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第十五章 この世界で君と共に

第十四話 突き上げ

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 再び人の国を攻めるべきだ、攻めて欲しいという魔族達の声に、サトーは不機嫌になっていた。

 アレドリア王国の侵攻で、サトーの“魔素”のストックは空になっている。
 やはり、神の呪いを受けて以来、サトーの“魔素”の回復は低調だった。
 そして彼の両足の爪先からの黒ずみは次第に上に上がってきており、今や膝のあたりまで黒く染まっていた。
 
 魔のやんごとなき三公が一人、ヴィータが何度も、その呪いの黒ずみを取るために、サトーの身体に触れる許しを得ようとしたが、サトーはそれを許さなかった。
 そうしなければ死ぬのだと言われても、サトーは首を振る。

 自分の身体を他人に触れられることなど、虫唾が走る。
 以前、ヴィータが爪先に唇を付けた時なども、サトーは反射的にヴィータを蹴ろうとしたくらいだった。
 
 このままこの調子で呪いが全身を黒く染める方が早いか、それとも自分が大陸全土を征服することの方が早いか。できれば後者であって欲しいと願うが、それは難しそうに思えた。

(本当にうまくいかない)

 苛立ちが募る。




 魔族達は、魔の領域に連れ帰った人間達を黄金竜の雛に引き渡さなければならなかった。
 ゴルティニア王国の黄金竜に帰順したという、獅子面をした魔族の騎士ローエングリンが、広く魔族達に告知した。

「アレドリア王国から連れ去った人間達を解放しなければ、それを取り戻しに黄金竜ウェイズリーがやって来る。今、解放すれば許すが、解放しなければ、黄金竜の怒りに触れる」

 黄金竜の怒りと聞いて、震えあがった魔族達は多かった。
 旧カリン王国の領土で、黄金竜の怒りに触れ、彼の振るう“金色の芽”で一瞬にして命を落とした魔族達の数は膨大であった。またその前にも、魔の領域に、その小さな黄金竜の雛はたった一頭で攻め込んできて、魔族達を玩具のようにバラバラにして殺したのだ。

 あの黄金竜の雛はまともではない。
 恐ろしく、狂っている。

 とてもまともには戦えない。

 ローエングリンの説得もあり、大勢の魔族達が渋々と人間達を解放した。
 そしてその後、解放しなかった魔族の全てが命を落としたことを知り、震えあがった。

 せっかく手に入れた人間を取り上げられた魔族達は不満たらたらであった。
 そしてそこに噂が流れてくる。
 

 アレドリア王国から連れ攫われた人間達は、魔法使いや学者達が多く、“価値”があり、黄金竜の守るゴルティニア王国も進んで救い出した。実際、新王国たるゴルティニアは、そうした難民達を数多く受け入れていた。

 でも今度、サトー王国が征服する国の人間を、ゴルティニアと黄金竜は救おうとしないだろう。今回で十分、ゴルティニアは人間達を受け入れたからだ。

 だから、どうしても人間達がまた欲しいなら、またどこかの国を攻めていくのが良い。



 その噂を耳にした魔族達が、キーキーと、人間達の国を攻めろとうるさい。
 噂が真実であるのか分からないのに、今度攻めた国で手に入れた人間は、黄金竜には取り上げられないと勝手に思い込んでいる。何の保証もないのに。

 馬鹿な奴らだと思うが、その馬鹿な奴らの力に、佐藤は依存していることを知っていた。

 多くの人間達を率いて戦うよりも、魔族は一人一人の能力が高く、小回りが利いた。人間達の方が命令にはよく聞くが、魔族のその強さは非常に魅力的で、ヴィータの命令には、恐らく彼のことを恐怖しているせいか、よく従ってくれた。

 だが、今は侵攻する時期ではないことを佐藤も理解していた。

 “魔素”が足りないのでは侵攻できない。

 そしてそれは彼に仕える魔の三公の一人、ヴィータもよく分かっていた。




 しかし、今や佐藤は自分の残された時間が限られてきていることも知っていた。
 
 ヴィータはあくまで反対をしたが、佐藤は“星弾”を撃ち込む分だけ“魔素”が貯められた時点で、魔族を率いて侵攻すると告げたのだった。魔族達は佐藤に従ってくれる。愚かな者達だが、佐藤はその代償を支払わなければならなかった。そうでなければ、魔族達が多くの犠牲を払っていることもあり、佐藤を見限るのも時間の問題であったからだ。
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