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第十五章 この世界で君と共に

第九話 会議再び(下)

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「友親のこの“遠話魔道具”は、なんとハンズフリーでも使えるという優れものなのよね」

 リン王太子妃が、少し広めの部屋に設置された“遠話魔道具”に触れながらそう話す。受話器部分は実は取り外しが出来て、朝顔の花のような形の大きな集音器に取り換えられる。そうすると、部屋の中にいる者の声が相手に届くらしい。また同時に、登録されている相手先複数と同時に通話もできるという。

「優れものすぎる。天才か、友親!!」

「そうよね。なんか聞くところによると、この“遠話魔道具”が売れすぎて、どうしようもないみたい」

 リン王太子妃は数日おきに三橋友親の屋敷にある地下の“水場”へ“転移”して連れていってもらっている。そこで友親から最近のカルフィー魔道具店の話も耳にするのだ。

 “遠話魔道具”の注文をかなり絞っていてもなお、注文が殺到しているとの話だった。
 すでに三年先まで注文が入っていると、少し困った顔で友親は言っていた。

「一台六千万円だったっけ……」

 ルーシェの言葉に、コクリとリン王太子妃が頷く。
 カルフィー魔道具店の売上は、想像できない規模の金額になりそうだった。
 
「でも確かに便利だものね」

 一度“遠話魔道具”を使ってしまうと、それがない生活はもう考えられない。
 情報の伝達が一瞬で出来てしまうのだ。現世にいた時の、携帯やスマホと同じようなものだろう。

「確実に“遠話魔道具”はこの世界の歴史を変えると思うわよ」

 そしてそのことを感じたリン王太子妃はすかさず、十台の試作品を押さえた。それを同盟各国に配分した。彼女もそうした新しい道具に対する目端は利くのである。

「俺と王子も同席していいの?」

「いいわよ。同席者については、私達の裁量に任されているから」

 対サトー王国の同盟国、イスフェラ皇国、ハルヴェラ王国、ラウデシア王国、ゴルティニア王国の四カ国の首脳陣による会議である。なお、アレドリア王国は陥落し、国家代表が不在のため、今回の会議には不参加となっていた。

 ハルヴェラ王国側の部屋の席には、国王、騎士団長、大臣、王太子、そしてリン王太子妃とアルバート王子、ルーシェが座っていた。それほど広くない部屋がすでにその人員でミッチリとしている。おそらく他の王国の部屋も同じような状況だろう。あまり広い部屋だと“遠話魔道具”の声が届かないらしい。

 やがて定時となった。まず会議の冒頭、イスフェラ皇国皇帝ミラバス=カーンが発言した。

「これより、会議を始める。発言者は最初に名乗って欲しい。私はイスフェラ皇国のミラバス=カーンだ」

 “遠話魔道具”から声が聞こえる。

「同盟国アレドリア王国が、サトー王国の攻撃により、陥落した」

 その言葉に参加者達は静まり返る。

「我が国でもアレドリア王国を奪還すべく挙兵を進言する者も多かったが、我が王国の筆頭魔術師イーサン=クレイラより、それは、今は止めておくようにとの言葉があった」

 対サトー王国の同盟国は互いに攻撃を受けた時に、サトー王国を攻めるという約定があったのではないかと、ざわめきが生じていた。
 
 それに対して、“遠話魔道具”の向こうから発言をしたい旨の声が上がった。

「失礼、私はイスフェラ皇国のイーサン=クレイラです。陛下のお言葉の補足をさせて頂きたい。私が今、アレドリア王国奪還を求めない理由は二つあります。一つ目の理由は、サトー王国のサトーを油断させたいのです。彼らがアレドリア王国を強襲した大きな理由は、その前の旧カリン王国内での敗退があります。敗退の後、何かしら得なければ彼らは引き下がることが出来なかった。よって今現在、サトー王国の者達は獲物を得ることが出来て満足しているはずだ。そして二つ目の理由は、アレドリア王国内にサトー王国の足場を作らせたい」

 二つ目に挙げられた理由に、部屋の中の者達は騒めきの声を上げていた。
 “遠話魔道具”の向こうでも騒めく声が大きくなる。

「どうか静粛に。私の話を聞いて頂きたい。サトー王国のサトーの“星弾”には欠点があります。彼の“星弾”は遠距離を飛ばすことは出来ない。あれほど重量のあるものです。攻撃対象国の近くまで、サトー直々に移動して投下しているのです。過去、サトー王国のサトーが“星弾”を投下したバーズワース王国、ザナルカンド王国もしかり、そしてラウデシア王国もしかりです。それらの国はいずれもサトー王国に征服された王国に接していた」

