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第十六章 心地良い場所

第五話 王宮魔術師長のスライム(下)

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 王宮魔術師長ウールが飼う“銀色”スライムが産み出した濃紫色の石は、極上の魔石だった。
 いわゆる最上級の等級に該当する魔石である。

 魔石とは、魔力を秘めた石のことで、その帯びた魔力の質と量で等級が振られる。
 等級鑑定のための魔道具もあり、ウールが“銀色”スライムが産み出した魔石を測ったところ、最上級の判定が下った。

 魔力を喰らう“銀色”スライムが産み出した最上級の魔石。
 魔力を好んで喰らうこの“銀色”スライムに、再度自分が産み出した魔石を喰らわせれば、ある種の永久機関になるのではないかと思って、ウールが“銀色”スライムに自分が排泄した魔石を差し出したが、自分の体内から出した魔石は食べたくないのか、プイと身を背けるような仕草をする。

 永久機関にはならないということが少し残念な気がしたが、それからウールは、この“銀色”スライムにたくさんの魔力を注ぎ込み、また魔力を持つ罪人のもとへ“銀色”スライムを連れて行って魔力を吸わせた。

 ある程度の量の魔力を吸わせ続けると、“銀色”スライムは身をプルプルプルと震わせた後に、プリと音を立てて、極上の魔石を排泄することが分かった。
 “銀色”スライムに吸わせる魔力の量と質が重要なのである。

 王宮魔術師長ウールは、“銀色”スライムに魔力を吸わせることに夢中になった。
 魔石は、研究にも大いに使えるのである。それが、“銀色”スライムに魔力を吸わせるだけで産み出せる。素晴らしいことではないかと思う。

 王宮魔術師長ウールは、“銀色”スライムの産み落とした(実際には“排泄”だが、“排泄”という言葉を使うことにウールには抵抗があった)魔石を、ウールは大切に小さな宝石箱のような箱の中に仕舞いこんでいた。その魔石が一つ二つと増えていくのを、喜んで数えていた。

 ウールは、“銀色”スライムにどんどん魔力を吸わせたかった。
 
 この世に生きるものは、大なり小なり、その身に魔力を秘めている。種族によって多く魔力を秘めているものもあれば、そうでないものもある。
 そしてこの世で最も多くの魔力を秘めし生き物は、この世界の生態系の頂点に立つ“竜”であった。




 ラウデシア王国の北方地方も、本格的な冬に入った。
 毎日白い雪が灰色の空から降り続ける。

 紫竜ルーシェとアルバート王子は、自分達の巣の近くの雪原で、遊んでいた。
 午前中に見回りの任務を済ませた後は、午後からはまるまるオフだったのである。ルーシェはアルバート王子を背に乗せて、自分の巣穴まで飛んでくると、子供の姿に変わって、アルバート王子に「雪遊びをしよう」と持ち掛けた。

 黒い大きな目をキラキラと輝かせてせがむルーシェに、断ることなどできないアルバート王子は、しっかりと防寒着を身に付け、二人して巣の近くの雪原に降りていって、雪ダルマを何体も作ったり、雪で城を作ったりして遊ぶ。

 ルーシェは、アルバート王子が非常に器用に雪の城を作ることに驚いていた。
 
「王子の城は、札幌雪祭りに出せるレベルだよ、それ!!」

「サッポロ雪祭り?」

 アルバート王子は首を傾げる。
 実際、王子の作り上げた雪の城は立派だった。アルバート王子の身長ほどの高さまである城だった。開いた門の中まで細かく細工がされている。

 大体、アルバート王子は優秀で何でも出来る。
 彼は子供の時分から頭も良かったし(隣で学んでいたルーシェはそのことを知っている)、剣の筋も良かったし(バンナム卿も良く褒めている)、ハンサムで格好いいし。筋肉もしっかりついているし(自分には筋肉がまったくつかないことがルーシェの悩みでもある)。

 こんな頭も良くて筋肉もある素晴らしい男が、自分の伴侶であるなんて信じられない。

「王子は何でもできて凄い!!」

 アルバート王子の前で、ルーシェは彼の顔を見上げてそんなことを大声で言う。幼い姿のルーシェは雪にまみれてどこか可愛らしい。息も白く、頬は真っ赤に紅潮している。

「じゃあ、褒美をくれ」

「褒美?」

 アルバート王子はルーシェを抱き上げた。

「そうだ」

 そう言われると、ルーシェはキョロキョロと辺りを見回した。当然、山間の雪原になんぞ人の姿はなく、野生竜の姿も見えなかった。
 それを確認すると、ルーシェはアルバート王子の首に両手を巻きつけ、優しくチュッと音を立ててアルバート王子の頬に口付けて、ニッコリと笑った。

「俺の王子は凄いんだ!!」

 彼のくれた可愛い褒美に、アルバート王子も笑ってルーシェの頬に口づけし返した。

「くすぐったいよ、王子」

 アルバート王子とルーシェのそばには、ルーシェの作ったどこか下手くそな雪だるまが数体転がっていた。
 空からはしんしんと白い雪が降り続け、大地をどこまでも白く染めていく。
 恋人達は笑い声を上げて、陽が暗く翳るその時まで、ずっと雪で遊び続けていたのだった。
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