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第七章 ある護衛騎士の災難
第七話 新年会での酒盛り
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やがて、宴の開始が正式に告げられ、人々はグラスを手にする。
大広間の壇上で、王がグラスを掲げ、乾杯の音頭を取ると、会場の貴族達は一斉に声を上げて、グラスを掲げた。建物が揺れるかと思われるほどの大きな声であった。その後、グラスの中の酒を飲み干した。
ウラノス騎兵団長とバルトロメオ辺境伯、エイベル副騎兵団長も、グラスの中のワインを一気に飲み干している。見れば王子とバンナムも一息に飲んでいて、ただバンナムの隣のレネは、酒があまり強くないのだろう。グラスを両手で持ってチミリチミリと少しずつ飲んでいた。
そしてルーシェはというと、この世界に転生してから酒を飲むのは初めてであった。
小さな竜の姿のルーシェは、王子の肩の上で、王子から渡された果実酒の入ったグラスを両手で持ち、一口それをペロリと舐めとった。それからすぐに尻尾をピンと立たせて叫ぶ。
「ピルルルルゥ!!(美味しい!!)」
そのサクランボ色の果実酒が美味しくて、ルーシェはグラスを持ち上げると、ゴクゴクと一気にそれを飲み干した。それからプハーと息をつく。
「ピルピルルピルル(これ、とっても美味しいお酒だ)」
そう尻尾をブンブンと振って、黒い目を光らせて言うルーシェを見て、バルトロメオ辺境伯は何故か満足そうに腕を組んで頷いていた。
「ルーシェとやら、君もなかなか旨い酒が何であるのかよく分かっているね。その酒は、今話題の果実酒で、甘くて飲みやすいと評判のものだ。もう一杯いくかね!!」
「ピルピルルゥゥ!!(もちろん!!)」
すかさずルーシェがグラスを両手で持って差し出すと、バルトロメオ辺境伯は果実酒の瓶を、銀のトレーに載せていた侍従から奪い取り、そしてそれを勝手にルーシェのグラスにトクトクと注ぎ込んでいる。
「ルーシェは子竜ですので、酒はあまり飲ませ過ぎないようにしたいのですが」
アルバート王子がそう言うと、バルトロメオ辺境伯は呵々と大きな声で笑った後、アルバート王子の背を勢いよく叩いて言った。
「竜は酒好きだ。古来から竜には酒を捧げるものなのだぞ」
それを聞いて、ルーシェは改めて考えてみれば、リヨンネは青竜エルハルトに対して、王都からわざわざ美味しい酒を取り寄せてはプレゼントしていた。あれはエルハルトだけのことではなく、一般的に竜は酒好きなのか。
(でも、お酒は美味しい)
バルトロメオ辺境伯が注いでくれたお酒を、ルーシェはまたしても飲み干した。コクコクと小さな竜が、グラスを傾けて一気飲みする光景に、周囲の者達も面白そうに眺めている。
「プハァ」
ルーシェの空になったグラスを王子は受け取る。見れば小さな竜の小さなお腹が、お酒が入ってぷっくりと膨らんでいた。黒い瞳は潤んだようになり、息も熱い。
(ふわふわして、なんかいい気持ちだ)
王子の肩に止まっていたルーシェの体が前後に揺れ出したので、王子は慌ててルーシェを腕に抱いた。
「ルー、ルー、大丈夫か」
(ああ、王子が心配してる)
腕に抱いたルーシェの顔を心配そうに見るアルバート王子。その王子の顔が酒の酔いのせいでブレて見える。
(俺の大好きな王子が分身している。一人から二人に、二人から三人に増えてる!!)
