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第十三章 失われたものを取り戻すために

第十一話 魔術師達のギルド(中)

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 バルトロメオ辺境伯が用意してくれた通行証のおかげで、アレドリア王国への入国は問題なく出来た。前回アレドリア王国へ、ウラノス騎兵団長の命令で渡って来た時、アルバート王子が面会したのはアレドリア王国軍の魔術師達であった。そこでアルバート王子は、アレドリア王国が王宮魔術師長を筆頭に、多くの魔術師達で防御魔法を展開し、重ねてかけることによって、サトー王国の“星弾”を防いでいることを知った。

 今回、サトー王国の攻撃からの防御の方法を聞くためにやって来たのではない。
 “召喚”や“転移”などの魔法の術に詳しいものに、今のラウデシア王国で起きている“消失”の事象を終了させて、次元の狭間を漂っているであろう竜達や竜騎兵団の者達を取り戻す方法を聞きたいのだ。
 それについてはアレドリア王国の魔術師ギルドに当たって、召喚や転移魔法術に詳しい魔術師を紹介してもらうことが良いだろうと、バルトロメオ辺境伯の元にいた魔術師がアドバイスしてくれたのだ。だからアルバート王子は魔術師ギルドへの紹介状を手にやって来た。


 王都に放射状に整然と並ぶアレドリア王国の建物の中でも、一際大きな建物が、魔術師ギルドの建物だった。相変わらず綺麗に整理された街である。石造りの大きな建物はグルリと周囲を煉瓦塀で囲まれている。そしてその門扉には当然のように兵士が立っており、アルバート王子を誰何してきたので、王子は手にしていた魔術師ギルド長宛の信書を差し出し、ギルド長への面会を求めた。

 兵士のうちの一人が建物の中に入って連絡に向かっている。
 その様子を見ながら、ふとアルバート王子は思い出した。

(そういえば、この国にはリヨンネ先生の甥のユーリスがいるはずだ)

 王都の大学に通って研究を続ける、黒髪の美貌の青年のことを思い出す。
 以前、リヨンネからの手紙を渡して、兄王子シルヴェスターからの伝言も伝えた時、彼はどこか怒っていた。五年も会っていなかった兄王子を怨んでいるような様子があった。
 あの後、ユーリスはどうしたのだろうと思う。兄が「会いに行く」という伝言を残したのだから、まだあの下宿で、彼の訪れを待ち続けているのだろうか。

 そんなことをつらつらと考えながら、アルバート王子はやって来た兵士の案内で、魔術師ギルドの建物の中に足を踏み入れることになった。
 大きな石造りの建物の中は、空調の魔法が使われているのか、一歩足を踏み入れると外とは温度が違うことが分かった。更に、静寂の魔法も使われているのだろう。建物内は静まり返っていた。カツンカツンと前を歩く兵士の足音が、やけに大きく聞こえる。誰にもすれ違うことなく、アルバート王子は兵士と共に廊下を進んだ。やがて応接室らしき部屋の扉を兵士が開けて「どうぞこちらでお待ちください」と指示を受けた。

 それで、アルバート王子はソファと長テーブルのある応接室に入り、ソファに座って、ギルド長が来ることを待ったのだった。

 
 ほどなくして、白髪の長い髭が見事な老人が二人の男を連れ立って部屋の中へと入ってきた。
 白髪の髭の老人が、このアレドリア王国の魔術師ギルド長レーベンだと名乗る。裾の長い新緑のローブをまとった好々爺然とした小柄な老人であった。その老人の伴っていた二人の男のうちの一人は五十代ほどの男で、副ギルド長であると名乗った。そして副ギルド長の隣に立っていた痩身の男が、魔術師のルティだと紹介される。

 アルバート王子が説明をしなくても、ギルド長レーベン達は、ラウデシア王国内で起きた“消失”の出来事を知っていた。そしてバルトロメオ辺境伯の依頼については喜んで協力させてもらうと言った。
 魔術師ギルドとしても、現在ラウデシア王国で発生している大規模な“消失”の現象、“転移”や“召喚”の途中で止められているその状態にひどく興味を抱いているようだ。

「ついては、このルティが、我がギルドの中で最も“召喚魔法”に詳しい者になります。またその他の魔法についても明るい。この者がおそらく、殿下方の良い助けになるでしょう」

「有難うございます」

 すんなりと魔術師ギルドの協力を得ることが出来て、内心アルバート王子も、王子の胸元にいる紫竜ルーシェも安堵していた。それに詳しい話をこちらからしなくても、遠いラウデシア王国内で発生していることを、ギルドの魔術師達が知っていることが凄いとルーシェは思っていた。

 実際には、遠い北方のラウデシア王国で発生した“消失”は、この世界の次元を大きく歪ませており、アレドリア王国内の多くの魔術師達はその当時、大変混乱したのだ。何人もの魔術師達が、ラウデシア王国の魔術師達と魔法を使って連絡を取り、その集まった情報により導き出された推測が、やはりというか案の定というか、サトー王国の暴挙ともいえる大規模すぎる“召喚・転移”魔法の途中行使であった(完了させずにその状態で放棄していることに魔術師達は驚愕していた)。
 その不安定な状態を続けることは、天秤を大きく傾き続けていることと同様であった。いつか天秤自体がバランスを崩し、天秤が倒れてしまうことに繋がるだろう。“消失”状態の解消は、この世界の在り方にも深く関わり、急務でもあったのだ。
 だから当然、アレドリア王国内の魔術師達はギルドを挙げて協力するつもりであった。いや、世界の崩壊を止めるためにも協力しなければならない。ラウデシア王国側から協力を要請されたことは、非常に望ましいことであった。

 そのことを、目の前のアルバートという名の王子はまだ知らないようだと、ルティという名の魔術師は王子達を見つめてそう思っていたのだった。
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