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外伝 はじまりの物語 第一章 召喚された少年達と勇者の試練
第九話 勇者の思い ~最初の試練
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三週間ほどかかって、最初の試練、勇者の剣の突き刺さっている丘の上にやって来た。
周囲は白い小花がどこまでも咲き乱れる美しい花畑だった。
沢谷雪也は盲目の王女シーラの手を引いて、彼女に周囲の花の様子を説明していた。
すっかりシーラ王女は雪也に懐いているようだった。
真っ白い小花の広がる花畑の中に、一本の剣が、柄だけを見せて埋まっている。
刀身は土の中に埋もれているようだ。
コリーヌ王女が説明した。
「この剣は、神に選ばれた勇者以外抜くことが出来ないと言われています」
なんとなしに、神秘的なものを感じて、沢谷雪也も三橋友親も、そして委員長も少しばかり厳かな気持ちになって剣の柄を見つめている。
「さぁさぁ、勇者様、抜いて下さい」と少し冗談めいていう雪也の前で、鈴木はあっさりと剣を抜いた。
雪也も友親も、委員長も、何故か騎士達までもが拍手してくれた。すっかり騎士達はお調子者の雪也達に毒されている。
「あっさり最初の試練はクリアできたね」
そう友親が言うと、雪也が我が事のように「勇者様だからな!!」と少し偉ぶって言っているところが、鈴木には可愛く思えた。
二つ目は、魔人の生まれる泉を封印する試練だった。
その泉というのが、遠い場所にあった。
そこに行くまで四週間ほど時間がかかったのだ。
森の中を進むことも多く、結果的に野宿が多くなる。
街へ泊まれる時は、風呂にも入ることが出来て、その時は生き返るような気持ちになった。
同行している騎士達も同じことを感じているようで、騎士達の表情も和らいで見える。
騎士達は、希望する者同士で個室の部屋を宿で取っていた。
前に、騎士達の中には、男の騎士同士で結婚している者もいると聞いていた。
恐らく、宿の部屋の中で、結婚した者同士、これまでの苦労をいたわりあい、愛を深めているのだろうと思った。
この国では、同性同士付き合ったり、結婚することも普通に出来るという。
偏見もなく同性同士が自然に付き合ったり、結婚することができるこの国の者達が少し羨ましいような気持ちに、鈴木はなっていた。元の世界では、結婚は女性とするもので、男性に目を向けるなんてとんでもないという偏見の目が今も残っている。鈴木陸の両親は厳格な者達であったから、当然、鈴木が結婚する相手も重箱の隅を突っつくようにチェックして、お眼鏡に適う者しか認めないだろう。両親にとって、息子の相手は子孫を残すことのできる女性しかあり得ない。
鈴木は、あちらの世界にいた時、恋愛にはそれほど興味は無かったから、恋人が欲しいと考えることはなかった。
しかし、今は違う。
料理上手で、気兼ねなく楽しく付き合える雪也を、鈴木はついつい目で追っていた。
(雪也が、僕の恋人だったらいいのに)
もし雪也が恋人なら、今もこうして三人部屋でなく(旅の最中、宿の部屋は鈴木陸、沢谷雪也、三橋友親の三人部屋なのだ)、鈴木は雪也と二人だけの部屋に入ることが出来ただろう。
そして彼の身体に触れることも出来たはずだ。
でも、鈴木は、雪也も友親も、異性愛者であろうことを知っていた。
だから、自分のこの感情は、絶対に表に出してはいけないものだと理解していた。
そして鈴木は、昔から自分の感情を隠すことは得意だった。
魔人の生まれる泉があると噂される薄暗い森の中へやって来た。
その森の中へと入り、一行以外誰もいないことを確かめたところで、コリーヌ王女はシーラ王女の両眼を覆う白い布を落とした。
その布を落とす前、シーラ王女はどこか必死に、雪也の両手を握ってこう言っていた。
「私の眼を見ても、ユキは私を嫌わないでね」
他人から眼を見られることに、ひどく怯えるシーラに、友親も雪也も顔を見合わせていた。
だが、彼らはしっかりとした声で言った。
