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外伝 はじまりの物語 第一章 召喚された少年達と勇者の試練
第四話 試練
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勇者鈴木が、女神から与えられた試練は、大きく三つあると述べた。
一つ目は、勇者の剣を手にする試練
二つ目は、魔人の生まれる泉を封印する試練
三つ目は、黒の魔人を倒す試練だった。
この三つの試練をくぐり抜ければ、女神が勇者の願いを叶えてくれると言う。
勇者の鈴木はこう言った。
「元の世界に戻りたいのなら、試練をクリアした時の願いに、元の世界へ戻りたいと願えば良いと言われた。だから、僕は試練を受けるしかないと思ったんだ」
想像以上に、女神が酷すぎる。
そこは、当然サービスで異世界から元の世界へ戻して、試練をクリアした報酬は別にやるべきじゃないか。
まるっきりのただ働きだった。
今、沢谷雪也は、旅の野営地において、鈴木達のために、騎士達がさばいて肉の塊にしてくれたそれを、薄く切って焼いて、塩コショウで味付けして皿に載せて出していた。
更に卵を手に入れてもらい、それで貴重な砂糖を使った甘い卵焼きも作る。
三橋友親は「うめー、うめーよ、ユキ。お前はいい嫁になれる。いや、俺の嫁になってくれ」と言っていたので、雪也は鍋の蓋で友親の頭を叩いていた。
焚火の周りに輪になって座りながら食べていると、委員長石野が言った。
「沢谷君にあんまりそういうことは言わない方がいいわよ」
「どうしてだよ。誉め言葉だろう」
そう友親が言うと、何故か委員長は雪也達にこそっと小声でこう言った。
「こっちの世界では、男同士でも結婚できるんだから。冗談でもそういうことは言わない方がいいわ。誤解されるわよ」
雪也と友親は顔を見合わせていた。
「「マジ?」」
「本当だよ」
それに勇者の鈴木が答えた。
彼は、異世界へやって来た時の青色のブレザーを着替え、今は軽めの鎧を身に付け、腰には剣を下げていた。
鈴木は十五歳にしては体格も良くて、そうした剣や鎧を身に付けていても、よく似合っている。
聞けば、元の世界では剣道部にいたらしい。そして頭の良い生徒達の集まる青陵学園にいたのだから、文武両道とはいったもんである。
頭も良くて、ハンサムで、運動神経抜群ときたら、女の子達は放っておかなかったはずだ。鈴木はさぞやモテモテだったんだろうと雪也も友親も思っていた。友親達が、偏差値の高い青陵学園の生徒達と道端ですれ違うことはあったとしても、こうして言葉を交わすことなど、こんなことでも無ければあり得なかったはずだ。縁は縁とはいえ、奇妙な縁である。
「ついて来てくれた騎士達の中には、騎士同士で結婚している者もいるらしい」
「「!!」」
雪也と友親はハッとしたように騎士達を改めて見つめていた。
食事の時は、騎士達と雪也達で場所が別になることもあり、今回がそれだった。
三橋友親は、どいつとどいつが結婚しているのだろうと、思わず騎士達をガン見していた。
「そんな不躾に見ないように。失礼でしょう」
常識人の委員長は友親達に注意をした。
雪也と友親は二人して「「はーい」」と返事をしていた。
総勢二十名にもなる一行は、人数が多いせいもあって、旅の最中、次第に幾つかのグループに分かれ始めていた。
二人の王女と護衛の騎士達のグループ。このグループの人数が一番多い。
そして異世界に“転移”してやって来た友親、雪也、勇者鈴木と委員長のグループ。
それから冒険者ギルドからの依頼を受けてやってきた魔術師と剣士四人のグループである。
なお、異世界から“転移”してやってきた異世界人である友親や雪也、鈴木と委員長達は、身分制度のない世界からやって来たこともあり、また友親や雪也が人見知りしないこともあって、依頼を受けてやって来た魔術師と剣士四人ともあっという間に仲良くなっていた。
それは、雪也が美味しい食事を作る能力が高かったことも、影響している。
雪也がフライパンを手に、美味しい料理を作り出すと(材料と道具は、城からたくさん持ち出していた)、いつの間にやら雪也達のグループのそばに皿を手に待ち構える騎士や魔術師達を見るようになっていた。
もちろん、雪也達は試練の旅の間、自分達の身を守ってくれるであろう騎士や魔術師達に作った料理を存分にお裾分けする。そのせいもあって、彼らは非常に雪也達に親切になっていた。街に立ち寄ると、騎士達は雪也が欲しがる食材を十分な量を購入してくれるようになった。雪也は、友親と委員長と、そして従者達を助手のように使って、全員分の料理を作るようになっていた。
第一王女コリーヌと、第三王女シーラも雪也の作った料理を美味しいと言って食べてくれて、女騎士であるコリーヌなどは雪也に対して本気で「私の婿になる気はないか」と口説いてきた。
正直、雪也は、女騎士コリーヌのスタイルの良さに少しだけ心が揺らいだのだけど、元の世界に戻るつもりだったので、非常に残念な思いを抱きながら断っていた。
