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第十三章 失われたものを取り戻すために
第七話 神の呪い(上)
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大陸の北、ラウデシア王国のさらに北の大地の、竜達の暮らす大森林地帯を、そこに眠るという黄金竜もろとも(竜騎兵団の拠点も含めて)“転移”させた結果、ラウデシア王国は黄金竜の守護を失った。
魔のやんごとなき三公が一人、リヨン公が勇んで、ラウデシア王国の王都目指して行ったのだが、なんと彼は戻って来なかった。
サトー王国のサトーは、玉座に座り、三公の一人ヴィータ公からの報告を聞いていた。
「リヨンは、どうやらラウデシアで殺られてしまったようです。その存在を感知できません」
リヨンだけではない。
先日、魔の領域の中で、三公の一人ノウザンもいなくなっている。
彼のことも、ヴィータは「存在が感知できなくなった」と告げた。
ノウザンも勝手に命を落としてしまったらしい。
駒の減りが甚だしい。
大きな玉座に座るのは、ひどく小柄な男だった。
黒髪に眼鏡をかけたその男は、三十を過ぎているというが、異世界からやって来た人間の常か、どこか若く見える。困ったような顔をしていた。
玉座の前には、赤い絨毯が敷き詰められ、そこに佐藤優斗が配下とする人間達が、大臣やら将軍といった役職を与えた者達がズラリと並び立っている。
皆、ひどく緊張した面持ちで、魔族の中でも“やんごとなき”と称される高位魔族の男を見つめていた。
「ヴィータ、私を手伝ってくれるような仲間を連れてくることは出来るか」
三公のうち二公がいなくなったのなら、それを補充しなければならない。
佐藤が尋ねると、ヴィータは胸に手を当て、恭しく「仰せのままに」と頭を下げる。
佐藤には不思議な気持ちがあった。
魔の者であるヴィータは、出会った時から佐藤のことを自分の上に立つもののように扱ってくれるが、ヴィータは佐藤よりも遥かに強い力を持っていた。ヴィータが佐藤の元から離れると言っても、佐藤にはヴィータを引き留める力はなかった。しかし、ヴィータは佐藤のことを興じて、何かと手伝ってくれる。
この大陸全土を制覇した折には、この世界に在るものなら何でも捧げようとヴィータには告げている。だから、ヴィータには何か欲しいものがあり、それを手に入れるために自分を手伝ってくれているのだろう。だが、それが何であるのか、佐藤は知らなかった。
自分の“魔素”の回復が遅く、かつ、駒の足りない中では、遠い北方のラウデシア王国を攻めることは出来ない。とりあえず、しばらくあの国は放っておくしかないだろう。黄金竜をどこかへやっただけでも上出来だ。
それから佐藤は、大臣達から征服地の征服状況や、破壊した街などの復旧、これから秋の税収の見込みなど、細々としたものを報告することを聞いた後、自室へ戻っていった。
その自室へ戻るところまで、ヴィータは佐藤の後をついてきた。
佐藤が部屋に入った後、ヴィータは口を開いた。
「陛下は“呪い”を受けております」
椅子に座った佐藤は、「そうか」と言った。
なんとなしにそんな気がしていた。
佐藤優斗は“混沌の女神”の加護を受けていたが、どうも女神の力をうっすらとしか感じなくなっていた。
そして同時に、いつもなら、空気中の“魔素”を集めて貯めこむのもそう時間は掛からないはずなのに、今は随分と時間がかかるようになってしまった。
それが“呪い”だと言われてみれば納得できてしまう。
「誰からの“呪い”だ」
「神です」
さすがに佐藤はそのヴィータの言葉に驚いた。
「陛下は“混沌の女神”の加護をお受けです。それである程度は緩和されております」
ヴィータはじっと椅子に座る佐藤の姿を眺めた後、「失礼」と言ってかがみこみ、彼の右足の靴を脱がせた。佐藤の足の爪先が黒く染まっているのを見つめる。
「お気づきになっておりましたか?」
「……ああ」
その黒ずみは、佐藤がラウデシア王国の北にある竜騎兵団や、竜達のいた大森林地帯を“消失”させた直後から出てきたものだった。
「このことを、私に早く伝えるべきでしたね」
ヴィータの白くて長い指が、佐藤の足の爪先に触れるのに、佐藤は顔をしかめた。固い声で言う。
「私に触れるな」
佐藤は、他人が自分の肌に触れるのを極端に嫌うのだ。
そのせいで佐藤は身の回りのことは全て自分の手で行い、侍従をそばに置くことはない。
護衛すらも、ヴィータがいつもそばにいるから、置こうともしなかった(そもそも全属性を使える佐藤は襲われても自分の力で返り討ちに出来たし、“混沌の女神”の加護もあって無敵に近い状態であった)。
「そういうわけには参りません」
そう言うと、ヴィータはその形の良い唇を開いて佐藤の黒く染まった足の爪先を自ら銜えたのだ。
「!!」
日頃、狼狽する姿など見せない佐藤が激しく狼狽して、ヴィータを咄嗟に蹴ろうとするのを、ヴィータは強い力で押さえこんで止めた。
しばらくして、ヴィータが口を離した後、その黒く染まっていた爪先の黒さが少し薄まっていた。
「何のつもりだ」
睨みつける佐藤の眼鏡の奥の茶色の瞳を見つめながら、ヴィータは淡々と言った。