「シーラを嫌わないよ」
コリーヌ王女は教えてくれた。
シーラは王が側女に産ませた王女であったが、王の妃が魔術に凝っており、生まれたばかりのシーラ王女に、獣の眼を下ろしたという。
獣の眼とは、魔に極めて近い眼をいい、それ故に魔の存在に敏感だという。
獣の眼は、血のように赤い光彩に、金色の瞳であった。美しくもどこか不気味な両眼である。
コリーヌ王女から「怖がらないでやって欲しい」と言われていた通り、雪也も友親も驚きはしたが怖がることはなかった。
友親に至っては「うわっ、瞳が金色じゃん。スゲー」と驚きつつも賛辞の声を上げていた。
それに、シーラ王女は心底安堵したような様子で、皆に言った。
「このまま真っ直ぐに行ってください」
そう言って、皆を魔人の生まれるという泉に案内し始めたのだ。
今度は友親がシーラ王女の手をしっかりと握って、彼女と一緒に歩きだしていたので、鈴木はすかさず雪也の隣に並んだ。
雪也と友親は親友で、傍から見ても悔しい程仲が良い。だから、いつも二人は一緒に並んで歩いている。こうした機会でもないと、鈴木は雪也と並んで歩けない。
聞けば、幼稚園の頃から二人は友人なのだという。本当に羨ましい。
雪也はぽつりと小声で言っていた。
誰にも聞かれないように潜めた声だった。
「自分の娘に、王女に、獣の眼と言われるものを下ろすなんて、正気じゃない」
「…………そうだね」
「ちょっと、おかしいよね。この国」
魔人を倒すために、召喚魔法で他の世界から勇者を呼ぶ。
よくあるライトノベルにありそうな展開だった。
でも、現実、そんなことをするなんて。
「正気じゃない」
もし、その勇者が試練に失敗したら、成功するまで勇者を他の世界から呼び続けるのだろうか。
何人も何人も、勇者が呼ばれ、そしてそれに巻き込まれる異世界人。
そこに、勇者や異世界人達の、人権なんてものは存在しない。
でも、雪也の傍らを歩く鈴木は、こんな時であるのに、少し思っていた。
この国の王達は正気じゃないかも知れない。
でも、現世から召喚してくれたから、自分はそれまで、全く存在を知らなかった沢谷雪也という人に出会えたのだ。
そのことに、少しだけ感謝している。
周囲は白い小花がどこまでも咲き乱れる美しい花畑だった。
沢谷雪也は盲目の王女シーラの手を引いて、彼女に周囲の花の様子を説明していた。
すっかりシーラ王女は雪也に懐いているようだった。
真っ白い小花の広がる花畑の中に、一本の剣が、柄だけを見せて埋まっている。
刀身は土の中に埋もれているようだ。
コリーヌ王女が説明した。
「この剣は、神に選ばれた勇者以外抜くことが出来ないと言われています」
なんとなしに、神秘的なものを感じて、沢谷雪也も三橋友親も、そして委員長も少しばかり厳かな気持ちになって剣の柄を見つめている。
「さぁさぁ、勇者様、抜いて下さい」と少し冗談めいていう雪也の前で、鈴木はあっさりと剣を抜いた。
雪也も友親も、委員長も、何故か騎士達までもが拍手してくれた。すっかり騎士達はお調子者の雪也達に毒されている。
「あっさり最初の試練はクリアできたね」
そう友親が言うと、雪也が我が事のように「勇者様だからな!!」と少し偉ぶって言っているところが、鈴木には可愛く思えた。
二つ目は、魔人の生まれる泉を封印する試練だった。
その泉というのが、遠い場所にあった。
そこに行くまで四週間ほど時間がかかったのだ。
森の中を進むことも多く、結果的に野宿が多くなる。
街へ泊まれる時は、風呂にも入ることが出来て、その時は生き返るような気持ちになった。
同行している騎士達も同じことを感じているようで、騎士達の表情も和らいで見える。
騎士達は、希望する者同士で個室の部屋を宿で取っていた。
前に、騎士達の中には、男の騎士同士で結婚している者もいると聞いていた。
恐らく、宿の部屋の中で、結婚した者同士、これまでの苦労をいたわりあい、愛を深めているのだろうと思った。
この国では、同性同士付き合ったり、結婚することも普通に出来るという。
