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外伝 ある護衛騎士の災難 第一章
第四話 特別任務扱い
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私は殿下の護衛の任務から外されることになった。
殿下が「ハヴリエル卿には護衛の任務よりももっと大切な任務がある」と真剣な表情で私に言うのだが、殿下の話す、その任務の具体的な内容を聞きたくなかった。
私は近衛騎士団長と直接交渉して、殿下の呪いが解けるまでの間は、特別任務として通常の給金の三倍の額を払ってもらうことにした。それで少しだけ気分もスッキリした。もちろん交渉の際は、もし私の要望を聞き入れて頂けなければ、近衛騎士を辞めると明言したのだ。
脅しのような私の言葉に、近衛騎士団長はため息をついていたが、彼はその要求を呑むしかなかった。
特別任務とはいっても名ばかりのものであって、単純にアンリ王子の呪いが解けるまでの間、王子のそばについているだけの任務であった。昼夜を問わず、王子のそばについていなければならないので(そうしないと王子がうるさい)、肉体的な疲労はさておき、精神的な疲労は相当なものである。三倍の報酬は適正であると思う。
私と近衛騎士団長のそのやりとりも、アンリ王子は目の前で聞くことになった。
アンリ王子は、相変わらず私が側から離れることを許さないからだ。
そうした生々しいやりとりを聞いてなおも、彼は私に愛想を尽かすことはないらしい。
むしろどこか感心したような様子だった。
「ハヴリエル卿はしっかりとした男なのだな」
「いえ、殿下、ハヴリエル卿はがめついのです」
室内の護衛騎士の一人がそう言っているが、別に構わない。
私の実家はそう裕福ではないのだ。貰えるものはしっかりと貰う。当然のことだ。恥とも思っていない。
私は殿下のおそばに居なければならないこの機会を(手持ち無沙汰な暇な時間を)、何か有効に使えないか考えていた。
そして思いついた。
殿下の部屋の壁の片側に置かれている書棚から勝手に本を取り出してくる。
「卿は何をしているのだ」
「周辺国のことを調べておこうと思います」
この特別任務が終了したら、近衛騎士を辞めて旅に出ようと思う。
旅に出ることは前々から考えていたのだ。この機会に三倍の給金も貯め込んで、旅の費用としよう。我ながらとてもいい考えだと思った。
護衛任務に就かなくても良いというのなら、調べる時間に充てるのにちょうど良かった。
「ハヴリエル卿は本当に勉強熱心なのだな」
アンリ王子は非常に感心した様子で私を見て言っている。
私に恋しているという彼は、私のやること為す事全て、肯定的に捉えている。
呪いというものは恐ろしいものだった。
呪いをかけられる前は、私をジロリと睨みつけたり、嫌味を言ったりする王子だったのに、百八十度性格も変わってしまったように思える。私に対して甘く、私のすることに関しては寛容であった。
椅子に座り、本を読み耽っている私の前に、何故かアンリ王子も椅子を引き出してきた。
彼は大きな画帳を手にすると、それに絵を描き始めていた。
「………………」
私をモデルに絵を描いているらしい。
本を読みながらも、彼がどういった絵を描いているのか気になって、覗き込む。
アンリ王子は非常に絵が上手い。
彼が木炭でサラサラと描いている私の絵もまた、素晴らしかった。
思わず、「殿下には才能がおありですね」と褒め称えると、彼は少し嬉しそうに笑った。
「有難う」
絵だけではなく、楽器を持たせても玄人も裸足で逃げ出すレベルの演奏をするアンリ王子。
優しく賢い彼は、美少年趣味はさておき、有能な王子だった。
実際、彼は可愛い侍従達を周囲に侍らせていたが、その侍従達にも慕われている。
アンリ王子がこうなってしまった後、何気にその侍従達は私を睨むようになっていた。
そんなに妬ましく羨ましいのなら、代わってやりたいくらいだ。
以前は、綺麗な少年に花を持たせて、よく絵を描いていたアンリ王子。
今、私に恋しているから、私の絵を描く気になっているのだろう。非常に真剣な表情で、幾枚も絵を描いている。
