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第五章 懐かしい友との再会

第二十一話 手紙

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 翌朝、部屋で朝食を取っている最中のトモチカの元に、綺麗に包装された小さな箱が届いた。
 その時、二人の夫はホストである辺境伯や奥方と朝食を共にしていた。小箱を受け取った時、その場にいたのはトモチカ一人だった。
 足の悪いトモチカは、足の痛みを理由に食堂での朝食の席を辞退させてもらったのだ。
 実際、昨夜二人の夫に夜遅くまで求められ、身体の節々が痛かった。
 快楽に浸るのは、その時は非常に悦い気持ちにさせられるのだが、後々、自分の場合は足の痛みに繋がる。それもあって、夫達の求めにもトモチカは億劫で、応えることに後ろ向きだった。

 小箱を受け取った召使によると「子竜の飼い主である王子殿下からの、お詫びの品です」とのこと。
 随分と丁寧な飼い主だ。
 箱を開けてみると、薄紙に包まれた茶色の革製の小さな巾着袋が入っていた。
 小物を入れるのにちょうど良いサイズである。

 召使が付け加えて言う。

「この北方地方ではなめした革製品が有名です。とても手触りが柔らかくて。どうぞ触ってみてください」

 言われて触れてみると、確かにとても柔らかい。

「こちらはとても良い品ですね。革製品は使えば使うほど、手触りもよくなりますよ」

「そうか。有難いな」

 有難くお詫びの品をもらおうと思った時、巾着袋の中に四つ折りに小さく畳まれた手紙が入っていることに気が付いた。
 手紙を開けば、文面には、竜の飼い主だというアルバート王子のお詫びの言葉が続いている。
 そしてもう一枚目を開いた時、トモチカの目が開かれた。
 
 その文面はこの世界にとっての異世界の言語、懐かしい日本語で書かれていた。


『 友親へ
 
  久しぶりと言っていいのか分からないけど。でも、久しぶりだね。

  雪也だよ。

  お前がおじさん(お兄さん?)になっていることにびっくりした。
 
  トラックに跳ねられた後、お前はそのままの姿で転移したの?

  俺とは違うんだね。

  俺は転生したんだ。


  俺、今日にはこの城から出て行かないといけない。だから、もし話せるなら…… 』


 トモチカは手紙を握ったまま、突然立ち上がり、杖を手にして部屋の扉を開けて歩きだした。
 その後を、驚いて護衛の男達がついていく。



『 ……もし話せるなら、悪いけど、王子のいる部屋へ来てくれないか 』

 途中、城の召使に、アルバート王子の居る部屋の場所を聞く。
 そして階段を、トモチカは足を引きずりながら歩いていく。

「どうしたんですか、トモチカ様」

 護衛達の男が、トモチカが彼に出来る最大のスピードで、足を引きずりながら歩く、そのそばをついていく。
 だが、トモチカは答えなかった。
 彼が、召使に教わったその部屋の扉をノックして入った時、そこには椅子に座ったアルバート王子とその護衛らしき騎士と、そして小さな竜が王子の膝の上に座っていた。

 小さな竜が、部屋へ入ってきたトモチカを見て身を起き上がらせ、また飛び立とうとするのを、グイと王子が引き留めた。

「ルー、落ち着け」

「ピルルピルピルピルルルル!!!!」

 小さな竜は怒ったように王子を見て鳴いている。
 トモチカは、一緒に部屋へ入ろうとする護衛達をその場に留めた。

「いいか、そこで待て。部屋へ入って来るな。命令だ」

「トモチカ様、それはなりません!!」

「命令だ!!」

 そして、強引に扉をバタンと閉めてしまう。そして勝手に鍵まで掛けていることに、王子の後ろに立つ護衛騎士バンナムは(あんな風に護衛を置いていいのだろうか……)と、他人事ながら思ってしまう。

 トモチカと呼ばれていた、足の悪い男は杖をつきながら、アルバート王子のそばまでやって来ると、王子に向かって言った。その茶色の瞳は潤んでいる。

「ユキ、お前はこんな美男子に転生したのか!! 羨ましいよ!!」

 それを聞いて、アルバート王子は言葉を失ってトモチカを見上げ、そして小さな竜の黒い目は最大限に見開かれていた。

「ピ!!!!!!」

 そう短く叫ぶと、自分をアピールするかのように王子の膝の上で何度も飛びあがるが、トモチカという男の視界に子竜の姿は全く入っていなかった。
 トモチカはぎゅっと王子の手を両手で握って言う。

「王子か。王子の身分なら、お前は安全だな。良かった。それにお前はなんだか強そうだぞ。竜の騎兵だと聞いた。生前、竜に憧れていたもんな。竜騎兵か」

「ピルピルピルルル!!!!(おい、トモチカ、こっちだ!!!!)」

「いやぁ、あのユキが王子様か!! びっくりだな!!」

「ピルピルピルルルピルピル!!!!(そっちじゃない、こっちなんだよ、馬鹿!!!!)」

 紫竜ルーシェが、ぴょんぴょんと王子の膝の上で一生懸命飛び跳ねて、自分の存在のアピールを続けていたが、全くトモチカという男の眼中に紫竜は入っていない。
 一生懸命飛び跳ねる紫竜が可哀想になるくらいである。

 すでにアルバート王子から、紫竜の転生話を聞いていた護衛騎士バンナムは、わざとらしい咳払いをする。それで、トモチカは自分が興奮したように王子の手を取って話していたことに気が付いて、少しばかり恥ずかしそうな顔をした。

「ああ、済まない。つい、ユキと再会できたことが嬉しくて、興奮してしまった」

「ピルルルゥゥゥ(気づけよぉ……)」

 今度は、小さな竜が気付いてもらえないことに、すっかりしょげ始めていることに、慌ててアルバート王子はトモチカに言ったのだ。

「貴方の話すユキは私ではない。ユキは、この小さな竜なのだ」

「…………………………………」

 トモチカは、しばらくの間、王子の顔を見つめた後、それから視線を王子の膝の上で自分をどこか恨みがましい目で見上げてくる紫色の綺麗な小さな竜を見た。
 そして十秒くらい無言だった。

「え…………、これがユキ?」

「ピルピルピルルルル!!!!(これってなんだよ!!!!)」

「本当に、こんな小さな竜に? アレ、でも計算が合わないぞ」

「ピルピルピルルルル!!!!(計算ってなんだよ!!!!)」

「ああ、でも死んですぐに転生できたとは限らないのか。でも、こんなちっこい竜が」

 トモチカは、折り曲げた足が痛むことにも耐えながら、小さな竜の前に膝をついて、そして竜の黒い目を見つめながら言った。

「お前が……お前がユキなのか」

 そしてその茶色の瞳に涙を浮かべていたのだった。
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