偏見もなく同性同士が自然に付き合ったり、結婚することができるこの国の者達が少し羨ましいような気持ちに、鈴木はなっていた。元の世界では、結婚は女性とするもので、男性に目を向けるなんてとんでもないという偏見の目が今も残っている。鈴木陸の両親は厳格な者達であったから、当然、鈴木が結婚する相手も重箱の隅を突っつくようにチェックして、お眼鏡に適う者しか認めないだろう。両親にとって、息子の相手は子孫を残すことのできる女性しかあり得ない。
鈴木は、あちらの世界にいた時、恋愛にはそれほど興味は無かったから、恋人が欲しいと考えることはなかった。
しかし、今は違う。
料理上手で、気兼ねなく楽しく付き合える雪也を、鈴木はついつい目で追っていた。
(雪也が、僕の恋人だったらいいのに)
もし雪也が恋人なら、今もこうして三人部屋でなく(旅の最中、宿の部屋は鈴木陸、沢谷雪也、三橋友親の三人部屋なのだ)、鈴木は雪也と二人だけの部屋に入ることが出来ただろう。
そして彼の身体に触れることも出来たはずだ。
でも、鈴木は、雪也も友親も、異性愛者であろうことを知っていた。
だから、自分のこの感情は、絶対に表に出してはいけないものだと理解していた。
そして鈴木は、昔から自分の感情を隠すことは得意だった。
魔人の生まれる泉があると噂される薄暗い森の中へやって来た。
その森の中へと入り、一行以外誰もいないことを確かめたところで、コリーヌ王女はシーラ王女の両眼を覆う白い布を落とした。
その布を落とす前、シーラ王女はどこか必死に、雪也の両手を握ってこう言っていた。
「私の眼を見ても、ユキは私を嫌わないでね」
他人から眼を見られることに、ひどく怯えるシーラに、友親も雪也も顔を見合わせていた。
だが、彼らはしっかりとした声で言った。
「シーラを嫌わないよ」
コリーヌ王女は教えてくれた。
シーラは王が側女に産ませた王女であったが、王の妃が魔術に凝っており、生まれたばかりのシーラ王女に、獣の眼を下ろしたという。
獣の眼とは、魔に極めて近い眼をいい、それ故に魔の存在に敏感だという。
獣の眼は、血のように赤い光彩に、金色の瞳であった。美しくもどこか不気味な両眼である。
コリーヌ王女から「怖がらないでやって欲しい」と言われていた通り、雪也も友親も驚きはしたが怖がることはなかった。
友親に至っては「うわっ、瞳が金色じゃん。スゲー」と驚きつつも賛辞の声を上げていた。
それに、シーラ王女は心底安堵したような様子で、皆に言った。
「このまま真っ直ぐに行ってください」
そう言って、皆を魔人の生まれるという泉に案内し始めたのだ。
今度は友親がシーラ王女の手をしっかりと握って、彼女と一緒に歩きだしていたので、鈴木はすかさず雪也の隣に並んだ。
雪也と友親は親友で、傍から見ても悔しい程仲が良い。だから、いつも二人は一緒に並んで歩いている。こうした機会でもないと、鈴木は雪也と並んで歩けない。
聞けば、幼稚園の頃から二人は友人なのだという。本当に羨ましい。
雪也はぽつりと小声で言っていた。
誰にも聞かれないように潜めた声だった。
「自分の娘に、王女に、獣の眼と言われるものを下ろすなんて、正気じゃない」
「…………そうだね」
「ちょっと、おかしいよね。この国」
魔人を倒すために、召喚魔法で他の世界から勇者を呼ぶ。
よくあるライトノベルにありそうな展開だった。
でも、現実、そんなことをするなんて。
「正気じゃない」
もし、その勇者が試練に失敗したら、成功するまで勇者を他の世界から呼び続けるのだろうか。
何人も何人も、勇者が呼ばれ、そしてそれに巻き込まれる異世界人。
そこに、勇者や異世界人達の、人権なんてものは存在しない。
でも、雪也の傍らを歩く鈴木は、こんな時であるのに、少し思っていた。
この国の王達は正気じゃないかも知れない。
でも、現世から召喚してくれたから、自分はそれまで、全く存在を知らなかった沢谷雪也という人に出会えたのだ。
そのことに、少しだけ感謝している。
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