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第五章 懐かしい友との再会
第十六話 転生仲間(上)
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カルフィー魔道具店が、トレナの街へやって来た。
ここは、バルトロメオ辺境伯の城が置かれている北方地方の中では大きな街である。
大きな石造りの城の、離着陸場に、ウラノス騎兵団長とエイベル副騎兵団長、そしてアルバート王子と紫竜、そして護衛のバンナム卿が降り立った。ウラノス騎兵団長はエイベル副騎兵団長の青竜ロザンナに一緒に騎乗し、アルバート王子はバンナム卿と紫竜に跨ってやって来た。
紫竜はいつものように、離着陸場に到着してすぐに小さな竜の姿に変わり、その後、飛んで王子の肩に止まっていた。
なお、紫竜を伴うにあたり、王子と紫竜はエイベル副騎兵団長からこうした注意を受けていた。
「今回のカルフィー魔道具店の内覧会には、バルトロメオ辺境伯のご友人が招かれています。当然、貴族の方々です。失礼のないように」
ウラノス騎兵団長も伯爵家を実家に持つ貴族であったし(家長の座は弟に譲っている)、エイベル副騎兵団長も美しく気品に溢れ(おまけに騎兵団長の伴侶)、アルバート王子に至ってはこの王国の七番目の王子である。ちなみにバンナムも貴族の身分を持つ身だった。バルトロメオ辺境伯に招かれ、内覧会に出席するに身分が足りないことは、一人としてなかった。
更に、出席する騎兵団長、副騎兵団長、アルバート王子も騎兵団の礼装を身に付けている。日頃、実用本位の軍装が、この日は白い手袋であったり、靴は黒いピカピカの飾りのついたブーツだったり、胸元に斜めに金色の飾りの帯がついていたり、袖口にも金糸の飾りがついていたりと非常に華やかだった。
エイベル副騎兵団長は美貌で有名だったし、アルバート王子もとてもハンサムで、またウラノス騎兵団長も礼装を身に付けると近寄りがたい威厳が五割増しくらいになっていて、一行はやたらと衆目を集めていた。
小さな紫竜はというと、鞍を落として小さな竜に姿を変えたと同時にすぐにバンナム卿が用意していた首輪を首に付けられた。
茶色い革の首輪には、金色のメダルが下げられていて、それは三頭の竜が珠を咥えている構図だっだ。聞けば、この紋章が正式の竜騎兵団の紋章だという。
普段は簡略した、英語のWのような紋章を軍衣につけているのだが、こうした改まった場所ではこの精緻な図案のものを身に付けるらしい。
そう言われてよく見れば、ウラノス騎兵団長もエイベル副騎兵団長も、アルバート王子もその図案の細かく刺繍されたマントを身に付けている。
(格好いい!!)
紫竜は王子の肩に止まりながら、嬉しそうに黒い目を輝かせていた。
(普段も格好いい俺の王子が、煌びやかな軍装で、めちゃくちゃ格好良くなってる)
小さな竜が、とても嬉しそうに正装姿の王子にすりすりとその身を擦りつけているのを、ウラノス騎兵団長とエイベル副騎兵団長、護衛のバンナムはなんとも言えぬ表情で見つめていた。
小さな竜の尻尾はご機嫌にぶんぶんと振られていた。
アルバート王子ら一行は、当然のように衆目を集めていたのだが、その中には紫色の小さな竜のルーシェも含まれていた。
幼い姿の紫竜は、宝石のように紫色の鱗を輝かせて、綺麗でとても可愛らしかったのだ。すれ違う者達の目は王子の肩に止まるその小さな竜にも皆、興味津々と向けられていた。
城の離着陸場から、階下へ移動して、早速、カルフィー魔道具店が内覧を行うという城で一番大きな広間に案内をされる。
ウラノス騎兵団長は、アルバート王子を連れてバルトロメオ辺境伯の元へ行き、挨拶をしている。
そんな王子の肩の上で、紫竜はドキドキとしていた。
(俺と同じように、異世界に転生した奴に会えるかも知れない)
会えたらどうしよう。
どう挨拶しよう。
(しまったぁぁぁぁぁぁ)
そこで、紫竜ははたと気が付いた。
(今、俺、竜の姿してるじゃん。挨拶なんて出来やしない!!)
