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外伝 その王子と恋に落ちたら大変です 第一章 五番目の王子との学園時代
第三話 王子と友人になる
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それから。
実際、寮で過ごす中で、シルヴェスター王子が困る局面は幾度もあった。
たとえば、彼が寮内でまとう衣服も、夏になれば夏物が、冬になれば冬物が必要であったし、靴なども身長に合わせて買い替える必要があった。手袋やマフラーなども欲しい。そうした細々な用意が必要だとしても、六歳のシルヴェスターが王都の街へ一人出掛けて購入してくることは出来なさそうだった。放置されていたとはいえ、王宮内で暮らし続けていた世間を知らぬ王子である。
見かねたユーリスが、従者のクラリオネに頼んで、自分のものと同じように用意してもらうよう手配をした。
好意とは言え、それに甘え続けることがシルヴェスターは嫌だったらしく、ある時から、代金を支払うと言い出した。王宮内には、シルヴェスターによくしてくれる侍従がいるようで、頼めば侍従長からシルヴェスターに支払われている手当を貰って運んで来てくれるのだという。
実際、シルヴェスター王子はジャラジャラと金貨や銀貨をテーブルの上に落として見せたので、ユーリスは驚いた。
「これを使って、これからは私の分も用意してくれるように頼む」
後に、シルヴェスターは手当をもらっていると話していたが、実際には母である側妃が王宮内に残していった宝石の類を侍従に頼んで売りさばいて貰ったという話であった。五番目の後見の誰もつかぬ王子に、彼の成長に気を配り、手当する者など一人としていなかったのである。
ユーリスは固辞せずにそれを受け取った。シルヴェスターが、自分と対等でありたいと望んでいると感じたからだ。王子としてのプライドもあったかも知れない。たとえ、捨て置かれている王子だとしても。
ユーリスの趣味は、本を、それも古書を読むことだった。
この王国は大陸内でも古くからある国で、王都には国で一番大きな王立図書館も存在する。王立図書館には誰でも入館を許可されているわけではなく、入館するためには十歳以上になり、保証人の保証とさらに保証金を支払うことで入館が許可される。
王立図書館へ入れるようになる日が非常に楽しみだとユーリスが話すと、シルヴェスターは「本など、腹の足しにもならぬぞ」と呆れたように言っていた。
「腹の足しにならなくても、満たされるものがあるからいいのです」
ユーリスの叔父に、リヨンネという竜の生態を研究する学者がいる。彼は寝食を忘れて研究に没頭することがあると父ジャクセンは言っていた。そして「趣味ならば良いが……リヨンネのようにはならないでおくれ」ともユーリスに言っていた。
ユーリスの進むべき道はすでに決まっている。
父の率いるバンクール商会を継いで、その家業を更に発展させ続けていくことだ。
だから、本を読むことは趣味に留めていたが、小遣いを貯めて、古書を買うことがユーリスの唯一の楽しみだった。
そしてそうして買い求めた本は、寮の壁際にある備え付けの大きな古い書棚に並べている。
「本など、腹の足しにもならぬぞ」と言っていたシルヴェスターも、時折、その古書を「貸してくれ」と言って読んでいることがあった。判読できない古い文字などをユーリスが教えると「お前は子供なのに、こんな古い文字も知っているのか」と驚き呆れられつつも、持ち前の賢さからかすぐに理解してくれた。
なんとなしに二人で、テーブルに本を置いて読み耽る時間が楽しかった。
頁をそっとめくり、静かに本を読む。言葉を交わすこともないのだが、二人で共有している時間がなんとなしに嬉しく思えた。
従者のクラリオネは、六歳のシルヴェスター王子が従者の一人も付けずに寮で暮らしている現状に驚き、彼もまた善良な若者であったからして、ひどくシルヴェスター王子に同情的であった。
主であるジャクセンからは「適切な距離を保つように」と命じられていたが、ユーリスの求めるまま、ついでのようにシルヴェスターの世話もしていた。
