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外伝
再会のために (5)
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「トモチカ、来たのなら私のところにも寄ってくれればいいのに」
ルティ魔術師からそう言われた三橋友親は、首を振った。
「忙しいから、寄れない」
七年前、吸血鬼の自分への従属から解き放ったルティ魔術師は、あれ以来、友親のことを慕っている。下僕として従属させていた間も、まるで雛が親鳥を慕うかのように慕っていたが(目を離すとカルフィーがルティ魔術師に難癖をつけていることがあるため、庇わざるを得ない)、それがそのままこの七年間ずっと続いているのだ。下僕状態を解いているのに、解せない反応だった。
だが、それがルティ魔術師の言う「私はあの時から、奥ゆかしい貴方に夢中なのです」ということなのだろう。
三橋友親は、内心頭を抱えていた。
大の男相手に、奥ゆかしいって何だよ!!!!
そう言いたいところであるが、何を言っても無駄なことを、この七年の間に友親は学習していた。
「最近は仕事が忙しいのですか」
「ああ」
「カルフィーも忙しそうにしていますね」
三橋友親の、魔道具店の共同経営者であるカルフィー魔術師。彼は友親の伴侶でもあり、親吸血鬼の立場にある。そして同じ魔道具店にいながらもこの二人の優秀な魔術師は、互いを気に食わないようにいつもいがみ合っている。
「大口で遠話魔道具の受注を受けたから忙しい」
七年前に開発された遠話魔道具は、カルフィー魔道具店の独占販売となっており、以来、注文が途絶えたことはない。今でも五年先までの注文予約がびっしりと入っている。
「そうですか」
杖を持つ友親の手にそっとルティ魔術師は自分の手を添えて優しく言った。
「今から本店に戻られるのですか。付き添いを致しましょうか」
工房はカルフィー魔道具店の敷地の一角にあり、その周囲を高い塀でぐるりと囲まれている。出入りする者達は厳しく番兵によって管理されている。三橋友親は店の主人のため、フリーパスで工房の敷地を出入りできるし、工房の敷地内にいるその間、護衛をつける必要もなかった。実際、今、友親の護衛は馬車の周囲で待機している。
カルフィーから吸血鬼にさせられて以来、三橋友親はほとんどの場合、護衛をつけずに出歩けるようになっていたが、ケイオスとカルフィーの二人は、友親が誘拐されることを警戒しており、本店から工房へ行くまでの間など、護衛を付けるようにさせていた。
吸血鬼になった友親は、以前のように、少し歩くだけで足が痛み、寝込んでしまうような虚弱ではなくなった。だから護衛なんて必要ないと思うのだが、遠話魔道具によって生み出された莫大な富が、三橋友親の身を極めて貴重なものにしてしまっている。
「大丈夫だ」
杖を手に足をひきずるようにして歩く友親。
カルフィーは、友親の足を切り落として再生させれば、こんな足の不自由さはなくなると言っていたが、「自分の足を切り落とすなんて無理だろう!!」と友親は拒否している。
本当なら、カルフィーは友親が水場で眠っている間に、勝手に足を切り落として再生させる予定だったらしい。それを聞いて、友親はしばらくの間、カルフィーのことを恐ろしいものでも見るように見つめていたのだった。
「大丈夫だ」と友親がやんわりとルティ魔術師の申し出を拒絶したところ、ルティ魔術師がしょんぼりと友親を見つめていることに気が付く。そんな彼を見ていると、友親は少しばかり罪悪感を抱いてしまう。
(こいつは俺が、下僕にしたせいで、いつまでもこの調子なんだ)
従属状態は解いているのに、おかしなことだった。
カルフィー魔術師などはルティ魔術師に対して「あいつはトモチカが優しいのをいいことに、すがって居座ってとんでもない奴だ」と悪態をついている。
その悪態を聞いたケイオスは「カルフィーに似ているところがあるから、同族嫌悪か」と冷静に分析していて、またそれを聞いたカルフィーに逆上されていた。
ただ、アレドリア王国の魔術師ギルドでもその優秀さから一目置かれていたルティ魔術師が、魔道具店にいてくれることは助かっていた。大体、遠話魔道具もルティ魔術師が開発に大きく携わっている(アイデアは三橋友親が出していた)。今のカルフィー魔道具店の突出した繁盛ぶりは、ルティ魔術師の貢献なしではなかったことだった。
「……何か困っていることはないか」
「トモチカにもっと会いたいです」
「………………」
大の大人が、子供のように何を言うというように、友親が冷ややかな視線を向けると、ルティ魔術師は「だってトモチカが困っていることはないかと聞いたから、言っただけじゃないですか。貴方に会いたくても忙しそうにしていてなかなか会えないから」と言い訳をしたのだった。
ルティ魔術師からそう言われた三橋友親は、首を振った。
「忙しいから、寄れない」
七年前、吸血鬼の自分への従属から解き放ったルティ魔術師は、あれ以来、友親のことを慕っている。下僕として従属させていた間も、まるで雛が親鳥を慕うかのように慕っていたが(目を離すとカルフィーがルティ魔術師に難癖をつけていることがあるため、庇わざるを得ない)、それがそのままこの七年間ずっと続いているのだ。下僕状態を解いているのに、解せない反応だった。
だが、それがルティ魔術師の言う「私はあの時から、奥ゆかしい貴方に夢中なのです」ということなのだろう。
三橋友親は、内心頭を抱えていた。
大の男相手に、奥ゆかしいって何だよ!!!!