基本、雪也も友親も、身分の差を考えることなく旅の者達に話しかけ、手伝う必要があることに関しては積極的に手伝うようにしていた。自分達が非力な非戦闘員であることを分かっていたからだ。勇者鈴木や騎士、魔術師達のバックアップに努めることが、自分達の仕事であるとよく理解していた。
誰に対しても分け隔てなく親切に手伝う人懐っこい友親に、ある時騎士の一人がこうボソリと言った。
「冒険者ギルドのあの魔術師や剣士達に、そう親切にすることはないです」
それを何故だと聞く友親に、騎士は言った。
「あれらは“混じり者”ですから」
夜、友親は雪也と鈴木、そして委員長に、声を潜めてそう言われたことを話した。
焚火の周りに、雪也達は毛布を手に寝床の準備をしていた。
周りの警戒は、護衛の騎士が務めてくれるから、安心して眠りに就くことが出来る。
「“混じり者”とはなんなんだ?」
その友親の問いかけに、鈴木が毛布を被りながら答えた。
「“魔”と近い人間だと聞いています。この西方地域は、“魔”との境界があやふやな場所が広がっていて、そこから魔物がやってくるようです。魔物と交わって、人と“魔”の混じった人間が生まれるらしいです」
この異世界の基本的な知識について、旅の最中、鈴木は王女二人に教わっている。何故か委員長も同席して、二人して学習しているようだった(ちなみに雪也と友親は、その間、手に入れた食材をどう使って食事を作るか頭を悩ませていた)。
「……だから、同行している魔術師達に親切にしなくていいと言われた」
友親は憮然とした表情でそう言うと、委員長もため息混じり言った。
「ある種の“差別”でしょう。こちらの世界でもそういうものがあるのね」
人間と“魔”が混じった人間。
その“魔”が混じった人間を忌避しているのだ。
「でも、魔術師として優秀だから、わざわざ冒険者ギルドに頼んでついてきてもらっているんだろう? 旅の仲間じゃんか。それなのに差別するなんてとんでもないな」
友親は少し怒っている。彼は曲がったことが好きではない性格なのだ。
「……そうだね」
だが、そう言って頷いた勇者鈴木はこの場では告げなかったが、“魔”が混じっていると言われるあのギルドから派遣されてきた魔術師と剣士達は、夜になるとその目が光る。おそらく夜目も利くのだろうと思う。そして戦いに際しては、恐ろしい力を発揮する。特に剣士の男二人は、驚くほど大柄で体格が良い。力では王宮の騎士達を凌駕しているのではないかと思った。
きっと、圧倒的な力を持つ彼らへの恐ろしさもあって、王宮の騎士達は彼らを忌避しているのだろう。
そんなことも思っていた。
一つ目は、勇者の剣を手にする試練
二つ目は、魔人の生まれる泉を封印する試練
三つ目は、黒の魔人を倒す試練だった。
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勇者の鈴木はこう言った。
「元の世界に戻りたいのなら、試練をクリアした時の願いに、元の世界へ戻りたいと願えば良いと言われた。だから、僕は試練を受けるしかないと思ったんだ」
想像以上に、女神が酷すぎる。
そこは、当然サービスで異世界から元の世界へ戻して、試練をクリアした報酬は別にやるべきじゃないか。
まるっきりのただ働きだった。
今、沢谷雪也は、旅の野営地において、鈴木達のために、騎士達がさばいて肉の塊にしてくれたそれを、薄く切って焼いて、塩コショウで味付けして皿に載せて出していた。
更に卵を手に入れてもらい、それで貴重な砂糖を使った甘い卵焼きも作る。
三橋友親は「うめー、うめーよ、ユキ。お前はいい嫁になれる。いや、俺の嫁になってくれ」と言っていたので、雪也は鍋の蓋で友親の頭を叩いていた。
焚火の周りに輪になって座りながら食べていると、委員長石野が言った。
「沢谷君にあんまりそういうことは言わない方がいいわよ」
「どうしてだよ。誉め言葉だろう」
そう友親が言うと、何故か委員長は雪也達にこそっと小声でこう言った。
「こっちの世界では、男同士でも結婚できるんだから。冗談でもそういうことは言わない方がいいわ。誤解されるわよ」
雪也と友親は顔を見合わせていた。
「「マジ?」」
「本当だよ」
それに勇者の鈴木が答えた。
彼は、異世界へやって来た時の青色のブレザーを着替え、今は軽めの鎧を身に付け、腰には剣を下げていた。
鈴木は十五歳にしては体格も良くて、そうした剣や鎧を身に付けていても、よく似合っている。
聞けば、元の世界では剣道部にいたらしい。そして頭の良い生徒達の集まる青陵学園にいたのだから、文武両道とはいったもんである。
頭も良くて、ハンサムで、運動神経抜群ときたら、女の子達は放っておかなかったはずだ。鈴木はさぞやモテモテだったんだろうと雪也も友親も思っていた。友親達が、偏差値の高い青陵学園の生徒達と道端ですれ違うことはあったとしても、こうして言葉を交わすことなど、こんなことでも無ければあり得なかったはずだ。縁は縁とはいえ、奇妙な縁である。