半年も経つ頃には、シルヴェスター王子とユーリス、そして従者クラリオネは非常に親しく話すような間柄になっていたのであった。
実際、寮で過ごす中で、シルヴェスター王子が困る局面は幾度もあった。
たとえば、彼が寮内でまとう衣服も、夏になれば夏物が、冬になれば冬物が必要であったし、靴なども身長に合わせて買い替える必要があった。手袋やマフラーなども欲しい。そうした細々な用意が必要だとしても、六歳のシルヴェスターが王都の街へ一人出掛けて購入してくることは出来なさそうだった。放置されていたとはいえ、王宮内で暮らし続けていた世間を知らぬ王子である。
見かねたユーリスが、従者のクラリオネに頼んで、自分のものと同じように用意してもらうよう手配をした。
好意とは言え、それに甘え続けることがシルヴェスターは嫌だったらしく、ある時から、代金を支払うと言い出した。王宮内には、シルヴェスターによくしてくれる侍従がいるようで、頼めば侍従長からシルヴェスターに支払われている手当を貰って運んで来てくれるのだという。
実際、シルヴェスター王子はジャラジャラと金貨や銀貨をテーブルの上に落として見せたので、ユーリスは驚いた。
「これを使って、これからは私の分も用意してくれるように頼む」
後に、シルヴェスターは手当をもらっていると話していたが、実際には母である側妃が王宮内に残していった宝石の類を侍従に頼んで売りさばいて貰ったという話であった。五番目の後見の誰もつかぬ王子に、彼の成長に気を配り、手当する者など一人としていなかったのである。
ユーリスは固辞せずにそれを受け取った。シルヴェスターが、自分と対等でありたいと望んでいると感じたからだ。王子としてのプライドもあったかも知れない。たとえ、捨て置かれている王子だとしても。
ユーリスの趣味は、本を、それも古書を読むことだった。
この王国は大陸内でも古くからある国で、王都には国で一番大きな王立図書館も存在する。王立図書館には誰でも入館を許可されているわけではなく、入館するためには十歳以上になり、保証人の保証とさらに保証金を支払うことで入館が許可される。
王立図書館へ入れるようになる日が非常に楽しみだとユーリスが話すと、シルヴェスターは「本など、腹の足しにもならぬぞ」と呆れたように言っていた。
「腹の足しにならなくても、満たされるものがあるからいいのです」
ユーリスの叔父に、リヨンネという竜の生態を研究する学者がいる。彼は寝食を忘れて研究に没頭することがあると父ジャクセンは言っていた。そして「趣味ならば良いが……リヨンネのようにはならないでおくれ」ともユーリスに言っていた。
ユーリスの進むべき道はすでに決まっている。
父の率いるバンクール商会を継いで、その家業を更に発展させ続けていくことだ。
だから、本を読むことは趣味に留めていたが、小遣いを貯めて、古書を買うことがユーリスの唯一の楽しみだった。
そしてそうして買い求めた本は、寮の壁際にある備え付けの大きな古い書棚に並べている。
「本など、腹の足しにもならぬぞ」と言っていたシルヴェスターも、時折、その古書を「貸してくれ」と言って読んでいることがあった。判読できない古い文字などをユーリスが教えると「お前は子供なのに、こんな古い文字も知っているのか」と驚き呆れられつつも、持ち前の賢さからかすぐに理解してくれた。
なんとなしに二人で、テーブルに本を置いて読み耽る時間が楽しかった。
頁をそっとめくり、静かに本を読む。言葉を交わすこともないのだが、二人で共有している時間がなんとなしに嬉しく思えた。
従者のクラリオネは、六歳のシルヴェスター王子が従者の一人も付けずに寮で暮らしている現状に驚き、彼もまた善良な若者であったからして、ひどくシルヴェスター王子に同情的であった。
主であるジャクセンからは「適切な距離を保つように」と命じられていたが、ユーリスの求めるまま、ついでのようにシルヴェスターの世話もしていた。
半年も経つ頃には、シルヴェスター王子とユーリス、そして従者クラリオネは非常に親しく話すような間柄になっていたのであった。
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