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第十五章 この世界で君と共に

第三話 会議の報告

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 イスフェラ皇国で開催される会議のため、ハルヴェラ王国のエルリック王太子が使節団を率いて旅立っていった。

 開催国であるイスフェラ皇国は、“星弾”を防ぐことができる筆頭魔術師イーサン=クレイラのいる国である。対サトーの同盟国が集まるこの会議の開催を、サトー王国は当然気に食わないことだろう。
 しかし、イスフェラ皇国はサトー王国のサトーが攻めようとしても簡単には落ちない国であった。実際、サトーは何度となく“星弾”をイスフェラ皇国へ落としているが、いずれも“星弾”は防がれている。
 ましてや今は、サトー王国は、イスフェラ皇国の北に位置する旧カリン王国で手酷い敗退をしている。
 現在、旧カリン王国内で展開していた魔族やサトー王国軍は撤退しているが、その撤退前、撤退勧告に従わなかったサトー王国軍や魔族の一部の者達が、全滅させられたという話であった。

 すわ、恐ろしや“黄金竜の怒り”という声が敵味方の間で漏れ聞こえてくる。

 撤退勧告に従わなかった者達は“黄金竜の怒り”に触れた。つまりはあのラウデシア王国でも現れたという“金色の芽”が、旧カリン王国でも直接軍隊に襲いかかったという。

 当然、無残な死体が累々と、旧カリン王国の大地に転がされたという。

 以前、リヨンネから話されたラウデシア王国にある“黄金竜の守護”。それと同じものが、旧カリン王国でも働いているということだった。
 やはりというか、そこには黄金竜ウェイズリーの存在があるだろうと思われた。
 アレドリア王国にいたユーリス。彼を番だと慕っていたウェイズリー。
 そしてユーリスへ「いつか、必ず会いに行くと」と伝えてくれと述べたシルヴェスター王子。二人の恋人達と一頭の黄金竜が、どういう経緯で結びついたのかわからない。でもきっと、彼らが旧カリン王国で、おそらくサトー王国軍を撃退するという快挙を成し遂げたのだろう。

 軍を下げたサトー王国軍に、今は動きは見えない。
 
 そうした中で、会議は始まったのだった。



 会議は五日間の予定であった。
 毎夜、リン王太子妃の元へ、エルリック王太子から魔術師による通信で報告がされている。
 翌朝には、リン王太子妃からその報告をアルバート王子とルーシェは聞くことが出来た。

「ラウデシア王国の同盟加盟と、新王国樹立の承認とやはりそれの同盟加盟はすんなりと認められたわ」

 王家への“黄金竜の加護”のみならず、国土への“黄金竜の守護”を持つラウデシア王国は、イスフェラ皇国が、対サトー王国の同盟に加わって欲しいと熱心に望んでいた国であった。特にイスフェラ皇国の筆頭魔術師イーサン=クレイラは、魔族達と同等に対立するためには、竜の力が必要であると考えているようだ。また樹立された旧カリン王国領土内の新王国の登場については、久々の明るい話題のように受け取られ、歓迎されていた。

「なにせ、新しい王国もまた“黄金竜の守護”を持つようだし。実際それで、サトー王国軍を撤退させているのだもの。当然、大歓迎だわ」

「新しい王国って、まだ名前はないの?」

 アルバート王子の横の席についていたルーシェが尋ねると、リン王太子妃はこう答えた。

「ゴルティニアという名で国を定めるようね。来春にも、建国の儀を行うという話だわ。先に同盟各国から承認を受けているから、建国の儀の前だけど、すでに国としては成り立っているような状態ね。イスフェラ皇国が諸手を挙げて国家承認をしているのだもの。反対する国はサトー王国くらいでしょう」

「ふぅん。ねぇ、アルバート王子のお兄さんの……シルヴェスター王子は会議に来ていたの?」

 好奇心から、ルーシェは身を乗り出して聞いた。
 クラン“竜の牙”を中心に建国されるゴルティニア王国である。クラン長が新国王になるという話だ。そのクラン長の部下であるシルヴェスター王子が 国際会議へ一緒にやって来ていてもおかしくはない。

「残念ながら、シルヴェスター王子は来ていなかったみたいね」

「そうなんだ」

 少し残念な気持ちがする。
 アルバート王子の兄王子シルヴェスターは、王家の王子達の中ではまともな部類だった。
 以前面会した時、シルヴェスター王子からアルバート王子とルーシェは歓迎されたのだ。
 食事の時には、ワニの姿焼きを出してもらい、その頭を小さな竜のルーシェが持ち上げようとしたこともあったなと、アルバート王子もルーシェも懐かしい思いにかられる。

「新しい国を建てるというのも大変なことなのよ。シルヴェスター王子はゴルティニアで忙しくしているのじゃないかしら。話によると、子供のいないクラン長の、息子とされているから、シルヴェスター王子がゴルティニアを継いでいく流れになるのじゃないかしら」

 その言葉にアルバート王子もルーシェも驚いた。

「で、でもシルヴェスター王子って、ラウデシア王国の五番目の王子だよね。別の国の王子なのに、他の国の後継者になるってそんなこと出来るの」

「別に構わないでしょう。反対にどうしていけないのかしら」

 そうリン王太子妃はあっさりと言う。問題はないだろう。むしろ、ラウデシア王国の王家の王子ということで、箔がつくかも知れない。リン王太子妃は、シルヴェスター王子が金髪碧眼の大層見目の良い王子だという話を聞いていた。

「なんだかびっくりだ」

 ルーシェは、シルヴェスター王子と出会った時のことを思い出す。
 すでに冒険者として働いていたシルヴェスター王子は、王子とは思えないほどしっかりとした体躯の若い男だった。そしてあの王子は一途にかつての恋人ユーリスを想い続けていた。
 ユーリスと並び立つことを認められるために、彼は危険な戦いに臨んでいるという話だった。

 今や、そのシルヴェスター王子は長年の望みを叶えたということなのだろうか。
 なにせ新たなゴルティニア王国を継いでいく人物なのである。
 なんとなしに、あの二人の間にあった距離が縮んだかと思うと、ルーシェは嬉しく感じていた。
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