おまけに、小さな竜の話す言葉は王子にしか理解できない。
心話で話せば、いけるかも知れない。でも、王子以外の人には心話をやったことないのだ。リヨンネ先生は、やれば出来ると言っているけど。
どうだろう。
使えるだろうか。
でも、竜だと知ったらびっくりするよな。
どうしよう。
会いたいと思ったけど、それから先は、どうすればいいんだろう。
そう小さな竜が、「うーんうーん」と今更ながらに王子の肩の上で悩んでいた時、突然、すぐ後ろで子供の大きな声が掛けられた。
「ルーシェ!!!!!!!!」
喜びに溢れたその声に、ルーシェは飛び上がる。
(……そんな、そんなまさか。でも、確かに奴はこの場に居てもおかしくはないんだ)
おそるおそる振り返るルーシェの後ろに、満面の笑みを浮かべた辺境伯の五歳の息子アーサーがレースたっぷりの服装で立っており、彼は当然のように両手を広げて言ったのだ。
「ルーシェを頂戴!!」
ルーシェはアーサーに捕獲された。
アーサー付の従者メルベルンが、ペコペコとアルバート王子達に頭を下げている。
ここでルーシェが、礼装を身に付けたカッコイイアルバート王子の頭の上に、避難できないことは分かっている。避難したいけど、それは出来ない。傍から見て王子の格好が全く珍妙なものになるし、頭にのった紫竜を欲しがって「頂戴、頂戴!!」と地団太踏んで泣き叫ぶアーサーの姿がすぐに想像できる。そんな騒動を、招かれた側の客人が起こすわけにはいかないのだ。
だから、猫のように小さなルーシェは“忍”の一念で、アーサーの腕にだっこされていた。
アルバート王子は気になって仕方ないようにチラチラとルーシェの方を見ているが、エイベル副騎兵団長に「仕方がありません。この場は我慢して下さい」と説得されていた。
ルーシェの頭の中に、エンドレスでドナドナの曲が流れている。
こう、どこか遠くへ連れて行かれるような……嘆きと悲しみと、達観のその想い。
虚ろな黒い目で、大人しく五歳児に抱かれているルーシェは、それでも大広間に置かれた新作の魔道具を子供の腕の中から遠く眺めていた。白い布の掛けられた長方形のテーブルの上に等間隔で並べられたその魔道具は極めて洗練されたデザインのものばかりだった。その一台一台に、説明をするカルフィー魔道具店の店員がついており、カタログを手に顧客からの質問に丁寧に答えている。
見れば、その魔道具の一つ一つに、カルフィー魔道具店の製造を表すマークが小さく刻まれていた。
(俺の高校の、校章だ)
三つの葉が、円形に形付けられるその徴。
その徴は生徒手帳にも、高校の壁面にも掲げられていた。高校に通っていた奴らは毎日眺めていたそのマーク。
(頭がいいよな。同じ高校の奴なら、それを見れば同じ高校から異世界へ転生したと分かる)
(もう、そいつはこの部屋の中にいるのだろうか。一体どこにいるのだろう)
ぎゅっと子供の腕の中に抱かれているルーシェが、大広間の中を見回す。
展示されている魔道具に興味深気に近づき、質問をする綺麗に着飾った女性や男達。彼らの手にはワインの入ったグラスがある。別のテーブルに軽食が用意され、それらをつまみながら優雅に魔道具の説明を聞くことができるのだ。その間で空いたグラスを片付けたり、また甘い菓子を皿に盛りつけに来たりと給仕する使用人達。
キラキラと頭上では硝子のシャンデリアが光り輝いている。ふかふかの絨毯の上で、人々は笑いさざめいている。まるで別世界のような煌びやかさ、豪華さに、ルーシェの意識が一瞬遠のく。
(俺、なんでこんなところにいるんだろう)
急速に、この世界では自分はたった一人だという寂しさが、心を衝いた。
(……本当に、俺と同じように異世界に転生した奴がいるのかな)
その迷いが横切る。
(偶然がないわけじゃあない。このマークだって、高校の校章に偶々似ただけのものかも知れない。そう、偶然なのかも知れない)
いくらこの大広間で、転生した仲間を探しても見つからないかも知れない。いや、そもそも最初から、この世界に生まれていないかも知れない。
