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第十六章 心地良い場所

第七話 戦勝会(上)

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 ラウデシア王国で、サトー王国に勝利したことを祝う会が大々的に開催されることになった。
 竜騎兵団の正装の制服を身に付けた竜騎兵団の面々は、王国の王宮の離着陸場に次々と到着していく。すでに、王宮に先に到着していたらしいバルトロメオ辺境伯が、嬉しそうな顔をしてウラノス騎兵団長に近寄って来ていた。

「ウラノス、遅いぞ!!」

「定刻通りだ」

 ウラノス騎兵団長のがっしりとした肩に手を回して、親友の辺境伯は彼を引きずるようにして連れていく。きっと戦勝会では二人で酒を酌み交わそうというのだろう。騎兵団長と辺境伯の二人は、幼馴染みでまったく性的なものを感じさせない関係だったが、時折、ウラノス騎兵団長の伴侶であるエイベル副騎兵団長が、ウラノス騎兵団長を占領し続けるバルトロメオ辺境伯に気付かれぬようにため息をついていた。

 そしてアルバート王子もまた、騎竜ルーシェの背から降りる。降りると同時にいつものように、ルーシェも背に乗せられた鞍を振り落として小さな竜の姿に変わった。すかさず小さな竜は定位置であるアルバート王子の肩に留まる。

 アルバート王子は仲間の騎兵達と共に歩いていく。その王子の後ろを、護衛騎士のバンナムも歩く。王宮の者達は眩しそうな目で、今回の戦いで一番の功績を挙げた王子の姿を見つめていた。

 今回のこの戦勝会の場で、サトー王国のサトー国王の首を獲ったアルバート王子が讃えられ、彼に対して褒賞が与えられることは知らされていた。内々で、領土を与えるという打診がきていたからだ。
 アルバート王子の伴侶のシアン(もとい紫竜ルーシェ)に、第一王子リチャードが言い寄っていることはよく知られていて、アルバート王子はこれから先もあまりにも兄王子が執拗であるなら、今後、別の国に亡命をすると明言している。そしてその噂を広く流していた。
 サトー王国のサトー国王を倒した“勇者”である王国の七番目の王子アルバートが、世継ぎの王子の“横恋慕”のために、国から出ていくことなど、あまりにも外聞が悪い。慌てた王宮側は当然、アルバート王子の引き留めにかかった。

 リチャード王子は、シアンへの手出しの一切を禁じられ、懐柔のためにアルバート王子には褒賞として領土が下される。彼をこの王国へ縛りつけるため、その褒賞もなかなか素晴らしいものだった。

「公爵の地位に、大陸中央部の豊かな土地、莫大な報奨金」

 もう、アルバート王子はあくせくと竜騎兵団の竜騎兵として働く必要もない。
 左団扇で暮らせるような褒賞である。

 だいたい、伯爵の地位にある上官ウラノス騎兵団長よりも、公爵の地位を与えられるアルバート王子の方が地位は高くなる。しかし、アルバート王子はこれまでと変わらず竜騎兵団の騎兵として働き続けると言っていた。王宮側はアルバート王子に与えられる領土には、管理人を置いて管理をすれば良いと言って、なんとかその褒美を受け取らせようとしていた。

 ウラノス騎兵団長は、そうした褒賞を素直に受け取れば良いとアルバート王子に話していた。

「管理も別の者がやってくれると言うのなら、困るものではない。それに、地位も名誉も、殿下のお力の一つになる」

「はい」

 誰に対して力になるのか。
 それは、言葉にはしなかったが、ウラノス騎兵団長もアルバート王子も分かっていた。

 紫竜ルーシェ、五百年ぶりに誕生した宝石のような煌めく輝きを持つ竜。
 魔力を豊富に持ち、幾つもの属性を操るアルバート王子の大切な騎竜。
 小さな子供の姿をとれば、愛らしく、長じた姿をとれば、これもまた人心を惑わすほどにひどく美しい。
 大きな濡れたような黒い瞳に見つめられれば、胸を騒がさない者はいない。

 小さな竜の真の姿が知られれば、喉から手が出るほど彼を欲しがる人々は多い。
 王国の後継者リチャード王子もしかり。
 だから、ルーシェを守るためにも、アルバート王子は力が欲しかった。

 サトー王国のサトーを倒したアルバート王子は、誰もが認める英雄だった。彼をこのラウデシア王国に引き留めるために、王宮側は必死になっていたのだった。
 リチャード王子の横恋慕などとんでもないと、世継ぎの王子とはいえ、その想いは戒められるような状況だった。そしてそれは、ウラノス騎兵団長やアルバート王子の意図した流れでもある。

 

 戦勝会の前に、玉座の間で、今回の戦いで功績のあったものに対して、国王から直々に褒賞が下される。
 ハルヴェラ王国軍に合流したエイベル副騎兵団長以下十名の竜騎兵達と、アルバート王子、そしてザナルカンド王国に出兵したウラノス騎兵団長以下の竜騎兵達とバルトロメオ辺境伯軍である。

 一人一人の名が呼ばれ、その胸に勲章がつけられ、褒賞が読み上げられる。
 赤い絨毯の上に、膝をついて竜騎兵達は恭しくその褒賞を受け取っていく。
 
 ウラノス騎兵団長も褒賞を受け取っていたが、彼はそれに際して、間際で現国王の様子を窺い見ていた。

(随分と老いられた)

 国王はどこか背も縮み、小さくなったように思える。覇気も乏しく、疲れたような表情をしていた。
 それはそうだろう。

 この王国にも、サトー王国の攻撃の手は伸び、王都とそれを守る騎士団はひどい被害を受けた。
 その都の再建にも資金が必要だったが、今後、サトー王国の解体となれば、そこから賠償金を絞りとることになるだろう。
 その場で、サトー王国打倒の第一の功労者は、我がアレドリア王国にいる“勇者”であると声高々に主張するためにも、アルバート王子は今後も変わらずこの王国にいてもらわなければならない。

 そのことを、今の国王はよく分かっておられる。

 また、サトー国王の“星弾”こそ、王国にある“黄金竜の守護”で守り抜けたが、続いての魔族の襲撃からは守ることが出来なかった。それによって、「絶対の防衛力によって負けることは決してない」と詔まで発令した国王の評判はガタ落ちになってしまい、それも国王の心労になっているのだろう。
 だから来年、世継ぎの君である第一王子リチャードにその王座を譲り渡すという話になっている。

 それも、シアン(もといルーシェ)に想いを寄せる世継ぎの君に。

 そのことを思うと、ウラノス騎兵団長は内心深いため息をついてしまうのだった。
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