だが、呪いが解けた暁には、きっと、過去の自分の所業を恥じて、私の絵は破り捨ててしまうような気がした。
殿下が「ハヴリエル卿には護衛の任務よりももっと大切な任務がある」と真剣な表情で私に言うのだが、殿下の話す、その任務の具体的な内容を聞きたくなかった。
私は近衛騎士団長と直接交渉して、殿下の呪いが解けるまでの間は、特別任務として通常の給金の三倍の額を払ってもらうことにした。それで少しだけ気分もスッキリした。もちろん交渉の際は、もし私の要望を聞き入れて頂けなければ、近衛騎士を辞めると明言したのだ。
脅しのような私の言葉に、近衛騎士団長はため息をついていたが、彼はその要求を呑むしかなかった。
特別任務とはいっても名ばかりのものであって、単純にアンリ王子の呪いが解けるまでの間、王子のそばについているだけの任務であった。昼夜を問わず、王子のそばについていなければならないので(そうしないと王子がうるさい)、肉体的な疲労はさておき、精神的な疲労は相当なものである。三倍の報酬は適正であると思う。
私と近衛騎士団長のそのやりとりも、アンリ王子は目の前で聞くことになった。
アンリ王子は、相変わらず私が側から離れることを許さないからだ。
そうした生々しいやりとりを聞いてなおも、彼は私に愛想を尽かすことはないらしい。
むしろどこか感心したような様子だった。
「ハヴリエル卿はしっかりとした男なのだな」
「いえ、殿下、ハヴリエル卿はがめついのです」
室内の護衛騎士の一人がそう言っているが、別に構わない。
私の実家はそう裕福ではないのだ。貰えるものはしっかりと貰う。当然のことだ。恥とも思っていない。
私は殿下のおそばに居なければならないこの機会を(手持ち無沙汰な暇な時間を)、何か有効に使えないか考えていた。
そして思いついた。
殿下の部屋の壁の片側に置かれている書棚から勝手に本を取り出してくる。
「卿は何をしているのだ」
「周辺国のことを調べておこうと思います」
この特別任務が終了したら、近衛騎士を辞めて旅に出ようと思う。
旅に出ることは前々から考えていたのだ。この機会に三倍の給金も貯め込んで、旅の費用としよう。我ながらとてもいい考えだと思った。
護衛任務に就かなくても良いというのなら、調べる時間に充てるのにちょうど良かった。
「ハヴリエル卿は本当に勉強熱心なのだな」
アンリ王子は非常に感心した様子で私を見て言っている。
私に恋しているという彼は、私のやること為す事全て、肯定的に捉えている。
呪いというものは恐ろしいものだった。
呪いをかけられる前は、私をジロリと睨みつけたり、嫌味を言ったりする王子だったのに、百八十度性格も変わってしまったように思える。私に対して甘く、私のすることに関しては寛容であった。
椅子に座り、本を読み耽っている私の前に、何故かアンリ王子も椅子を引き出してきた。
彼は大きな画帳を手にすると、それに絵を描き始めていた。
「………………」
私をモデルに絵を描いているらしい。
本を読みながらも、彼がどういった絵を描いているのか気になって、覗き込む。
アンリ王子は非常に絵が上手い。
彼が木炭でサラサラと描いている私の絵もまた、素晴らしかった。
思わず、「殿下には才能がおありですね」と褒め称えると、彼は少し嬉しそうに笑った。
「有難う」
絵だけではなく、楽器を持たせても玄人も裸足で逃げ出すレベルの演奏をするアンリ王子。
優しく賢い彼は、美少年趣味はさておき、有能な王子だった。
実際、彼は可愛い侍従達を周囲に侍らせていたが、その侍従達にも慕われている。
アンリ王子がこうなってしまった後、何気にその侍従達は私を睨むようになっていた。
そんなに妬ましく羨ましいのなら、代わってやりたいくらいだ。
以前は、綺麗な少年に花を持たせて、よく絵を描いていたアンリ王子。
今、私に恋しているから、私の絵を描く気になっているのだろう。非常に真剣な表情で、幾枚も絵を描いている。
だが、呪いが解けた暁には、きっと、過去の自分の所業を恥じて、私の絵は破り捨ててしまうような気がした。
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