(俺が勝手に一人で思い込んで、盛り上がっていただけなのかも知れない)
そう思うと、寂しくて悲しくて、ルーシェの尻尾はだらんと下がってしまった。
「ルー、どうしたの?」
アーサーが、急に元気が無くなったルーシェに気が付いて心配そうに見る。
その時。
ルーシェの黒い大きな瞳が、見つけた驚きに見開かれたのだった。
ここは、バルトロメオ辺境伯の城が置かれている北方地方の中では大きな街である。
大きな石造りの城の、離着陸場に、ウラノス騎兵団長とエイベル副騎兵団長、そしてアルバート王子と紫竜、そして護衛のバンナム卿が降り立った。ウラノス騎兵団長はエイベル副騎兵団長の青竜ロザンナに一緒に騎乗し、アルバート王子はバンナム卿と紫竜に跨ってやって来た。
紫竜はいつものように、離着陸場に到着してすぐに小さな竜の姿に変わり、その後、飛んで王子の肩に止まっていた。
なお、紫竜を伴うにあたり、王子と紫竜はエイベル副騎兵団長からこうした注意を受けていた。
「今回のカルフィー魔道具店の内覧会には、バルトロメオ辺境伯のご友人が招かれています。当然、貴族の方々です。失礼のないように」
ウラノス騎兵団長も伯爵家を実家に持つ貴族であったし(家長の座は弟に譲っている)、エイベル副騎兵団長も美しく気品に溢れ(おまけに騎兵団長の伴侶)、アルバート王子に至ってはこの王国の七番目の王子である。ちなみにバンナムも貴族の身分を持つ身だった。バルトロメオ辺境伯に招かれ、内覧会に出席するに身分が足りないことは、一人としてなかった。
更に、出席する騎兵団長、副騎兵団長、アルバート王子も騎兵団の礼装を身に付けている。日頃、実用本位の軍装が、この日は白い手袋であったり、靴は黒いピカピカの飾りのついたブーツだったり、胸元に斜めに金色の飾りの帯がついていたり、袖口にも金糸の飾りがついていたりと非常に華やかだった。
エイベル副騎兵団長は美貌で有名だったし、アルバート王子もとてもハンサムで、またウラノス騎兵団長も礼装を身に付けると近寄りがたい威厳が五割増しくらいになっていて、一行はやたらと衆目を集めていた。
小さな紫竜はというと、鞍を落として小さな竜に姿を変えたと同時にすぐにバンナム卿が用意していた首輪を首に付けられた。
茶色い革の首輪には、金色のメダルが下げられていて、それは三頭の竜が珠を咥えている構図だっだ。聞けば、この紋章が正式の竜騎兵団の紋章だという。
普段は簡略した、英語のWのような紋章を軍衣につけているのだが、こうした改まった場所ではこの精緻な図案のものを身に付けるらしい。
そう言われてよく見れば、ウラノス騎兵団長もエイベル副騎兵団長も、アルバート王子もその図案の細かく刺繍されたマントを身に付けている。
(格好いい!!)
紫竜は王子の肩に止まりながら、嬉しそうに黒い目を輝かせていた。
(普段も格好いい俺の王子が、煌びやかな軍装で、めちゃくちゃ格好良くなってる)
小さな竜が、とても嬉しそうに正装姿の王子にすりすりとその身を擦りつけているのを、ウラノス騎兵団長とエイベル副騎兵団長、護衛のバンナムはなんとも言えぬ表情で見つめていた。
小さな竜の尻尾はご機嫌にぶんぶんと振られていた。
アルバート王子ら一行は、当然のように衆目を集めていたのだが、その中には紫色の小さな竜のルーシェも含まれていた。
幼い姿の紫竜は、宝石のように紫色の鱗を輝かせて、綺麗でとても可愛らしかったのだ。すれ違う者達の目は王子の肩に止まるその小さな竜にも皆、興味津々と向けられていた。
城の離着陸場から、階下へ移動して、早速、カルフィー魔道具店が内覧を行うという城で一番大きな広間に案内をされる。
ウラノス騎兵団長は、アルバート王子を連れてバルトロメオ辺境伯の元へ行き、挨拶をしている。
そんな王子の肩の上で、紫竜はドキドキとしていた。
(俺と同じように、異世界に転生した奴に会えるかも知れない)
会えたらどうしよう。
どう挨拶しよう。
(しまったぁぁぁぁぁぁ)
そこで、紫竜ははたと気が付いた。
(今、俺、竜の姿してるじゃん。挨拶なんて出来やしない!!)