 ラウデシア王国もそうだった。
 ザナルカンド王国が陥落して、初めてサトー王国に領土が接することになったのだ。
 
「今回敗退したアレドリア王国もそうです。北のバーズワースに接しています」

 リン王太子妃が慌てて手元の地図を広げる。
 イーサン=クレイラの話の通りだった。

「しかし、サトー王国の“星弾”は、黄金竜の守りには敵わない。折角領土を広げていっても、ラウデシア王国、ゴルティニア王国で頭を押さえられている。幸いにも、我が国の北にゴルティニア王国が建国されたため、ゴルティニア建国以降は、我が国に“星弾”は落ちてきていない」

 それまではおそらく、旧カリン王国内に“転移”したサトーが、イスフェラ皇国に“星弾”を落としたのだ。そしてそれをイーサン=クレイラが防御してきた。

「つまり、サトー王国の次の目標はある程度絞られるということです」

「わ、わが国ということなのか!?」

 ハルヴェラ国王が真っ青な顔でそう言う。
 その横で、エルリック王太子が発言した。

「ハルヴェラ王国エルリックです。サトー王国の次の目標は我がハルヴェラ王国であるということでしょうか」

「可能性は非常に高いです」

 分かっていたこととはいえ、言葉にされることは相当なダメージだったらしい。
 ハルヴェラ国王はうなだれて「ぐぅ」と呻き声を上げていた。

「つまり、サトー王国の次の目標国が絞られるということは、サトーが次にどこへ“転移”して“星弾”を作ろうとするのか、その行動も予想できるのです」

 イーサン=クレイラはそう言った。
 そして言葉を続ける。

「次がハルヴェラ王国ということが分かっているなら、サトー国王はアレドリア王国内に“転移”して“星弾”を作るでしょう。サトーが“星弾”を飛ばしたところで、サトーを倒したい」

 だからアレドリア王国は奪還しない。
 そこにサトーがやって来て“星弾”を飛ばしてハルヴェラ王国を攻めに来るだろうから。
 それまで待ちたいというのだ。

「ゴルティニア王国のダンカンです」

 “遠話魔道具”の向こうから声が聞こえる。
 旧カリン王国の領土に建国された新王国の次期国王になる男の名だった。

「それでは、それまでの間、アレドリア王国はサトー王国に蹂躙されたままということになるのでしょうか」

「各国にはアレドリア王国からの避難民は受け入れて頂きます。ただ国の奪還はすぐには出来ないということです」

 またハルヴェラ王国王太子エルリックも質問をする。

「ハルヴェラ王国エルリックです。我が国にサトー王国の“星弾”が着弾するのを待てということでしょうか。それはとても承服できかねます」

「待てとは言いません。“星弾”は防ぎましょう。次がハルヴェラ王国が目標と分かっているのなら、同盟国で、分担してハルヴェラ王国を防衛致します。“星弾”については我がイスフェラ皇国が防ぐように動きましょう。ただ初撃は間に合わない可能性はあります。初撃についてはハルヴェラ王国側で防衛を考えて下さい。二撃目以降は私が防ぎます」

 イーサン=クレイラは自信を持ってそう答える。そしてなおも続けた。
 
「魔族の襲撃については、魔の領域への攻撃も可能なゴルティニア王国に対応をお願いしたい」

 黄金竜の守りを持つという新王国ゴルティニアは、魔の領域への対応も可能なのかと騒めきの声が上がる。そしてそのことを、ゴルティニア王国のダンカンは否定しなかった。

「ラウデシア王国の竜騎兵団については一部、ハルヴェラ王国への派兵をお願いしたい。サトー王国のサトーを倒す主力となって頂きたい。私も“星弾”を防ぎながら対応する予定です」

 竜騎兵団がハルヴェラ王国にやって来る!?

 ルーシェとアルバート王子は顔を見合わせた。
 全く想像もしていなかった展開だった。

「どさくさに紛れて、ラウデシア王国軍がザナルカンド王国まで軍を進めても良いと思っています」

 そんな大胆なことまでイーサン=クレイラは口にしているが、それに対しては“遠話魔道具”の向こうでラウデシア王国側の発言があった。

「ラウデシア王国リチャードだ。我が国は他国を侵略しないことを国是としている」

「侵略ではありません。解放です。他国への侵略禁止を国是としていることは素晴らしい。ですが、今は、一国対一国の関係ではなく、全体を俯瞰して見て頂きたい。多方面からの侵攻を受けては、サトー王国も対応できない。ましてや、サトー国王個人が攻撃を受けている中では、サトー王国側も混乱をきたすでしょう。我々はハルヴェラ王国を守りながらサトー国王を倒す。そして北からは同時に進軍してもらうということです」

「これまでのイーサン=クレイラ殿のご意見は、イスフェラ皇国の総意とみなしても良いのでしょうか」

 ゴルティニア王国のダンカンが問うと、イーサン=クレイラの発言の間、口を閉じていた皇帝ミラバス=カーンが静かに、だがハッキリとした声で答えた。

「我が国の総意だ」
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