上 下
395 / 711
外伝 護衛の独り言 ~指輪の見せる夢

第九話 “追加”のショック

しおりを挟む
 寝台の上にいたのは、ジャクセン様だった。
 彼は一糸まとわぬ裸体であった。寝台の上で、レイノール伯爵に組み伏せられている。
 その細い腰を両手で掴まれ、後ろから激しく突き上げられ、声を上げていた。

 そのジャクセン様は、レイノール伯爵の夢で、“創られた存在”だと分かっていても、非常にリアルな存在だった。
 私はジャクセン様の裸体を見たことがあるから知っているが、彼の腰にある黒子の位置なども同一であった。ジャクセン様そのものを抱いているレイノール伯爵。

 黒髪を振り乱し、シーツを鷲掴み、切なげに、身をしならせて甘く啼くジャクセン様の姿を、私は呆然と見つめた。
 仕事においては、表情を変えることなく淡々と判断を下す冷静なジャクセン様の常日頃の姿とは違い、目の前のジャクセン様は淫らだった。ゾッとするほどの色香が漂っている。そのギャップに私は目が離せない。
 夢の中のジャクセン様は、細身の黒革の首輪をその首にはめていた。金色の小さなメダルが揺れる。そのメダルにはジャクセン様のイニシアルまで刻まれているという凝りようだった。

 ジャクセン様の腰を掴んで打ち付ける伯爵。その怒張が抜き差しされる度にジャクセン様は快感に身を震わせ、身の内に生じる悦びに堪えられないように彼も達していた。




 私は指輪をすぐさま指から引き抜き、気分の悪そうなジャクセン様を抱えるようにして部屋から出た。
 私が指輪をはめて、伯爵の夢を覗き見たのはほんの数秒にも満たない時間であっただろう。
 だが、まざまざと二人の男達の交歓する光景が、瞼の裏に焼き付けられてしまった。

 蒼白となって脂汗まで浮かべる、体調の悪いジャクセン様を馬車に乗せ、私は御者に屋敷へ向かうよう指示を出した。
 馬車の中で、ジャクセン様は口元をずっと押さえて座っていた。震えている彼の体に、私は上着をかける。

「大丈夫ですか、ジャクセン様」

「…………」

 返事もない。相当、ジャクセン様はショックだったようだ。
 しかし、今日までの二日間、彼は、自分を抱くレイノール伯爵の姿を見ていたはずだ。なら、あれくらいのことに耐えられないはずはないだろう。首輪をはめさせて犯すその様子は悪趣味であったが。何故、三日目にしてこれほどショックを受けるのか分からなかった。

「……水はあるか」

 掠れた声で問われ、私は馬車に置いていた水筒を彼に差し出す。
 手が震え、うまく蓋が開けられない様子を見かねて、私はそれを受け取り、蓋を開けた。
 しかし飲むのも覚束ない様子だったので、私は咄嗟に、その水筒の水を口に含み、彼の身を引き寄せて、その唇に唇を重ね、口移しで水を飲ませる。

 ジャクセン様の目が大きく見開かれている。

 水を口移しで、コクリと飲み込んだジャクセン様は、それから口を離すと呆然として言った。

「バンクリフ……どういうつもりだ」

 それで私は、自分が何をしてしまったのか、ジャクセン様に指摘されることでようやく理解した。慌てて身をジャクセン様から遠く離す。

「申し訳ございません」

「……………」

 あの指輪に見せられた光景に、自分も当てられ、おかしくなっていたようだ。
 普段とは違う行動を取っていることが自分でもわかる。
 
 私が口づけをするという行為の、“追加”のショックで、どうやら普段のジャクセン様に戻ったようだった。
 ジャクセン様は、自身の形の良い唇を押さえ、それから視線を馬車の窓から流れる景色にやって黙り込んでいた。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

一宿一飯の恩義で竜伯爵様に抱かれたら、なぜか監禁されちゃいました!

当麻月菜
恋愛
宮坂 朱音(みやさか あかね)は、電車に跳ねられる寸前に異世界転移した。そして異世界人を保護する役目を担う竜伯爵の元でお世話になることになった。 しかしある日の晩、竜伯爵当主であり、朱音の保護者であり、ひそかに恋心を抱いているデュアロスが瀕死の状態で屋敷に戻ってきた。 彼は強い媚薬を盛られて苦しんでいたのだ。 このまま一晩ナニをしなければ、死んでしまうと知って、朱音は一宿一飯の恩義と、淡い恋心からデュアロスにその身を捧げた。 しかしそこから、なぜだかわからないけれど監禁生活が始まってしまい……。 好きだからこそ身を捧げた異世界女性と、強い覚悟を持って異世界女性を抱いた男が異世界婚をするまでの、しょーもないアレコレですれ違う二人の恋のおはなし。 ※いつもコメントありがとうございます!現在、返信が遅れて申し訳ありません(o*。_。)oペコッ 甘口も辛口もどれもありがたく読ませていただいてます(*´ω`*) ※他のサイトにも重複投稿しています。

願いの守護獣 チートなもふもふに転生したからには全力でペットになりたい

戌葉
ファンタジー
気付くと、もふもふに生まれ変わって、誰もいない森の雪の上に寝ていた。 人恋しさに森を出て、途中で魔物に間違われたりもしたけど、馬に助けられ騎士に保護してもらえた。正体はオレ自身でも分からないし、チートな魔法もまだ上手く使いこなせないけど、全力で可愛く頑張るのでペットとして飼ってください! チートな魔法のせいで狙われたり、自分でも分かっていなかった正体のおかげでとんでもないことに巻き込まれちゃったりするけど、オレが目指すのはぐーたらペット生活だ!! ※「1-7」で正体が判明します。「精霊の愛し子編」や番外編、「美食の守護獣」ではすでに正体が分かっていますので、お気を付けください。 番外編「美食の守護獣 ~チートなもふもふに転生したからには全力で食い倒れたい」 「冒険者編」と「精霊の愛し子編」の間の食い倒れツアーのお話です。 https://www.alphapolis.co.jp/novel/2227451/394680824