おまけに、小さな竜の話す言葉は王子にしか理解できない。
心話で話せば、いけるかも知れない。でも、王子以外の人には心話をやったことないのだ。リヨンネ先生は、やれば出来ると言っているけど。
どうだろう。
使えるだろうか。
でも、竜だと知ったらびっくりするよな。
どうしよう。
会いたいと思ったけど、それから先は、どうすればいいんだろう。
そう小さな竜が、「うーんうーん」と今更ながらに王子の肩の上で悩んでいた時、突然、すぐ後ろで子供の大きな声が掛けられた。
「ルーシェ!!!!!!!!」
喜びに溢れたその声に、ルーシェは飛び上がる。
(……そんな、そんなまさか。でも、確かに奴はこの場に居てもおかしくはないんだ)
おそるおそる振り返るルーシェの後ろに、満面の笑みを浮かべた辺境伯の五歳の息子アーサーがレースたっぷりの服装で立っており、彼は当然のように両手を広げて言ったのだ。
「ルーシェを頂戴!!」
ルーシェはアーサーに捕獲された。
アーサー付の従者メルベルンが、ペコペコとアルバート王子達に頭を下げている。
ここでルーシェが、礼装を身に付けたカッコイイアルバート王子の頭の上に、避難できないことは分かっている。避難したいけど、それは出来ない。傍から見て王子の格好が全く珍妙なものになるし、頭にのった紫竜を欲しがって「頂戴、頂戴!!」と地団太踏んで泣き叫ぶアーサーの姿がすぐに想像できる。そんな騒動を、招かれた側の客人が起こすわけにはいかないのだ。
だから、猫のように小さなルーシェは“忍”の一念で、アーサーの腕にだっこされていた。
アルバート王子は気になって仕方ないようにチラチラとルーシェの方を見ているが、エイベル副騎兵団長に「仕方がありません。この場は我慢して下さい」と説得されていた。
ルーシェの頭の中に、エンドレスでドナドナの曲が流れている。
こう、どこか遠くへ連れて行かれるような……嘆きと悲しみと、達観のその想い。
虚ろな黒い目で、大人しく五歳児に抱かれているルーシェは、それでも大広間に置かれた新作の魔道具を子供の腕の中から遠く眺めていた。白い布の掛けられた長方形のテーブルの上に等間隔で並べられたその魔道具は極めて洗練されたデザインのものばかりだった。その一台一台に、説明をするカルフィー魔道具店の店員がついており、カタログを手に顧客からの質問に丁寧に答えている。
見れば、その魔道具の一つ一つに、カルフィー魔道具店の製造を表すマークが小さく刻まれていた。
(俺の高校の、校章だ)
三つの葉が、円形に形付けられるその徴。
その徴は生徒手帳にも、高校の壁面にも掲げられていた。高校に通っていた奴らは毎日眺めていたそのマーク。
(頭がいいよな。同じ高校の奴なら、それを見れば同じ高校から異世界へ転生したと分かる)
(もう、そいつはこの部屋の中にいるのだろうか。一体どこにいるのだろう)
ぎゅっと子供の腕の中に抱かれているルーシェが、大広間の中を見回す。
展示されている魔道具に興味深気に近づき、質問をする綺麗に着飾った女性や男達。彼らの手にはワインの入ったグラスがある。別のテーブルに軽食が用意され、それらをつまみながら優雅に魔道具の説明を聞くことができるのだ。その間で空いたグラスを片付けたり、また甘い菓子を皿に盛りつけに来たりと給仕する使用人達。
キラキラと頭上では硝子のシャンデリアが光り輝いている。ふかふかの絨毯の上で、人々は笑いさざめいている。まるで別世界のような煌びやかさ、豪華さに、ルーシェの意識が一瞬遠のく。
(俺、なんでこんなところにいるんだろう)
急速に、この世界では自分はたった一人だという寂しさが、心を衝いた。
(……本当に、俺と同じように異世界に転生した奴がいるのかな)
その迷いが横切る。
(偶然がないわけじゃあない。このマークだって、高校の校章に偶々似ただけのものかも知れない。そう、偶然なのかも知れない)
いくらこの大広間で、転生した仲間を探しても見つからないかも知れない。いや、そもそも最初から、この世界に生まれていないかも知れない。
(俺が勝手に一人で思い込んで、盛り上がっていただけなのかも知れない)
そう思うと、寂しくて悲しくて、ルーシェの尻尾はだらんと下がってしまった。
「ルー、どうしたの?」
アーサーが、急に元気が無くなったルーシェに気が付いて心配そうに見る。
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