「この黒ずみは、“呪い”です。これからどんどん足から体の上の方へあがっていくでしょう。このまま放っておけば、一年も経たない内に、この黒ずみが全身に回り、陛下、貴方は死んでしまうでしょう」
魔のやんごとなき三公が一人、リヨン公が勇んで、ラウデシア王国の王都目指して行ったのだが、なんと彼は戻って来なかった。
サトー王国のサトーは、玉座に座り、三公の一人ヴィータ公からの報告を聞いていた。
「リヨンは、どうやらラウデシアで殺られてしまったようです。その存在を感知できません」
リヨンだけではない。
先日、魔の領域の中で、三公の一人ノウザンもいなくなっている。
彼のことも、ヴィータは「存在が感知できなくなった」と告げた。
ノウザンも勝手に命を落としてしまったらしい。
駒の減りが甚だしい。
大きな玉座に座るのは、ひどく小柄な男だった。
黒髪に眼鏡をかけたその男は、三十を過ぎているというが、異世界からやって来た人間の常か、どこか若く見える。困ったような顔をしていた。
玉座の前には、赤い絨毯が敷き詰められ、そこに佐藤優斗が配下とする人間達が、大臣やら将軍といった役職を与えた者達がズラリと並び立っている。
皆、ひどく緊張した面持ちで、魔族の中でも“やんごとなき”と称される高位魔族の男を見つめていた。
「ヴィータ、私を手伝ってくれるような仲間を連れてくることは出来るか」
三公のうち二公がいなくなったのなら、それを補充しなければならない。
佐藤が尋ねると、ヴィータは胸に手を当て、恭しく「仰せのままに」と頭を下げる。
佐藤には不思議な気持ちがあった。
魔の者であるヴィータは、出会った時から佐藤のことを自分の上に立つもののように扱ってくれるが、ヴィータは佐藤よりも遥かに強い力を持っていた。ヴィータが佐藤の元から離れると言っても、佐藤にはヴィータを引き留める力はなかった。しかし、ヴィータは佐藤のことを興じて、何かと手伝ってくれる。
この大陸全土を制覇した折には、この世界に在るものなら何でも捧げようとヴィータには告げている。だから、ヴィータには何か欲しいものがあり、それを手に入れるために自分を手伝ってくれているのだろう。だが、それが何であるのか、佐藤は知らなかった。
自分の“魔素”の回復が遅く、かつ、駒の足りない中では、遠い北方のラウデシア王国を攻めることは出来ない。とりあえず、しばらくあの国は放っておくしかないだろう。黄金竜をどこかへやっただけでも上出来だ。
それから佐藤は、大臣達から征服地の征服状況や、破壊した街などの復旧、これから秋の税収の見込みなど、細々としたものを報告することを聞いた後、自室へ戻っていった。
その自室へ戻るところまで、ヴィータは佐藤の後をついてきた。
佐藤が部屋に入った後、ヴィータは口を開いた。
「陛下は“呪い”を受けております」
椅子に座った佐藤は、「そうか」と言った。
なんとなしにそんな気がしていた。
佐藤優斗は“混沌の女神”の加護を受けていたが、どうも女神の力をうっすらとしか感じなくなっていた。
そして同時に、いつもなら、空気中の“魔素”を集めて貯めこむのもそう時間は掛からないはずなのに、今は随分と時間がかかるようになってしまった。
それが“呪い”だと言われてみれば納得できてしまう。
「誰からの“呪い”だ」
「神です」
さすがに佐藤はそのヴィータの言葉に驚いた。
「陛下は“混沌の女神”の加護をお受けです。それである程度は緩和されております」
ヴィータはじっと椅子に座る佐藤の姿を眺めた後、「失礼」と言ってかがみこみ、彼の右足の靴を脱がせた。佐藤の足の爪先が黒く染まっているのを見つめる。
「お気づきになっておりましたか?」
「……ああ」
その黒ずみは、佐藤がラウデシア王国の北にある竜騎兵団や、竜達のいた大森林地帯を“消失”させた直後から出てきたものだった。
「このことを、私に早く伝えるべきでしたね」
ヴィータの白くて長い指が、佐藤の足の爪先に触れるのに、佐藤は顔をしかめた。固い声で言う。
「私に触れるな」
佐藤は、他人が自分の肌に触れるのを極端に嫌うのだ。
そのせいで佐藤は身の回りのことは全て自分の手で行い、侍従をそばに置くことはない。
護衛すらも、ヴィータがいつもそばにいるから、置こうともしなかった(そもそも全属性を使える佐藤は襲われても自分の力で返り討ちに出来たし、“混沌の女神”の加護もあって無敵に近い状態であった)。
「そういうわけには参りません」
そう言うと、ヴィータはその形の良い唇を開いて佐藤の黒く染まった足の爪先を自ら銜えたのだ。
「!!」
日頃、狼狽する姿など見せない佐藤が激しく狼狽して、ヴィータを咄嗟に蹴ろうとするのを、ヴィータは強い力で押さえこんで止めた。
しばらくして、ヴィータが口を離した後、その黒く染まっていた爪先の黒さが少し薄まっていた。
「何のつもりだ」
睨みつける佐藤の眼鏡の奥の茶色の瞳を見つめながら、ヴィータは淡々と言った。
「この黒ずみは、“呪い”です。これからどんどん足から体の上の方へあがっていくでしょう。このまま放っておけば、一年も経たない内に、この黒ずみが全身に回り、陛下、貴方は死んでしまうでしょう」
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