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外伝 はじまりの物語  第一章 召喚された少年達と勇者の試練

第二話 自己紹介

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 その後、お城の使用人らしき人が「皆様、どうぞついてきて下さい」と言って、友親達を城の一室へ案内した。
 トラックにはねられて、異世界へ転移した学生達は全部で七名もいた。
 山際高等学校の生徒は三名。三橋友親と沢谷雪也とクラス委員長の石野凛である。
 青陵学園の生徒は四名。勇者である鈴木陸、佐藤優斗、長野京子、清瀬千春である。
 合計七名。内訳は男四名に女三名だった。
 
 あのトラックは鈴木陸を確実に仕留めるために突っ込んできたのだろう。だが、それに巻き込まれた生徒達は六名もいる(どうせなら異世界への転移者は青陵学園の生徒で統一して欲しいのに、他校生である俺達までおまけのように巻き込まれていると内心友親は思っていた)。部外者の巻き込まれが酷い。

 使用人らしき人物が、七名の生徒達にお茶やお菓子を出してくれた。
 そして騎士姿の男が戸口と窓付近に一名ずつ立っている。
 逃げ出さないように、見張られているような嫌な感じが威圧感と共に漂っている。

 友親達はテーブルを囲んで、椅子やソファに座った。
 自然と緑色のブレザーの山際高等学校の生徒と、青いブレザーの青陵学園の生徒に別れて座っていた。
 青陵学園の背の高い色白の女の子が、声を上げた。

「じゃあ、一度自己紹介をしないかな。こうなってしまったら、私達は一蓮托生でしょう。お互いのことを知っておいた方がいいと思うの。そうでしょう? 鈴木君」

 勇者である鈴木陸は、色白の女の子にそう言われて頷いた。

「そうだね」

「鈴木君は先ほど自己紹介したから、私から話をさせてもらうわね。私は青陵学園一年の長野京子。よろしくね」

 そして長野京子の隣に座る小柄な少女が次に発言した。

「私は清瀬千春。京子と友達で、青陵学園一年生です。よろしくお願いします」

 そう言ってぺこりと頭を下げる。どこか小動物のような可愛らしさのある少女だった。
 次に、ぶ厚い眼鏡をかけた細身の少年が声を上げた。

「同じく青陵学園一年、佐藤優斗です。よろしくお願いします」

 いかにも勉強が出来る、青白い顔をしたガリ勉という感じの少年だった。
 青陵学園の生徒達の紹介が終わったので、次は山際高等学校の生徒達の番である。

「私は山際高等学校一年石野凛です。よろしくお願いします」

「俺は三橋友親。山際高等学校一年」

「俺は沢谷雪也。友親とは腐れ縁なんだ。山際高等学校一年、よろしく」

 自己紹介を済ませた後、皆でお茶を飲む。
 お茶を口に含んで驚いた。

「……渋くないか、このお茶」

「渋いな」

「苦い」

 清瀬千春が眉を寄せて泣きそうな顔をしている。
 見れば、お茶の入ったポットの横にもう一つ器があり、蓋を開けて中を見るとそれは牛乳のように見えた。

「これは、お茶をミルクで薄めろということだな。きっと」

 友親がミルクの入っている器を見てそう言う。
 しかし雪也はその器に鼻を近づけて、クンと匂いを嗅いだ。

「止めた方がいいんじゃないか。こういう乳製品のナマモノって当たるだろう。異世界だぞ、やめた方がいい」

「いや、ここは城なんだろう? そんな悪くなっている乳製品なんて用意するはずがない。イケる。絶対イケる!!」

 そう友親は言い切って、自分のお茶のカップにミルクをトポトポと入れていく。
 それを見て清瀬千春と石野凛もミルクを入れる。
 それからお茶を飲んだ三人が「美味しい!!」と言ったものだから、佐藤優斗も長野京子もそのミルクをお茶に注いで飲み始めた。
 入れていないのは雪也と勇者の鈴木陸くらいである。
 
 そして十分も経たない内に、雪也と鈴木以外、皆トイレへ駆け込むハメになった。
 腹をひどく下して、げっそりと痩せ細った友親に、雪也が「異世界なんだから、ナマモノは避けた方がいいに決まっているだろう!!」と叱るように言うと、友親は弱々しくコックリと頷いていた。