【完結】お花畑ヒロインの義母でした〜連座はご勘弁!可愛い息子を連れて逃亡します〜

himahima
恋愛
夫が少女を連れ帰ってきた日、ここは前世で読んだweb小説の世界で、私はざまぁされるお花畑ヒロインの義母に転生したと気付く。 えっ?!遅くない!!せめてくそ旦那と結婚する10年前に思い出したかった…。 ざまぁされて取り潰される男爵家の泥舟に一緒に乗る気はありませんわ! ★恋愛ランキング入りしました! 読んでくれた皆様ありがとうございます。 連載希望のコメントをいただきましたので、 連載に向け準備中です。 *他サイトでも公開中 日間総合ランキング2位に入りました!

もふもふと始めるゴミ拾いの旅〜何故か最強もふもふ達がお世話されに来ちゃいます〜

双葉 鳴|◉〻◉)
ファンタジー
「ゴミしか拾えん役立たずなど我が家にはふさわしくない! 勘当だ!」 授かったスキルがゴミ拾いだったがために、実家から勘当されてしまったルーク。 途方に暮れた時、声をかけてくれたのはひと足先に冒険者になって実家に仕送りしていた長兄アスターだった。 ルークはアスターのパーティで世話になりながら自分のスキルに何ができるか少しづつ理解していく。 駆け出し冒険者として少しづつ認められていくルーク。 しかしクエストの帰り、討伐対象のハンターラビットとボアが縄張り争いをしてる場面に遭遇。 毛色の違うハンターラビットに自分を重ねるルークだったが、兄アスターから引き止められてギルドに報告しに行くのだった。 翌朝死体が運び込まれ、素材が剥ぎ取られるハンターラビット。 使われなくなった肉片をかき集めてお墓を作ると、ルークはハンターラビットの魂を拾ってしまい……変身できるようになってしまった! 一方で死んだハンターラビットの帰りを待つもう一匹のハンターラビットの助けを求める声を聞いてしまったルークは、その子を助け出す為兄の言いつけを破って街から抜け出した。 その先で助け出したはいいものの、すっかり懐かれてしまう。 この日よりルークは人間とモンスターの二足の草鞋を履く生活を送ることになった。 次から次に集まるモンスターは最強種ばかり。 悪の研究所から逃げ出してきたツインヘッドベヒーモスや、捕らえられてきたところを逃げ出してきたシルバーフォックス(のちの九尾の狐)、フェニックスやら可愛い猫ちゃんまで。 ルークは新しい仲間を募り、一緒にお世話するブリーダーズのリーダーとしてお世話道を極める旅に出るのだった! <第一部:疫病編> 一章【完結】ゴミ拾いと冒険者生活:5/20〜5/24 二章【完結】ゴミ拾いともふもふ生活:5/25〜5/29 三章【完結】ゴミ拾いともふもふ融合:5/29〜5/31 四章【完結】ゴミ拾いと流行り病:6/1〜6/4 五章【完結】ゴミ拾いともふもふファミリー:6/4〜6/8 六章【完結】もふもふファミリーと闘技大会(道中):6/8〜6/11 七章【完結】もふもふファミリーと闘技大会(本編):6/12〜6/18

性悪なお嬢様に命令されて泣く泣く恋敵を殺りにいったらヤられました

まりも13
BL
フワフワとした酩酊状態が薄れ、僕は気がつくとパンパンパン、ズチュッと卑猥な音をたてて激しく誰かと交わっていた。 性悪なお嬢様の命令で恋敵を泣く泣く殺りに行ったら逆にヤラれちゃった、ちょっとアホな子の話です。 (ムーンライトノベルにも掲載しています)

僕を拾ってくれたのはイケメン社長さんでした

なの
BL
社長になって1年、父の葬儀でその少年に出会った。 「あんたのせいよ。あんたさえいなかったら、あの人は死なずに済んだのに…」 高校にも通わせてもらえず、実母の恋人にいいように身体を弄ばれていたことを知った。 そんな理不尽なことがあっていいのか、人は誰でも幸せになる権利があるのに… その少年は昔、誰よりも可愛がってた犬に似ていた。 ついその犬を思い出してしまい、その少年を幸せにしたいと思うようになった。 かわいそうな人生を送ってきた少年とイケメン社長が出会い、恋に落ちるまで… ハッピーエンドです。 R18の場面には※をつけます。

悪役側のモブになっても推しを拝みたい。【完結】

瑳来
BL
大学生でホストでオタクの如月杏樹はホストの仕事をした帰り道、自分のお客に刺されてしまう。 そして、気がついたら自分の夢中になっていたBLゲームのモブキャラになっていた! ……ま、推しを拝めるからいっか! てな感じで、ほのぼのと生きていこうと心に決めたのであった。 ウィル様のおまけにて完結致しました。 長い間お付き合い頂きありがとうございました!

魔王討伐後に勇者の子を身篭ったので、逃げたけど結局勇者に捕まった。

柴傘
BL
勇者パーティーに属していた魔術師が勇者との子を身篭ったので逃走を図り失敗に終わるお話。 頭よわよわハッピーエンド、執着溺愛勇者×気弱臆病魔術師。 誰もが妊娠できる世界、勇者パーティーは皆仲良し。 さくっと読める短編です。

処理中です...