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第九章 春の訪れ
第十五話 約束(上)
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ルーシェに再会を切望されていたトモチカは、バルトロメオ辺境伯の城の召使に案内されて、その日、宿泊する部屋へと案内されていた。
トモチカは部屋へ着くなり、布張りの椅子に座りこみ、辛そうに顔をしかめて、足をさすっていた。
「痛むのか」
「ああ」
護衛で伴侶である大男のケイオスが心配そうな顔で、トモチカを見つめると、トモチカは言った。
「馬車に乗ってずっと動かさなかったから、強張って、今度は動かすと痛みが出る」
ケイオスはすぐさま連れてきた召使にこう命じていた。
「持ってきた湿布を用意しろ。そして綺麗な湯をもらってきてくれ」
召使が急いで用意を始めている。トモチカは痛む足をさすっている横で、彼のもう一人の伴侶である長い黒髪の男がどこか冷ややかに言った。
「無理をするからだ。言っただろう、行かない方がいいと。いくら暖かくなってきているとはいえ、北の寒さはお前の身体に毒だ」
かつてこの地に新作魔道具の内覧のためにやって来た時とは季節が違う。その頃よりも寒いのだ。冷えると足の痛みが強く出ると言うトモチカが、春を迎えたばかりの北方へ行くと言った時に、カルフィーは反対した。「もう少し気温が高くなってから行く方が良い」と。だが、トモチカはどうしても北方地方に行きたいと言った。
何故だと何度もカルフィーとケイオスに問い詰められ、そしてようやく、彼は白状したのだ。
この王国の北方地方に、トモチカのかつての親友である沢谷雪也が転生していることを。
カルフィーもケイオスも、沢谷雪也のことを知っていた。
そして彼が見つかったら、トモチカはカルフィーらの仲間になることを約束していた。
そう約束したから、カルフィーもケイオスも、トモチカが雪也を探すことに協力してきた。カルフィー魔道具店の紋章を、トモチカが通っていた高校の校章と同じものにしたり(このマークを見れば絶対に分かるとトモチカは言っていた)、新作の魔道具が出る度に、トモチカは大陸の方々に内覧会という名を借りた遠征をして、かつての仲間を探していた。
何年も何年も。
「もう死んでいる」とカルフィーが言っても、彼は聞かなかった。
もしこの世界に彼のかつての友人がいるのなら、その友人の方から会いにくるはずだ。それがないのだから、死んでいるに違いないと言うカルフィーを、トモチカは睨みつけていた。
「トモチカが諦めるまで好きにさせるしかない」と、ケイオスは言った。
見つからず年齢だけを重ねるトモチカも、いつかは諦めるだろう。そうなれば、どちらにしろ自分達の仲間になる予定だった。もし仮に、万が一にもトモチカのかつての友人が見つかることになっても、彼は自分達の仲間になる予定だった。
貧弱な人間の身体を持つトモチカが、カルフィーとケイオスは心配だった。
少し寒いだけでも痛めつけられた足を痛そうに抱え、もはや走ることもできない、傷ついたトモチカ。
捕まえようとしたら、傷つけようとしたら、殺そうとしたら簡単に出来る貧弱な人間だった。
だから早く、仲間に迎え入れたかったのに。
でも彼は頑としてそれを聞き入れなかったのだ。
だって
あまりにも変わってしまったら
きっとあいつは俺のことがわからなくなる
そうしたらもう
会うことなんて出来ない
そんなことを言って、彼はカルフィーとケイオスの求めを拒絶し続けていたのだ。
トモチカは部屋へ着くなり、布張りの椅子に座りこみ、辛そうに顔をしかめて、足をさすっていた。
「痛むのか」
「ああ」
護衛で伴侶である大男のケイオスが心配そうな顔で、トモチカを見つめると、トモチカは言った。
「馬車に乗ってずっと動かさなかったから、強張って、今度は動かすと痛みが出る」
ケイオスはすぐさま連れてきた召使にこう命じていた。
「持ってきた湿布を用意しろ。そして綺麗な湯をもらってきてくれ」
召使が急いで用意を始めている。トモチカは痛む足をさすっている横で、彼のもう一人の伴侶である長い黒髪の男がどこか冷ややかに言った。
「無理をするからだ。言っただろう、行かない方がいいと。いくら暖かくなってきているとはいえ、北の寒さはお前の身体に毒だ」
かつてこの地に新作魔道具の内覧のためにやって来た時とは季節が違う。その頃よりも寒いのだ。冷えると足の痛みが強く出ると言うトモチカが、春を迎えたばかりの北方へ行くと言った時に、カルフィーは反対した。「もう少し気温が高くなってから行く方が良い」と。だが、トモチカはどうしても北方地方に行きたいと言った。
何故だと何度もカルフィーとケイオスに問い詰められ、そしてようやく、彼は白状したのだ。
この王国の北方地方に、トモチカのかつての親友である沢谷雪也が転生していることを。
カルフィーもケイオスも、沢谷雪也のことを知っていた。
そして彼が見つかったら、トモチカはカルフィーらの仲間になることを約束していた。
そう約束したから、カルフィーもケイオスも、トモチカが雪也を探すことに協力してきた。カルフィー魔道具店の紋章を、トモチカが通っていた高校の校章と同じものにしたり(このマークを見れば絶対に分かるとトモチカは言っていた)、新作の魔道具が出る度に、トモチカは大陸の方々に内覧会という名を借りた遠征をして、かつての仲間を探していた。
何年も何年も。
「もう死んでいる」とカルフィーが言っても、彼は聞かなかった。
もしこの世界に彼のかつての友人がいるのなら、その友人の方から会いにくるはずだ。それがないのだから、死んでいるに違いないと言うカルフィーを、トモチカは睨みつけていた。
「トモチカが諦めるまで好きにさせるしかない」と、ケイオスは言った。
見つからず年齢だけを重ねるトモチカも、いつかは諦めるだろう。そうなれば、どちらにしろ自分達の仲間になる予定だった。もし仮に、万が一にもトモチカのかつての友人が見つかることになっても、彼は自分達の仲間になる予定だった。
貧弱な人間の身体を持つトモチカが、カルフィーとケイオスは心配だった。
少し寒いだけでも痛めつけられた足を痛そうに抱え、もはや走ることもできない、傷ついたトモチカ。
捕まえようとしたら、傷つけようとしたら、殺そうとしたら簡単に出来る貧弱な人間だった。
だから早く、仲間に迎え入れたかったのに。
でも彼は頑としてそれを聞き入れなかったのだ。
だって
あまりにも変わってしまったら
きっとあいつは俺のことがわからなくなる
そうしたらもう
会うことなんて出来ない
そんなことを言って、彼はカルフィーとケイオスの求めを拒絶し続けていたのだ。
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