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第十三章 失われたものを取り戻すために

第八話 神の呪い(下)

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「いまさら、神の“呪い”だと」

 言われた言葉がおかしくて、佐藤は乾いた声を上げた。小さく笑う。

 この大陸全土を支配下に置こうと、これまでにも何千、何万もの人々を殺してきた佐藤。
 この世の誰よりも、この異世界の人々に恐れられ、憎まれていることは、佐藤も自負していた。
 神が“呪い”を自分に掛けて、殺そうとするならもっと前にそれはすべきことである。
 それを、何をいまさら、このタイミングでしようというのだ。

 それで佐藤は気が付いた。

「ああ、なるほどな」

 ヴィータが問いかける視線を向ける。

「神はこの世界を不安定化させることが嫌なのか。私が魔法でああした不安定な状況に北方地方を置いたことを怒っているのか」

 そもそも、世界の形を不安定化させる召喚魔法を使わせないよう、この世界の全ての人間に“魔素”が使えないようにさせた神である。今回、北方の大森林地帯そのものを“消失”させて世界をおかしくしている佐藤が神の怒りを買わないはずはないのだ。

「しかし、今さらだな」

 何千、何万という人々を殺めても怒ることのなかった神が、初めて佐藤に対して怒ったことがそれである。
 そのことがなんとも可笑しい。
 
 佐藤が小さく笑っていることに、ヴィータは言った。

「“呪い”で死ぬことが恐ろしくないのですか」

「別段、死ぬことは恐ろしくはない」

 素っ気なく、大したことのないように佐藤は答えた。
 どうせこの世界はゲームだ。
 それに死んだらきっと、元の世界へ戻れるだろう。
 そのことを待ち遠しく思う気持ちさえもあった。

 ヴィータが足の“呪い”を吸ってくれたおかげで、足の指の根本まできていた黒ずみが消えていた。ほんの爪先に小さくあるだけになっている。

「陛下に死なれては困ります。また私が“呪い”は吸ってさしあげましょう」

 ヴィータの言葉に、他人に肌を触れられることを嫌悪する佐藤は、そうされなければならないことに非常に嫌そうな顔をしていた。

「魔素の戻りも悪い。これではラウデシアへの侵攻は出来ないな」

 佐藤はそう言った。
 これでは大量の“魔素”を使う“星弾”も使えない。せっかくラウデシア王国を、黄金竜の守護を無くした無防備な状態にしたのに、王都を攻め込むことも出来ない。リヨン公を遣わせたのに、彼も討ち滅ぼされている。詳細は分からないが、まだラウデシア王国には、王国を守ろうとする力が残っているということだ。

「北方のラウデシアは遠すぎます。もっと近くからやるべきでしょう。陛下、貴方はしばらくは内政と魔素の回復に専念した方がよろしいでしょう」

「……そうするしかないな」

 仕方ないように佐藤は言った。

「陛下がお望みのように、私が多くの魔族を連れて参りましょう。それで陛下の仕事を手伝わせます」

 ヴィータが連れてくる魔の者達は力も強く、よく働いてくれるが、統制が難しい。勝手に領土を広げたり、目に付いた人間達を自分達の魔の領域へ連れ去ったりする。そうした行為を佐藤は公式には禁止していたが、ある程度は目を瞑っていた。だが、放っておけば好き放題してしまうだろう。

「分かった」

 しかしそれも、自分が動けないなら仕方がない。
 
「旧カリン王国での動きも活発になっています。思い切ってたくさんの魔族達を動員して、あそこを潰しましょう」

 ヴィータに佐藤は言った。

「お前の好きなようにしろ。しばらくの間、私は回復に専念するからな」

 ヴィータが連れて来る魔族が侵攻先で動き回ることはある程度容認するしかないだろう。
 イスフェラ皇国は、魔術師のイーサン=クレイラがいて面倒なところではあるが、あそこも本腰を入れて叩かないと旧カリン王国の土地を奪取されている。しばらく北方の国に目を向けていたら、旧カリン王国の相当な範囲を奪われてしまっていた。

 何の手ごたえの無い敵の存在はつまらないが、かといって折角手に入れた場所を奪取されることは腹立たしい。佐藤は先日から続けざまに征服したバーズワース王国とザナルカンド王国の二つの足場を固め、今年の秋の収穫について文官達と話し合うことにした。征服したからといってそのままにしておくわけにはいかない。やるべきことは山積みなのだ。
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