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第十一章 もう一人の転移者

第九話 王宮にて(下)

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 浴室にいるルーシェは叫んだ。

「バラの花ビラが散らされてる!!!!」

 白い大きな浴槽にはすでにたっぷりの湯が張られ、白いバラの花びらが無数に浮いて良い香りを放っていた。
 四角い大きな浴槽の湯の注ぎ口は、真っ白い獅子の頭部の石像で、その開いた口からコポコポと透明な湯が流れ出ていた。浴室は白い蒸気で満たされ、湯の中はバラの白い花びらが揺れ動いている。

「随分と立派だな」

 ルーシェの後を追って、アルバート王子もまた浴室を覗き込んでいた。

 客室の浴室にここまで凝った浴槽を置いていることはなかなかない。
 浴槽自体もとても大きい。大人が四、五人入っても余裕ある大きさである。

「日本人は風呂好きだからな!!」

 何故か幼児姿のルーシェは、浴室の入口に仁王立ちして、胸を張り誇らしげにそんなことを言っている。
 この王国の王太子妃石野凛は日本人であった。彼女は日本で当然経験していたお風呂も、お米も、この異世界でも使えるように、食べれるようにと用意したのだろう(浴室を見るに、風呂にはこだわりを感じる)。なにせ王太子妃。権力を使えば出来ないことはない。

 幼い子供姿のルーシェは、服をポイポイと脱ぎ捨てると、すぐさま浴室の中に突進していた。
 体を洗うと白いバラの浮かぶ浴槽の中に飛び込んで、そしてすぐに浮かび上がり、幸せそうな顔をしている。

 白いバラの湯の中、ぷかぷかと幼いルーシェが浮かぶようにして、トロンとした顔でいるのが可愛らしい。アルバート王子も服を脱ぐと、浴室に入った。
 裸でいる若い王子の体を、ルーシェはどこか眩しそうに見つめている。

「王子は筋肉があっていいな」

 竜騎兵として日頃鍛えているアルバート王子の体には、しっかりと筋肉がついている。王子の胸元や背、肩についている隆々とした筋肉を、羨ましそうにルーシェは見つめ、それから自分の二の腕を自分の指で掴んで嘆いていた。

「ぷにぷにしている……」

 その様子に、アルバート王子は吹き出した。

「今のお前は子供なのだ。仕方ないだろう」

 三歳児くらいの子供の姿からして仕方ない。その年齢で、筋肉ムキムキであったら不気味だろう。

「……大きくなっても、筋肉がない」

 ルーシェは顔を湯に半分沈め、ぶくぶくぶくと口から泡を吹いている。眉は悲しそうにハの字になっている。
 少年姿に成長したルーシェは、細くて、筋肉はついていない。大体肌も陽に焼けることなく、抜けるように色が白いのだ。

「生っちろくて嫌になる。俺は王子が羨ましい!!!!!!」

「どれ、大きくなってみろ」

 そう言われて、素直にルーシェは十五、六歳の少年姿に変わった。
 変わると同時に、王子は浴槽の湯の中で、ルーシェを自分の膝の上に置いて、手で触れ始めた。

 肩から背にかけて、その滑らかな肌に唇を触れさせる。

「……お……王子」

 柔らかな肌を吸い上げる。舌が首筋を這い、その胸元の突起を指でやんわりと摘まみ始めた時、ルーシェは目元を赤く染め、唇を震わせて言った。

「王子はすぐ、いやらしいことしようとする」

「ルー、お前が可愛いからだ」

 チュッチュッと甘く口づけが顔中に落とされる。
 白い湯気が上がる中、白いバラの花びらが透明な湯の中で揺れる中、ルーシェの白い体を膝にのせ、王子は彼の体を愛でていた。

「お前の体はどこもかしこも綺麗だ。柔らかくて滑らかで、私は好きだ」

 その手が、際どい部分に触れ始め、ルーシェの身が湯の中で跳ね上がる。

「あ、あっ、王子」

 するりと双丘の谷間に指が入り込む。谷間を押し広げ、狭いそこを指先で優しく触れ始めると、ルーシェは王子の体にしがみつき、美しい顔を切なげに歪め、王子にせがんだ。

「王子、王子が」

 形のよい唇が戦慄き、その唇から恥ずかしそうに「欲しい」と小さな声が零れた時、アルバート王子はルーシェの唇に唇を重ね、そしてその細い腰を抱え上げると、ゆっくりと猛だった男根で、彼の蕾を満たし始めた。ルーシェの両腕は王子の背に回され、二人してきつく抱きしめ合う。
 やがて激しく抜き差しがされると、その気持ち良さにルーシェは身をしならせて啼いていた。浴槽の湯は激しく揺れ、ルーシェの甘い声が響き渡っていた。




 湯の中で激しく求め合ったため、湯あたりしたのかルーシェは少しぐったりとした様子で、浴室から上がった。
 客室の寝台の上には、二人分の衣装が置いてあり、手紙も添えてある。

「サイズが合わないようでしたら、ご連絡ください」

 その言葉のそばに、女官メリッサの名が書かれている。
 幼い子供用の上等の服が寝台の上に置かれており、少年姿のルーシェが「そうか、子供に姿を変えないとな」と独り言めいて言った後、ふいにあることに気が付いて、彼の顔はみるみる赤く染まった後、アルバート王子を見て言った。

「も……も……もももも、もしかして」

「なんだ、ルーシェ」

 アルバート王子は、自分用の立派な服を見ながら「これが西方地方の服か」と感心したように手に持っている。腰に太めの帯を締め、上着は膝丈まである。青色の服には、房と美しい玉の飾りがついている。北方の国々の服とはどこか形が違う。

「もしかして、俺達が風呂場でやっている時……」

 あれだけ激しくヤって声を上げていたのだ。もし、衣装を届けるために部屋へ入って来ているなら、気付かれないはずがない。

「別に問題ない」

「はぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!?」

「女官だぞ。別に問題ないだろう」

 堂々としているアルバート王子。
 今更ながら、現世のルーシェの感覚と、この世界の王族たる王子との感覚の違いに驚いてしまう。
 そう言えば以前にも、アルバート王子は護衛騎士であるバンナムの前で、セックスしても構わないと平然と言っていた。ルーシェは無理無理無理無理無理無理、絶対に有り得ないと拒否したこともあった。

 その癖、結婚式の時、誓いの口付けを交わさないのかというルーシェの問いには、まるで痴女でも見るかのような視線を向けられたのだ。

 なんか解せなかった……。
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