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外伝 護衛の独り言 ~指輪の見せる夢
第九話 “追加”のショック
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寝台の上にいたのは、ジャクセン様だった。
彼は一糸まとわぬ裸体であった。寝台の上で、レイノール伯爵に組み伏せられている。
その細い腰を両手で掴まれ、後ろから激しく突き上げられ、声を上げていた。
そのジャクセン様は、レイノール伯爵の夢で、“創られた存在”だと分かっていても、非常にリアルな存在だった。
私はジャクセン様の裸体を見たことがあるから知っているが、彼の腰にある黒子の位置なども同一であった。ジャクセン様そのものを抱いているレイノール伯爵。
黒髪を振り乱し、シーツを鷲掴み、切なげに、身をしならせて甘く啼くジャクセン様の姿を、私は呆然と見つめた。
仕事においては、表情を変えることなく淡々と判断を下す冷静なジャクセン様の常日頃の姿とは違い、目の前のジャクセン様は淫らだった。ゾッとするほどの色香が漂っている。そのギャップに私は目が離せない。
夢の中のジャクセン様は、細身の黒革の首輪をその首にはめていた。金色の小さなメダルが揺れる。そのメダルにはジャクセン様のイニシアルまで刻まれているという凝りようだった。
ジャクセン様の腰を掴んで打ち付ける伯爵。その怒張が抜き差しされる度にジャクセン様は快感に身を震わせ、身の内に生じる悦びに堪えられないように彼も達していた。
私は指輪をすぐさま指から引き抜き、気分の悪そうな現実のジャクセン様を抱えるようにして部屋から出た。
私が指輪をはめて、伯爵の夢を覗き見たのはほんの数秒にも満たない時間であっただろう。
だが、まざまざと二人の男達の交歓する光景が、瞼の裏に焼き付けられてしまった。
蒼白となって脂汗まで浮かべる、体調の悪いジャクセン様を馬車に乗せ、私は御者に屋敷へ向かうよう指示を出した。
馬車の中で、ジャクセン様は口元をずっと押さえて座っていた。震えている彼の体に、私は上着をかける。
「大丈夫ですか、ジャクセン様」
「…………」
返事もない。相当、ジャクセン様はショックだったようだ。
しかし、今日までの二日間、彼は、自分を抱くレイノール伯爵の姿を見ていたはずだ。なら、あれくらいのことに耐えられないはずはないだろう。首輪をはめさせて犯すその様子は悪趣味であったが。何故、三日目にしてこれほどショックを受けるのか分からなかった。
「……水はあるか」
掠れた声で問われ、私は馬車に置いていた水筒を彼に差し出す。
手が震え、うまく蓋が開けられない様子を見かねて、私はそれを受け取り、蓋を開けた。
しかし飲むのも覚束ない様子だったので、私は咄嗟に、その水筒の水を口に含み、彼の身を引き寄せて、その唇に唇を重ね、口移しで水を飲ませる。
ジャクセン様の目が大きく見開かれている。
水を口移しで、コクリと飲み込んだジャクセン様は、それから口を離すと呆然として言った。
「バンクリフ……どういうつもりだ」
それで私は、自分が何をしてしまったのか、ジャクセン様に指摘されることでようやく理解した。慌てて身をジャクセン様から遠く離す。
「申し訳ございません」
「……………」
あの指輪に見せられた光景に、自分も当てられ、おかしくなっていたようだ。
普段とは違う行動を取っていることが自分でもわかる。
私が口づけをするという行為の、“追加”のショックで、どうやら普段のジャクセン様に戻ったようだった。
ジャクセン様は、自身の形の良い唇を押さえ、それから視線を馬車の窓から流れる景色にやって黙り込んでいた。
彼は一糸まとわぬ裸体であった。寝台の上で、レイノール伯爵に組み伏せられている。
その細い腰を両手で掴まれ、後ろから激しく突き上げられ、声を上げていた。
そのジャクセン様は、レイノール伯爵の夢で、“創られた存在”だと分かっていても、非常にリアルな存在だった。
私はジャクセン様の裸体を見たことがあるから知っているが、彼の腰にある黒子の位置なども同一であった。ジャクセン様そのものを抱いているレイノール伯爵。
黒髪を振り乱し、シーツを鷲掴み、切なげに、身をしならせて甘く啼くジャクセン様の姿を、私は呆然と見つめた。
仕事においては、表情を変えることなく淡々と判断を下す冷静なジャクセン様の常日頃の姿とは違い、目の前のジャクセン様は淫らだった。ゾッとするほどの色香が漂っている。そのギャップに私は目が離せない。
夢の中のジャクセン様は、細身の黒革の首輪をその首にはめていた。金色の小さなメダルが揺れる。そのメダルにはジャクセン様のイニシアルまで刻まれているという凝りようだった。
ジャクセン様の腰を掴んで打ち付ける伯爵。その怒張が抜き差しされる度にジャクセン様は快感に身を震わせ、身の内に生じる悦びに堪えられないように彼も達していた。
私は指輪をすぐさま指から引き抜き、気分の悪そうな現実のジャクセン様を抱えるようにして部屋から出た。
私が指輪をはめて、伯爵の夢を覗き見たのはほんの数秒にも満たない時間であっただろう。
だが、まざまざと二人の男達の交歓する光景が、瞼の裏に焼き付けられてしまった。
蒼白となって脂汗まで浮かべる、体調の悪いジャクセン様を馬車に乗せ、私は御者に屋敷へ向かうよう指示を出した。
馬車の中で、ジャクセン様は口元をずっと押さえて座っていた。震えている彼の体に、私は上着をかける。
「大丈夫ですか、ジャクセン様」
「…………」
返事もない。相当、ジャクセン様はショックだったようだ。
しかし、今日までの二日間、彼は、自分を抱くレイノール伯爵の姿を見ていたはずだ。なら、あれくらいのことに耐えられないはずはないだろう。首輪をはめさせて犯すその様子は悪趣味であったが。何故、三日目にしてこれほどショックを受けるのか分からなかった。
「……水はあるか」
掠れた声で問われ、私は馬車に置いていた水筒を彼に差し出す。
手が震え、うまく蓋が開けられない様子を見かねて、私はそれを受け取り、蓋を開けた。
しかし飲むのも覚束ない様子だったので、私は咄嗟に、その水筒の水を口に含み、彼の身を引き寄せて、その唇に唇を重ね、口移しで水を飲ませる。
ジャクセン様の目が大きく見開かれている。
水を口移しで、コクリと飲み込んだジャクセン様は、それから口を離すと呆然として言った。
「バンクリフ……どういうつもりだ」
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「申し訳ございません」
「……………」
あの指輪に見せられた光景に、自分も当てられ、おかしくなっていたようだ。
普段とは違う行動を取っていることが自分でもわかる。
私が口づけをするという行為の、“追加”のショックで、どうやら普段のジャクセン様に戻ったようだった。
ジャクセン様は、自身の形の良い唇を押さえ、それから視線を馬車の窓から流れる景色にやって黙り込んでいた。
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