そう言いたいところであるが、何を言っても無駄なことを、この七年の間に友親は学習していた。
「最近は仕事が忙しいのですか」
「ああ」
「カルフィーも忙しそうにしていますね」
三橋友親の、魔道具店の共同経営者であるカルフィー魔術師。彼は友親の伴侶でもあり、親吸血鬼の立場にある。そして同じ魔道具店にいながらもこの二人の優秀な魔術師は、互いを気に食わないようにいつもいがみ合っている。
「大口で遠話魔道具の受注を受けたから忙しい」
七年前に開発された遠話魔道具は、カルフィー魔道具店の独占販売となっており、以来、注文が途絶えたことはない。今でも五年先までの注文予約がびっしりと入っている。
「そうですか」
杖を持つ友親の手にそっとルティ魔術師は自分の手を添えて優しく言った。
「今から本店に戻られるのですか。付き添いを致しましょうか」
工房はカルフィー魔道具店の敷地の一角にあり、その周囲を高い塀でぐるりと囲まれている。出入りする者達は厳しく番兵によって管理されている。三橋友親は店の主人のため、フリーパスで工房の敷地を出入りできるし、工房の敷地内にいるその間、護衛をつける必要もなかった。実際、今、友親の護衛は馬車の周囲で待機している。
カルフィーから吸血鬼にさせられて以来、三橋友親はほとんどの場合、護衛をつけずに出歩けるようになっていたが、ケイオスとカルフィーの二人は、友親が誘拐されることを警戒しており、本店から工房へ行くまでの間など、護衛を付けるようにさせていた。
吸血鬼になった友親は、以前のように、少し歩くだけで足が痛み、寝込んでしまうような虚弱ではなくなった。だから護衛なんて必要ないと思うのだが、遠話魔道具によって生み出された莫大な富が、三橋友親の身を極めて貴重なものにしてしまっている。
「大丈夫だ」
杖を手に足をひきずるようにして歩く友親。
カルフィーは、友親の足を切り落として再生させれば、こんな足の不自由さはなくなると言っていたが、「自分の足を切り落とすなんて無理だろう!!」と友親は拒否している。
本当なら、カルフィーは友親が水場で眠っている間に、勝手に足を切り落として再生させる予定だったらしい。それを聞いて、友親はしばらくの間、カルフィーのことを恐ろしいものでも見るように見つめていたのだった。
「大丈夫だ」と友親がやんわりとルティ魔術師の申し出を拒絶したところ、ルティ魔術師がしょんぼりと友親を見つめていることに気が付く。そんな彼を見ていると、友親は少しばかり罪悪感を抱いてしまう。
(こいつは俺が、下僕にしたせいで、いつまでもこの調子なんだ)
従属状態は解いているのに、おかしなことだった。
カルフィー魔術師などはルティ魔術師に対して「あいつはトモチカが優しいのをいいことに、すがって居座ってとんでもない奴だ」と悪態をついている。
その悪態を聞いたケイオスは「カルフィーに似ているところがあるから、同族嫌悪か」と冷静に分析していて、またそれを聞いたカルフィーに逆上されていた。
ただ、アレドリア王国の魔術師ギルドでもその優秀さから一目置かれていたルティ魔術師が、魔道具店にいてくれることは助かっていた。大体、遠話魔道具もルティ魔術師が開発に大きく携わっている(アイデアは三橋友親が出していた)。今のカルフィー魔道具店の突出した繁盛ぶりは、ルティ魔術師の貢献なしではなかったことだった。
「……何か困っていることはないか」
「トモチカにもっと会いたいです」
「………………」
大の大人が、子供のように何を言うというように、友親が冷ややかな視線を向けると、ルティ魔術師は「だってトモチカが困っていることはないかと聞いたから、言っただけじゃないですか。貴方に会いたくても忙しそうにしていてなかなか会えないから」と言い訳をしたのだった。
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