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外伝
小さな黒竜への贈り物 (1)
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長い黒髪の六歳くらいの女の子がいた。
スウェードの茶色の靴に、綺麗な小花の散らされた青いドレス。その手には茶色の大きなウサギの人形が抱えられている。肩から斜めに下げたポシェットの中には、彼女の好きなお菓子がぎっしりと入っている。可愛らしい格好をしていることに、道行く人々もつい視線を彼女に向けていた。
女の子は自分の手を引いて歩いている男を見上げた。
「ここなの? エルハルト」
そう呼ばれた大柄な男は頷いた。
彼女が「ここ」と言った屋敷は、大豪邸であった。
鉄門の向こうには噴水を備えた瀟洒な屋敷の建物があった。
それは、このラウデシア王国でも名の知れたバンクール商会の、商会長ジャクセン=バンクールの屋敷であった。
エルハルトは、女の子をひょいと抱き上げる。
そして鉄門の向こうの護衛に声をかけた。
「リヨンネと約束していたエルハルトだ」
リヨンネとは、ジャクセン=バンクールの末弟である。
そしてエルハルトという人物が、今日のこの日訪問する話は事前に知らされていた。護衛達は扉を開くと、エルハルトは大事そうに女の子を抱きかかえたまま、扉の向こうへ歩いていったのだった。
屋敷の入口の扉の前に、エルハルトが立った時、立派な屋敷の大きな扉が内側から開いて、そこから転がるようにしてひょろりとした細身の男が現れた。恐らく急いで走って来たのだろう。ハァハァと荒く息をついている。その後ろから「リヨンネ先生、待ってください」と声がする。
その声を、エルハルトは懐かしく聞いていた。
そして大急ぎで現れたその細身の男の姿も懐かしいものだった。
よほど急いで来たのだろう。その眼鏡も鼻からずり落ちている。
眼鏡を押しあげながら言った。
「エ、エルハルト」
リヨンネは息を整えながら、大男の顔を見上げる。
それから、彼の抱いている黒髪の少女に視線をやって、声を震わせる。
「その子がシェーラなのかい?」
「ああ、シェーラだ」
「そうか。そうなんだ」
リヨンネの目が再会の感動に潤み出す。
だが、エルハルトの腕の中にいる少女は、自分の名を呼んだ男を知らなかった。
だから当然のように、エルハルトに尋ねる。
「ねぇ、エルハルト。この人達は誰なの?」
その頃にはリヨンネのそばに、リヨンネの元従者で、今は伴侶となっているキースも追いついていた。
二人寄り添って立つリヨンネとキースを、エルハルトは一瞥した後、短く答えた。
「友人だ」
「ふぅん。私は知らないわ」
卵まで戻ってしまい、“育て直し”となってしまった黒竜シェーラには、過去の一切の記憶がない。彼女からリヨンネ達のことを「私は知らないわ」と言われても仕方がないことだった。だが、目の前でハッキリそう言われてしまうと、リヨンネもキースも内心ショックを受けていた。
リヨンネはぶつぶつと「そうか……シェーラは私のことを知らない……知らないのか」と呟いている。
キースは、気を取り直してエルハルトに「ここでお話するのもなんですから、どうぞ中へお入りください」と言って、屋敷の中へと招き入れたのだった。
スウェードの茶色の靴に、綺麗な小花の散らされた青いドレス。その手には茶色の大きなウサギの人形が抱えられている。肩から斜めに下げたポシェットの中には、彼女の好きなお菓子がぎっしりと入っている。可愛らしい格好をしていることに、道行く人々もつい視線を彼女に向けていた。
女の子は自分の手を引いて歩いている男を見上げた。
「ここなの? エルハルト」
そう呼ばれた大柄な男は頷いた。
彼女が「ここ」と言った屋敷は、大豪邸であった。
鉄門の向こうには噴水を備えた瀟洒な屋敷の建物があった。
それは、このラウデシア王国でも名の知れたバンクール商会の、商会長ジャクセン=バンクールの屋敷であった。
エルハルトは、女の子をひょいと抱き上げる。
そして鉄門の向こうの護衛に声をかけた。
「リヨンネと約束していたエルハルトだ」
リヨンネとは、ジャクセン=バンクールの末弟である。
そしてエルハルトという人物が、今日のこの日訪問する話は事前に知らされていた。護衛達は扉を開くと、エルハルトは大事そうに女の子を抱きかかえたまま、扉の向こうへ歩いていったのだった。
屋敷の入口の扉の前に、エルハルトが立った時、立派な屋敷の大きな扉が内側から開いて、そこから転がるようにしてひょろりとした細身の男が現れた。恐らく急いで走って来たのだろう。ハァハァと荒く息をついている。その後ろから「リヨンネ先生、待ってください」と声がする。
その声を、エルハルトは懐かしく聞いていた。
そして大急ぎで現れたその細身の男の姿も懐かしいものだった。
よほど急いで来たのだろう。その眼鏡も鼻からずり落ちている。
眼鏡を押しあげながら言った。
「エ、エルハルト」
リヨンネは息を整えながら、大男の顔を見上げる。
それから、彼の抱いている黒髪の少女に視線をやって、声を震わせる。
「その子がシェーラなのかい?」
「ああ、シェーラだ」
「そうか。そうなんだ」
リヨンネの目が再会の感動に潤み出す。
だが、エルハルトの腕の中にいる少女は、自分の名を呼んだ男を知らなかった。
だから当然のように、エルハルトに尋ねる。
「ねぇ、エルハルト。この人達は誰なの?」
その頃にはリヨンネのそばに、リヨンネの元従者で、今は伴侶となっているキースも追いついていた。
二人寄り添って立つリヨンネとキースを、エルハルトは一瞥した後、短く答えた。
「友人だ」
「ふぅん。私は知らないわ」
卵まで戻ってしまい、“育て直し”となってしまった黒竜シェーラには、過去の一切の記憶がない。彼女からリヨンネ達のことを「私は知らないわ」と言われても仕方がないことだった。だが、目の前でハッキリそう言われてしまうと、リヨンネもキースも内心ショックを受けていた。
リヨンネはぶつぶつと「そうか……シェーラは私のことを知らない……知らないのか」と呟いている。
キースは、気を取り直してエルハルトに「ここでお話するのもなんですから、どうぞ中へお入りください」と言って、屋敷の中へと招き入れたのだった。
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