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外伝 はじまりの物語  第三章 残された者達の物語

第三話 王女との別れ

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 それから、アルダンテ王国のコリーヌ王女は、コリーヌ王女の叔母が嫁いでいるという近隣の国に身を寄せると告げた。
 そしてそこで兵を募り、今は魔族達に占拠されているアルダンテ王国の都を再度目指すという話だった。

 委員長石野凛は、黙ってコリーヌ王女の話を聞いていたが、聞き終わった後に強張った顔で言った。

「では………………私達はこれからどうすればいいのでしょうか」

 勇者の鈴木陸は、同じ異世界人の佐藤優斗に殺害された。
 勇者が女神様に願って、元の世界へ戻ることはもう叶わない。
 今までの旅の目標が潰えてしまった。自分達がこれから先、一体どうすればいいのか委員長には分からなかった。

 コリーヌ王女の叔母が嫁いでいるというその国に、自分達も厄介になることは出来るのだろうか。
 しかし、コリーヌ王女は言った。

「あなた達を連れていくことは出来ない」

 分かっていたことだが、ハッキリそう告げられたことはショックだった。暗く沈み込む石野凛と三橋友親の二人に、コリーヌ王女は慌てて言う。

「私はあの、危険な状況にあるアルダンテ王国へ戦いに戻るのだ。あなた達を連れて行くことが難しいことは分かるだろう」

 モブ
 モブ故に力のない異世界人である自分達は足手まといにしかならない。
 委員長と友親は沈痛な表情をする。

 だが、コリーヌ王女は内心では、石野凛と三橋友親の二人が、モブという取るに足らない存在ではないことを知っていた。石野凛は属性を持ち、膨大な魔素を裏付けに魔術師として力を振るうことが出来るだろう。そして三橋友親は膨大な魔素を魔術師達に提供することが出来る。利用価値が大いにある二人なのだ。

 しかし、コリーヌ王女はこの二人を“利用”したくなかった。
 
 結局、サトーという異世界人の少年が、アルダンテ王国を滅ぼすことになったことも、彼らをいいように利用したことがきっかけだった。異世界人を自分勝手に利用しようとした罰が当たったようなものだった。だからコリーヌ王女は、異世界人達をこれ以上、利用したくなかった。ましてやこの二人は、旅の間、友のように親しくした者達だった。
 
「短い間ですが、私は以前、アレドリア王国へ留学していたことがあります。そしてその王国で親友になったハルヴェラ王国の騎士がいます。私は手紙を書きました。この手紙を持ってハルヴェラ王国へ行けば、きっと彼が貴方達の力になってくれるはずです」

 コリーヌ王女はちゃんと委員長や友親の身の振り方を考えてくれていたのだ。手紙を渡された委員長と友親は驚きながらも感謝の言葉を口にした。

「「ありがとうございます」」

「ハルヴェラ王国までの護衛を、カルフィー殿とケイオス殿に依頼しました」

 言われた二人は軽く頭を下げる。
 正直、コリーヌ王女はカルフィー魔術師の、三橋友親への執着が気になっていたが、それ故に、三橋友親の身を彼がしっかりと守ってくれるだろうとも考えていた。そう願うような気持ちがあった。

 護衛の報酬は、そのハルヴェラ王国の騎士が支払う約束になっている。
 本当にその騎士が報酬を支払ってくれるのか不信の念をカルフィーは抱いていたのだが、それを見越したのかコリーヌ王女は短剣をカルフィーに手渡した。柄には見事なバラの彫刻の施された、真紅のルビーの埋め込まれた一品だった。この短剣だけでも報酬として足りるだろう。

「リオスにこの剣を渡すといい。きっと彼はそれで分かってくれるはずだ」

 ハルヴェラ王国の騎士の名はリオスというらしい。

 コリーヌ王女はシーラ王女も連れていくと言ったが、シーラ王女は友親の足にしがみついて絶対に離れないと言っていた。
 それを見かねて、委員長が言った。

「目の見えないシーラ王女殿下を、コリーヌ王女殿下が連れて戦いに行くことは難しいのではないでしょうか」

「……………しかし」

 赤き“獣の眼”を持つ不吉な三番目の王女シーラを、異世界人の二人が連れてハルヴェラ王国へ行くことにもその先の苦労が想像出来た。逡巡しているコリーヌ王女に、委員長は言った。

「ハルヴェラ王国に行ったら、そのリオスさんに頼んでみます。私達を受け入れてくれるなら、シーラ王女のこともきっと受け入れてくれますよ」

 実際、コリーヌ王女が目の見えないシーラ王女を連れて戦場へ向かうことは、シーラ王女が足手まといになり、非常に困難がつきまとうだろう。ぎゅっと三橋友親の足にしがみついているシーラ王女の頭を、コリーヌ王女は優しく撫でた。仮にシーラ王女を叔母のいる王宮内に留めたとしても、一人残されるシーラ王女が、その赤い瞳のことでどういう目に遭うか分からない。
 シーラ王女の境遇を心配してくれる三橋友親や委員長のそばにいた方が、まだいいのかも知れない。

「分かりました。では、シーラ」

 コリーヌ王女はシーラ王女の頭頂に口づけを落とす。

「いい子にして、皆の言うことをよく聞くのだよ。姉様がいつかきっと迎えに行くから」

 目の見えないシーラ王女は、その時、コリーヌ王女がどんな表情をしてシーラ王女のことを見つめていたのか知ることは出来なかった。
 ただ頭を優しく撫でていたその手が離れた時、シーラは顔を上げて、もう一度姉王女の名を叫んだ。

「わかったわ、コリーヌ姉様」

 叔母の使いの騎士達が迎えにやって来て、コリーヌ王女は彼らと共に旅立っていく。
 そしてそれっきり、彼女とは、二度と会うことはなかったのだった。
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