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外伝 ある護衛騎士の災難  第一章

第七話 何を言っても聞かない王子

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 南方地域に到着した。

 アンリ王子の伴侶であるアビゲイル妃は、急な体調不良により同行することが出来なかった。
 その代わりのように、何故か私ハヴリエルが、王子にエスコートされている。
 アンリ王子よりも背の高いガッシリとした体格の若い男である。
 突然現れた私の登場に、南方地域のお偉方も微妙な表情をしていた。
 とりあえず、私は王子の身の回りの世話兼護衛を務める者だと告げた。
 王子はそんな風に言い訳をする私に、(こいつめ、また健気な事を言いおって)というような斜め向こうの発想をしている様子だったが、最近はそれを無視する技を私も覚えだしていた。
 
 王子は、私を南方地域のお偉方に「私の大切な者なのだ」と甘い表情で紹介していたが、私はその場で首を振ってイチイチ否定していた。
 さすがに南方地域のお偉方にまで、私が王子の最愛の人だという偽りの情報が知れ渡ることは、呪いが解けた後、王子が困ったことになるだろうと考えたからだ。
 イチイチ否定する私に、最後の方は王子も少しだけ怒っていた。


 実際、歓迎の宴を終えて用意された部屋へ入った時、アンリ王子は私に言った。

「ハヴリエル卿、私の言うことを否定するな」

 私のことを恋人のように紹介する王子の後で、私がお偉方に「私は殿下の身の回りの世話をする護衛の者です。殿下は親しみやすい御方なので、そう仰って下さっているだけです」と訂正していたことを怒っているのだ。
 
 ええい、私がそう言っておかなければ、呪いが解けた時に困るのは王子の方なのに。
 この私の配慮、気遣い、優しさが分からないのかと、ムカついた。

「殿下、いつか貴方にかけられているその呪いは解けるのです。その時、貴方が口にしているその愛とやらは綺麗サッパリ消え失せます。呪いが解けた時、周囲に誤解されたままでは、貴方が困るでしょう」

「私のこの愛は不滅だ!!」

 そう言ってこの世の何人もの恋人達が別れたことか。
 王子の青臭い台詞に、私はあからさまに馬鹿にするように鼻で「フッ」と笑ってやった。
 それに王子はカッと頭にきている様子だった。

「ハヴリエル!!!!」

「殿下、私は殿下の恋人ではありません。本来、殿下の護衛を務める騎士です。今は非常事態で殿下のおそばにいるだけです」

「そなたも私を愛しているではないか」

 いや、私は一度も殿下に愛を告げたことはないのだが。
 言ったことはないのに、そう言われたものと誤解しているのだろうか。

「私は殿下を愛しておりません」

 だから、ハッキリキッパリそう告げた。
 王子の警護のために同室にいた護衛騎士達は(ああ、ハヴリエル卿が言っちゃったよ)というような、眉をハの字にしたどこか困った顔をしていた。

 だが、呪いの強靭さが恐ろしい。
 王子はそれにもくじけないのだ。
 アンリ王子は額に手を当て、苦しむような表情でこう言う。

「妃のアビゲイルがいる私の立場を案じて、そなたは私に愛を告げることも出来ないのだな」

 どうも王子の脳内では、“アビゲイル妃がいるから日陰者の身に甘んじている健気なハヴリエル”というおかしな妄想が刻み込まれているようだ。
 何を言っても聞いてくれない。
 呪いとは本当に恐ろしい!!

「とにかく、殿下。あまり変な事を口走って周囲に広めないで下さい。後で本当に困るのは殿下なのです。私は貴方を何度も諫めましたからね。そのことは絶対に覚えていらして下さい。後で何故止めなかったのだと私を責めてはなりませんよ」

 一応、ちゃんと注意したという実績を積み上げておかねばならない。
 後で、「ハヴリエル卿!! 何故私を止めなかったのだ」と怒り狂われても困る。ちゃんと私は止めたのだ。そのことは周囲の護衛騎士達もよく覚えておいて欲しい。

 私はいつものように、長椅子に横になる。毛布と枕も用意している。
 長椅子で横になると翌朝、少し身体が痛くなるが、仕方がなかった。
 見れば、王子がポンポンと寝台の空いているスペースを叩いている。

「ハヴリエル、ここへ来て横になれ。こちらが空いておるぞ」

「殿下、お休みなさい。どうぞ良い夢をご覧ください」

 そうして私は王子に背を向けて眠ろうとしたのだが、相変わらずグチグチと「そなたが私の方を向いてくれねば私は眠れぬのだ」と言われるものだから、仕方なしに王子の方を向いて眠る。
 そうすると、パァァァァと顔を輝かせる王子が、最近は少しバカみたいで可愛く思えていた。
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