そのいずれもが、ルーシェを見下ろし、心配そうにしながらも優しくそっと抱いてくれている。
(王子がたくさんで幸せだあぁぁぁぁぁ)
それから、小さな竜はガクンと身を揺らした後、すぐにクカーと小さないびきを掻いて、眠ってしまったのだった。
あまりにも呆気なく寝入ってしまったルーシェにアルバート王子も戸惑い、紫色の竜を抱きとめたまま、動きを止めていたのだった。
「…………寝てしまいましたね」
王子の腕の中の、口を開けて寝ている小さな竜をエイベル副騎兵団長は笑って見つめていた。
「寝たのか?」
ウラノス騎兵団長も驚いている。
バルトロメオ辺境伯はなおも笑い声を上げていた。バルトロメオ辺境伯は、飲むと上機嫌になる質らしい。
「たった果実酒の二杯で寝てしまったと言うのか。子供だな、この竜は」
(いや、みるからに体が小さい子供だろう)
そうバルトロメオ辺境伯に突っ込みたいアルバート王子、ウラノス騎兵団長、エイベル副騎兵団長であったが、美味しい酒を飲んでご機嫌のバルトロメオ辺境伯は、馬耳東風の様子だった。
そんな彼らのそばに、裾の長いローブをまとった魔術師が数人、近づいてきた。その胸元に王国の竜の刻印の金色のメダルを下げているところを見て、すぐにウラノス騎兵団長とエイベル騎兵団長も気が付いた。
(ウール王宮魔術師長)
アルバート王子に何度も紫竜への面会を求める手紙を出した、王宮魔術師長である。
小柄の禿頭の老人魔術師は、如才ない微笑みを浮かべていた。
「アルバート王子殿下、お久しぶりでございます」
王子もウール王宮魔術師長に、挨拶をする。
「お久しぶりです。魔術師長」
「おや、ルーシェは眠ってしまったのですね」
紫竜ルーシェが、だらしなくも口を開けてクカーと寝息を立てている姿を、ウール王宮魔術師長はじっと見つめている。
「折角、新年会でお会いできると楽しみにしていたのに、残念です」
そう言って、手にしている杖でトンと床に突く。
バンナムとレネも、そっと王子達の後ろに控えるように立っていた。
「まだ子竜ですから、すぐにこうして眠ってしまうのです」
王子は紫色の子竜を片手で抱きしめていると、子竜は猫のように無意識に身を擦り寄せていた。
暗に、アルバート王子は、紫竜は魔術師達の役には立たない子供であると告げている。
だが、ウール王宮魔術師長はこう言った。
「そのように酔っぱらっていては、大変でしょう。あちらで休んでいらしてはどうでしょうか」
そう言って魔術師長は大広間から出て紫竜と共に別室で休んではどうかと、親切にも提案してくれるが、その言葉の裏に嫌なものを感じる王子は、笑顔で首を振った。
「母達にもまだ挨拶を済ませておりませんので」
そして、軽く一礼をして立ち去る。
アルバート王子の後ろ姿を王宮魔術師達は暗い目でじっと見つめていた。
その様子を見て、バルトロメオ辺境伯は小声で、隣に立つウラノス騎兵団長に言った。
「魔術師という輩はどうも好かん」
「…………」
紫竜は、明らかに、王宮の魔術師達に目を付けられている。それをバルトロメオ辺境伯もウラノス騎兵団長も認めた。
「殿下と一緒に、陛下にご挨拶に参りましょう」
エイベル副騎兵団長にそう促され、ウラノス騎兵団長も、バルトロメオ辺境伯も、国王並びに王妃、その王子達に新年の挨拶をする。社交辞令的な会話を交わしながらも、ウラノス騎兵団長は思っていた。
(やはり、会うだけでは満足しないか)
未だ、新年会の会場で、魔術師達の数人が、ルーシェのいる方角を眺めている。
あの時、そう、アルバート王子のザナルカンド王国への婿入りを止めるためには、魔術師達の前で紫竜の魔法の力を披露するしかなかったとウラノス騎兵団長は考えていた。それをしたことについては後悔していない。
しかし、あれを契機に、紫竜は王宮の魔術師達に興味を持たれてしまった。
今はただの好奇心からの、声がけだけで済んでいる。このまま、なんとか見逃してくれるといいのだが。
大広間の壇上で、王がグラスを掲げ、乾杯の音頭を取ると、会場の貴族達は一斉に声を上げて、グラスを掲げた。建物が揺れるかと思われるほどの大きな声であった。その後、グラスの中の酒を飲み干した。
ウラノス騎兵団長とバルトロメオ辺境伯、エイベル副騎兵団長も、グラスの中のワインを一気に飲み干している。見れば王子とバンナムも一息に飲んでいて、ただバンナムの隣のレネは、酒があまり強くないのだろう。グラスを両手で持ってチミリチミリと少しずつ飲んでいた。
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「ピルルルルゥ!!(美味しい!!)」
そのサクランボ色の果実酒が美味しくて、ルーシェはグラスを持ち上げると、ゴクゴクと一気にそれを飲み干した。それからプハーと息をつく。
「ピルピルルピルル(これ、とっても美味しいお酒だ)」
そう尻尾をブンブンと振って、黒い目を光らせて言うルーシェを見て、バルトロメオ辺境伯は何故か満足そうに腕を組んで頷いていた。
「ルーシェとやら、君もなかなか旨い酒が何であるのかよく分かっているね。その酒は、今話題の果実酒で、甘くて飲みやすいと評判のものだ。もう一杯いくかね!!」
「ピルピルルゥゥ!!(もちろん!!)」
すかさずルーシェがグラスを両手で持って差し出すと、バルトロメオ辺境伯は果実酒の瓶を、銀のトレーに載せていた侍従から奪い取り、そしてそれを勝手にルーシェのグラスにトクトクと注ぎ込んでいる。
「ルーシェは子竜ですので、酒はあまり飲ませ過ぎないようにしたいのですが」
アルバート王子がそう言うと、バルトロメオ辺境伯は呵々と大きな声で笑った後、アルバート王子の背を勢いよく叩いて言った。
「竜は酒好きだ。古来から竜には酒を捧げるものなのだぞ」
それを聞いて、ルーシェは改めて考えてみれば、リヨンネは青竜エルハルトに対して、王都からわざわざ美味しい酒を取り寄せてはプレゼントしていた。あれはエルハルトだけのことではなく、一般的に竜は酒好きなのか。
(でも、お酒は美味しい)
バルトロメオ辺境伯が注いでくれたお酒を、ルーシェはまたしても飲み干した。コクコクと小さな竜が、グラスを傾けて一気飲みする光景に、周囲の者達も面白そうに眺めている。
「プハァ」
ルーシェの空になったグラスを王子は受け取る。見れば小さな竜の小さなお腹が、お酒が入ってぷっくりと膨らんでいた。黒い瞳は潤んだようになり、息も熱い。
(ふわふわして、なんかいい気持ちだ)
王子の肩に止まっていたルーシェの体が前後に揺れ出したので、王子は慌ててルーシェを腕に抱いた。
「ルー、ルー、大丈夫か」
(ああ、王子が心配してる)
腕に抱いたルーシェの顔を心配そうに見るアルバート王子。その王子の顔が酒の酔いのせいでブレて見える。
(俺の大好きな王子が分身している。一人から二人に、二人から三人に増えてる!!)