 その日の夜は、召喚した勇者の歓迎会ということで、城の中の大きな広間の中で、豪華な食事が振る舞われたが、昼間の“ミルク腹あたり事件”のせいで、皆、一切ナマモノを口にすることはなかった。
 歓迎会に友親達学生も呼ばれてはいたけれど、歓迎会の主役はあくまで勇者の鈴木であった。彼のそばには王女ラーマがぴったりと寄り添い、それ以外にも護衛をしている騎士達が何人も傍らにいた。
 雪也は、串に刺され、よく火が通った鶏肉のような味わいの固い肉を頬張りながら、友親へ言った。

「勇者役も大変そうだなー」

 勇者鈴木の前にはひっきりなしに、挨拶のための貴族達がやって来ている。
 皆、ラーマ王女の紹介を受けながら恭しく鈴木の前で頭を下げている。
 
「まぁ、勇者だからね。お姫様が勇者を支えているみたいだし。いいんじゃないの? この調子じゃ恋愛ルートも開きそうだ」

 召喚された勇者を、召喚した側の王女が支え、やがて二人は恋に落ちるのだ。
 あまりにも定番すぎる展開だ。

 宴ということで、ラーマ王女は金髪を綺麗に結い上げ、華やかなドレスを纏っている。その胸元には大きな宝石のはまった首飾りが下がり、大広間の中でもそのゴージャスさは際立っている。そんな彼女は勇者の鈴木の側で、あれこれと彼に説明したり、食べ物を皿によそったりして甲斐甲斐しく世話をしていた。
 
「この国は豊かそうだな。王様も王女様もみんな凄いキラキラして派手だ」

 友親はチラチラと王様の王冠や王女様の宝石に目を走らせて言った。確かに、王様の王冠も派手だし、首回りの毛皮の縁取りも真っ白で豪華なものだった。王女もよく見れば、首飾りだけでなく、ドレスにも輝く宝石がふんだんに縫い込まれている。

「そうだね。でも、そんな豊かな国で、どうして勇者をわざわざ異世界から呼んでいるんだろう。試練って一体何だろう」

 雪也の当然の問いかけに、友親はスープをすすりながら言う。

「騎士がいる世界に、わざわざ異世界の勇者を呼ぶくらいなのだから、結構大変な試練なんじゃないか。まぁ、俺達みたいな凡人には関係のないことだよ」

 その台詞は、すっかり傍観者を決め込むことにした友親らしい言葉だった。
 雪也は勇者の鈴木をじっと見つめる。
 勇者というくらいだから、鈴木は異世界に召喚されることで、何か特別な力を得たのだろうか。
 一緒に異世界へ運ばれていながら、鈴木は勇者という大変な仕事を課せられたのだけど、友親達は巻き込まれのモブに当たる。モブ故に、何の力もない無力な存在だ。

「あっ」

 だが、雪也は思いついたように声を上げた。

「どうしたんだ、ユキ」

「俺達、異世界の人達と普通に言葉を交わせているじゃん。これって異世界へ来た特典みたいなもの?」

「……そういえばそうだな」

 来た時から、雪也や友親達は、王女や世話をしてくれる召使達の言葉もすんなりと理解出来ていたし、こちらから話す言葉も通じていた。
 明らかに彼らの言葉は日本語ではなかった。

「この魔法みたいな言語能力を、現世に持ち帰れたら、俺達英語の点数めちゃとれるぜ!!」

 物凄い庶民的な発想で、雪也は喜びと期待を込めてそう言う。
 
「そうだろうな。ただ、さすがにこうした力は取り上げられるんじゃないか?」

「そうかなー。現世に戻れる時が来たら、俺、女神様に頼んでみるよ」

「女神様に会えるのは勇者の鈴木だけじゃないかな」

 最初に鈴木の前だけにしか、女神は現れなかった。
 だから、帰る時もきっとそうだろうと友親は思っていた。

「むー」

 その時の友親達は、勇者の鈴木が女神様から与えられた試練を、勇者の持つであろう凄い力で楽々クリアして、すんなりと全員、現世へ帰れると信じていた。
 だから、不安もなく馬鹿みたいに明るく、そんな話をすることが出来たのだった。

 でもやはり、そんな簡単に全てが運ぶはずが無かったのだった。
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