「ついて来てくれた騎士達の中には、騎士同士で結婚している者もいるらしい」
「「!!」」
雪也と友親はハッとしたように騎士達を改めて見つめていた。
食事の時は、騎士達と雪也達で場所が別になることもあり、今回がそれだった。
三橋友親は、どいつとどいつが結婚しているのだろうと、思わず騎士達をガン見していた。
「そんな不躾に見ないように。失礼でしょう」
常識人の委員長は友親達に注意をした。
雪也と友親は二人して「「はーい」」と返事をしていた。
総勢二十名にもなる一行は、人数が多いせいもあって、旅の最中、次第に幾つかのグループに分かれ始めていた。
二人の王女と護衛の騎士達のグループ。このグループの人数が一番多い。
そして異世界に“転移”してやって来た友親、雪也、勇者鈴木と委員長のグループ。
それから冒険者ギルドからの依頼を受けてやってきた魔術師と剣士四人のグループである。
なお、異世界から“転移”してやってきた異世界人である友親や雪也、鈴木と委員長達は、身分制度のない世界からやって来たこともあり、また友親や雪也が人見知りしないこともあって、依頼を受けてやって来た魔術師と剣士四人ともあっという間に仲良くなっていた。
それは、雪也が美味しい食事を作る能力が高かったことも、影響している。
雪也がフライパンを手に、美味しい料理を作り出すと(材料と道具は、城からたくさん持ち出していた)、いつの間にやら雪也達のグループのそばに皿を手に待ち構える騎士や魔術師達を見るようになっていた。
もちろん、雪也達は試練の旅の間、自分達の身を守ってくれるであろう騎士や魔術師達に作った料理を存分にお裾分けする。そのせいもあって、彼らは非常に雪也達に親切になっていた。街に立ち寄ると、騎士達は雪也が欲しがる食材を十分な量を購入してくれるようになった。雪也は、友親と委員長と、そして従者達を助手のように使って、全員分の料理を作るようになっていた。
第一王女コリーヌと、第三王女シーラも雪也の作った料理を美味しいと言って食べてくれて、女騎士であるコリーヌなどは雪也に対して本気で「私の婿になる気はないか」と口説いてきた。
正直、雪也は、女騎士コリーヌのスタイルの良さに少しだけ心が揺らいだのだけど、元の世界に戻るつもりだったので、非常に残念な思いを抱きながら断っていた。
基本、雪也も友親も、身分の差を考えることなく旅の者達に話しかけ、手伝う必要があることに関しては積極的に手伝うようにしていた。自分達が非力な非戦闘員であることを分かっていたからだ。勇者鈴木や騎士、魔術師達のバックアップに努めることが、自分達の仕事であるとよく理解していた。
誰に対しても分け隔てなく親切に手伝う人懐っこい友親に、ある時騎士の一人がこうボソリと言った。
「冒険者ギルドのあの魔術師や剣士達に、そう親切にすることはないです」
それを何故だと聞く友親に、騎士は言った。
「あれらは“混じり者”ですから」
夜、友親は雪也と鈴木、そして委員長に、声を潜めてそう言われたことを話した。
焚火の周りに、雪也達は毛布を手に寝床の準備をしていた。
周りの警戒は、護衛の騎士が務めてくれるから、安心して眠りに就くことが出来る。
「“混じり者”とはなんなんだ?」
その友親の問いかけに、鈴木が毛布を被りながら答えた。
「“魔”と近い人間だと聞いています。この西方地域は、“魔”との境界があやふやな場所が広がっていて、そこから魔物がやってくるようです。魔物と交わって、人と“魔”の混じった人間が生まれるらしいです」
この異世界の基本的な知識について、旅の最中、鈴木は王女二人に教わっている。何故か委員長も同席して、二人して学習しているようだった(ちなみに雪也と友親は、その間、手に入れた食材をどう使って食事を作るか頭を悩ませていた)。
「……だから、同行している魔術師達に親切にしなくていいと言われた」
友親は憮然とした表情でそう言うと、委員長もため息混じり言った。
「ある種の“差別”でしょう。こちらの世界でもそういうものがあるのね」
人間と“魔”が混じった人間。
その“魔”が混じった人間を忌避しているのだ。
「でも、魔術師として優秀だから、わざわざ冒険者ギルドに頼んでついてきてもらっているんだろう? 旅の仲間じゃんか。それなのに差別するなんてとんでもないな」
友親は少し怒っている。彼は曲がったことが好きではない性格なのだ。
「……そうだね」
だが、そう言って頷いた勇者鈴木はこの場では告げなかったが、“魔”が混じっていると言われるあのギルドから派遣されてきた魔術師と剣士達は、夜になるとその目が光る。おそらく夜目も利くのだろうと思う。そして戦いに際しては、恐ろしい力を発揮する。特に剣士の男二人は、驚くほど大柄で体格が良い。力では王宮の騎士達を凌駕しているのではないかと思った。
きっと、圧倒的な力を持つ彼らへの恐ろしさもあって、王宮の騎士達は彼らを忌避しているのだろう。
そんなことも思っていた。
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