そのいずれもが、ルーシェを見下ろし、心配そうにしながらも優しくそっと抱いてくれている。
(王子がたくさんで幸せだあぁぁぁぁぁ)
それから、小さな竜はガクンと身を揺らした後、すぐにクカーと小さないびきを掻いて、眠ってしまったのだった。
あまりにも呆気なく寝入ってしまったルーシェにアルバート王子も戸惑い、紫色の竜を抱きとめたまま、動きを止めていたのだった。
「…………寝てしまいましたね」
王子の腕の中の、口を開けて寝ている小さな竜をエイベル副騎兵団長は笑って見つめていた。
「寝たのか?」
ウラノス騎兵団長も驚いている。
バルトロメオ辺境伯はなおも笑い声を上げていた。バルトロメオ辺境伯は、飲むと上機嫌になる質らしい。
「たった果実酒の二杯で寝てしまったと言うのか。子供だな、この竜は」
(いや、みるからに体が小さい子供だろう)
そうバルトロメオ辺境伯に突っ込みたいアルバート王子、ウラノス騎兵団長、エイベル副騎兵団長であったが、美味しい酒を飲んでご機嫌のバルトロメオ辺境伯は、馬耳東風の様子だった。
そんな彼らのそばに、裾の長いローブをまとった魔術師が数人、近づいてきた。その胸元に王国の竜の刻印の金色のメダルを下げているところを見て、すぐにウラノス騎兵団長とエイベル騎兵団長も気が付いた。
(ウール王宮魔術師長)
アルバート王子に何度も紫竜への面会を求める手紙を出した、王宮魔術師長である。
小柄の禿頭の老人魔術師は、如才ない微笑みを浮かべていた。
「アルバート王子殿下、お久しぶりでございます」
王子もウール王宮魔術師長に、挨拶をする。
「お久しぶりです。魔術師長」
「おや、ルーシェは眠ってしまったのですね」
紫竜ルーシェが、だらしなくも口を開けてクカーと寝息を立てている姿を、ウール王宮魔術師長はじっと見つめている。
「折角、新年会でお会いできると楽しみにしていたのに、残念です」
そう言って、手にしている杖でトンと床に突く。
バンナムとレネも、そっと王子達の後ろに控えるように立っていた。
「まだ子竜ですから、すぐにこうして眠ってしまうのです」
王子は紫色の子竜を片手で抱きしめていると、子竜は猫のように無意識に身を擦り寄せていた。
暗に、アルバート王子は、紫竜は魔術師達の役には立たない子供であると告げている。
だが、ウール王宮魔術師長はこう言った。
「そのように酔っぱらっていては、大変でしょう。あちらで休んでいらしてはどうでしょうか」
そう言って魔術師長は大広間から出て紫竜と共に別室で休んではどうかと、親切にも提案してくれるが、その言葉の裏に嫌なものを感じる王子は、笑顔で首を振った。
「母達にもまだ挨拶を済ませておりませんので」
そして、軽く一礼をして立ち去る。
アルバート王子の後ろ姿を王宮魔術師達は暗い目でじっと見つめていた。
その様子を見て、バルトロメオ辺境伯は小声で、隣に立つウラノス騎兵団長に言った。
「魔術師という輩はどうも好かん」
「…………」
紫竜は、明らかに、王宮の魔術師達に目を付けられている。それをバルトロメオ辺境伯もウラノス騎兵団長も認めた。
「殿下と一緒に、陛下にご挨拶に参りましょう」
エイベル副騎兵団長にそう促され、ウラノス騎兵団長も、バルトロメオ辺境伯も、国王並びに王妃、その王子達に新年の挨拶をする。社交辞令的な会話を交わしながらも、ウラノス騎兵団長は思っていた。
(やはり、会うだけでは満足しないか)
未だ、新年会の会場で、魔術師達の数人が、ルーシェのいる方角を眺めている。
あの時、そう、アルバート王子のザナルカンド王国への婿入りを止めるためには、魔術師達の前で紫竜の魔法の力を披露するしかなかったとウラノス騎兵団長は考えていた。それをしたことについては後悔していない。
しかし、あれを契機に、紫竜は王宮の魔術師達に興味を持たれてしまった。
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