の髪のシルヴェスター王子は、どこか熱っぽい視線でユーリスを見ている。ユーリスは、その視線の熱さに気が付いているのだろうか。
屈託なく笑っているユーリスの様子を見るに、きっと彼は気が付いていない。
練習の甲斐もあり、卒業記念パーティのダンスは大きな間違いもせずに、アンジェラは終えることが出来た。
美しい水色のドレスを纏ったアンジェラを、ユーリスは完璧なエスコートをして見せてくれた。黒髪を撫でつけ、黒の礼装をまとったユーリスは誰の目をも奪う美しい若者で、卒業記念パーティに出席したアンジェラの両親も絶賛していた。
「アンジェラ、お前は果報者だぞ」
ユーリス=バンクールの婚約者であることを羨む娘達は多いだろう。その彼に早い段階から唾を付け、自分の娘の婚約者に据えたことは、アンジェラの両親達の自慢でもあった。
「ええ」
ダンスを終えたユーリスのそばに、シルヴェスター王子がひっそりと立つ。二人でふざけるようにグラスをぶつけて、ワインを口にしている仲の良い様子に、アンジェラは内心、嫉妬していた。
十五歳のユーリスは、白百合のように美しく凛とした美貌を持っていた。大学の男達にも当然のように目を付けられていたが、それは常にそばについている従者のクラリオネが、うまくさばき、ユーリスを守っていた。
大学研究室の遺跡採掘にも参加している話は、父親であるジャクセンに報告されているはずだった。ユーリスの従者クラリオネは、父親が付けた護衛であるからだ。報告されてないはずがない。
しかしジャクセンは何も言ってこない。そのことに内心、ユーリスはホッと安堵する。
だが、同時にこうも思う。
自分は彼に与えられた籠の中で生きている。
上質なものばかり与えられてきたが、時に、息苦しさを感じる。
父親の掌の中で、一時の自由を与えられ綺麗な声を奏でながらも、その足には遠くまで逃げることを許さない足枷がはめられているような、そんな気がした。
だが、一時の自由の中であろうが、それでもユーリスの毎日は充実していた。
学園の授業も、単位を落とすことなく上位を維持している。
婚約者のアンジェラとの仲も良好で、友人のシルヴェスターといつも一緒に出掛けた。
大学の研究室の教授達にも可愛がられ、多くの論文を書き上げた。
この王国の学園では、中等部を卒業し、高等部へ入学する時に、卒業記念パーティが開催される。
高等部を卒業する時にも記念パーティは開催されるが、それは王宮で開催され、この日をもって一人前、大人と見なされる(中等部のパーティは学園の講堂で開催される)。
中等部卒業パーティは、高等部卒業時ほどではないが、それなりに盛大であった。ユーリスは、王立学園の姉妹校に在籍するアンジェラをパートナーとして卒業パーティに参加する予定だ。シルヴェスターのパートナーは、アンジェラの友人で、名をカレンという女性に依頼していた。
ユーリスとアンジェラ、シルヴェスターとカレンは頻繁に、ダンスの練習をしていた。
それは、アンジェラがダンス下手であったからだ。
卒業記念パーティの日が近づくにつれ、練習のために貸し出される講堂では、多くのペア達が放課後、足を運んで練習に勤しんでいた。アンジェラはユーリスに毎日のように特訓をせがんでいた。
ダンスの度に、ユーリスはアンジェラに足を踏まれ、ステップを間違えるアンジェラにやんわりとそれを教えている。勝気なアンジェラは、自分の手足が思うように動かないことが悔しくて、そして恥ずかしくて真っ赤になっている。
「アンジェラ、そんなに緊張しないでいいんだよ」
そう言うユーリスの前で、アンジェラは首を振る。
「ごめんなさい。私が下手で、ユーリスに恥をかかせてしまうわ」
「気にしなくていい」
ユーリスはアンジェラの額に口づけを落とす。
それから、いつものようにシルヴェスターに頼んだのだ。
「では、私が一度アンジェラのパートを踊ってみるから、それを見て覚えてくれ」
ユーリスは、男女の踊りのパートが全て完璧に頭の中に入っていた。最初の頃はシルヴェスターのパートナーカレンがシルヴェスターと一緒に踊って見せていたが、一度ユーリスが女性パートを踊った時、彼のその余りにも完璧なステップぶりに、今ではカレンが「踊って見せて下さいませ」とせがんでいる有様である。
身長はシルヴェスターの方が高く、体格も良い。ユーリスも身長はあったが、彼に比べると華奢ともいえる。腰は驚くほど細い。手足もスラリと長いユーリスは姿勢の良さもあって、スタイルが際立っていた。シルヴェスターとユーリスが手に手を取って踊り始めると、踊るのを止めて見入ってしまう者も多かった。
踊っている二人を見ていると、アンジェラは内心、悔しくはあったが、この二人の若者達がお似合いであることに気が付いていた。
長い間踊りのパートナーを務め合う夫婦でもこんなに息の合った踊りは見せられないだろう。完璧なステップを、余裕で見せてくれる。どんなに練習を積み重ねても、この二人の域には達せない。それをアンジェラは理解していた。
手を重ね、その肩に手を回し、ホールをくるくると回って見せる二人のうちの、金の髪のシルヴェスター王子は、どこか熱っぽい視線でユーリスを見ている。ユーリスは、その視線の熱さに気が付いているのだろうか。
屈託なく笑っているユーリスの様子を見るに、きっと彼は気が付いていない。
練習の甲斐もあり、卒業記念パーティのダンスは大きな間違いもせずに、アンジェラは終えることが出来た。
美しい水色のドレスを纏ったアンジェラを、ユーリスは完璧なエスコートをして見せてくれた。黒髪を撫でつけ、黒の礼装をまとったユーリスは誰の目をも奪う美しい若者で、卒業記念パーティに出席したアンジェラの両親も絶賛していた。
「アンジェラ、お前は果報者だぞ」
ユーリス=バンクールの婚約者であることを羨む娘達は多いだろう。その彼に早い段階から唾を付け、自分の娘の婚約者に据えたことは、アンジェラの両親達の自慢でもあった。
「ええ」
ダンスを終えたユーリスのそばに、シルヴェスター王子がひっそりと立つ。二人でふざけるようにグラスをぶつけて、ワインを口にしている仲の良い様子に、アンジェラは内心、嫉妬していた。
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